第523話 夢の中での邂逅
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……あれ?ここは……どこなんだろう?
気が付くと、私は大草原の中で一人佇んでいた。
グルリと周囲を見回してみると、そこは青々とした草原が只広がっているだけの場所だった。
『おかしいな?確か海底神殿で帝国の第二皇子を撃退して、奥方様の攻撃魔法を防ごうとして、精霊島に戻ったんだよね?』
なのに、本来なら海が広がっている場所はだだっ広い草原。一体なにゆえ?
『そういえば私……。アシュル様の浄化を助ける為に、魔力譲渡をしていたんだった……』
で、段々フワフワしてきて、そんでもって徐々に意識が薄れていって……。
そこで私の脳裏に、『ある可能性』が浮かんだ。
『ひ、ひょっとして私、あのまま魔力切れを起こしちゃった……とか!?』
そんでもって、生死の境を彷徨っている……なんて言わないよね!?だとしたら私、ひょっとしてあの世とこの世の狭間にいるとか!?つ、つまりここは三途の川!?
い、いや待て落ち着け!!ここには河はおろか、賽の河原もないじゃないか!あるのは草原……。
――って、もしや天国の花畑!?狭間どころか一足飛びにあの世に行っちゃった!?
いやいやいや、本当に落ち着け!しっかりしろエレノア!!ここのどこが花畑だというのだ!?草しか生えていないじゃないか!つまりは天国ではない。当然、地獄でもない……筈!セーフだセーフ!
『……ん?』
怒涛の如くセルフツッコミをしていた私は、少しだけ離れた場所に佇む人影を発見した。……え?あれ?確かさっき見た時には誰もいなかったよね……?
私はちょっとビビりつつも、その人影の方へと歩いていく。
『……あれ?この人……女性……?』
それは、騎士服をまとった女の人……のように見えた。
地面に突き刺した剣の柄に両手を置き、背筋を伸ばし、彼方を見据えるその姿は凛としていて、威厳と生命力に満ち溢れている。
腰まである黄金の髪は風にたなびき、ちょうど顔を覆い隠している。だが辛うじて見える唇は紅を差したように赤く、少しだけ微笑んでいるようにも見えた。
『綺麗だなぁ……』
顔もよく見えない、本当に女の人なのかどうかも分からない人。それでもその存在そのものが美しいと……そう素直に思ってしまえるような人だった。
『……あ……っ!?』
思わず見とれていると、彼女の身体から光彩のような魔力が噴き上がり、彼女を中心にあらゆる花々が一斉に芽吹き始めていく。それはとても幻想的な光景だった。
殺風景だった草原を彩る美しい花々。それが私の足元へと及んだ時、初めてその女性は私に気が付いたように、ゆっくりとこちらを振り向いた。
『――ッ!!』
途端、グン!と身体に負荷がかかったと思うと同時に、水底から急激に海面に引っ張り上げられていくような浮遊感に襲われる。
『―――』
物凄い勢いで小さくなっていくその人が、なにかを口にしたような気がしたが、ぐんぐんと浮上していく意識に気を取られ、彼女がなにを言ったのかは分からない。
けれど、唯一目にしたその人の印象的な赤い唇は鮮やかに笑っていたような……そんな気がした。
◇◇◇◇
「……あ……」
「エレノア!!」
「良かった……!!目を覚ましたのか!!」
気が付けば、見知った顔が私を覗き込むようにしている。そしてどの顔も一様にホッとした表情を浮かべていた。
「エレノア、どこか身体に不調なところはない?」
「え……うひゃぁっ!!」
すぐ間近からかけられた言葉に気が付けば、私はアシュル様に『サン・ピエトロのピエタ』よろしく横抱きにされていたのだった。
慈悲深き聖女マリアの嘆き顔……ではなく、甘やかな絶世の美貌の心配顔が私の心拍数を否応なく上げる。罪だ……!この美貌はあまりに罪深すぎる!!
ピエタよろしく、聖母……いや、アルバの選ばれしDNAによって昇天しそうになった己を叱咤激励しながら、「大丈夫です!まったくもって元気です!!」と言い放ち、グッとサムズアップする。……あれ?なんか小さく「ぶはっ!」って聞こえたような?
「ああ、良かった……!」
ホッとしながら不意打ちよろしく、アシュル様に鮮やかに微笑まれ、「うぐっ!」と奇声を発しながら魂魄が口から抜けかけた私に二度目の
「エレノア!しっかりしろ!!」
「ふぐっ!!」
そこにすかさず、クライヴ兄様の手刀が脳天にスコンとキマり、魂魄は無事私の中へと引っ込んだ。有難うクライヴ兄様。でもちょっと痛かったです!!
「エレノア嬢、有難う!……リュエンヌの魔力は無事、君とアシュル殿下の力で浄化されたよ!……貴方がたに、最大の敬意と感謝を!!」
ヴァンドーム公爵様はそう言うと、私達に対して片膝を突いて胸元に手を当て、深々と首を垂れる。アーウィン様方も、次々と父親に倣い首を垂れた。
三大公爵家の直系全てに最大限の敬意を示され、アワアワしていた私だったが、ふと真っ先に私の許にいる筈の人物がいない事に気が付いた。
「……あの、クライヴ兄様?オリヴァー兄様は?」
「ああ、あいつな。今魔導通信で、アイザック様に説教されているぞ」
途端、スンとなった能面顔のクライヴ兄様と、苦笑しているセドリックやリアム達を見ながら、私は汗を流した。
そういえばクライヴ兄様、オリヴァー兄様に出し抜かれちゃったもんね。でもいつの間に父様に連絡取っていたんだろう?
「ああ、ちなみにだけど、ディランとフィンも叔父上方に説教されているよ」
アシュル様が、これまたアルカイックスマイルを浮かべながら説明してくれる。
え?フィン様はともかく、ディーさんはなにをやらかしちゃったんだろうか?……はい?ディーさんに関して言えば、その後でアイザック父様からも説教が待っている?下手すれば婚約解消?は!?ほ、本当になにをやらかしちゃったんですかディーさん!?
――……って、あれっ!?
「……あの……。私と殿下達の婚約って、確か内緒だったはずでは……?」
だってここには、ヴァンドーム公爵家の皆様方がいらっしゃいますよね?……え?もう皆知っているから今更?……ま、まさか……ディーさんのやらかしって……。
「ああ、そうだアシュル。バッシュ公爵家の方も一人、婚約者減るかもだぞ?」
「へぇ……それはいいねぇ!クライヴ、お互い愚弟には苦労させられていたからねぇ……」
「ははは!ああ、まったくだな!」
暗黒オーラを噴き上げながら、互いに据わった表情で笑い合っているクライヴ兄様とアシュル様。こ、これは……うん。完全にぶち切れていますね!?
セドリックとリアムが「ねえ、兄上達無事かな?」「今頃必死に土下座してんじゃないのか?」とヒソヒソしていたり、アーウィン様方が妙にワクテカ顔をしていたり、ウィルやシャノンがオロオロしていたり、いつの間にか姿を現していたティルが腹を抱え笑っているのを見ながら……。お説教真っただ中だろう兄様達には申し訳ないんだけど、見慣れたいつもの光景に、「ああ、やっと終わったんだ……」と、ホッとしてしまった。
『それにしても……』
鮮やかな花畑と女性騎士、そして彼女が口にした言葉は何だったのだろう……そう考えていたら、不意に私のお腹がクゥと鳴った。
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その頃、別室では。
アイ「……オリヴァー……。僕が何を言いたいのか……分かるよね?」
オ「……は、はい。公爵様……」
デー&フェ「貴様らそこになおれー!!」「私達の言いたいことは分かってるね!?」
デ「……すんません、分かってます」
フ「……分かりたくない」
フェ「フィンー!!おまえと言う子はっ!!」
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