第521話 ただいま帰りました!

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アーウィンやクライヴ達の練り上げた防御結界が完成しようとした直後、凄まじい魔力が、まるで噴水のように海中から噴き上がり、ドーム状となった防御結界を内側から破壊しようとする。


「くっ!!」


「――ッ!!」


「こ……れが、大精霊の魔力……かっ!!」


「なんて……凄まじい力……!!」


結界を張る者達全てに、とてつもない負荷がかかる。だが各々、渾身の力を振り絞ると、ヒビが入りかけていた結界の傷を修復し、防御結界を完成させる。


「う……ぐっ!」


「……ッ……!!ああっ!!」


アーウィン達の周囲では、魔力量の劣る者達から、『精霊の呪い』の力に侵食され、その場に崩れ落ちていく。

ウィルやシャノン、近衛騎士達も苦痛に顔を歪めながら、その場に片膝を突いているのが見える。


当然、ソレは結界を張るのに全魔力を注ぎ込んでいるアーウィンらヴァンドーム直系のみならず、王家直系であるディランとリアム、そしてクライヴやセドリックらにも例外なく襲い掛かり、その凄まじい呪力によって、全身が鉛のように重く軋んでいく。


「……ッ……!」


「……うう……っ!!」


「シーヴァ―!!ディルク!!」


ヴァンドームの直系の中で、年若いシーヴァ―とディルクに、真っ先に影響が出る。


「おいっ!ヴァンドーム兄弟!!この力は本来、お前らの父親とお前ら自身に向けられた攻撃魔法だ!!俺達がサポートするから、結界に向けている力の半分を、てめぇらの防御に使え!!」


「し、しかし!!ディラン殿下!!」


「いーから、早くしろ!!全員無傷でいなけりゃ、俺の女・・・が泣くんだよ!!」


「「「「…………は!?」」」」


途端、アーウィン達兄弟のこめかみにビシリと青筋が立った。


「……ディラン殿下。その『俺の女』って、ひょっとしなくてもエレノア嬢の事ですよね?」


「え?……はっ!!」


「まだ婚約もしていないご令嬢を『俺の女』呼びって……。貴方、アルバの男全てを敵に回したいんですか?」


「い、いやっ!ちょっと待て!」


「やんちゃな脳筋とみせかけて、王族特権乱用とは……。先程までの貴方への尊敬、返してほしいですね」


「いや本当に、ちょっと待てって!!」


「ではお言葉に甘えて、我々の魔力の八割程を回復に回させて頂きます。ディラン殿下、『俺の女』とやらの為に頑張って下さいね」


「おいー!!人の話を聞け、コラ!!」


愛する女性エレノアであろう言葉が出た途端、瀕死状態にもかかわらず総口撃を食らわすヴァンドーム直系達に対し、ディランがブチ切れる。


「だーっ!!てめぇらふざけんなよ!!死にそうなツラしやがって、つっこむトコそこか!?それに王家特権乱用なんぞしてねーわ!!エルは正真正銘、俺の婚約者だっつーの!!」


「………やっぱり、そうだったのか……」


「リアム殿下といい、あの距離感……おかしいと思っていたんですよ」


「やっぱり、突くべきはディラン殿下でしたね。にしても、チョロ過ぎる」


「本当だよな。なんというか……王家直系にあるまじきその裏表のなさ。一周回って尊敬するぜ!」


ジト目になり、呆れたり感心したりしているヴァンドーム直系達の反応に、ディランが「あっ!やべっ!!」と顔を青褪めさせる。


一方、ちょっと煽られただけで、言ってはならない事実をズバッと口にしてしまったディランに対し、今度はクライヴ達が一斉にブチ切れた。


「ディラン殿下ー!!あんた、この状況下でなに余計な事を大暴露してやがるー!!」


「兄上ー!!秘匿情報って言葉の意味、分かってんですかー!!?」


「ディラン殿下ーッ!!この事知ったら、オリヴァー兄上だけでなく、アシュル殿下も激怒されますよー!!?というか、しっかり報告させて頂きますけどーっ!!」


「す、すまんっ!!なあ!?フィンがこっち来たら、こいつらの記憶弄れねぇか!?」


「「「んな事出来たら苦労しないっつーの!!」」」


「す、凄い……!このような凄まじい呪いに犯されながら、あのような……!」


「……ッ、ああ……!流石は三大公爵家の一柱たるヴァンドーム公爵家の直系!!……いや、殿下方や若様方も負けてはいないけど!!」


そんなカオスな現場を見ながら、ウィルとシャノンはゴクリ……と喉を鳴らした。……尤も彼らを見つめるその瞳には、「今、そんな事やってる場合か?」という呆れの色も混じってはいたが。


「……ねえ、緊急事態だから急いでこっち戻って来たんだけど、その必要なかった?なんか皆、物凄く元気そうなんだけど……」


ぎゃあぎゃあ喚き合っているその場に、抑揚のない声がかけられ、騒いでいた面々が一斉に振り返る。


するとそこには、呆れ顔のフィンレーと、頭痛を堪えるように眉間を指で押さえているアシュル。無表情なアルロとベネディクト、そして同じくジト目になっているオリヴァーと、オリヴァーに抱きあげられ、困惑顔をしているエレノアがいたのだった。


何故かアルロとベネディクトはマロウ同様、野花人形のように全身がタンポポとぺんぺん草まみれになっていたのだが、驚くべきことにそれを確認した途端、アーウィン達の身体からも、次々とタンポポとぺんぺん草が咲き始めた。


「うわっ!?」


「な、なん……っ!?」


「ち、ちょっ!?これって!?」


「おわっ!!」


しかも見れば、その場にいる者達の身体にも、自分達同様次々と花が咲いていく。しかも魔力の低い者や呪いに侵食された者程、花でモコモコ状態になっていく。


……当然というべきか、最も呪いの標的となってしまっていたアーウィン達も、もれなくモコモコの野花人形……というより、着ぐるみ状態となってしまっていた。おかげで今、この場は様々な野花人形の品評会場と化してしまっている。


「……す、すみません!えっと、アシュル様の浄化の力を割く事が出来ないので、私の花で応急処置させて頂きました!!」


オリヴァーに床に下されたエレノアが、赤くなりながら申し訳なさそうに頭を下げる。……確かに、先程の息苦しさや苦痛が嘘のように軽減されている。


だが身体は確かに楽になったのだけれども、花でモコモコ状態になった挙句、呪いの浄化で全身から湯気(?)が上がっているのがなんともシュール過ぎて、心がスース―するのだが……。


そんな事を考えながら、死んだ魚のような目になっていたアーウィンだったが、ハッとある事に気が付いた。


「ちょっと待て!というか、アシュル殿下とフィンレー殿下はともかく、なんで貴公には花が一つも咲いていないんだ!?」


アーウィンは、涼しい顔でその場に立っているオリヴァーに向かい、抗議の声を上げた。


そう。花は当然というか、その場の全員……つまり、クライヴやディラン達にも咲いているのである。


しかもベネディクトの時と同様、お花の冠みたいに頭に咲いていたり、あたかもクラバットや服の飾りのように咲いていたりしているのだ。着ぐるみ状態もどうかと思うが、ピンポイントで羞恥心をくすぐるようなファンシー仕様なこの咲きっぷり。もはや悪意すら疑うレベルである。


見ればクライヴ達のジト目を受け、ペコペコとエレノアが必死に頭を下げている。


「ああ、僕は直接・・エレノアから魔力を頂いたので、花を纏う必要がないんですよ」


「ち、ちょっ!オリヴァー兄様!?」


オリヴァーの言葉と、それに伴い真っ赤になったエレノアの態度に、アルロやアシュル達以外の全ての者達が目を剥いた。つまりはこの男、エレノアから口移しかなんかで魔力供給された……と言外に口にしやがったのだ。


この緊急事態になにをやってんだこの男!?いや、緊急事態だからそれでいいのか!?いや、良くない!!どさくさ紛れに、ちゃっかり美味しい思いしやがってこの野郎!いつかシメる!いや、ぶっ殺す!!


……等々、男達の黒い嫉妬と殺意が渦巻く中、アシュルがエレノアの傍に近寄る。


「じゃあエレノア。早速やるよ?」


「は、はいっ!あ、その前に、クライヴ兄様!この子をお願いします!!」


「は!?え!?こ、この子は!?」


突然エレノアから渡された赤子にクライヴが戸惑っていると、ディランが「エル!いつの間に産んだんだ!?」と口にし、間髪入れずアシュルにぶっ飛ばされる。


「この緊急時に冗談は要らん!!」


「いや、冗談言ったわけじゃねーし!!」


「なお悪いわ、この愚弟!!いーからお前は、このまま全力で結界維持してろ!!」


青筋を立てながらそう吐き捨てると、アシュルはエレノアを背後からフワリと抱きしめた。



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呪いに負けないアルバ男の愛する女性に向ける思い……。ある意味最強ですね!

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