第542話 無人島へGO!
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私は早速メモ帳に、『電動魚干し機』のイラストを描いた。
「……えっと、お嬢様?これは……?」
「干物を作る道具だよ!」
そう。これは前世において、大きな円形の小物干しに魚を括りつけ、電気の力でクルクル回して干物を作る機械。通称『電動魚干し機』である。
これならば鳥も奪えないし、虫も集らないから時たま様子を見にくるだけでいい。しかもひっくり返す必要がないうえに、短時間で干物が出来上がる。まさに干物業界の革命児である。
海水浴場の片隅でクルクル回っていたソレを初めて見た時は、あまりの画期的発明に衝撃と感動を覚えたものだ。
一番の問題は、この世界には電気がないって事なんだけど、それは風の魔石を代用品にすればいい。原理は至って単純なものだし、ちゃんとした職人さんにお任せすれば、すぐに作ってもらえるだろう。
あ!そういえば、ドライネットっていう、個人で干物や乾燥野菜を作る用の三段籠を使って、お祖母ちゃんが干し芋や切り干し大根作っていたっけ。こちらも商品化してもらって、バッシュ公爵家で干しシイタケでも作ろうかな?
「……って、あ!」
そんな事考えていたら、無意識に電動魚干し機のイラストの横に描いていたわ。……うん。ついでに団扇も書いておこう。
「――ッ!!こ……これは……っ!!」
描き上がったイラストを、まずは兄様達に見せて仕組みと用途を説明した後、アーウィン様方に対して同じ説明を行う。
すると全員もれなく、「なんという画期的な発明!」「これはまさに革命だ!!」って興奮しました。まあ、兄様達やロイヤルズは「?」だったけどね。
それにしても、流石は海洋領地を統べる公爵家直系。絵を見せて説明しただけで、この商品の凄さが分かるとは……。流石です。
「エレノア嬢!是非ともこちらも、事業提携に組み入れて頂きたい!!」
「はいっ!喜んで!」
よしっ!クリフォード様がガッツリ食い付きました!
顔を紅潮させ、キラキラ……というより、ギラギラという感じに目を輝かせている姿に、バッシュ公爵領の集積市場の皆さんを思い出してしまった。ライトさん達元気かな?
というか、怜悧な美貌に野生の魅力がプラスなんて、ご褒美以外のなにものでもない。……ええ、直視による眼球への攻撃を防ぐ為にも、オリヴァー兄様の背中にそっと隠れました。
ところで、オリヴァー兄様達。ヴァンドーム公爵家との事業提携が増えるの嫌がるかなって思ったんけど、驚くほどアッサリ許可してくれた。
その理由としては、「いや、魚を干す魔導具が出来上がっても、内陸では使いどころがないし……」だそうです。確かにね。
私はネコミミおばあちゃんへと視線を向けた。するとおばあちゃん、今まさに棒を一生懸命振って、海鳥と戦っていました。思わずホッコリ……いやいや、ゲフンゲフン。
「良かった……。これで獣人のご老人方の負担が減ります」
これからは是非とも、縁側でうたた寝しながら、のんびり招き猫をやっていて欲しいものだ。
「流石だね、エレノア嬢!それでこそケモミミ同好会会長だ!」
「ヘイスティングさん……!」
私とヘイスティングさんは、互いに満面の笑みで頷き合った。
兄様達やロイヤルズには、「驚きの産業改革の原動力がケモミミ……」「動機が小さすぎる……」と、驚き半分呆れ半分といった眼差しを向けられたけど、偉大(?)な発明の裏側って、わりとそんな動機だったりするもんなんですよ。
で、後日談ですが。
電動魚干し機の横にオマケで描いた団扇。それを見たクリフォード様が私に仕組みを聞いて再現した結果、焼き物業界に革命を起こしたとのことです。
そういえば串焼きを焼く時、皆さん布だの紙だので煽いでいて大変そうだったもんね。うっかりすると火が燃え移っちゃったりしていたそうだし。
その結果、私の二つ名に『焼き物業界の救世主』『干物の女神』という、訳の分からないものが追加されたとの事。……冗談でも悪意でもないので抗議し辛いんだけど、うら若き十代に『干物』の二つ名は止めてほしいところです。
◇◇◇◇
島を満喫した私達は、再び船に乗り込んだ。その際、「お土産です」と言って、魚介類の干物を山のように頂いてしまいました。
感激のあまり頬を紅潮させ、「有難う御座います!とても嬉しいです!」と満面の笑顔でお礼の言葉を伝えたところ、出迎えの時よりなぜか人数が増えたお見送りの島民さん達(兄様曰く「多分、近くの島の島民達だろう」との事)が顔を赤らめ、次々とその場に膝を突いていく。
その中にはネコミミのご老人方もいて、慌てて駆け寄ったところ、「お嬢様!是非またこちらにいらっしゃってください!」「ワシらが生きている間に……どうか!」と手を握りしめ、つぶらな瞳をウルウルさせながら言われてしまいました。
「はいっ!絶対また来ます!」と、うっかり答えてしまった私は、婚約者達が噴き上げた絶対零度の暗黒オーラに我に返った。し、しまったー!!
当然というかその後、「エレノア嬢。言質、取りましたよ?」と、極上の笑顔を浮かべたアーウィン様方に告げられてしまった結果、私は怒れるクライヴ兄様によって、頭部を鷲掴まれながら船に連行される事と相成りました。ううう……痛い。
「折角ですし、このまま遊覧しながら精霊島に戻りましょう」
アーウィン様の提案を受け、煌めく南国の海や、美しい島々を見ながらのんびりと船旅を楽しむ私達。
時折潮を吹きながら現れる巨大なクジラや、船と競泳するかのように並走するイルカの群れと共に、船は滑るように海上を進んでいく。う~ん、これぞ夢にまで見た南国バカンス!潮風が気持ちいい!!
「エレノア嬢、ちょうどこの先に、白い砂浜がとても美しい無人島があるんです。折角ここまで来たのですし、少し寄っていきませんか?」
デッキに設置された日除け用の傘の下、同じく設置された椅子に座ってジュースを飲んでいた私の元に、そう提案してきたのはベネディクト君である。
「白い砂浜の無人島!?」
うわぁ……!!行ってみたい!!
「ベネディクト殿。折角のお誘いですが、このまま遊覧しているだけでエレノアは十分満足しております。それに、脅威は去ったとはいえ、完全に安全とはいえない今、迂闊に色々な場所に足を踏み入れるのは危険かと思いますが?」
だが当然というか、ベネディクト君の提案という名のお誘いを、オリヴァー兄様がバッサリ切り捨てる。
う~ん……。確かに遊覧だけでも大満足だけど、白い砂浜の無人島は行ってみたい……って、クライヴ兄様!?あっ!ディーさんとフィン様まで!なんですか、そのドスの利いた笑みは!?『余計な事言うなよ?』って口パクまで!わ、分かってますよ!
「……それは……その通りですが、今遊覧している場所は、全て安全が確保されている区域です。無人島はその区域内ですし、海底神殿にも近い場所に在りますから、いざとなれば母が……」
「いいえ。大精霊様には、これから大切な
「そうだよ、ベネディクト・ヴァンドーム。大精霊様がこれからされる事は、このアルバ王国にとっての最重要案件。我々王族も、オリヴァーの言う事に賛成する」
一生懸命食い下がったベネディクト君の言い分に、オリヴァー兄様だけじゃなく、アシュル様も切り捨て御免!とばかりに加勢する。……な、なんか子犬がフェンリルに必死に戦いを挑んでいるような幻覚が見える。
思わずちょっとだけ応援してしまいたくなるのは、判官贔屓というやつでしょうか。
その時、グラリと大きく船が横に揺れた。
「うわっ!?」
「きゃぁっ!!」
「な、なんだ!?」
「ああ、クジラですね。どうやら船が自分達の仲間だと思ったようで、群れでじゃれついてるんですよ」
咄嗟にオリヴァー兄様に抱えられた私は、ディルク様が指し示す方向に目をやる。すると言葉通り、何頭もの巨大なクジラが、ひしめき合うように船に群がっているのが見えた。
「お、おい!?なんか進路が変わってないか!?」
ディーさんが困惑した様子で口にした言葉のとおり、確かに船の進路が左に寄っていっているような……?
「はははっ!済みませんね、海洋生物はやんちゃな子が多くて」
「追い払うのも可哀想ですから、そのまま暫く彼らに付き合ってあげましょう。大丈夫ですよ。遊ぶのに飽きたらいなくなりますから」
クリフォード様とシーヴァー様が、のんびりのほほんと話している間にも、遊覧ルートはどんどん左側へとズレていく。しかもその先に、なにやら小さな島が姿を現した。
遠目から見ても分かるほど真っ白い砂浜と波飛沫が、陽光を受けてキラキラと輝いている。
「んん?」
あれ?砂浜に同化してよく見えなかったんだけど、なにかがいる……って!!あれってウミガメ!?しかも真っ白い……って事は、奥方様ですか!?あっ!こっちに向かって手を振ってる!やっぱり奥方様だ!!
「おやおや、なんと!あの島はベネディクトが言っていた無人島ですよ!」
「いやぁ、凄い偶然ですねー!まさかクジラ達が、我々をあの島に連れていくだなんて!」
「クジラ達、ひょっとしたらエレノア嬢に無人島で遊んでもらえるよう、気を使ったのかもしれませんねぇ?」
「はははっ!そりゃーそうだ!いわばエレノア嬢は、この海を守ってくれた恩人なんだしな!カメも出迎えてくれるわけだ!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
どうやら、この無人島に寄るのは既に決定事項だったようです。
その後。兄様達&ロイヤルズVsヴァンドームご兄弟で、壮絶な罵り合戦が勃発しましたが、
その事が、後に私の鼻腔内毛細血管を瀕死状態に叩き落とす事を、その時の私は気付く事が出来なかったのである。
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電動魚干し機ですが、洗濯干しにも応用できるみたいですよ(^O^)
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