第541話 串焼き祭りと思いつき

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話し合いの結果、私が持参した水着は『危険物』として、オリヴァー兄様の胸ポケットにしまい込まれてしまいました(無念!)。


「どうせ後で一人きりになった後、ソレを取り出して妄想にふけるつもりでしょ?だってムッツリだもんね君」


「……フィンレー殿下。貴方、そんなにも海の藻屑に成り果てたいのですか?」


なんて、オリヴァー兄様とフィン様が、相変わらず仲良くいがみ合っている間に、船が島に到着したと、船員さんの一人が知らせにきました。


というわけで皆で甲板に戻ると、船は今まさに船着き場に着岸する寸前だった。おおっ!ヤシの木に似た植物発見!ブーゲンビリアやハイビスカスっぽい花も!!これぞまさに南国!!


でもこの船、物凄く大きいから着岸大変そうだなー……って思っていたら、身体強化かけた船員さん達が、ヒラリヒラリと桟橋に飛び降り、太いロープをちゃっちゃと結んで固定していた。ビバ!魔法のある世界!


「我がヴァンドーム公爵領は、内陸の沿岸部及び、大小合わせた島々からなる領地なのです。潮が満ちると沈んでしまう島以外、殆どの島には島民が暮らしています」


ここぞとばかりに、近付いてきたアーウィン様に説明され、思わず前世の瀬戸内海を思い出してしまった私です(ちなみにですが、こういう時は兄様達も彼等を妨害しない。……思いきり渋面になるけど)。


確かあそこには、三十ほどの島々で形成された笠岡諸島があって、その中の数島以外は無人島だったはず。


いつか家族旅行したいねって、お祖母ちゃんと話していたんだけど、「いつか行くその時の為に取っちゃった!」って、スキューバダイビングのライセンスを誇らしげに掲げていたっけ。……というかお祖母ちゃん、いつの間に取得していたの?


「そしてそれらの島々を、我が家門の貴族家が領主として治めております。ちなみにこの島を治めていた貴族家の者達は全て、捕縛済みです」


アーウィン様が、実にスッキリ爽やかな笑顔でそう締めくくる。……そ、そうですか。そういえば『掃除』が済んだとか昨日言っていましたよね。


「内陸部の漁港より、こういった小さな漁港の方が人目を気にせず、好きなだけ魚介類を召し上がられるでしょう?島民達には通達済ですので、どうか存分にお楽しみください」


「有難う御座います!」


パアッと笑顔になってお礼を言うと、アーウィン様が眩しそうに眼を細めながら口角を上げる。


その笑顔に『うっ!』となった瞬間、すかさずクライヴ兄様とセドリックが私の前に立ち、アーウィン様を視界から消した。……えっと、色々と済みません。


そんなこんなしている間に、タラップが下ろされる……が、当然(?)というか、アーウィン様方は船員さん達と同様、お付きの人達と一緒にヒラリヒラリと船から飛び降りていった。どうやら陸地の安全確保の為らしいんだけど、流石は海の男。ワイルドです!!


対抗意識を燃やし、自分も飛び降りようとするディーさんの首根っこを(クライヴ兄様が)掴んで止めさせ、皆で大人しくタラップを使って桟橋に降りていくと、島民であろう何十人かの皆さんが集まっているのが見えた。


全員、嬉しそうな笑顔を浮かべながらにこやかに手を振っている。中には旗を振っている人達もいて……ん?なにか書いてある。……えっと、『歓迎!ヴァンドーム公爵家ご婚約者様!!』……ですと?あっ!旗が一瞬で灰になって、島民の皆さんが大騒ぎしている!!


「ふふ……。アシュル殿下。一瞬、なにやら不快なものが見えた気がしますね?」


「ははっ。ああ、まったくだ。後でヴァンドーム公爵に、よーーく言っておかねばな!」


笑顔で青筋を立てたオリヴァー兄様とアシュル様を見ながら、冷や汗を流す私の耳に、アーウィン様方の舌打ちが聞こえてきた。み、皆さん、折角バカンスに来たんですから、仲良く楽しみましょうよ!


「ああ、お前は心ゆくまで楽しめ。俺達の事は気にするな」


クライヴ兄様!気にします!!気にしますから、クリフォード様とメンチ切るのやめてー!!


あ、セドリックとリアムがベネディクト君と睨み合っているのは、子犬同士のじゃれ合いみたいで、なんとなく和みました。





◇◇◇◇






「お嬢様―!こちら、アワビとサザエが焼けておりますよー!」


「こちらは貝の串焼きで御座いますー!!エビも大ぶりでプリップリですよー!?」


「魚醤に漬けた干物の炙り焼きはいかがですかー!?」


……なんて、ご自慢の魚介類を焼きながら、島民の皆様方が一生懸命呼び込みをかけてくる。


皆さん、領主がいなくなったというのにまったく動揺していないと思ったら、普段から割と横暴で嫌われていたから、逆にいなくなって喜んでいるんだって。成程ね。


でもって、今日はこの島を治めていた領主一族が一斉捕縛されたってんで、私達以外誰も入港していないとの事。まさに貸し切り状態である。


そして最初のうちは、兄様達やロイヤルズと言った、滅多にお目にかかる事の出来ないキラッキラの貴族(王族)見て、戸惑っていたけど、そこは大らかな海人達。暫くしたらその存在に慣れたもよう(早っ!)。


というより皆さん、私を歓待する事に意識が全振りしているようだ。先程の旗といい、アーウィン様方がいったいどういう風に私の事を説明していたのか、非常に気になるところです。


「エレノア!ほら、美味しそうな海老の串焼きだよ?」


「エル!大型魚のぶつ切り焼いたやつもイケるぞ!?」


「エレノア嬢、さあ、この島自慢の大貝のバター焼きをどうぞ!」


「エレノア嬢、こちらのアワビの串焼きも美味しいですよ!?」


そして今現在。私は兄様達やロイヤルズ、そしてヴァンドーム五兄弟が、目についたものを競い合うように、片っ端から買って貢いでくれた海産物を、大変美味しく頂いております。


ちなみにですが、串焼きを食べようとした時。シャノンがすかさず、胸元からパーフェクトケープを取り出して私に着させようとしたところ、青筋立てたクライヴ兄様が光の速さでシャノンをぶちのめして阻止しておりました。ってかアレ、まだあったの!?いったい何枚持っているんだ!?


というか、シャノンがパーフェクトケープを取り出した瞬間、てるノアを実際目にした事のある人達が次々と口元や腹を押さえて蹲っていた。シャノンをどついたクライヴ兄様自身も、肩を震わせながら私から視線を逸らしていましたよ。失敬な!


その後、発作が落ち着いたオリヴァー兄様に、「普通のナプキンにしなさい!」と怒られたシャノンが、渋々胸元まである大きなナプキンを首に巻いてくれました。……というか、普通にエプロン付けた方が早いんじゃないでしょうかね?


ああっ!それにしても、この魚介類の新鮮で美味しいことったら!!


貝を噛み締めるたびに、ジュワッと染み出るエキスといい、プリップリのエビの身の甘味といい、どれもこれも絶品です!!特に魚醤の漬けタレで作った干物なんて、白いご飯と一緒に頂けたら最高だろう!これは是非とも、アリアさんにお土産に買わねば!!


にしても、やはり海洋領地の貴族だけあって、アーウィン様方が貢い……いや、持ってきてくれる魚介類のことごとくが、私のツボに嵌りまくっております!特に、ディルク様が持ってきたサザエのつぼ焼きが絶品だった!


身を一旦取り出し、ぶつ切りにした後、ワタと一緒に貝の中に戻して網焼きにしたものを、貝をそのまま皿代わりにして楊枝のようなものをぶっ刺して食べるんだけど、身の美味しさはもとより、シメのエキスがまた美味い!!何個でもいけちゃいそうだ!


「エレノア嬢、素晴らしい食べっぷりです!いつでもこちらに嫁にこられますね!」と、頬を染めたディルク様から嬉しそうに言われ、思わずサザエ汁でむせまくってしまった。その時一瞬、ダイヤモンドダストが舞ったのは、私の見間違いではなかった……はず!


そんなこんなで、お腹がパンパンになった後、あちこち歩いてみて気が付いたのは、乾物屋が沢山あるという事だった。


「ええ。ここら辺は遠浅の島が多く、魚よりも貝類が多く捕れるんですよ」


クリフォード様の説明によると、ここら辺の魚介は、他の沿岸部で捕れるものより身が濃厚だけど、足のはやいものが多い為、加工技術が発展したんだとか。

そして店の前で、加工前の新鮮取れたて魚介類を焼き、観光客や買い付けの商人達に提供しているんだそうだ。成程、ようするに試食ですね。


そういえば店の脇に、貝や魚が沢山干してあったな。そして必ずお年寄りの皆さんがその横で腰かけていたっけ。

多分だけど、干した魚や貝を狙った鳥や猫や虫を追い払う為の番をしていたんだろう。……というか、その店番しているお年寄りの皆さん、ネコミミが付いていたような気が……?


「ああ、彼らは移住してきた猫獣人達です。実は彼らにああして座っていてもらうだけで、不思議と猫がピタリと来なくなるんですよ」


シーヴァー様のお言葉に、すかさずヘイスティングさんが反応した。


「それは素晴らしい!多分彼らは猫にとって、上位種として捉えられているのでしょう。……つまりは猫又的な?ああ……!それにしても、干物と猫獣人……!なんてシュールで尊い絵面なんだ!!」


そう言いながら、干物番をしているお婆さんをウットリとしながら見つめるヘイスティングさん。


その視線は、彼女の被っている麦わら帽子からちょこんと覗くネコミミへと注がれていた。……うん。流石は我がケモミミ同好会副会長であり、真正のケモナー。ブレませんね!


「でも……。いくら座っているとは言っても、一日中ああしているのも大変ですよね……。それに猫が来なくても、鳥や虫は追い払わなくてはいけないし……」


私の存在に気が付き、嬉しそうにペコリとお辞儀をするお婆さんにホッコリ和みながら、私はふと『あるもの』を思い出した。


「そうだ……!アレなら……!」


私は急いで、焼きハマグリをハフハフ頬張っているウィルを呼び寄せた。あ、これって別に、ウィルがサボって買い食いしているんじゃなくて、兄様達が買い過ぎて消費し切れなかった串焼きを頂いていただけです。


「あのね、ウィル。紙とペンある?」


「はい!お嬢様、どうぞ!」


ウィルはメモ帳と万年筆を内ポケットから取り出し、渡してくれる。


そのメモ帳の表紙にはしっかり『お嬢様のアイデア帳』と記されていた。……流石はウィル、分かってるね!



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シレっと『ケモミミ同好会』副会長の座をディーさんから奪取したヘイスティングさんです。

そして、「え?俺、いつの間に副会長になっていたんだ?」と首を傾げていたディーさんでした(獣人王女と対峙した時、勝手に任命されていました)。

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