第154話 聖女様の思惑?
「あっ、あのっ!兄様方、セドリック。…ご、御免なさい!!」
殆ど振動を感じない馬車の中、私はオリヴァー兄様、クライヴ兄様、そしてセドリックに対し、ガバッと頭を下げた。何の謝罪かと言えば当然の事ながら、朝食の席でのやらかしについてである。
そんな私を見ながら、オリヴァー兄様が深々と溜息をつく。
「エレノア、謝らなくてもいいから。あれはもう、仕方が無い。…まさか聖女様が君と同じ世界からいらっしゃった『転移者』だったなんて、誰も想像していなかったからね」
オリヴァー兄様のお言葉に、クライヴ兄様とセドリックも同時に頷いた。…ついでに私も。
そうなんだよね。まさか聖女様が私と同じ、元・日本人だったなんて…!
そりゃあ黒髪黒目だし、言われてみれば日本人の特徴あったりするけど、あのロイヤルズに負け劣らぬ美貌で、パッと見日本人だなんて思えないよ!
『う~ん…。転生者と違って転移者って、見た目が変わらない人が殆どみたいなんだけど、私の場合は界渡りした際、見た目がこの国に合わせて多少変わっちゃったみたいなのよね』
――…とは、私の疑問に対しての、聖女様のお言葉である。
成程。よく界渡りした人が、スキルなりなんなり得るって設定、そのまんまな訳ですか。ってか、美貌もスキルの一つに入るのかな?
あ、あと、最初に聖女様が私の事を「転生者じゃないか?」と疑ったのは、自分のツンデレ要素を見抜いた時だったらしい。
そんでもって、聞けば聞く程親近感を持ってしまう、私の言動ややらかしの数々に、疑問が確信へと変わっていったのだそうだ。
だから、半信半疑な陛下方や殿下方に協力して貰って、あの朝食をセッティングしたんだって。
「オ…オリヴァー兄様…。あの…大丈夫…でしょうか?確か前に、転生者は問答無用で王家の保護対象になる…って…」
「ああ。それに関しては、今の所大丈夫だろうと思うよ。聖女様が君と同じ世界からの転移者だって事を我々に知らせた時点で君をどうこうする気が無いと、暗に示したんだろうからね。そもそも、もし君を囲う気だったら、君は今こうして一緒の馬車に乗っていないから」
そうなのだ。
『転生者』や『転移者』は、常人とは違うスキルや、元居た世界の貴重な知識を保有している事が非常に多い為、半ば強制的に国の保護対象になってしまうと、以前兄様方や父様方が言っていた事があった。
実際、聖女様も転移した時、王宮にしっかり保護されたらしいし。
…というか、転移した先が王宮で、尚且つ女性だったからって、そりゃあもう上にも下にも置かない程のもてなしっぷりだったそうだ。
おまけにその時、現在の国王陛下や王弟殿下方が聖女様に一目惚れしてしまったそうで、聖女様は「保護と言うより、あれは間違いなく、強制的囲い込みだった…」と、遠い目をして言っておられたような…?
「まあ、ようはエレノアが転生者だって事を公にしない代わりに、エレノアが王宮に遊びに行くのを邪魔しないように…って、俺達に牽制したんだろうよ。…もしそれをしたのがアシュル達や国王陛下方だったなら、反論なり対抗策なり出す所だが…。よりにもよって『聖女様』だからな。頭の痛い所だ」
うん、確かに。
聖女様ってこのアルバ王国では、女神様と同列で崇拝されている方だから…。こと、私に関しては恐れ知らずな所のある兄様方でも、流石に二の足踏んじゃうよね。
「…兄上方。ひょっとしたら聖女様…僕達だけではなく、王家も牽制してくれたのではないでしょうか?エレノアが『転生者』だって事を、
「え…?!」
戸惑いがちに呟いたセドリックの言葉に、私は驚いて目を見開く。オリヴァー兄様の方は、その思惑に気が付いていたのだろう。複雑そうな面持ちで頷いた。
「…まあ、そうだろうね。聖女様としては、同郷であるエレノアを不幸せにはしたくなかったんだろう。でもしっかり、息子達の援護射撃もしている。…はぁ…。まさか聖女様が、あのように策士だったとは…」
「うちのお袋と全然違うタイプだが、手強いって所は共通しているよな」
「ええ。流石は聖女様です。悔しいけど尊敬します」
す、凄い!兄様方やセドリックが心の底から聖女様を認め、手放しで褒めちぎっている!私は『転生者』だから、チートだのなんだのは全く無かったけど、やっぱり界渡りをする『転移者』には、色々なスキルや能力が備わるんだろうな…。なんか羨ましい。
「私も聖女様程ではないにしても、スキルの一つでも持っていたらよかったなぁ…」
思わずそう口にした言葉に、兄様方やセドリックが互いに目を合わせた後、可笑しそうに笑った。
「そうでもないぞ?お前にはお前にしかないスキルがしっかりあるじゃねぇか」
「えっ!?そ、そのようなものが私に!?」
何と!私には私の知らないスキルが存在していたらしい。食い気味になった私に対し、オリヴァー兄様が優しい笑顔を向けながら頷いた。
「うん。『エレノアがエレノアである事』…がね」
「…はい…?」
え?私が私である事がスキル…?なんのこっちゃ?
「分からなくてもいいんだよ。つまり、エレノアはそのままで最強だって事」
「そうだよね。エレノアには、僕も兄上方も…殿下方だって敵わないと思うよ?」
「???」
えっと…。意味が全く分からないけど…。でも、兄様方やセドリックが楽しそうだから、まぁいいかな…?
「ところでエレノア。聖女様から何を貰ったの?」
「えーっと…何だろ…あ!おにぎりだ!!」
バスケットを開けてみると、そこにはしっかり笹の葉(のような植物)にくるまれたおにぎりが入っていた。しかも海苔がふんにゃりしないよう、しっかり別に取り分けられている。…ううむ…流石は
あ、よく見てみたら、綺麗なガラスの器にそれぞれ、出汁巻き卵と漬物が入ってる!嬉しい!
「結局朝食の席で、僕らは食べ損ねちゃったんだけど…。これって美味しいの?」
オリヴァー兄様の言葉に、私は力一杯頷いた。
「はい!美味しいですよ!沢山入っていますから、お家に着いたら一緒に食べましょう!」
「そうだね。君の大切な故郷だった世界の食べ物だものね。きっと美味しいんだろう。君の言う通り、僕達の家に帰ったら一緒に食べよう」
――『僕達の家』
そう言って微笑んだオリヴァー兄様の顔を見て、私はようやっと実感が沸いてきた。
「…私、兄様達やセドリックと家に帰れるのが、凄く嬉しいです!」
そう、ジョゼフやベンさんや他の召使の皆にやっと会えるのだ。しかも今日から、ミアさんが私の専属召使に加わってくれる!
…ああ…。憧れのケモミミメイドさんにお世話してもらえるなんて、夢みたい!
「…うん。なんか若干、僕達と帰れる以外の事で喜んでいる気がしないでもないけど、確かにようやく君が僕達の元に帰ってくるんだ。…おかえり、エレノア」
そう言って、オリヴァー兄様が私を抱き寄せ、頬にキスをする。
「はいっ!ただいまです、兄様!」
――まだ馬車の中ですが…。
そう心の中で呟きながら、私はオリヴァー兄様の唇に、こっぱずかしいが自分から口付けた。
「――ッ!エレノア!!初めて君の方から…!」
そう言って、感激のあまりにそのまま押し倒す勢いで、ディープなキスをブチかまして来たオリヴァー兄様を、クライヴ兄様とセドリックが必死に制止し、引き剥がすという、ある意味お約束な展開を馬車の中で繰り広げつつ、私達はバッシュ公爵邸へと帰って行ったのであった。
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エレノアも言っておりますが、まだ馬車の中です<(_ _)>
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