第282話 爆弾発言
「エレノアお嬢様!お帰りなさいませ!」
サロンに入った瞬間を見計らい、たった今目を覚ましたように装って目を開けると、そこにはミアさんが元気一杯といった様子で立っていた。ウサミミも元気一杯にピルピルしている。……癒されるなぁ……!
「ミアさん、帰ってきたの?まだ家族水入らずしてて良かったのに」
私の言葉に、ミアさんはプルプルと首を振った。
「いいえ!大丈夫です。またすぐに会えますし。あ、エレノアお嬢様が持たせて下さったお土産、皆とても喜んでおりました!」
「そっかー!良かった!」
私はミアさんと一緒にニコニコと笑い合った。
実は明日からの私の修行、バッシュ公爵家直営の牧場兼農園で行う事になっているんだけど、ミアさん達家族の移住先が、まさにその牧場なのである。
だからミアさんとはそこで落ち合おうねって話だったんだけど、急遽視察が入って修行が一日延びちゃったから帰って来たんだって。うわぁ……申し訳ないわ。
「ミアさん。さてはお嬢様に会いたくなりましたね?」
「流石はウィルさん。実はその通りです」
あ、ミアさん。早速ウィルと楽しそうに話し始めた。ふふ、あの二人って、最初は(ウィルが一方的に)張り合っていたけど、今じゃすっかり仲良しだよね。
「あの……。ところでエレノアお嬢様。その……お召し物が……」
ミアさんがなんか言い辛そうにしながら、私の胸元をチラチラ見ている。あ、これですか。
「気にしないでミアさん。これ、名誉の負傷だから!」
「は、はぁ?」
キリッとそう答えると、ミアさんが首を傾げる。そしてその横でシャノンが小さく「私にとっては致命傷です」と呟いている。だから本当にごめんって!
「ではお嬢様。一日中ご視察でお疲れになった事でしょう。先にお風呂になさいますか?それともお食事に?」
「んー……。お風呂!」
「かしこまりました」
何やら新婚さんのようなやり取りをした後、私とミアさんはクライヴ兄様と別れて大浴場へと向かった。あ、ウィルとシャノンはクライヴ兄様の入浴の準備をすると言ってクライヴ兄様の自室に向かいました。
実は今朝、ちょろっと温泉に入ってみたんだけど、青みがかった乳白色のお湯は前世の硫黄風呂と違い、花の香りがしてとてもリラックス出来た。父様、素敵な温泉どうも有難う!
あ、今回はミアさんも一緒に入ろうって誘ったんだけど、お風呂上がりのお世話が出来ないからという理由で断られてしまった。残念!
さてさて、楽しい入浴タイムを終え、今度は楽しい夕飯タイムだ。
お風呂上がりでホカホカしながら、期待にワクワク胸躍らせ席に着くと、どういう訳だか前菜で、色々なキノコと雑穀を使ったスープが出て来てビックリする。
「うわぁ!!こ、これって……!!」
「お嬢様がお好きと伺いましたので……」
イーサンがフレームをクイッと指で上げながら、顔を紅潮させた私に対し淡々とそう告げる。
聞けば、私があんまり大喜びしていたからと、クライヴ兄様があの場のキノコと雑穀を全部持って帰ってくれたんだそうだ。
そしてイーサンが指示して雑穀とキノコのコンソメスープが出された……という事らしい。
あれ?でも私、確かに「雑穀とキノコのスープ風リゾット」って呟いたけど、クライヴ兄様、それ聞いていたのかな?でも確かリゾットって料理、この世界では無かったような……。あ、リゾット省いて「雑穀とキノコのスープ」という事になったのかな?よく見れば汁多めだし。
……ま、この際細かい事はどうでもいいか!では実食!
「美味しいー!!」
丁度良い柔らかさの雑穀と、薫り高いキノコと一緒に煮込んだベーコンから出た出汁とシャキシャキした食感がたまらなく美味しい!白米だったらもっと美味しいんだろうけど、雑穀でも十分美味しい。というか、栄養的にはこちらの方が絶対に上だよね。
そうだ!キノコをフリーズドライにしてみて、煮たらどれぐらい元通りになるのか試してみよう。上手くいけば冒険者の携帯食として重宝されそうだし。
そんな事を考えつつ、大喜びでリゾットもどきを食べているエレノアを目を細め見つめた後、クライヴはイーサンと目を合わせる。
『……ひょっとして、影を付けていたのか?』
『家令の嗜みに御座います』
目と目で会話をかわし、「それ、家令の嗜みじゃなくて付きまといって言うんだ!」と心の中でツッコミつつ、クライヴは、エレノアが喜んで食べているスープに口をつけた。
すると思った以上に滋味溢れる旨味が口一杯に広がり、思わず目を見張る。
雑穀を食べる習慣が無かった事と、見た事のないキノコばかりで食べるのを少し躊躇してしまったが……。成程。これなら聖女様と交渉出来るかもしれない。
『家畜の餌だと思っていた雑穀も、調理次第では絶品料理になるという事か……』
そういえば、エレノアが言うにはこの雑穀、栄養価がずば抜けて高く、パンに混ぜたりこうして食べる事で、病気の予防や治療にもなるのだと言っていた。しかも小麦などが取れない僻地でも、沢山の実をつける事が出来るのだそうだ。
それが事実だとすれば、まさに家畜の餌が主食の麦と同等か、それ以上の価値を得る事になる。
しかも飢饉が起こった時の備えとしても有用だし、雑穀の有効的な活用法を他国に売る事も出来る。
『これこそが転生者の知識……という事か。末恐ろしいな』
この一日で、エレノアが発案したものの価値は計り知れない。成程、転生者や転移者が国家の保護対象になる訳だ。
ハフハフと美味しそうに雑穀スープを食べているエレノアを見つめる。
転生者がどれ程の知識を持ち、それがどれだけ国家に恩恵を与える希少な存在であろうとも、自分達にとってこの少女は、ただひたすらに愛しくかけがえのない婚約者でしかない。
その婚約者を守る為には、後顧の憂いとなるものは全て排除しておかなくては……。
そう心の中で決意したクライヴは食事を終え、エレノアと共にサロンで紅茶を飲んだ後、立ち上がった。
「さて、それじゃあなエレノア。明日は久々に早朝訓練だから、早めに寝ろよ?」
手で頬を撫で、優しくキスをした後、クライヴはイーサンに目配せをする。
「――!」
咄嗟に、本邸に戻った時のクライヴの言葉を思い出したエレノアは、思わず自分も立ち上がった。
「待って下さいクライヴ兄様!行かないで!!」
咄嗟に身体が動き、扉に手をかける寸前だったクライヴの背中に、縋る様に抱き着く。
「エレノア?」
そんなエレノアを、クライヴは不思議そうな顔で見下ろす。
「……クライヴ兄様……あの……」
「どうした?」
「――ッ!……あのっ!こ、今夜、私と寝て貰えますか!?」
自分の背中に抱き着いたまま言い放たれた、今日一番の爆弾発言に、クライヴはビシリと硬直した。
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ミアさん、エレノアと会えないと寂しくて死んじゃうもよう(笑)
そして最後に最大級のエレノア砲が炸裂しました!
エレノア……言い方!
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