第484話 売りこんじゃった!
4巻及びコミカライズ1巻発売です!!
興味がおありの方、宜しくお願い致します(^O^)/
また、応援書店様と、シーモア様用に書き下ろしSSも書いておりますので、そちらも合わせて宜しくお願い致します!
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あの素敵な吹き抜けサロンを退室し、これまた眼下に見える美しい白亜のお城と透明な青く煌めく海を目で楽しみながら、回廊を兄様方とセドリック、そしてウィルやシャノン達と静かに歩いていく。
勿論、私達から少し距離を取りながら、ヴァンドーム公爵家の護衛騎士達が後方から付いて来ている。
多分だけど、うちの『影』達同様、ヴァンドーム公爵家の『影』達も、見えないところで私達……というより、私を護衛してくれているのだろうな。有難い。
「……うぜぇ……」
あっ、ウィル!そんな失礼な事、呟くんじゃありません!!
『それにしても、本当に綺麗な海……!』
青い空の色を写し取った、南国の海特有の鮮やかな海の色に、思わず溜息が漏れてしまう。しかも、光の加減や海水の温度で、緑にも青にも見えるこのグラデーション。本当にたまらない。
『……こんなにも平和そうに見えるのに……。この海域のあちらこちらで、人為的な災害が発生しているだなんて……』
その災害から海で暮らす生物達や、このヴァンドーム公爵領の領民達を、その身を挺して守り続けている、ベネディクト君やアーウィン様達のお母様……セイレーン様の事を思うと、胸が痛くなってくる。
今現在、ヴァンドーム公爵領で起こっている異常事態。
それを、私の雑学的視点から『青潮』ではないか……と推測した訳なんだけど、それを元にオリヴァー兄様が推測したのは、私のような『転生者』や、専門知識を持った『転移者』を使い、帝国が『何か』を仕掛けたのではないか……という恐ろしいものだった。
確かに、私程度の雑学を持っているだけでも、この世界では『転生者チート』と呼ばれてしまうのだ。
それがもし『界渡り』によって、なんらかのチートスキルを本当に得た『転生者』や『転移者』が、そのチートスキルと自身の専門知識を融合させたとしたら……。人為的に『青潮』を作り出す事ぐらい、造作もなくやってしまうかもしれない。
アリアさんが言っていたけど、この世界にやって来る『転生者』や『転移者』は、基本的に女神様が認めた善良な魂を持つ者が殆どなんだそうだ。
帝国は各国の『転生者』や『転移者』を、勝手に所有権を主張して無理矢理拉致しまくっているという。
もしその中の誰かが無理矢理そんな悪事に加担させられていたとしたら……。それはどれ程辛く、苦しい事だろうか。
『いや、まあ……。でも、これらはあくまでも「こうではないのか?」という、推察の域を出ない考えなんだけどね』
でも、
それに、あのオリヴァー兄様が推測したのだ。うん、きっとそれが正解に違いない。ヴァンドーム公爵様も「その線で動く」と仰っていたし。
――ああっ、もう!それにしても流石は帝国!本っ当に、ロクな事しないな!!
なんせあの国、アルバ王国を一方的に仮想敵国に仕立てて攻撃や嫌がらせを長年に渡って行ってきている最低国家らしいしね。
なんかよっぽど性格がねじ切れている上に、それしかやる事ないぐらい暇なんだろうな。アルバ王国としては、そんなの相手にする程暇ではないんですけどね。
『そう、嫌いなら放っておいてくれ!そしてこっち見んな!!ついでに誘拐した人達返しやがれ!!』
帝国の愚行(もはや決定事項)にムカムカしながら歩いていたら、頭にポンと手が乗せられ、そのまま撫でられる。
ふと見上げると、オリヴァー兄様が優しく微笑みながら私を見下ろしていた。
その、「君の憤りなどお見通しだよ」とでも言うかのような、慈愛に満ちた微笑に頬が赤くなった。多分私の顔、あまりにも分かり易いムカつき顔になっていたんだろう。
うう……いかんな。いくら私が『転生者』だって事が公爵様方にバレていても、他の人達はそれを知らないんだから、地を出すのはほどほどにしなくては。
「エレノア、どうやら公爵閣下もご子息方も、『アレ』に非常に興味を持って下さったみたいだね」
私の考えを見透かしているけど、敢えてヴァンドーム公爵領で起こっている異常事態には触れず、『アレ』の事を……。苺のフリーズドライについての話題を振ってくれる兄様に、私は有難く乗っからせて頂いた。
「はいっ!手応えは上々です!あの感触なら、きっとヴァンドーム公爵領が超大口の顧客になってくれるに違いありません!」
そう。私は敢えて、あの苺をお土産の中に紛れ込ませておいたのだ。
あの商品は、見た目のインパクトもさることながら、実際に食べると、その不可思議な美味しさにビックリしてしまう逸品だ。
今、高位貴族達の中で話題沸騰の幻のスイーツだし、きっと公爵様方も興味を持ってもらえるに違いないと踏んだのだ。
……うん、思っていたんだけど……。まさか初っ端から、デザートと一緒に私達の前に出してきて、直球で『私』に説明を求めて来るとは思っていませんでしたけどね。
「本当は、オリヴァー兄様に売り込んで頂く予定だったんですけど……」
「まあ、それは仕方がない。まさかあちらが、あんなに早く確信(君が転生者である事)を突いてくるとは思ってもみなかったからね」
そうなんだよね……。
『どの段階で、ヴァンドーム公爵様が私に疑いを持ったのかは分からないけれども、早々に『転生者』だって身バレしちゃったからなぁ……』
そりゃあ、そんな最中に見た事も聞いた事もない不思議な商品が、バッシュ公爵家のお土産に入っていれば、当然私のアイデアで作ったものだって確信しちゃうよね。
それにしても、流石は『裏王家』と言われる三大公爵家の一柱、ヴァンドーム公爵家。
私のような小娘の企みなんぞ、海千山千の選ばれしDNAの手に掛かれば、コロコロと手のひらで転がされて終わりだよね。
「まあ、おかげ様で私も開き直って、堂々と(フリーズドライについての)有用性を語り、バッチリ売り込ませて頂きましたけどね!」
私の話を聞いて、公爵様だけでなく、アーウィン様方も顔を紅潮させながら目を輝かせていた。
うん、きっとあのフリーズドライ商品で助ける事の出来る、多くの領民達の事を思い、胸が熱くなっていたに違いない!
プレゼンは大成功だ!これでバッシュ公爵領の果物や野菜の売り上げを上げる事が出来るし、病気で苦しむ沢山の人達を助ける事が出来る!手前味噌だけど、自分よくやった!!
ふんす!と拳を握りしめ、ドヤ顔の私を見ながら、オリヴァー兄様は「そうだねぇ」と笑顔で頷いた後、深く重い溜息を一つついた。
「若干、売り込んではいけないものも売り込んだ気がしなくもないけどね……」
あれ?どうしたんですかオリヴァー兄様?そんな遠い目をして。え?わ、私、何かヤバイものを売り込みましたっけ!?……って、あっ!クライヴ兄様とセドリックまでもが、同じような目をして頷いている。ウィルとシャノンも、凄く生温かい眼差しで私を見ているし!
しかも二人揃って、「やっちゃったか……」「ああ、やっぱりな……」って呟いているんですけど!?い、一体なにやらかしちゃったんだ、私は!?
「……あ!」
ふと、開けた空間らしきものを、目の端がとらえ、横を向いてみれば、そこには回廊から続くバルコニーがあった。
手すりなどはなく、景観を愛でる目的で設置されている椅子。
それに腰かけると、そのままダイブしたくなるくらい、海が近くに感じられるように考えられているみたいだ。……勿論、それって目の錯覚だから、実際にダイブしたら死ぬけど。
「…………」
私はバルコニーに歩を進めると、目の前の美しい海を見つめた後、そっと目を閉じ両手を組んだ。
『女神様。どうか、この美しい海に早く平穏が訪れますよう、お慈悲をお与え下さい』
そうして暫く祈りを捧げた後、ゆっくり瞼を開く。
すると、いつの間にか私の左右に立っていた兄様方とセドリックも、私と同じように海に向かって祈りを捧げていた。
後方を見れば、ウィルとシャノンと、何故か護衛騎士の方々も、片膝を地面に突いて祈りを捧げていた。そして何故か、キラキラした眼差しで私を見つめている。
……えっと、貴方がた、女神様に祈っていたんだよね?何故に私をそんな目で見ているのかな?
「さ、エレノア。部屋に戻ろうか」
「はい!オリヴァー兄様!」
もう一回、海の方へと視線を向けた後、私はオリヴァー兄様に肩を抱かれながら、回廊へと戻って行った。
そして私は、祈っている時に聞こえた、『ポンッ』という軽快なポップ音を、『このお城の草花を管理する庭師の皆様、本当に御免なさい!』と、心の中で土下座しながら、全力で無視する事に決めたのだった。
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女神様の慈悲=ぺんぺん。
そして、兄様達は海に向かい「精霊様、貴女の息子達は我々一同が全力で迎え撃たせて頂く!」と誓いを立てたとかなんとか。
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