第524話 栄養補給と驚愕
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あの後、空腹を自覚した途端、軽い低血糖状態となって目を回した私を見た周囲の皆様方が騒然としてしまう(淑女の風上にも置けぬと言うなかれ)。
そうしてクライヴ兄様が私を抱っこし、慌てて厨房へと乗り込むやいなや、「すまん!なんでもいいから食い物くれ!!」と、シェフ達にお願いしたのだ。……気分は飢えて保護された捨て犬である。
ぐったりとした私の姿を見て驚愕したシェフの皆さん、急いでその場にあったあり合わせの材料を使い、サンドイッチを作ってくれました。ありがたや。
でもあり合わせのものとは言っても、そこは三大公爵家の厨房。ぷりっぷりの大きなエビやらデカい貝やら極上の鮮魚やら……。目も眩まんばかりの豪華な食材が山のようにありました。
それら極上の海鮮と、新鮮な卵や野菜やらをたっぷりと使って作られたサンドイッチは、まるで三ツ星ホテルの贅を凝らして作られた高級サンドイッチ。道の駅で売られていたら、即完売間違いなしに違いない。
「ほれ!エレノア!!」
そんな事をぼんやりと考えていた私の口に、クライヴ兄様がバフッと卵サンドを突っ込んだ。
もぐ……もぐもぐ……もぐもぐもぐ……!!
私は飢えたハムスターよろしく、美味しいサンドイッチを一心不乱に食べ進める。そんな私を見ていたクライヴ兄様達は、ホッと表情を緩めた。
……にしても兄様。
私も淑女としては失格ですが、女の口にサンドイッチを戸惑いなく突っ込む兄様も大概だと思います。しかもわんこそばよろしく、次から次へと突っ込むの止めてください。いえ、食べますけどね。
そんな私の旺盛な食欲に触発されたのか、クライヴ兄様を筆頭に、アシュル様、セドリック、リアムにマテオ。そしてヴァンドーム公爵家の方々も、シェフ達によって作られていくサンドイッチを次々と手に取り食べだした。
考えてみれば皆、物凄く魔力を使っていたもんね。リアムやセドリックだけでなく、ベネディクト君も旺盛な食欲で、みるみるうちにサンドイッチを消費していく。
ついてきた護衛騎士達や侍従組も、公爵様が「お前達も食べてよい。今だけは無礼講だ」との言葉に、遠慮しつつもサンドイッチに手を伸ばしている。その中に「あざっす!」と言いながら全く遠慮せず、サンドイッチにガッツいているティルがいたのだが……。いいのかな?あれ。
ヴァンドーム公爵様やアーウィン様方は、流石に大人の余裕といった様子でサンドイッチを上品に頬張っていらっしゃる。……けど、やはりお腹が空いていたのか、食べるスピードが尋常ではなく早い。
考えてみれば、彼等は奥方様の呪いを向けられた張本人達なのだ。消耗してしまった魔力は私達の比ではないだろうから、そりゃあお腹も空きますよね。
――あれ?そういえば、さっきまで皆さんの身体にわさわさ咲いていた花が綺麗さっぱりなくなっているんですけど?まさかと思うけど、一瞬で
「ああ。奴らならお前が意識を失っている間に一斉に綿毛になって、どっかに飛んで行ったぞ」
「えっ!?そうだったんですか……って、クライヴ兄様!?なにサラッと私の心の中を読んでんですか!!」
「エレノアよ。何度も言っているがお前の場合、心の中を読むまでもないんだよ」
あっ!クライヴ兄様の言葉に、皆さん一斉に頷いている!……くっ……!己の表情筋が憎い!!
「にしても、
……ん?ちょっと待って。それって、魔力汚染の残滓を浄化する為に飛んで行った……とかではなくて、南の島のバカンスを満喫しようと、あちこちに根付く為なんじゃ……!?うわぁぁぁ!庭師の皆様、御免なさい!!
ちなみにペンペン草の方はと言うと、浄化と共に静かに消えていったそうです。
……前から思っていたんだけどペンペンって、タンポポに比べて自己主張しないし、素直に引っこ抜かれたり食べられたりしているよね。自己主張強くて、危険が迫るとすぐ綿毛になって飛んで逃げちゃうタンポポとは違って、大人だよなぁ……。
そんな中、ディーさんとフィン様付きの近衛騎士さん達が、慌てた様子で厨房に飛び込んでくるなり、サンドイッチの盛られた皿を持って走り去っていってしまった。
後で聞いた話によれば、ディーさんとフィン様、王弟殿下方からお説教されている最中、空腹と魔力切れで倒れてしまったのだそうだ。
え?オリヴァー兄様?幸か不幸か、私からの
そうして栄養補給をして復活しましたが、まだまだ食べられそうな私の様子を見たシェフの皆さんに「簡単なものでよろしければ、もっと何かお作りしますよ?」と言われ、丁度目についた乾麺で、パスタを作ってもらう事にしました。
「えぇっ!?そのような賄い料理で宜しいのですか!?」とシェフ達に驚かれちゃったんだけど……そうなんだよね。麺を使う料理は、主に平民や使用人が食べる料理に位置づけられているんです。当然のことながら、バッシュ公爵家の食卓にもパスタは出てきたことがありませんでした。
え?何故今までリクエストしなかったのかって?いや、パスタ好きだけど、ご飯やパンよりも愛がなかったので、食べられなくても不自由がなかったというか……。
「えーっと……」
私は更にキョロキョロと食材を物色すると、保存食のトマトソースやオイル漬けにされた魚介を発見した。
という訳でここは一発、新鮮なエビやイカ、貝などを加えたペスカトーレを作ってもらう事にしました。
「え!?具材に魚介を入れる!?」
「トマトソースを入れる……?ざ、斬新ですね」
どうやらこの世界におけるパスタって、具材を殆ど入れずに、ほんのり味を付け、絡まないようにオリーブオイルを混ぜて食べる主食代わりな立ち位置らしい。
なのでしっかり、作り方を教えてあげました(自分では作りません。不器用だから)。
「「「「おおおーっ!!」」」」
出来上がったペスカトーレの豪華で美味しそうな見た目に、私とシェフ達だけではなく、その場にいた全員の口から歓声が上がる。
そして一口食べるや、全員が無言でがっつき出した。それはサンドイッチの比ではなく、大盛に作られたパスタがみるみるうちに皿から消えていったのである。侍従組や騎士様方の方では奪い合いになっている。あ、ちなみに私の分は別皿に盛られていたので、一人で美味しく頂きました。うん、久し振りだったけど、やっぱりパスタ美味しい!
……え?「トマトソースのパスタなんて、真っ白いドレス着ているくせに正気か!?」ですと?
大丈夫!パスタソースに汚染されるまでもなく、今着ているドレス、埃や爆風に晒されてボロボロだからね!今更です。
「……エレノア。なんか君の従者が泣いているんだけど?」
ヤムヤムとパスタを食べている私に、アシュル様が遠慮がちに声をかけてくる。見れば、シャノンがアシュル様の言う通り、ジト目でこちらを見つめ、泣きながらパスタを食べていた。
……い、いいじゃないか!今は非常事態なんですよ!?服にソースが飛ぶぐらい……ち、ちょっ!なんですかアシュル様、その憐れみのこもった眼差し!クライヴ兄様も溜息をつきながら私の口元ナプキンで拭うの止めてください!!
でもなんでパスタが貴族の食卓に乗らないのか、その理由が分かった。
オイルが服やドレスに飛ぶ可能性があるし、フォークで巻くのもコツがいる。なによりどう頑張って食べても優雅じゃないもんね。こんな風にトマトソースで絡めると、口元も汚れちゃうし。
でも……。
「ショートパスタだったら、具材の大きさを工夫すればスプーンで食べられそうだけど……」
私が何気なく呟いた言葉に、キラリと
「エレノア嬢!そこのところをもっと詳しく!出来ればこのパスタの別の調理法共々、我がヴァンドーム公爵家と特許契約を結びましょう!!」
お、おおぅ、クリフォード様。ひょっとしなくてもパスタ、超お気に召しました?そしてちゃっかり、ヴァンドーム公爵領の新たな特産物として売り出す気満々ですね?
いいでしょう!是非ともここを足掛かりに、アルバ王国全土に広めちゃってください!
「……ん?」
ちょんちょんと、足の甲を叩かれるような感触を感じ、見下ろしてみる。……するとそこには……。
「……え?は!?お、奥方様ー!!?」
なんと私の足元には、真っ白い甲羅と頭にタンポポを咲かせたウミガメが、つぶらなサファイアブルーの瞳で私を見上げ、手を上げていたのだった。
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その頃。精霊島のあちらこちらでは。
「ふぅ……。青い空。青い海。爽やかな潮風……最高だな!」「なー!」
……などと言って咲いている黄色い花があったとかないとか……。
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