第422話 言葉にされた悪意

※本日、3巻書籍情報と予約販売が開始されます。

出版者様の方で告知され次第、こちらでも情報解禁します。

詳しくは近況ノートにアップしますので、宜しくお願い致します!




「うわぁ~!凄い!流石は王都の誇る王立学院ね!領地の高級カフェよりも素敵~!!」


そう言いながら、キーラ様が年相応といったように無邪気にはしゃいでいる。


それだけ見ていると、新入生の織りなす微笑ましい一幕に見えるのだけど……。大勢の取り巻き達をゾロゾロと引き連れての大名行列となれば、微笑ましさも半減されてしまう。

そして当然と言うか、しっかり注目もされてしまう。


案の定、そこかしこのご令嬢方が眉を顰め、何やらコソコソ言い合っている。

多分……いや、間違いなく、キーラ様の事をこき下ろしているに違いない。


「……あいつらは……どういう事だ……?」


私同様、キーラ様ご一行の方へと目を向けていたクライヴ兄様が、ボソリと呟いた。


眉を顰め、厳しい……というより、訝し気といった表情を浮かべている。一体どうしたというのだろうか?


ん?あれ?あの取り巻きの人達の中に、上級生らしき人達が何人もいる……?ひょっとして、キーラ様の婚約者かその候補の人達なのかな?


すると、あんまりにも見過ぎていたのが悪かったのか、周囲を見回していたキーラ様と視線がバッチリ合ってしまった。


――……な、なんか嫌な予感……!


その嫌な予感が見事的中し、キーラ様は満面の笑みを浮かべ、ご一行様を引き連れてこちらに向かって歩いて来る。というか、何故こちらにわざわざやって来るのー!?ひょっとして、りアム王族がいるから!?


「リアム殿下、そしてバッシュ公爵令嬢。入学式では色々とどうもぉ~!」


私達の席にやって来るなり、にこやかなに声をかけてくるキーラ様。……ええ、まあ学院だし、女性は全てにおいて優遇されているので、そこまで目くじらは立てられません。

けれどまたしても、こちらからの言葉を待つでもなく、自分から意気揚々と話しかけてきましたか。しかもリアムを名指しですよ。


『た、確かに入学式というより、その前に色々とあったけど……』


でも決して、このように気安く話しかけられるような、心温まる交流をした覚えは……って、ほらー!リアムは能面顔だし、セドリックはアルカイックスマイルを浮かべている。そしてマテオに至っては、物凄い威嚇顔になっていますよ。もしこれが猫だったら、全身の毛が逆立っているんじゃないのかな?


クライヴ兄様は、私の背後に控えているから表情見えないんだけど、浮かべた表情はきっと、『無』であるに違いない。


「ご機嫌よう、ウェリントン侯爵令嬢。お友達と一緒に、王立学院を見学しておられるのですか?」


名指しされたリアムは、キーラ様と話す気がなさそうなので、仕方なく私が声をかける。すると彼女は「そうなんですぅ~!」とニコニコと笑いながら頷いた。


……こうして普通に会話をすれば、一見何の害も無い愛らしいご令嬢に見えるんだけどね……。


「でも、色々と見て回ったら疲れちゃってぇ。喉も乾いたし、カフェに行こうかという話になったんです!あ、ここ。ご一緒してもよろしいですかぁ?」


「え!?」


ど、同席希望!?何でそうなるのかな!?ああほら、こちらを見ていた他の席の人達(主にご令嬢方)が殺気立った!


「何を馬鹿な事を言っているんだ!よろしい訳ないだろう!?他の空いてる席に勝手に座ってろ!」


私やリアムが何か言う前に、マテオがバッサリ切り捨てる。さ、流石だ。


「えぇ~、そんな酷ぉい!それに、何でワイアット公爵令息がダメだって言うのぉ!?」


ぷくりと頬を膨らませるキーラ様に、マテオが絶対零度の視線を向ける。


「私はリアム殿下の側近だ。リアム殿下が友人と認めた相手以外との同席を許可する気はない!」


「それじゃあ、私もリアム殿下のご友人になれれば、同席しても問題ないんですよねぇ?」


「はっ!お前が友人にだと?なれる訳がないだろうが!それよりもこれからは、目上の者に対する貴族としての常識と、慎みを学んでから声をかけろ!不快極まる!!」


おおぅ……!マテオ、貴方もアルバ男子的な女性に対するオブラートに包んだ言い回しと配慮が欠片もありません!いくら第三勢力とはいえ、ちょっと不味いのでは?……とは言っても、王族に対してあまりにも馴れ馴れしいこの言動の方が不味いのは間違いないけどね。


「ワイアット公爵令息、その言い方は女性に対し、あまりに酷くはないか!?」


「そうですよ。いくら公爵家のご子息であり、殿下の側近とはいえ、か弱きご令嬢に対する配慮があまりにも欠落していると思われます!」


案の定、キーラ様の取り巻きの中から、次々とキーラ様を庇う発言が飛び出してくる。しかも驚くべき事に、発言したのは新入生達ではなく、私達よりも上の学年の先輩方だった。

まあ確かに、新入生が三大公爵家の嫡男に意見できる訳ないけど。


「……確かに言葉は少々悪かっただろうが、マテオは側近として、俺に不用意に近付こうとする者を牽制していただけだ。間違った事はしていない」


リアムのマテオを庇う発言に、声を上げていた上級生たちがグッと言葉に詰まり、無言になった。


「でもぉ~、じゃあそれを言うんなら、バッシュ公爵令嬢だって、リアム殿下のお気に入り・・・・・であって、お友達じゃないですよね?」


「――ッ!?」


「なっ!!」


キーラ様の甲高い、爆弾発言とも言える言葉に、リアムとマテオだけでなく、周囲がザワリ……と騒めいた。


「バッシュ公爵令嬢だってぇ、それを分かっているうえで、リアム殿下と一緒にいるんですよねぇ?それって、王族の好意を手玉に取ってるって言いません~?『姫騎士』って言われているわりに、やっている事、悪女っぽぉい!」


キーラ様の容赦のない言葉に、リアムとマテオだけでなく、セドリックやクライヴ兄様も眉を顰め、キーラ様を睨み付ける。


というか、この子いったい何なのー!!?


確かに、リアムを含めた王家直系が、『姫騎士』の再来と(勝手に)言われている私に対し、淡い気持ちを抱いている……というのは、公然の事実だし、そうなるように、メイデン母様がせっせと雀に餌やりして噂を広めてもいる。


それは私が、『大地の聖女真の姫騎士』として周知された後、殿下達と婚約を結ぶ為の前段階であり、ついでにそれまでの間、余計な虫がつかないようにする……といった思惑があるのだそうだ(「尤もアルバの男の場合、それでも牽制にならんかもしれないが……」とは、クライヴ兄様のお言葉です)。


けれど帝国の襲撃の所為で、その計画は頓挫してしまっている。


なんせ、修行の為に領地に行ったのに、帝国から襲撃を受けてしまい、修行どころではなくなってしまったのだから。


当然、聖女襲名披露なんて出来る訳もなく、帝国の動向に神経を尖らせる日々。


……つまり私の立ち位置は、非公式ではリアムの婚約者なんだけど、表向きは『姫騎士』と言われている、ただの公爵令嬢に過ぎないのだ。

しかも噂だけが先行してしまっている現状では、確かにこの子の言うような誤解を持つ人達もいるだろう。


でも、リアムが一貫して私を友人として大切にし、共に学院生活を送っていた事は、同級生や上級生達は皆知っている。


それを『お気に入り』だから一緒にいるだなんて……。


王家特権を使って、リアムが『姫騎士』を侍らしていると言っているようなものだよね!?……いや、むしろ私が『姫騎士』の名を使って、リアムの傍に侍っていると言っているようにも取れる。


というかどちらにせよ、リアムに対する許せない侮辱だ!頭きたぞ、こんちくしょうめが!!


キーラ様の取り巻きである新入生達や、普段から私を目の敵にしている女子生徒達は、キーラ様の言葉にヒソヒソと肯定したり、あからさまな視線を私に向けてきたりしているけど、全体的に言えば、キーラ様の言動を非難する空気の方が強い。


――よしっ!今度こそ私もこの波に乗り、不満を一気にぶちまけてやる!


「そっ……!」


「……不敬な……!」


相変わらずというか、私が言葉を発する前に、リアム命のマテオがキーラ様を射殺さんばかりの眼光で睨み付けながら、再び言葉を発しようとした。

……うん、マテオ。有難いんだけど、たまには私に発言させてくれないかな……?


その時だった。


ゆわん……と、まるで薄いベールのような気配がまとわりつく不快な感覚に、無意識的に丹田に力を入れた次の瞬間。


――ポンッ!


「……へ?」


何やら、ここ最近で聞き慣れたポップな音が聞こえ、それと同時に嫌な気配が瞬く間に霧散した。


「――ッ!?」


すると、先程まで余裕の微笑を浮かべていたキーラ様の表情がサッと強張る。


「……エレノア……あれ……」


動揺する私へと、セドリックが戸惑うように小声で声をかけてきながら、そっと視線で促した先。そこを恐る恐る見てみると……。


なんと、テーブルに置かれた花瓶の花々の中に、ぺんぺん草が一本、紛れるように咲いていたのだった。



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初っ端から飛ばすオレンジ令嬢。

そんな中、もはやエレノアのシンボル(?)になりつつあるアレが出現しました!


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