第483話 稀有なる少女【アーウィン視点】③
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『……しかし、そのような前代未聞の手法で作られた品物だ。きっと高額に違いない。だとすれば、どんなに素晴らしいものでも、手に入らなければ意味がない』
だが、そんな懸念もエレノア嬢の言葉で霧散する。
「今すぐには無理ですけど、この製法で作られた食材は、近い将来大量生産出来るようにしたいと思っているんです。そうすれば、価格も普通の食材よりも多少割高ですが、安価に提供する事が出来ます」
聞けば、市場に出せない規格外品や、廃棄せざるを得ない破損した食材を使用する事で、価格をギリギリまで下げるつもりなのだという。
確かにそうすれば、生産者が損をしないばかりか、消費する側にとってもどれ程の恩恵となるか分からない。
だが、そんな事をしなくても、普通に高級な果物をこのように菓子として貴族達や裕福な商人、果ては諸外国に高値で売りつけるだけで、莫大な利益が生み出される筈。なのに何故敢えて、価格を抑えた庶民向けの商品まで作ろうとするのだろうか。
「失礼だが、庶民向けの商品を作れば、一部の高位貴族はともかく、殆どの者達は安価な方を求めるだろう。確かにそれでも利益は出るだろうが、稀有な技術に対する報酬としては、見合わないものになるのではないかな?」
そう疑問を投げかけてみれば、エレノア嬢は屈託のない笑顔でこう言ってのけた。
「貴族の娘としては失格かもしれませんが、私としては技術料なんていらないし、領民が普通に儲かればそれでいいんです。それに、この商品が普及する事で、一人でも多くの人達が健康になってくれることの方が、私はずっと嬉しいです」
父も俺も弟達も、幾度目か分からぬエレノア嬢の衝撃的な言葉に絶句した。
つまり、エレノア嬢が我々にこの苺を持ってきたのは、商売をする為……というより、我々と取引をする事で、『船乗り病』に苦しむ多くの領民達を助けたかったから……だったのか。
見れば、婚約者達はそれぞれ苦笑を浮かべながら、エレノア嬢の事を誇らしそうに……そして、愛しくてたまらないと言うように見つめている。
そして弟達の瞳にも、彼らと同じ熱が灯っているのを確認する。特にベティなどは、彼女への好意を隠そうともしていない。……まあ、人生初の心惹かれる女性に巡り会えば、ああなるのも分かる。
『それに……。俺自身もひょっとしたら、隠し切れていないのかもしれないな……』
その懸念を肯定するかのように、オリヴァー・クロス伯爵令息が分かり易い威圧を俺に向かい、放っていた。
「…………」
そんな事を回想しながら、目の前に置かれた苺を見つめる。
これのおかげで、どれ程の領民達が病から救われるのだろう。……いや、我が領土の民だけではなく、アルバ王国の国民、そしていずれは諸外国でも、きっとこの商品によって、多くの命が救われるに違いない。
しかも、我々が手をこまねいているしかなかった問題も、解決の糸口を得る事が出来たのだ。彼女はまさに、現代における姫騎士であり、女神様がこの世に遣わした御使いに違いない。
「……彼女は、婚約者を増やす気はあるのかな?」
俺の呟きを受け、弟達の目が輝く。……うん。分かっていたけど、俺を含めて婚約者候補として名乗りを上げる気満々だな。
『まてよ?そういえば父上、俺達全員の釣書をバッシュ公爵家に送ったって言っていなかったか!?』
あの陰険で腹黒い筆頭婚約者なら、俺達がその気になったのを察した途端、それを盾に「彼らは冗談が好きだからね。まともに相手をしたら駄目だよ?」ぐらいは言いかねない。いや、奴なら絶対に言う。しかもあの素直なエレノア嬢だ。あっさりそれを信じるに違いない。
まだエレノア嬢の本当の人となりが分かる前の段階だったので、半分冗談のつもりだったのだと言っていたが、こうなってくると、「父上、なにやってくれてんだ!!」と、心の底から罵倒したくなってしまう。
まあ、彼女だけなら口八丁手八丁で割と簡単に篭絡出来そうではあるのだが、ちょろ……いや、素直な彼女と違い、いかんせん彼女の周囲のガードが鉄壁過ぎる。
おまけに、あの王家直系達までもが背後に控えているのだ。しかも『影』達によれば、あろう事か『護衛』と称し、あのオリヴァー・クロスがリアム殿下にエレノア嬢との入浴を勧めていたというではないか!
……これはひょっとしなくても、リアム殿下を含め、王家直系達は既に『婚約者候補』ではなく、婚約者となっている可能性が高い。
勿論、今の段階ではまだ非公式なのだろうが……。だとしたらまったくもって、厄介なんてものではない。
それに、残念ながら今現在、我がヴァンドーム公爵領は重大な問題を抱えている。
魚貝類の大量死に帝国が絡んでいるとしたら、きっとあのクラーケンの襲撃も帝国が仕掛けたに違いない。そして多分……いや、間違いなくウェリントン侯爵令嬢と……あの得体のしれない専従執事も関係しているのだろう。
『獅子身中の虫を体外に排出する為、敢えて懐に入れてみたが……。さて、どう行動するのかな?』
不覚を取るつもりはないが、帝国の『魔眼』持ちは底が知れない。しかも『転生者』や『転移者』を使っている可能性がある上、エレノア嬢は『こぼれ種』として狙われている。問題は山積だ。
「……それにしても、エレノア嬢を……アルバ王国の得難い宝を『こぼれ種』などと……。よりによって、よくもそのような下種な戯言をほざいたものだ」
俺の言葉に、弟達からも殺気が立ち上る。
あの得難き至宝を、薄汚い己らの欲望の為に我が国から奪おうとするなどと……まさしく万死に値する。
「領内の問題を片づけたら、帝国に与する愚か者を炙り出して叩き潰す。勿論、帝国もだ」
その為なら、恋敵であるあの婚約者達や王家直系達であっても、いくらでも手を貸そう。そしてそれら全てを解決してから、エレノア嬢との事に本腰を入れるとしようか。
幸か不幸か王家が絡んでいるのであれば、王家直系もあの婚約者達も、エレノア嬢には本格的に手を出す事が出来ないだろうし……。その間に攻めさせて頂くとしよう。
アルバの男は、これと決めた女性を得る為だったら、どんな努力も厭わない生き物だ。
ましてやあのような、存在自体が奇跡のような少女と出逢ってしまったのだ。諦められるわけがない。
「それにあの子なら、母上がとても気に入りそうですしね」
クリフォードの言葉に、他の弟達が大きく頷く。そして俺も、同意とばかりに口角を上げた。
そう。俺達は、
「でもアーウィン兄上は、まずエレノア嬢に水をかけてしまった事をお詫びして下さい!それと、彼女の眼前で肌を晒した事と、卑猥な言動と、それから……」
「……分かった。すまん。全部心の底から謝罪するから……」
ベティの言葉を聞き、「ちょっと兄上!そんな事やってたんですか!?」「兄上……なんて事を!」「うっわ~……ないわ~!」と口にしながら、冷ややかな視線を向けてくる弟達に肩を落とす。
そうなんだよな……。何だかんだあって、エレノア嬢にしっかりとした謝罪をまだしていないんだよ。
こういう事って、先延ばしにすればするほど、罪悪感と羞恥が増していくんだな……。うん、良い勉強になった。
エレノア嬢に軽蔑されるのは完全に自業自得として、あの筆頭婚約者からも、えげつない嫌味を言われるんだろうと思うと、今からうんざりしてしまう。
『まあ、エレノア嬢に求愛する為にも、後顧の憂いは断つに限る。誠心誠意謝るともさ!』
俺は、未だにこちらを見ながら頬を膨らませているベティに苦笑しつつ、ガラスの器に入っていた苺を一つ摘まみ、口の中へと放った。
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エレノア的には、「暑ければ脱ぐ!」と、心の底から思っています。なので多分、「アーウィン様って、開放的でお茶目な人なんだな」で終了でしょう。
ク「お前と言う奴はー!!危機感というものを持て!!」
エ「うきゃーっ!!」
そしてその後、クライヴ兄様による、頭部鷲掴みの刑が炸裂するまでがお約束です。
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