第510話 一か八か

『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』5巻が、各書店様で予約販売が始まっております。

興味のある方は覗いてみて下さいね。



=====================



「下種野郎!!汚らわしい目で、エレノア嬢を見てんじゃねぇ!!」


咄嗟にマルスの視線から私を隠すように、ベネディクト君が私を背に庇いながら怒鳴りつける。


一瞬、不快気な表情を浮かべたマルスだったが、次の瞬間には元通り人を食ったような嘲笑混じりの表情を浮かべた。


「ふん、子犬がキャンキャンと五月蠅いものだ。……ああ、ところでバッシュ公爵令嬢。あの『虫』を作ったのは私ではないよ」


「え!?」


「まあ、作るように命じたのは私だがね。手の者に『こぼれ種転生者』を探させていたら、小さな貧乏国の僻地に、丁度いい能力を持った『男の転生者』がいたから、そいつに作らせたのさ」


「――!!『男の転生者』……ですって!?」


男の人!?男の人も転生するんだ……って、そりゃそうだ。女性限定で転移したり転生したりなんてする訳ないだろ、私のバカ!!


『それにしても、血眼になって探していたとはいえ、よく「転生者」を探し出す事が出来たな……』


『転生者』は、『転移者』よりも極端に数が少ないのだという。


それは元々の数が少ない事もあるらしいんだけど、私のように自分が『転生者』である事をひた隠していたり、『転生者』である事を知った周囲の人達が、その事を知られないようにしているのもあるんだそうだ。


でもその人、どうやら小国の僻地にいたっていうから、周囲も自分も『転生者』が希少だって事をよく分かっていなかったのかもしれない。それか、「自分は『女性』じゃなくて『男性』だから大丈夫だろう!」って、呑気に構えていたとか……?いやいや、性別問わず、『転生者』も『転移者』も超希少人物ですからね!!


「そいつってば弱いくせに、『そんな酷い事なんて出来ない!』って、散々泣いて喚いて抵抗してねぇ……。あんまり鬱陶しいから『魔眼』で操って、強制的に『虫』を作らせたんだ」


「なんて事を……!!」


マルスの行った、あまりにも非道な行為に愕然としてしまう。


帝国に無理矢理召喚された『転移者』達はどうか分からないけど、アリアさん曰く、「自分の知り得る限り、帝国以外の国で見つかった『転移者』や『転生者』は、その殆どが清廉で優しい魂を持った人達らしい」との事だった。


小国に生まれた『転生者』であるのなら、西方大陸における帝国の恐ろしさを知らない筈がない。その帝国の皇子に歯向かうなど、どれ程の恐怖だっただろう。


なのに、その決死の抵抗を嘲笑うかのように精神支配され、ヴァンドーム公爵領を汚染する片棒を担がされてしまったのだ。きっと、凄く辛くて無念だったに違いない。


「で、用が済んだらさっさと殺すつもりだったんだけど、ふと思い直してね。殺す前にある実験をしてみる事にしたんだ。それが大当りで……」


「この……っ、クズ野郎が!!」


帝国の非道な行いと、それによって愛する領地を汚され事により、怒りが頂点に達してしまったのだろう。激高したベネディクト君が、マルスに向かって強力な青い衝撃波を放つ。……だがそれは、奥方様の張ったシールドで防がれ、逆に同等の力をこちらに向け、放たれてしまった。


「ぐ……っ!!」


「ベネディクト君!!」


ベネディクト君もシールドを張り、奥方様の攻撃をなんとか防いだものの、大精霊たる奥方様の力はやはり圧倒的で、彼の身体には無数の切り傷が出来てしまっていた。


「……エレノア嬢、済みません。貴女をここに連れてきたばかりに……!ですが今なら、俺と母上の力はほぼ互角!……母上と相打ちになるかもだけど……。貴女だけは、必ず生きて地上に返します!!」


苦渋にまみれた表情を浮かべながら、決死の覚悟を語るベネディクト君の言葉に、私の顔から血の気が引く。


「ベネディクト君……!!駄目だよ!親子がこんな形で傷付け合うなんて間違ってる!!それも、私を助ける為になんて……!!」


「でも!!それ以外に方法は……!!」


私を背に庇ったまま、そう告げるベネディクト君の後姿を見ながら、私は自分に出来るものはなにか……と、必死に考えた。


「……う……っ……!!」


すると突然、無表情だった奥方様の顔が歪み、両手で自分の頭を掴んで震え出す。


「……ベ……ティ……。ああ、私の……ベティ……!……はやく……ここから……にげ……」


「母上!!」


「……チッ!キーラ、『反転』を強化しろ!!大精霊セイレーンが力を使える今のうちに、あの島にいる連中を皆殺しにさせるんだ!!」


舌打ちをしながらマルスがキーラ様に命じる。


するとその言葉に呼応するかのように、キーラ様の身体から、嘗てない程邪悪な黒い魔力が奥方様に向けて放たれた。


「あああっ!!」


「母上―ッ!!」


再び奥方様の顔から表情が消える。それに対し、ベネディクト君がギリ……と歯を食いしばった。


「くそっ!!いくら弱っているとはいえ、あのキーラが何故、大精霊たる母上を抑え込めるんだ!?」


そう疑問を口にしながらキーラ様を睨み付けるベネディクト君と共に、私もキーラ様を見つめる。……すると、ある事に気が付いた。


「ちょっと……待って!ベネディクト君、キーラ様、小さくなっていない!?」


「えっ!?」


そう。さっきまでは気が付かなかったけれども、キーラ様の身体は明らかに一回り以上小さくなっていたのだ。よく見れば、表情も幼さが増している。……まさか、これって……。


「マルス……。貴方の『魔眼』の力って……!?」


「ああ、気が付いた?そう、私の『魔眼』の力の一つは、『生命の逆行』さ。相手の生きてきた『時間』を対価に、そいつの能力を増幅させる事が出来るんだ。ま、それを行う対価として、私も攻撃魔力が全く使えなくなってしまうんだけど」


つまり、このままキーラ様が『反転』の力を使い続ければ、どんどん若返っていって……。最後にはこの世から消滅してしまう……って事!?


マルスは、今も徐々に幼くなっていっているキーラ様を、なんの感情も浮かんでいない瞳で見つめる。


その眼差しは生きている人間に向けるものとは思えない。まるで、使い勝手の良い道具を見るような……。


「……それにしても、この娘の『時間』を全部使ったとして、精霊島を破壊するまでの間ギリギリ保つか微妙だな。せめて、もうちょっと育っていたら良かったんだけどなぁ」


事も無げにそう言い放つマルスの言葉に背筋が凍りついた。次いで、胸中に湧き上がってきたのは、目の前の男に対する激しい怒りと憎しみ。


――必死に抵抗しても、ヴァンドーム公爵領の海を汚す事を強いられてしまった『転生者』


――この男への思慕と私に対する嫉妬心を利用され、命を削らされ続けているキーラ様。


――愛する身内同士で戦わなくてはいけなくなったベネディクト君。


――自分の愛する人達への愛情を『反転』させられ、傷付けさせられようとしている奥方様。


「酷い……!!第四皇子の時といい……。何故貴方達はそこまで、他人を利用し踏みにじる事が出来るの!?」


「何故?当然、我が帝国の為に決まっているだろう?私達は選ばれし尊き血を継承する民の頂点。その国を守り、発展させる為ならなんでもするし、その妨げになる者達がどうなろうと、なんとも思わない」


マルスの言葉に、遂に私の怒りも我慢の限界を超えてしまう。


『許せない!!』


私は両手を組むと、クリスタルドラゴンやボスワース辺境伯を封じ込めたあの時のように、『大地』の魔力が発動するよう、女神様に祈りを捧げた。……だが何故か今回、地面から蔓らしきものは一本も生えてこない。


そんな事をしている間に、奥方様の攻撃が無情にも始まってしまう。それに対し防御結界を張って必死に抵抗していたベネディクト君が、ハッとしたように目を見開いた。


「――ッ!?結界が……解けた……!?母上!?なにをしようとしているんですか!?母上!!ははうえっ!!……お願い……です!正気に……戻って下さい!!」


ベネディクト君の悲痛な叫びに、焦燥が募っていく。でも現状、私達は奥方様の攻撃に成す術もなく、やられないようにするだけで精いっぱいだった。


そうこうしている間に、ゆっくりと瞼を閉じた奥方様の身体から膨大な魔力が溢れ出てくるのを感じた。


奥方様が、ヴァンドーム公爵領と精霊島を守護していた結界を自ら解除した。


つまり、その『守護』に充てていた力を使い、精霊島を……。自らの大切な人達を攻撃するつもりに違いない。


『嫌っ!あそこには、ヴァンドーム公爵家の方々だけではなく、兄様達やリアムやマテオ……私の大切な人達だって……――ッ!そうだ!!私の花を、キーラ様とマルスに……!!』


帝国人の『魔眼魔力』は、『聖女』の魔力属性とは相性が悪い。……ならば、『聖女』の資質を持っている(であろう)私の『聖魔力』で咲かせた花を、あの二人の身体に直接咲かせられたら、キーラ様……はどうか分からないけど、帝国人であるマルスにはダメージを与える事が出来るのではないだろうか?


「どっちにしろ、このままでは……!なら、一か八か……!!」


私はマルスとキーラ様を見つめる。そして『お願い、咲いて!』と、強く強く祈った。



=====================



ここにきて、男性の転生者の存在が明らかに!!Σ(゜Д゜)

エレノアではありませんが、「いたのね!?」という感じですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る