第485話 使い捨ての駒【キーラ視点】

4巻及びコミカライズ1巻発売です!!

興味がおありの方、宜しくお願い致します(^O^)/

また、応援書店様と、シーモア様用に書き下ろしSSも書いておりますので、そちらも合わせて宜しくお願い致します!v


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――一体、どうしてこんな事になったの!?


船上でアーウィン様の指示により、騎士達に拘束された私は、公爵様にお目通りする事も許されず、島の端に建てられた離れに、ヘイスティングと一緒に押し込められてしまったのだった。


しかも今現在は、「従者がいるのだから」と、使用人も殆ど付けてもらえず、この離れ以外に出歩く事すら禁じられている。


「ヴァンドーム公爵家の家門の中でも、尤も由緒あるウェリントン侯爵家の娘を、こんな犯罪者のように扱うなんて……!!」


しかも我がウェリントン侯爵家は、帝国の流れをも組む高貴な血筋。普通の貴族家とはまるで格自体違う。


その高貴な血を継ぐこの私が、お父様の命令で行きたくもないヴァンドーム公爵領にわざわざやって来てやったというのに……。


『ベティはつれないし、あの女……エレノア・バッシュや、その筆頭婚約者にも、散々好き勝手に言われてしまうし……!!』


しかも、船長だと思っていた男が、まさかヴァンドーム公爵家の次期当主とされる、アーウィン様だったなんて。


『アーウィン様は、私とベティとの婚約を見直すと仰っていた。そんな事になったら……お父様になんて報告すればいいの!?』


私とベティとの婚約は、下賤な血を薄める為に、ヴァンドーム公爵様がお父様に是非にと懇願され、成したものだと聞いている。

だから、どんな事があってもこの婚約は解消されない……そう思っていた。……でも……。


『普通の婚約であれば、男性側からの婚約破棄は認められない。……けれどヴァンドーム公爵家は、『裏王家』と呼ばれる程に、このアルバ王国内では由緒正しき血筋だし……』


たとえ直系の息子達に、半分下賤の血が流れているとはいえ、現当主であるアルロ・ヴァンドームは、王家の流れを汲む正統なる高貴な血統。


その彼が本気になれば、私とベティの婚約など容易く解消出来てしまうかもしれない。そんな事になってしまったら……。


――お父様は、「反転の力」が顕現してから、ようやっと私を認めてくれた。……なのに、このままではまた以前のように、「女だから」と、要らない者として扱われてしまうかもしれない……!!


「こんな事なら、さっさと私の『力』を使って、ベティやこの公爵家の連中の心を、私のものにしておけば良かった……!」


そうよ。お父様が止めたりさえしなければ、今頃ベティは私に夢中になっていた筈。


そうなれば、ベティを溺愛している公爵様やベティの兄達も、どんな事があっても私を婚約者から外す事が出来なかったに違いないのに……!!


「それになによりも許せないのは……!」


ベティやアーウィン様が、あの女を見る時の熱のこもったソレ。……あれではまるで、二人ともがあの女に興味を持っているかのようではないか。


「だいたい、ヘイスティング!あんたが『コレ』を使えば、魔獣をおびき寄せて、あの女を始末出来るって言ったんじゃない!!」


苛立つ気持ちを吐き出し、服の上から胸元に手をやる。


ヘイスティングが差し出した、小さな丸い黒水晶。それに言われた通り、私の魔力を込めた上で憎い相手エレノアを思い浮かべてみた。


『私を不快にする女……エレノア・バッシュを殺せ』……と。


すると、黒水晶はフワリと浮き上がり、私の胸元へと吸い込まれるように消えてしまったのだ。


その直後、クラーケンの襲撃が起こり、私の願い通り、エレノア・バッシュはクラーケン達に襲われた。


ヘイスティングによれば、あの黒水晶は私の『反転』の魔力を増幅させる為に用意された魔石なのだそうだ。

それを取り込む事により、私は私自身に向けられた感情の『反転』だけではなく、私が標的にした者に対する感情をも『反転』させる事が出来るようなった。


ただ、対象者は無限ではないらしく、クラーケンのような知性の低い魔獣であるなら、それなりの数を。対して魔力が高く、強力な精神力のある人間に対しては、精々一人か二人しか、感情を『反転』する事が出来ないのだそうだ。


私の『反転』の魔力により操られたクラーケンが、あの女を捕えたところを船室の窓から見た時は、「ああ、やっと邪魔な女がこの世からいなくなるのだ」と、喜びに胸が躍った。


……けれど結局、あの女は傷一つ負う事なく生き残ってしまった。


そればかりか、婚約者達だけではなく、ヴァンドームの直系達にまで大切に守られていた。

対する私は公爵家の沙汰を待つべく、このような所に留め置かれている。


どうして?何故こんな事に!?何故あの女は、ただ能天気に笑っているだけなのに、あれ程多くの男達に愛されるの!?


「ヘイスティング!!」


従者でありながら、のんびりとソファーに座って寛いでいる使えない男。その名をイライラしながら、叫ぶように口にする。


するとヘイスティングは、チラリと私の方へと視線を向け、心底うんざりした様子でため息をついた。


「……ああ。本当に、小娘の金切り声は癇に障るな。私にとって有益と判断した、その『力』がなければ、さっさと始末していたところだ」


「……え?ヘイスティング、貴方なにを言って……」


言葉は最後まで紡ぐことは出来なかった。


まるで見えないなにか・・・に、目を、口を、感覚を覆われているかのように、身じろぎ一つする事が出来ない。


「ふふ……。それにしても、父娘ともに滑稽だな。我が『帝国』の尊き血が僅かでも流れている。ただそれだけの事で、勝手に同胞面をし、尊重されると信じ込んでいるところが、実に哀れだ。帝国の地ではなく、こんな国に根ざした者どもが、我らと同じ帝国民であろうはずがなかろうにな……」


『……誰……なの?』


――この目の前の『男』は、一体何者!?


見た目だけで言えば、今の今まで見知っていた『ヘイスティング』という男そのもの。


けれど、その口調も雰囲気も……そして、感じる魔力の質も量も、なにもかもが、この男がヘイスティングとは『別人』であることを物語っている。


「この娘、父親の言う通りにしておれば、私の傍近くに侍られると思い込んでいたようだが……。生憎、役不足だ。お前ごとき、愛妾にするにしても、力も素養も何もかもが足りぬ」


――どういう……こと?愛妾!?なんでこの私が、あんたなんかに侍らなくてはならないのよ!?


「それに引き換え、エレノア・バッシュ。アレは素晴らしいな。美しさも力も才能も……。流石は我が帝国の『こぼれ種』。だが、聖女の力……あれは頂けないな。我が帝国の脅威足りえる素質。非常に惜しいが、完全に芽吹く前に摘み取っておかなくてはなるまいよ……」


――……てい……こく……!?


目の前が徐々に暗くなっていく。


そして視界が霞んでいくと同時に、自分の目の前の男から立ち上る魔力の『本質』を感じ、愕然としてしまう。ソレは……その魔力は……。


『ああ……!ま……さか……そ……んな……!?』


――我が……君……!!


理解した瞬間、目が眩むような絶望と、脳が焼ききれんばかりのどす黒い嫉妬が沸き上がってくる。


『何故……!?どうして……あの女ばかりが……認められるの!?』


悔しい……悔しい悔しいくやしい……!!なんて……なんて惨めな……!!


心の底から恋焦がれた『このお方』にとって、私は結局、使い捨ての便利な駒でしかなかったのだ。


これから先、自分に訪れるのは、人形のように使い潰される未来。……でもその中で、たった一つ救いがあるとすれば……。


『エレノア・バッシュ。貴女は、貴女を愛する男達の手で殺されるのよ……!!』


私の『力』を使い、『このお方』はエレノア・バッシュを必ず殺すだろう。


あの女と、あの女を恋い慕う男達の絶望を思い、腹の底から笑いが込み上げてくる。


そんなどす黒い愉悦に浸りながら、私は闇よりも深い深淵に意識を落としていったのだった。





「――……ッ!?」


カクリと、糸の切れた人形のように床に崩れ落ちたキーラを、なんの感慨もなく眺めていたヘイスティングは、自分の頬をそっと指でなぞった。


「……ふ……。この私の『支配』に抗うか。まあ、それも一興。そこの女共々、せいぜい私を愉しませる為、踊り狂え」


自分の濡れた指先を見下ろしながら、ヘイスティング・・・・・・・は歪に口角を上げ、楽しそうに嗤った。




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久々のオレンジさん視点ですが、どうやら大変なことになっているもよう。

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