第481話 稀有なる少女【アーウィン視点】①
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エレノア・バッシュ公爵令嬢を『お詫び』と称し、サロンへと招いた。
彼女を強引な手段で我がヴァンドーム領内へと招いたのは、現在進行形で起こっている、
駆け引きと言葉の応酬を繰り広げた結果、エレノア・バッシュ公爵令嬢……いや、エレノア嬢はやはり『転生者』であり、しかもその知識は我々の想像を遥かに超える程に豊富なものであった。
彼女は『転生者』としての知識をもって、この領海内に起こっている異変が『青潮』という自然災害ではないかと推測した。
そして更に、彼女の筆頭婚約者であるオリヴァー・クロス伯爵令息が、彼女の知識を元にたてた仮説。
それは帝国が、海洋生物の知識に長けている『転生者』もしくは『転移者』を使い、なんらかの方法で、この領域に害を成しているのではないか……という、恐るべきものであった。
◇◇◇◇
「有難う。君達から得た知識と推測を元に、私も早々動く事にしよう」
そう言って父上がその場を締めくくると、エレノア嬢とその婚約者達は
そして、父上も母上と連絡を取るべく、足早に部屋から出ていき、この場は我々兄弟だけとなる。
「……ふう……」
久し振りに、心の底から息をつけた気がする。
勿論、問題は未だに解決したわけではない。だが、今まで漠然と感じていた不安が形となった事により、焦燥感が薄らいでいる。
そういえば、彼女を……エレノア嬢を見ていると、山積していた問題を忘れてしまう時が度々あるな……と気が付く。
しかも彼女と対峙していると、大きくて温かいものに包まれているような……。そんな穏やかな気持ちになってしまって、ついつい気が緩んでしまうのだ。
「……それにしても、『転生者』の知識とは末恐ろしいものがありますね」
すぐ下の弟であるクリフォードが、しみじみと呟き、自分も同意とばかりに頷いた。
「ああ。まだ彼女が指示した可能性が正しいと決まったわけではないが……。俺の勘では、十中八九、あれが正解なのだろうと思う」
まさか、人の目では可視出来ない程の小さな生物が、この海域で起こった災害の原因だなどと、誰が想像するだろうか。
普通に考えたらあり得ない……というよりも、この世界の常識ではそんな事、考えもつかなかっただろう。
いや、例え考え付いたとしても、荒唐無稽な戯言と一笑に付されていたに違いない。
それにしても、『食物連鎖』……か。
彼女が転生する前にいたという世界は、魔法が全く無い代わりに『科学』という知識や技術が発達していたのだという。
驚き、感嘆する自分達に対し、『魔法のあるこの世界の方が凄いですよ!』と言いながら、彼女は苦笑した。
確かに、この世界では魔法文化が栄えているし、大なり小なり誰もが魔力を持っている。
だが、平民の殆どは生活魔法が使えるか使えないかというレベルなので、『一般人であった』というエレノア嬢が、当たり前のようにあのような豊富な知識を有している彼女の前世の世界の方が、我々の生きるこの世界よりも知識レベルも生活レベルも上だと感じてしまう。
「アーウィン兄上。本当にエレノア嬢は面白くて素敵な女性ですね。……ふふっ。我々と接する時は真っ赤になって恥ずかしがるくせに、前世の知識を語っている時は、凛として気高くて……。一体彼女は、いくつの顔を持っているんでしょうか?」
「確かに……な」
心の底から楽しそうに微笑むシーヴァーの言葉に、俺の口角も上がる。
初めて会った時、平民を装ったにも関わらず、貴族に対して行うようなカーテシーで挨拶をしてくれた彼女。
貴族女性の大半は、取り繕った淑女の仮面を付けながら、公然と男を値踏みする。
だから、そんな彼女の態度には、本当に驚かされた。
ただ、『影』やベティの報告によれば、あの王立学院内ではエレノア嬢を中心に、女性達の意識や態度が変化していっているらしい……が、それ以外の貴族令嬢……。特に我がヴァンドーム公爵家の家門の半分にあたる貴族家のご令嬢達に関して言えば、未だに俺の元婚約者のような、くだらない女性が多いのが現状だ。
だが彼女は、自分の知るそれらの女性達とは全くかけ離れていた。
赤面したり恥じらったり、笑ったり、驚いたり……。素直な感情をそのまま表に出し、しかも相手が貴族だろうが平民だろうが、他人に対する気遣いや優しさを忘れない。
『本当にエレノア嬢は、様々な『顔』を持っていて……そう、真っ白い布で全身を覆い、本当に美味しそうに海鮮を頬張る姿も、とてもかわいかっ……』
あの時のエレノア嬢の姿を思い出し、また吹き出しそうになってしまった俺は、慌てて表情と腹筋を引き締めた。
いかんな……。あのまるっとしたフォルムを想像するだけで、腹を抱えて爆笑してしまいそうになってしまう。まるで質の悪い発作だ。
『本当に……。彼女は危険な女性だ』
しかも、無意識にああいった行動をおこしてしまうから、対峙する相手は身構える暇もない。本当に恐ろしい。
『そしてなにより……』
我々家族が溺愛している、末っ子のベネディクトをチラリと見やる。
すると、心ここにあらずといった様子で、エレノア嬢達が去っていった方向を見つめていた。
この子は、あのウェリントン侯爵令嬢だけではなく、あの姿を目撃したご令嬢達、そして俺の元婚約者にも悪感情を向けられていた。
あの女が、「あんな海の精霊様の呪いがかかった子、このヴァンドーム公爵家から追い出すべきですわ!」と吐き捨てるように口にした時、俺はあの女とあの家を、真綿で首を絞めるように、ゆっくりと破滅させてやろうと決めた。
とっかかりは、あの海の白を大量に縫い付けたドレスだったが……。あの歩くのにも苦労していた無様な様子は、今思い出しても笑いが込み上げてくる。
しかも父上の話によれば、よりによってあのオリヴァー・クロス伯爵令息に狙いを定め、挙句、ものの見事に返り討ちに遭い、更なる大恥をかいたとの事だ。
なにより、『姫騎士』と謳われるエレノア嬢を侮辱した事により、彼女を信奉する多くの貴族令息達の
『それに引き換え……』
エレノア嬢はベティを、魔物から身を挺して助けてくれた。
しかもそれだけではなく、あのウェリントン侯爵令嬢のぶしつけな態度からも、機転を利かせてかばってくれたのだ。
その底抜けな善意。そして優しさ。
あのかたくなだったベティが心を開き、傾倒してしまうのも、当然の事だろう。
更にエレノア嬢は、ベティの変化したあの耳を見て、なんと「綺麗」と言ってくれたのだという。
ただ、俺は海中でのベティとエレノア嬢とのやり取りを知らなかった為、憮然とした様子で船に戻って来たベティを見て、「ああ、また傷つけられてしまったんだな」と早合点してしまった。
そして、エレノア嬢に対して勝手に落胆し、理不尽な憤りをぶつけるかのように、婚約者達と一緒くたに水を被せてしまったのだ。
後でベティに事の真相を聞いた時は、真面目に冷や汗をかいたものだ。
ベティもその事に対し、いまだに怒っている。……が、紛らわしい態度を取ったベティにも責任の一端はあるような気がするのだが……。
「ベティ、エレノア嬢の事が気になるの?」
シーヴァーが、揶揄うような口調で話しかければ、ベティの頬に朱が差す。
「べ、別に!!そ、そう言うシーヴァ―兄上だって、エレノア嬢の事が気になっているんじゃないの!?」
ベティが真っ赤になりながら反論すると、シーヴァ―は軽く頷いた。
「……まあね。でもそれは、お前や兄上達も同じだろう?」
――驚いたな。あのシーヴァ―が、エレノア嬢を気に入っている事を否定しなかったとは。
三男のシーヴァ―は柔和で優し気な見た目に反し、身内や自身が信用した相手以外には非常に淡白で冷静だ。
だが、エレノア嬢の事を語る今の彼は、頬をうっすらと紅潮させ、まるで夢を見るようなうっとりとした表情を浮かべている。
それは他の弟達も同様のようで、父上と俺の右腕として、領内経営に辣腕を振るうクリフォードや、領内の輸出入時に関する雑務や荒事をまとめるディルクも、先程までそこにいた小さな姫君を想い、頬を染めている。
ちなみにシーヴァ―は、領内にいながらにして、あらゆる情報を入手し、父上を支えている。将来は諜報部や『影』を統率する、爺の後継として期待をされているのだが、なにぶん一匹狼気質なので、「面倒くさいから嫌です」と、思い切り渋っている。困ったものだ。
「そういえば、ベティの言っていた通りだったな」
「え?なにが?」
面白そうな顔をしているディルクに、ベティが首を傾げる。
「なにって、バッシュ公爵家から爺が持って来たあの苔人形だよ。お前に、『エレノア嬢に似ているのか?』って聞いた事があっただろう?」
ああ、そういえば聞いたっけな。
なんせ、あの苔人形、あんまりにも精巧に作りこまれていて、作り手の執念……というか狂気が伺えるような出来栄えだったもんで、つい気になってしまったんだよな。
だが、あの時ベティはジッと苔人形を見ながら、なんと「実物の方が可愛い」と言い放ったのだ。
女性に対して心を閉ざし、一線を引いていたあのベティが!
実際、エレノア嬢はベティの言う通り、あの苔人形より何倍も愛らしかった。が、あの言葉を聞いたからこそ俺は、一目でも早くエレノア嬢に会いたくなってしまったのだ。
……まあ元々、『現代に蘇った姫騎士~守るべきものの為に~』の愛読者でもあったんだが……。
『しかも……。エレノア嬢の恥じらう姿があまりにも可愛らしくて、ついうっかり揶揄って……いや、サービスしまくってしまった……』
今までの人生において、初めて目の当たりにした、女性の素の恥じらいと、裏表のない愛らしさに浮かれまくってしまったという自覚はある。
船員のふりして一緒に船に乗った騎士達も、エレノア嬢の愛らしさに撃ち抜かれ、俺以上に浮かれきっていたもんだから、「よーし!てめぇら、脱げ!」と命じた時など、「ちょっw若ww」「それは流石に不味いですってww」なんて言いつつ、ノリノリで上半身を曝け出していたからな。
そのおかげで、エレノア嬢の中での俺は、すっかり『破廉恥なお色気男』枠となってしまった……ような気がする。
あの陰険筆頭婚約者や他の婚約者達、更には王家直系にも物凄く警戒心を持たれてしまったから、ガードが無駄に爆上がってしまった。
……まあ、あれだけの事をやってしまった後では、なんと言い訳しようが無意味だって分かってはいるんだが。
今現在、最も話題の『姫騎士』に会えると、無理矢理船長のふりして船に乗り込んだはいいものの、浮かれまくって、ついつい羽目を外してしまったのが、今更ながらに悔やまれる。
というか、ヴァンドーム公爵領にとっての一大事に、なにをやっているんだ俺は。
父上にも雷を落とされたし、可愛いベティにも、「兄上がヴァンドーム公爵領の男の標準仕様だと、エレノア嬢に思われちゃったじゃないですか!!」と、白い目で見られてしまった。
自業自得とはこういう事を言うのだろうな……はぁ……。
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サービスの意味を履き違えているアーウィンさんです(*ノωノ)
ちなみにですが、追従した騎士達は全員、「諫めなかったばかりか、嬉々として追従しおって!!」と、アルロさんに鉄拳制裁を食らった挙句、爺による地獄の特訓コース行きとなりましたv
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