第336話 幸せへの第一歩
「エレノアちゃーん、おはようー!!」
途端、兄様方やセドリック、そしてリアムがビクッ、ガバッと勢いよく跳び起きた。
そして当然というか、オリヴァー兄様に抱き締められていた私も、兄様と一緒に跳び起きました。
「ア……アリア……さん?」
私や、飛び起きたその場の面々が呆然としている中、ニコニコ笑顔のアリアさんがベッドへと近付いて来る。……すると。
「ぐえっ!!」
ベッドの下……というか、アリアさんの足元から、踏み潰されたカエルのような声が上がった。
「お袋!酷ぇ!!」
「あらディラン。御免なさい、よく見えなかったわ。……ってかあんた、なんで床なんかで寝てるわけ?本当に落ち着きのない子ね!」
デ、ディーさん……。いないと思っていたら、床に転がっていたんですか。というかアリアさん、見えなかったって嘘ですよね?絶対わざと踏み潰しましたよね?
「エレノアちゃん、そして皆、おはよう!よく眠れた?さ、エレノアちゃん。目覚めの朝風呂行きましょ。それにしても、起きてすぐ温泉に入れるなんて最高ね!」
「なにッ!?風呂だと!?俺も一緒に行く!!」
ガバッと勢いよくディーさんが立ち上がった。というか流石は武闘派。アリアさんに思い切り踏まれても、全くダメージ受けてませんよこの人。
……ん?一緒に風呂……?
言葉の意味が遅れてやってきて、思わずボフンと顔から火が噴いた。
デデデ、ディーさん!何サラッと一緒に入浴宣言しちゃってんですかー!?……はっ!そうだった!個人宅のお風呂はともかく、温泉って男女混浴が常識なんだった!!
「ディラン、あんた何言ってるの?ここの温泉、男女別々よ?」
「はぁっ!?べ、別々!?」
「えっ!?」
「そ、そんな!」
「嘘だろ!?」
「マジか……!?」
アリアさんのお言葉に、瞬時に覚醒したであろうその場の全員が一斉に反応する。ってか、貴方がた。覚醒する切っ掛けがソコですか!?
……ん?あれ……待てよ?
男女別々って……確か私が最後に入った時点では、浴場の入り口って一つしかなかったような……?
「ねえ?そうよねイーサン」
「は。その通りでございます」
クルリと後方を振り返って問い掛けるアリアさんに対し、イーサンが恭しく礼をとりながら返事をする。ってかイーサン、いたんだ。
あ、目が合ったイーサンの顔。物凄く優しくてホッとしたような表情を浮かべている。
きっと昨日の件で兄様達同様、たくさん心配かけちゃったんだろうな。ごめんねイーサン。
「お、おい、ちょっと待てイーサン!別々って本当なのか!?」
「確か僕達が昨夜入った時は、そんな事一言も言ってなかったよね!?」
クライヴ兄様とオリヴァー兄様の抗議(?)に対し、いつもの無表情を張り付かせたイーサンがズバッと言い放つ。
「今朝からそうなりました」
「「「「「今朝から!?」」」」」
おおっ!全員見事にハモった!
しかし、今朝から急に男女別々に……とな?さてはアリアさん、貴女のゴリ押しですね?な、なんという事を……グッジョブです!!
「そ、そんな……!まさかこのアルバ王国で、男女別々の風呂なんてもん、存在する訳が……!!」
……ディーさん、なんか物凄くショックを受けた絶望顔しているんだけど、起き抜け一番、絶望するトコそこですか!?……ってか、兄様方とセドリック、ついでにリアムも、ディーさんばりにショック受けてんじゃない!!
まあでも、このアルバ王国における温泉浴場って、男女の仲を深めたり出会いを求めたりする重要な場所っぽいから、ひょっとしてこういう反応の方が普通なのかもしれないけどね。
「そ、そうだお袋!家族枠なら話は別だろ!?俺達とエルは婚約してんだし、もはや身内同然じゃねぇのか!?」
……ディーさん。食い下がりますね。どんだけ一緒に風呂入りたいんだあんたは!
……まあ百歩譲って一緒に風呂入るとしても、入浴着はしっかり着て頂きますからね!?
ちょっと呆れながらディーさんを見ていたら、アリアさんがディーさんにニッコリ笑顔を向けた。
けどその笑顔、微妙に影がかかっているように見えるのは、私の目の錯覚でしょうか?ついでにこめかみに青筋立っているのですが……。
「あらあら、ディランったら!まだ
「いっ!?」
おおっ!アリアさんの口撃が炸裂した!!
流石のディーさんも赤くなった顔を引き攣らせていますよ。
「ディラン?お返事は?」
「イエ、ヤッパリエンリョシトキマス」
カタコトでそう言った後、ディーさんがガックリと肩を落とした。流石はアリアさん。母は強し!
「よろしい。……さてリアムとセドリック君は?オリヴァー君やクライヴ君も、一緒に入りたかったら、全く遠慮しなくていいのよ?」
途端、ディーさんを除く他の面々が、真っ赤になった顔を引き攣らせながらブンブンと首を横に振った。
そりゃそうだよね。夫や子供達ならいざしらず、聖女様と朝風呂に入ろうとする猛者なんて、ここアルバ王国には存在するまい。
それにしても凄いやアリアさん!私、将来アリアさんみたくなれるように頑張ります!
「さあ、それじゃあ改めて。朝風呂行きましょ?エレノアちゃん」
「あ、はい!喜んで」
「それでは参りましょうか」
――……はぃ!?
え?わ、私いつの間にイーサンにお姫様抱っこされているの!?
確かさっきまでオリヴァー兄様の胸元に背中を預けていた筈……あ、オリヴァー兄様。呆然とした後、物凄い形相でイーサンを睨み付けてる。対してイーサンはというと、どこ吹く風とばかりにいつもの無表情。
凄いなイーサン。これが本邸を預かり、父様を馬車馬のごとく働かせる腹心の実力……。おみそれしました!
ついでに言うと、一緒にお風呂に入った時に見たアリアさんのスタイルは、ボンキュッボンのナイスなバディでした。
いつかは私もああなりたい。……なるよね?……なる……筈!
◇◇◇◇
温泉でホッコリした後、私はアリアさんとダイニングへと向かった。
その後方では、ウィルやミアさんといった私付きの使用人達に加え、お風呂場でミアさんと一緒に、私とアリアさんのお世話をしてくれたケモミミメイドさん達がゾロゾロと付いて来る。
なんでも彼女ら。第二陣の馬車で、聖女様やディーさんやリアムの大量の衣装や生活品と共に、護衛騎士達とこちらにやって来たのだそうだ。
その中には顔なじみとなった、猫獣人のエミリアさんと、リス獣人のノラさんが……って、あれ?ノラさんがいないんですけど?
「ああ、ノラはちょっと事情があってね。今現在マリアさんのところにいるのよ」
「えっ!母様の所に!?……ひ、ひょっとして母様、お具合が悪いのですか!?」
こちらに来る直前、会いに行った時は、あいも変わらず大量のお菓子に囲まれて元気はつらつって感じだったんだけど。
妊婦って体調がコロコロ変わるって言うから、ひょっとしてつわりが酷くなってしまったのかな!?
「ああ、大丈夫よ。そういうんじゃなくて、あくまでノラの事情だから。ね?エミリア」
「はい、聖女様。……まったくもう、あの子ったら……」
「仕方が無いわ。それにそもそも、彼女が悪いわけじゃないと思うわよ?」
んん?なんかアリアさんとエミリアさんとの間に、微妙な空気が……?
はっ!ひょっとしてノラさん、マリア母様のお世話と称して、嫉妬深い恋人さん達の束縛から逃げた……とか?
そうか……。確かに母様だったら、たとえ恋人さん達がノラさんを連れ戻しにやって来たとしても華麗に撃退しちゃいそうだし、避難所としてはうってつけかもしれない。
そんな事をつらつら考えていたら、いつの間にやらダイニングに到着していた。
扉の前には、近衛騎士達の他にイーサンの姿がある。
途端、私の足は緊張で止まってしまった。
朝は皆との同衾でパニックになっていたから平気だったけど……。あんな醜態を晒してしまった事に対する後ろめたさと羞恥心で、正直どんな顔をして皆と向き合えばいいのか分からない。
「エレノアちゃん?」
そんな私の様子を見て、アリアさんが困ったように苦笑を浮かべる。
「……そうよね、昨日の今日だもの。緊張するわよね。ねえ、エレノアちゃん。もし無理そうなら、今朝は皆と一緒に朝食取るのは止めにする?」
私に気遣い、そう言って微笑んでくれるアリアさん。
私はグッと腹に力を込め、小さくかぶりを振った。
「いいえ。私は自分自身で答えを出しました。だから……逃げません」
だって私、皆と一緒に誰よりも幸せになるんだって決めたんだから。
そしてそれを皆に伝える事こそが、そうなる事への第一歩だって思っているから。
「そう。流石はエレノアちゃんね!」
そう言って嬉しそうに笑いながら、優しく頭を撫でてくれたアリアさんの手の温かさに勇気を貰い、私は深呼吸を一つした後、イーサンが開けてくれた扉から、ダイニングへと足を踏み入れた。
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確か明治の中頃まで、混浴は当然のように行われていたとかなんとか。
私が憧れる昔ながらの混浴風呂がいくつかあるので、枯れ果ててから入浴チャレンジしようと目論んでおります!
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