第356話 甘い休憩
「エレノア?ほら、淑女がいつまでもそんな恰好でいたら駄目だよ?」
オリヴァー兄様のお言葉に、私は今現在の己の恰好を思い出した。
そ、そうだった……!!私っ、今現在下着姿ー!!
ボフンと、顔と言わず全身が真っ赤になってしまう。
い、いや。下着姿とは言っても、前世におけるブラとパンツといった、完全にアウトな格好ではない。
フリフリのレースをふんだんに使用した、布面積の多いキャミソールと膝上のペチコートだから、見ようによっては、総レースのキャミソールワンピースっぽく見えなくもない。
それでも、下着は下着なのだ!ミアさんとジョナネェは同性としてカウントするけど、身内とは言え、オリヴァー兄様はれっきとした男性!ひぇい!!
「も、申し訳ありません!!わ、私……こんなはしたない格好で……!」
思わずオリヴァー兄様にかけてもらったショールを引っ張り、胸元を隠すようにしてモジモジしていたら、「くっ……!」と、くぐもった呻き声のようなものが、小さく聞こえてきた。……んん?兄様?
そろり……と、上目遣いでオリヴァー兄様を伺えば、口元を手で覆って頬を赤く染めている。
目元も熱を持ったように潤んでいて、兄様の美貌に壮絶な色気が……!うわああぁっ!ふ、不意打ちだ!兄様、卑怯なり!!
……って、ん?何やら背後から「うぐっ!」って呻き声が……?
振り向いてみれば、ジョナネェがソファーの上で、横倒れになって震えている。どうやらオリヴァー兄様のお色気攻撃に被弾したようだ。
見ればミアさんも真っ赤になってウサミミを高速でピルピルしている。わぁ…うっかりほっこり!
そっか……。二人とも私と違って、兄様の目潰し攻撃に耐性ないもんね。うん、その気持ち、凄くよく分かるよ。
え?あんたに耐性うんぬん言われたくないって?失敬だなジョナネェ!
私、これでも耐性ついたんだよ!?え?どこがだって?攻撃喰らっても、すぐに鼻血噴かなくなったところですよ!
……ちょっとジョナネェ。なにその憐れみの眼差し。しかも何でミアさんまで視線逸らしてんですか!?二人とも酷い!
などと憤っていたら、突然身体が浮遊感に包まれた。
「うひゃあっ!」
「さあ、エレノア。君はこっち」
オリヴァー兄様に抱き上げられた事に気が付き、またしても色気のない声を上げてしまう。
私もいい加減お年頃なんだし、こういったシチュエーションくらいは「きゃっ♡」って可愛い声をあげられんもんですかね。
「いいんだよエレノア。君はそのままで」
あ、有り難う御座います。……って兄様!また私の表情読みましたね!?
「読む以前の問題と言っておこうか」
あ、そうですか。……くっ、兄様。何気に容赦ない!
先程のショック状態(?)から完全に復活したオリヴァー兄様は、私をお姫様抱っこしたまま、ジョナネェの真向いにあるソファーへと腰を下ろすと、そのまま膝抱っこの要領で私を抱き締めた。
そしてまずは、先制攻撃とばかりに私の唇に口付ける。
「んっ!」
すぐに離れたけど、しっかりディープなキスだった!に、兄様。なんという早業!
「さ、君の好きなアプリコットティーだよ?ちゃんと適温になっているからね」
兄様に言われるがまま、カップに口をつける。すると芳醇な茶葉と甘酸っぱい杏の香りが鼻を抜け、爽やかな甘さが喉を潤してくれる。……はぁ……美味しい!
「それとお茶請けは、セドリックが作ってくれたクッキーとケーキの盛り合わせ。苺系がお勧めだって言っていたから、まずはこれから食べようか?はい、あーん」
「あーん」
大人しく口を開き、ティースタンドに盛られた色とりどりのお菓子の中から、オリヴァー兄様がチョイスしてくれたプチショートケーキもどきをパクリと口に入れる。
うわっ!本当だ!このケーキ美味しい!!しかもクリームに、フリーズドライの砕いた苺が混ざっていて、食感も見た目も美味しい!セドリック、貴方ってやっぱり天才!!
「どれ、僕も味見しようかな?」
うまうまとケーキを食べていた私の口に、新たなケーキを放り込んだ直後、オリヴァー兄様が吸い付いた。……そう、文字通り、私の唇に吸い付いたのだ!!
うきゃー!ににに、兄様ー!!?く、くちっ、口移しかーー!!?しかも体勢的に、私から兄様にだよー!?
「うん、本当に美味しいね」
「#%**¥@~~!!」
「ふふ、何言っているのか分からないけど、エレノアの頬も、苺みたいに真っ赤だよ?思わず食べちゃいたいぐらいだ。……美味しそうだね」
そう言って、脳内チャンプルー状態の私の頬に口付けるオリヴァー兄様……。し、しかもはむっと柔噛みまでーー!!い~や~!!誰か!誰か助けてー!!
「……胸やけがするわ……」
ティースタンドに山盛り盛られたお菓子をパクパクと摘まみながら、ジョナサンが呆れた様にそう呟くと、傍らに控えていたミアが、絶妙なタイミングで空いたカップに紅茶のお代わりを注いだ。
「あら~!ありがと、ウサギちゃん」
ジョナサンのお礼に微笑を返すと、ミアはオリヴァーと仲良く戯れている(弄られている)己の最愛の主人を見て笑みを深める。そんなミアを見て、ジョナサンは口角を上げた。
「幸せそうねぇ、ウサギちゃんたら」
「ふふ、ええ。ご主人様方の幸せそうな様子を見るのは、召使にとって、とても幸せな事なのです」
「ふ~ん……。でもオリヴァーちゃんはともかく、エレノアちゃんの方はどうなのかしら?何だか憤死しそうなんだけど?」
「お嬢様は恥ずかしがり屋さんですから。でもオリヴァー様の事、本当にお好きでいらっしゃいますから。ああ見えて本当は、とても幸せなのですわ」
「へぇ~……。それって、同じ女としての見解?私から見ると、しょっちゅう兄達の美貌にやられて鼻血出してるし、愛し合ってる……とは思うけど、愛の比重も偏って見えんのよねぇ」
「いえ。もし私がエレノアお嬢様でしたら、抱き締められた段階でショック死しております。それを鼻血だけで済むなんて、まさに真実の愛ですわ!」
キッパリと言い切ったミアに、ジョナサンは汗を流した。なんか基準が微妙に違う気がしなくもないが……。
「そ、そっか。……ま、エレノアちゃんが幸せだってんなら、それでいいけど」
ジョナサンにとってエレノアは、こんな自分に懐いてくれる、幼い頃から可愛がってきた、妹とも言える大切な少女だ。彼女の為なら、それこそなんだってやってやりたい。
だからこそ、こんな無茶ぶりとも言える依頼を引き受けたのだ。
普通だったら、たとえ聖女様に献上する衣装を作れと言われても断っていただろう。
「エレノアちゃんの、一世一代の栄えあるデビュタントだしねぇ……」
それに
あんな斬新なアイデアを聞いてしまえば、デザイナーの端くれとして否が応にも血が滾ってしまう。
「にしたってねぇ……。そろそろ止めようかしら?」
まだ仮縫いは完全には終わっていないのだ。これ以上
やれやれと、心の中で溜息をつきながら、大好きな兄によってデロデロに溶けきった状態にされたエレノアを救うべく、ジョナサンはティーカップをソーサーに置き、立ち上がったのだった。
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第三勢力のデレは、基本表に出さずにひっそりと行われます。
そしてオリヴァー兄様がセクハラ大魔王に!(笑)
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