第543話 腹筋祭り再び!

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「エレノアちゃん、いらっしゃい!私の島にようこそ!!」


「……お、奥方様……」


海上に停泊するのではなく、そのままガッツリ、砂浜に座礁……いや、乗り上げた船から下ろしたタラップを使って上陸した私の元に、ザッザと砂をかきながら白いウミガメ……もとい、奥方様がやってくる。


ちなみにディーさんの、「なんで船を突っ込ませてんだよ!?」という問い掛けに対し、アーウィン様が「大丈夫です。母上が強力な引き潮で海に戻しますから」と答えておりました(その後、「それでいいのか!?」と全員にツッコまれていたけど)。


なんというか……。ヴァンドーム公爵領の人達って、なにげにワイルドでアバウトだよね。南国あるあるなのだろうか?


「ヴァンドーム公爵夫人……。大事が控えている御身でありながら、私共に対する過剰なお心遣い、深く感謝致します(訳:「貴女は断罪の事だけ考えていてくれ!余計な事に気を回してんじゃない!!有難迷惑です!!」)


「あらー!アシュル殿下、貴方だって断罪に参加予定じゃない!私にだけ、イライラしながら海底神殿に控えていろなんて、あんまりだわ!私だって可愛い義娘予定と遊ぶ権利があると思うの!」


おおっ!奥方様が、アシュル様の貴族言葉に込められた本音に対し、直球でお返事しております!というか奥方様、さり気なく『義娘』って言いませんでしたか!?


「……大精霊様。貴女、イライラが高じて願望を真実だと、脳が誤作動を起こしましたか?そしてその願望は絶対に叶わぬ儚い夢と、今一度心にお刻みくださいませ」


ああっ!も、もはや貴族言葉に変換する事も止めてしまうほど、オリヴァー兄様がキレている!!そして、このトロピカルな風景にまるでそぐわぬ暗黒オーラが、トルネードのごとく渦を巻いて立ち上っている!!

あっ!他の婚約者達も全員、顔に影を落としてます!!しかも、オリヴァー兄様ばりに暗黒オーラを噴き上げながら、力一杯頷いていますよ!!


「まっ!失礼な子ね!私、確かに貴方達より長生きだけど、頭はしっかり新鮮ピカピカよ!?見なさい!この理知的な曇なきまなこを!!」


そう言って、ウミガメ……もとい、奥方様がキリッとしながら、首をニュッと長くする。この流れ、二回目ですよね?

ううっ、で、でもやっぱり可愛い……!


あっ!アーウィン様方も、オリヴァー兄様に向けて黒い笑顔を浮かべながら暗黒オーラを噴き上げている!!カオスだ!トロピカルな無人島に、たった今嵐が発生しました!!


「クロス伯爵令息。この世に絶対という言葉は存在しないんですよ。ましてや男女の事に関して言えば、いつ何がどう転ぶか分からない。……それは、ここにいらっしゃる王族の方々も貴方達も、身に沁みていらっしゃるのでは?」


「ーーッ!」


含みのある笑顔を浮かべながら、シーヴァー様から放たれた言葉に、兄様達もロイヤルズも、一瞬言葉に詰まってしまった。


そうだよね。私もまさか、王族と婚約を結ぶ事になるとは思いもしませんでしたよ。


この世界に『エレノア』として覚醒した当初は、「夫は一人でいいです!」なんて心に決めていたっていうのに、あっという間に一人増え、二人増え……。今では七人の婚約者がいるわけで……。


フッ……。私もアルバ女子として成長した……という事なのだろうか?


でも出来たら、そんな成長したくなかった。真面目に鼻腔内毛細血管も身ももちません!!


『そうだよ!本当に、これ以上増えたら真面目に命にかかわる!!こ、ここは奥方様がいらっしゃる前で、ビシッと釘を刺しておかなくては!!』


「おっ、奥方様!!あのっ、私はこれ以上……」


「さあ!時間が勿体ないわ!折角ここまで来たんだもの!海で思いきり遊びましょう!!」


「へっ!?」


私の言葉を遮るように言い放たれた奥方様の言葉に呼応するように、アーウィン様方が「待ってました!」とばかりに、一斉にシャツを脱ぎだした。


脱ぎ捨てたシャツが、バッと宙を舞う。そして私の目の前には、眩しい笑顔を浮かべたアーウィン様を筆頭に、鍛え抜かれた細マッチョで半裸の美男子軍団が!!


「うきゃーーーっ!!!」


「あんたらー!!なにしてやがんだー!!」


私の悲鳴の後、クライヴ兄様の怒声が響き渡る。次いで、慌てた兄様達やロイヤルズが私の視界を塞ごうと動き出した、そのコンマ数秒の間。バッチリと彼らの姿を捕らえた私の脳内は、フル回転で目の前の半裸祭りの実況中継を行ってしまう。


アーウィン様の魅惑のシックスパックが、眩い太陽の元に現れたー!!

オリヴァー兄様が名付けた二つ名のとおり、相変わらず強制わいせつ罪で逮捕されそうなほど、均整の取れたセクシーボディで御座います!!

あの時は身分を偽り、顔を隠されておりましたが、今は輝く美貌を惜しげもなく晒している為、セクスィーな破壊力が増し増しであります!!


そ、そして今は着けてないけど、片眼鏡モノクルがめっちゃ映えるクリフォード様!!頭脳派ですよと見せかけておいて、貴族服の中にそのような見事な胸筋と腹筋を潜ませておられたとは!!ギャップ萌え、有難う御座いました!!


更にはシーヴァー様っ!!貴方、あの一見女性的とも言える美貌の裏に、なんという悩まし気な腹筋と腰の括れをお持ちなのですかっ!?そりゃあ、「脱ぐのもやぶさかでない」と仰るわけですよ!!まったくもって、けしからんです!!犯罪です!!


ああっ!ディルク様!!ご自身で「俺も脱ぐから選んでくれ!」と豪語するだけの事はあります!!

他のご兄弟方に比べ、ガタイの良さがピカイチで御座います!!でもでも、マッチョという訳ではなく、胸筋、上腕筋、腹筋に至るまで、メリハリが抜群に効いた男の魅力が詰まりに詰まった……あああっ!今日は裸祭りの日だったっけ!!?


あっ!ベネディクト君も上半身裸になっているが、少し恥ずかしそうな様子だ!!多分、お兄様方の素晴らしき腹筋と自分とを比べているのだろう。

だがベネディクト君、己を卑下してはいけない!!少年期特有の完成されていない体躯には、完成された身体にはない魅力が弾けているのです!!それに、どう考えても十二歳の身体ではありません!バッチリ細マッチョです!!目にブッ刺さる眩しさは、他のご兄弟方と引けを取らない!自信を持ってください!!


「うわっ!エレノアが(鼻)血を噴いたぞ!!」


「エレノアー!!しっかりしろ!!」


「エレノア!!ほら、ハンカチ!!」


「エレノア!!白目剥きながら、アホな事を全力で語ってるんじゃない!!」


はっ!?わ、私ってばまた、無意識で喋ってましたか!?


「違う!!顔に書いてある!!」


私の表情筋が無駄に進化している!!ってか遂に、鼻腔内毛細血管が崩壊したかー!!


「エル!!あんな奴らの裸なんぞで狼狽えるな!!俺も脱いでやるから、それで上書きしろ!!」


「そうだよエレノア!あんな恥ずかしげもなく、堂々と裸晒す破廉恥軍団に興奮しないでよ。なんなら今夜にでも僕が、寝室で上半身といわず全てを晒してあげるけど?」


ディーさん!!上書き以前に心臓止まるから止めてー!!そしてフィン様!!どこをどうやったら、そういう話になるんですかー!!?全てを晒すの、ダメ絶対!!


「ディラン!フィン!お前ら、エレノアを失血死させる気か!?この愚弟ども!!」


「フィンレー殿下!!貴方の貧相な裸体なんぞ願い下げです!!というか、隙あらばエレノアを憤死させようとすんな!!」


アシュル様がディーさん達に雷を落とすなか、私の鼻をタオルで押さえていたオリヴァー兄様が、フィン様をピンポイントで罵っている。相変わらずブレませんね。


「ふふ……。皆様、堂々と身体を晒す気はないと?」


「当たり前だ!我々はこんなところで、水遊びに興じる気は無い!!」


「あんたらも、とっとと服着ろ!!」


「そうですか。どうやら皆様、余程ご自身の身体に自信がないようだ」


アーウィン様が爆弾発言を投下した瞬間、兄様達とロイヤルズのこめかみに、ビキリと青筋が立った。


「……は?」


「なんだって?」


「おい……。喧嘩売ってんのか?てめぇら……!」


「いえいえ、そのような……。ただ、最愛の女性を余所の男に興奮させられ、なんの行動も取らないなど、普通は有り得ませんから」


「そうですよねぇ。アルバの男であるなら、恋敵に挑まれたら返り討ちにしようとするもの。それをしないという事は、暗に自信が無いと白状しているようなものですよ。……ねぇ?」


アーウィン様に加え、クリフォード様までもが参戦して、プークスクスしてるー!!

ってかあなたがた、確信犯でしたか!!で、でもこの鼻血は、興奮ではなく驚愕からです!そこんところは誤解無きように!!


『し、しかし……この流れ、なんかデジャヴ!』


た、確かあの時は、マリア母様がグラント父様を挑発して、まんまとその挑発にグラント父様が乗せられて大惨事に……って、ちょっと待ったー!!オリヴァー兄様、クライヴ兄様、セドリック!あなた方、なんで立ち上がってんですか!?ち、ちょっ!?アシュル様!?ディーさん!?そ、そしてリアムまで!!ななな、なんで服のボタンに手をかけてんですか!?しかも顔面が「やってやんよ!」って言ってるんですけど!?


ま、まさかこの流れ、そのまま……半裸祭り第二弾に突入!!?


『いやー!!グラント父様の悲劇再び!?』


止めてほしくて近衛騎士様方やマテオ、ウィルの方を見てみる。が、皆さん無言でエールを送ってるっぽい。というかウィルに至っては、「若様方ー!頑張ってくださーい!!」と、あからさまに応援してる!ちょっと待って!なにを頑張るんだ!

そしてマテオ!期待に満ちた眼差しをリアムに向けてないで、止めて下さい!!


このままでは、私の鼻血で海が茜色に染まる!というか死ぬ!!


『あああっ!わ、私の命もここまでか!?』


そのままあわや、半裸祭りに突入か!?というその時だった。


「皆様!お待ちくださいませ!!」


その流れに突如として、シャノンが待ったをかけた。



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その頃、ヤシの木の木陰では。

奥:「ねえ、貴方は参加しないの?」

フィ:「負け戦はしない主義」

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