第511話 転生者プロテクション
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私が祈りを捧げると、なんと奥方様の寝ていた場所に咲いていたタンポポが一斉に綿毛になる。
「あっ!!」
そしてその綿毛達は、風もないのに一斉にその場から飛び立つと、マルスとキーラ様の元へと一直線に向かった。
もはやその動きは、風に吹かれてフワンフワンと飛ぶファンシーなものではなく、確固たる意志を持ち、獲物に襲い掛かる狂暴生物であった(うちの庭師達なら「あいつら元々
「――ッ!?なんだ、こいつら!?」
マルスが顔を歪め、自分達に迫りくる綿毛を腕で掃う。けれどそこは綿毛。ブンブン振り回す腕の風圧でフワンフワンと散りまくっては、彼等の身体のそこかしこに付着し、次々とタンポポを咲かせていく。
そして必死に綿毛攻撃をかわしているマルスと違い、無抵抗なキーラ様はというと、着実に身体中にポンポンとタンポポが咲きまくっている。
何気に似合っているなぁ……と思わず汗を流しながら見つめてしまうが、あのままだと間違いなく、タンポポ人形一直線だろう。
でもやはり、帝国の皇族に操られてしまっている所為か、次々とタンポポが咲き誇っているわりにキーラ様に変化が見られなかった。
「うわっ!!」
突如上がった悲鳴に顔を向ける。
すると、奥方様の魔力に競り負けたベネディクト君が後方に吹き飛ばされそうになっているのが目に入る。
「危ないっ!!」
私は慌ててベネディクト君の傍に向かうと背中を両手で支え、必死に足を踏ん張って、ベネディクト君が吹っ飛ぶのを防いだ。
「エ、エレノア嬢!申し訳ありません!!」
「ううん!気にしないで……ッッ!!?」
膨大な魔力が周囲の空気を震わせるような感覚にビクリと身体が竦んでしまう。
「――!?……母上……ッ!!」
絶望の入り混じったベネディクト君の震え声を聞き、奥方様が魔力を使って地上を……いや、精霊島を攻撃したのだという事が分かった。
『そんな……!!』
目の前が一瞬真っ暗になる。
「エレノア嬢!大丈夫です!!父上や兄上達は無事です!つまり、貴女の大切な方々も無事という事です!」
ベネディクト君の言葉に目を見開く。
「え!?何故それが分かるの!?」
「俺達は、精霊の血を介して互いに念話が出来るんです。……残念ながら今は話せませんが、無事である事だけは分かります!」
「あ……!よ、良かった……!!」
……けれども再び魔力の高まりを感じ、奥方様の方に顔を向けてみる。すると、人形のように表情をごっそりと落とした美貌に僅かな苦悩の色を浮かべながら、自らの魔力を練り上げている奥方様の姿が目に入った。
『また攻撃をする気なんだ……!!』
ベネディクト君のおかげで、皆が無事である事は分かった。けれども次はどうなるか分からない。
『それに……』
「母上ッ!!どうかもうお止め下さい!!これ以上力を使ったら、貴女の身体が……!!」
ベネディクト君が泣きそうな顔で奥方様に懇願する。
そう。奥方様は、この領海内に放たれたマルスの『虫』による青潮被害を鎮めようと頑張り続け、ただの精神体でウミガメに憑依しなくてはいけない程、魔力を使い果たしてしまったのだ。
それを私の『聖魔力』で無理矢理復活させられ、力を使わせられているのだ。このままの調子で力を使い続ければ、確実に魔力切れを起こしてしまうに違いない。
そもそも奥方様は人間と大精霊のハーフなのだ。
純粋な精霊ではない彼女が魔力切れを起こしてしまえば、下手をすると命にかかわる事態になってしまいかねない。
でもだからって、操られている奥方様にタンポポやぺんぺん草を生やして『聖魔力』を注ぐわけにはいかない。
だっていたずらに力を与えてしまえば、逆に地上の皆を危機に晒してしまう事になるのだから。
にっちもさっちもいかない状況に、思わず唇を噛んでしまう。
……おまけに……。
「やれやれ、参ったな。帝国の皇子のこの私を、よりによって雑草まみれにするなど……。なんとも憎らしい『こぼれ種』だね。もし始末する事が決定していなかったら、国に連れ帰ってきっちり躾てあげるところなんだけど……」
「だから!その不快な言い方やめろ!クズ皇子!!」
ブチ切れた私の一喝に、マルスがムッとした表情を浮かべた。そしてタンポポまみれになった己の身体を渋い表情で見つめる。
どうやらタンポポ攻撃、不愉快にする事には成功したようだ。でも残念ながら、マルスに堪えた様子はない。
ちなみにキーラ様の方はというと……。しっかりタンポポ人形になっていた。しかも綿帽子!芸が細かい!!
……って、あれ?キーラ様、目を閉じた?そして身体から出てきている黒い魔力が水で溶かした墨汁色になっている……?す、少しは効いた……のか!?
そんなキーラ様の様子をチラリと見たマルスの口から舌打ちが漏れた。
「……ふん。やはり多少は影響が出たか。にしても忘れていたよ。『こぼれ種』って、存外口も柄も悪いってこと。魔力が強かろうが弱かろうが、どいつもこいつも反抗的なんだよなぁ……」
「うっさいわ!!悪いけど私達はあんたらと違って、『常識』と『良識』持って生きてんのよ!!非常識の権化が偉そうに文句言ってんな!!それと私は『こぼれ種』じゃなくて、エレノア・バッシュっていう、ちゃんとした名前があるの!!そのスッカスカの腐った脳味噌に、今一度常識という言葉と一緒によーく叩き込め!!この下種野郎!!」
おお!これ以上はない程、マルスの顔が不快そうに歪んでいる!はっはっは!前世持ち舐めんなよ!?言い慣れていない私ですら、これぐらいの罵詈雑言なんて朝飯前に出てくるんだ!
……尤も、兄様達には絶対聞かせられないけどね!きっと泣いちゃうから!
……って、はっ!不味い!ベネディクト君の存在忘れてた!!あっ、ヤバい!!目を見開いて唖然としている。ドン引き……されてしまったか!?
「……流石ですね、エレノア嬢。とても……素敵です!」
あれ?ポッと頬を染めて称賛されてしまった。……えっと……まあ、ドン引きされなくて良かったけど、ベネディクト君、なんか恍惚としていませんか?齢十二歳にして、ヤバイなにかを踏み抜いた……とか?
「……ふ……。本当に、君を連れ帰れなくて残念でならないよ。君のような跳ねっかえりの『こぼれ種』を躾けるなんて、とっても楽しそうなのに……」
「まだ言うか!!……でも、どうして……」
――なんで私の『聖魔力』をその身に咲かせているのに平気なの!?キーラ様には多少なりと効いているっぽいのに!!
表情から、私の焦りを察したのだろう。憮然とした表情を浮かべていたマルスの口角が上がる。
「ああ、なんで私に君の
「……貴方が最低な事をした人の事?その人がどうしたっていうのよ!?」
「酷いなぁ。その『可哀想な人』に対して、その態度!気弱そうでウジウジした奴だったし、きっと今頃泣いてるよ?」
「……え……?」
いったい、なにを言っているんだ?この目の前の男は。
「基本、我が帝国が『男』の転移者を召喚する事はない。という事で、男の『転移者』もしくは『転生者』は必然的に『女神の愛し子』だという事だ。……だからね、
ドクン……と、嫌な予感に胸の鼓動が跳ねる。
「……ッ!……ま……さか……!?」
ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。そんな私を見ながら、マルスはニヤリ……と、嘲るように嗤う。
「言い忘れていたけど、私の『魔眼』のもう一つのスキルはね、『魂の同調及び支配』。この男……ヘイスティングの身体に護られている限り、結界も君の花も、私には通用しない」
そう言うと、マルスは自分の胸に……。いや、違う。自分が
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ヘイスティング改め、ヘイスティングさん、転生者でしたー!Σ(゜Д゜)
そしてエレノアの啖呵(罵詈雑言)どうやら南国の男の性癖にドストライクだったもよう。
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