第522話 魔力譲渡と浄化

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私はアシュル様と共に、ガラスが全て吹き飛んだ大窓から見える外の風景に息を呑んだ。


『なんて……禍々しい!!』


ドーム状に展開している防御結界の中を渦巻いているのは、どす黒く禍々しい力に満ちた魔力。それはまさに、『呪い』としか表現出来ないようなモノだった。


『というか、こんな禍々しい魔力に侵食されながら大騒ぎしていたのか!?この人達は!!』


これが選ばれしDNA……!真面目にアルバの男の底力って凄すぎる!!……いや、これぐらいのパワーと根性がなければ、肉食女子と対等に渡り合えないのだろう。


「じゃあ……いくよエレノア。フィンの時と同じように、君の魔力を僕に注いで……」


――ううっ!!


アシュル様に優しく包み込まれるように抱きしめられ、吐息が耳元にかかる。


その甘やかな低音エロエロボイスに、顔と言わず身体全体が熱を持ち、シュンシュンと湯気を噴いた。……が、これは別にアシュル様が私を口説いている訳でもなんでもない。


そう、これは魔力譲渡の一種。


海底神殿で奥方様の『反転』を解呪する為、アシュル様は既にかなりの魔力を消費してしまっていた。


加えて、奥方様の放った攻撃魔力は『精霊の呪い』とも言われる程強く強大なものだ。とてもじゃないけど、それを今のアシュル様だけで浄化する事は出来ない。

ちなみにだけど、フィン様の『闇』の魔力は、『魔眼』への攻撃及び鎮静に特化しているものの、残念ながら『浄化』の力はほぼ無い。


そして、『光』と『闇』の力は真逆の性質であるがゆえに、フィン様の魔力をアシュル様に供給する事はほぼ不可能なのだそうだ。


フィン様がアリアさんを連れてくるという案も出たんだけど、「もしリュエンヌの呪いの所為で、聖女様の御身に何事かあれば一大事だ」と、公爵様が難色を示した。


そして、「あ、そういえば母上、急遽発生した魔獣被害による災害地域の復興支援に出てた!」とアシュル様が思い出した事で、その案は没となったのである。


そりゃそうだよね。フィン様の力はチートだけど、流石に空間転移は一度でも行った事がある場所でなければ上手く繋げられないらしいからね。


じゃあ私が何とかしよう……と思ったんだけど、いくら『大地の魔力』の発動条件が分かったとはいえ、半人前の私では、まだまだ上手く浄化出来ないであろう事は明白。こうしている間にも、荒ぶる魔力はゆっくりと海面に向かって上昇していっている。一体、どうすれば……。


そこでふと、私は思い出した。


以前バッシュ公爵領において、帝国の皇子が襲撃事件を起こした際、魔力を抑制されたフィン様に私の『大地の魔力』を注ぎ込み、魔力が抑圧される元凶となった帝国の魔眼持ちを撃退した時の事を。


『ひょっとして、あの時と同じく私の魔力をアシュル様へと注ぎ込んで、それを有効利用してもらえれば、奥方様大精霊の攻撃魔法を完璧に解呪出来るかもしれない……!!』


私がその事を口にすると、アシュル様は「成程……。うん、良い考えだ!それに『大地の魔力』は『光』の魔力と同系統の浄化に特化した力だから、僕の魔力との融和性も問題ない!」と、私の考えを全面的に賛同してくれたのである。


……けれどもそれに対し、「ええ~!アレ・・をアシュル兄上とやるの?」とフィン様が渋り、それにオリヴァー兄様がすかさず同調した事により、私は二人を宥める為に濃厚な口移しでの魔力供与をする羽目になったのである。……まあ、ようは賄賂ですね。


あの時の、ヴァンドーム公爵様とベネディクト君の視線の痛さときたら……。


というかオリヴァー兄様とフィン様、絶対それ目当てで渋ったんだよね!?普段仲が超悪い癖に、なんでああいった時だけ阿吽の呼吸で仲良く悪だくみするんだあの人達は!?

アシュル様も「お前らなぁ……」ってドスの利いた声出して、凄くでっかい青筋立ててましたよ!?


はぁ……本当に、フィン様は通常仕様だからいいけど(いや、よくないか?)、オリヴァー兄様のやんちゃっぷりが止まらない。昔の穏やかで冷静だった兄様、どこ行っちゃったんですかね!?


「……では、いきます!」


私はアシュル様の駄々洩れる色気にバクバクする心臓を鎮めようと、大きく深呼吸をしながら目を瞑る。そして今現在、脳と鼻腔内毛細血管に集中しているであろう己の魔力に意識を集中させた。


すると瞼の裏に、海底神殿で死んだように眠る、奥方様とヘイスティングさんの姿が浮かんできた。


実は奥方様が意識を無くした後、ヘイスティングさんの時と同様、金色の蔓が奥方様の周囲をドーム状に包み込んだのである。


アシュル様曰く、あの蔓には私の祈りと『大地の魔力』による癒しの力が宿っているのだそうで、彼らの体力が十分に戻るまでの間、自然の防御結界のように彼らの身体を癒し続けるだろうとの事であった。


そしてこれは余談ですが、奥方様が黄金の蔓に覆われかけた時、私の背中に張り付いていた筈のウミガメが、一生懸命ヨチヨチと這い歩きながら、奥方様の許に行ってしまったのである。


ひょっとしてあのウミガメ、奥方様のペットだったのだろうか?だとしたらまさに、リアル浦●太郎だわ!


「いや、多分あのカメ、本能で一番安全な場所に移動しただけだよ」とは、オリヴァー兄様のお言葉です。……まあね。これから魔力暴走の最前線に行くから、確かに危険だもんね。


『とにかく……。奥方様やヘイスティングさんが目が覚めた時、悲しんだり苦しんだりする事がないようにしたい……!!』


帝国に利用され、ヴァンドーム公爵領の海を汚す手伝いをさせられてしまったヘイスティングさん。そしてその帝国の所為で最愛の家族に向け、呪いの力を放ってしまった奥方様。


酷く傷付けられてしまったあの人達を、これ以上苦しめる事のないよう……。そして、この領海内で平和に暮らしている全ての人達を護る為に……!私は私に出来る事を全力で全うする!!


『――ッ!よし、これだ!!』


私は自分の体の中を巡る魔力を感じ取ると、背中越しに感じるぬくもりの方へ流れていくよう誘導する。


「……ッ!……これは……凄いな……」


若干、うっとりとしたような色気駄々洩れな声に、集中力が切れそうになって慌てて気を引き締める。というかアシュル様、なにがどう凄いんでしょうか!?

というか、何気に私を抱く腕の力が強くなったような……?そして私達の背後から、なにやら黒い魔力嫉妬が沢山噴き上がっているような気がするのですが!?


「――ッ……!!」


目を閉じていても感じる、眩く温かい浄化の光。ああ……。アシュル様の魔力の高まりを感じる。


「……母なる力、聖なる癒しのその御手よ。我が加護と浄化の光を持って、邪悪を祓い清めん……」


アシュル様の詠唱と共に、重苦しい空気が徐々になくなっていくのが分かる。……そして魔力供給の所為か、身体と思考がフワフワしていく。


「あまねく全ての者達に、大いなる慈悲の導きあらん事を……『光の浄化メギド・ライティング』」


『どうか、奥方様の魔力が沈静化しますように……!!』


アシュル様の詠唱と同時に祈りを込め、胸の中でそう呟いた後、私の意識は更に眩さを増した光に包まれ、そのままホワイトアウトしていったのだった。



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なお、アシュル様の荒んだ精神状態も、もれなく浄化されたようです。

そして理性的なオリヴァー兄様ですが、今現在絶賛家出中で御座いますw(もう戻る事は…あるかな?)

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