第437話 守るべきものの為に…!?

「セドリック!八番が盗まれたんだって!?」


「リアム!ああ、そうなんだ!だが犯人は分かっている!」


「そうか!殴り込みなら俺も一緒に行くぞ!!」


「おい、クライヴ!二番は!?エレノア二番は無事か!?」


「落ち着いてくださいディラン殿下!二番は無事です!」


「……」


シークレットな私の八番が誘拐(?)され、ひと悶着があったその日の夜。フィン様の転移門で、アシュル様達四人とアイザック父様がバッシュ公爵家にやって来た。

……のはいいんだけど、リアムとディーさん、私への挨拶(ハグとキス)はしっかりやってから、八番と二番について物凄い剣幕で聞いてきた。


……そうだよね、うん。八番があるんだから、二番も当然あるよね。というか貴方がた、なんで私よりもうちの庭のものにそんな詳しいんですか!?

え?遊びに来るたび、裏庭でシークレットエレノア探して遊んでいた?い、いつの間に!?


「だったら何で、私だけ立ち入り禁止なのー!?」と思わず叫んだら、当事者だからなのか、何故かベンさんを筆頭に、その場に控えていた庭師達がずずいっと前に出て来た。


「オリヴァー様方や殿下方には、監修及び意見を伺う為に披露しております!」


「お嬢様には、完璧になったお庭をご覧になって頂きたいのです!!」


……そう熱く語られてしまいました。


あの曇りなきまなこを前に、「そ、そうなんだ……」以外、何が言えよう。


うう……。何気にうちの裏庭、『エレノアの為のテーマパーク』ではなく、『エレノアテーマパーク』になっちゃってない!?そして、ここ凄く気になるんだけど、私の分身、一体何番までいるんですか!?


ちなみに二番だけど、『ウサギとリスの間で、小首を傾げている』私のミニチュアトピアリーだそうで、木の枝にちょこんと腰かけているんだそうだ。なにそれファンシー!


「いや~、見つけた時、あまりの可愛らしさに、つい持って帰っちまったんだが、その後師匠にマジでボコられてよ!え?その二番はどうなったかって?しっかり師匠に持ち帰られちまった!」


ディーさん、貴方も誘拐もどきしてたんですか。……って、あれ?ひょっとしてグラント父様も、私探して遊んでいたのかな?


「リアム、ディラン落ち着け!今話し合うのはそこじゃないだろう!?」


アシュル様が頭痛を抑えるように、指を額に当てながら、リアムとディーさんに声をかける。ええ、まったくもってその通りだと思います。


「そしてそこ!フィンもオリヴァーも早速、いがみ合うのはやめるように!」


……そう。今の私はフィン様に抱きしめられ、それを引き剥がそうとしているオリヴァー兄様といったカオスに巻き込まれているのです。


「ちょっと。婚約者同士の挨拶を邪魔するなんて、相変わらず筆頭婚約者の風上にもおけない男だね!」


「筆頭婚約者だからこそ、マナー知らずの新参者に教育的指導をしているのです!だいたい貴方は無駄なスキンシップが多すぎなんですよ!」


「あの……。フィン様?オリヴァー兄様?」


「それ君が言う!?……というかひょっとして自己紹介?客観的に自分の事が見えるって所は素晴らしいけど、分かっているんなら節度を持った方がいいと思うよ?」


「ふざけんなよ病み王子がー!!」


「黒い悪魔に言われたくないね!!この万年番狂い!!」


「お前らー!!いい加減怒るぞ!!」


あああっ!アシュル様がブチ切れ寸前!カオス……カオスだ!!


「はいはいはーい!みんな、黙って大人しくこっちにちゅうもーく!!……しなかったら、父親権限で全員婚約破棄して頂きます」


「あ!アイザック父様!」


見ればにこやかな笑顔に、でっかい青筋を立てたアイザック父様が仁王立ちになっていた。


途端、その場の喧騒が嘘のようにピタリと静まり、皆が無言でソファーに腰かけた。

凄い!久々に見る、有無を言わさぬ次期宰相モードだ。父様、かっこいい!!


という訳で、フィン様の腕から抜け出した私は、ちゃっかりアイザック父様の横に座りました。……うん。オリヴァー兄様の視線が痛いけど、ここは敢えて無視させて頂く。ごめん、兄様。


「オリヴァー、話は聞いたよ。遅くなって申し訳なかったね。陛下方との話し合いがあったものだから」


「いえ、公爵様。殿下方も、わざわざのご足労、いたみいります」


父様のお言葉に、オリヴァー兄様もいつもの調子を取り戻す。うん、落ち着いたようで何よりです。


「気にしなくてもいいよオリヴァー。僕らの命よりも大切な婚約者の一大事なのだから。何を置いても駆けつけるさ」


そう言って、蕩けそうな甘い笑顔を私に向けるアシュル様に、ボンッと顔から火が噴く。


「そうそう!エル以上に大切なもんは俺らにはねぇからな!」


「うん。僕もエレノアの為ならなんだってするよ」


「俺もだ!エレノア、何があっても俺がお前を守るから安心しろ!そして八番も必ず無傷で取り返してやる!」


ディーさん、フィン様、リアム……。アシュル様はともかく、貴方たち最初がアレだったから、今更まともに会話してても残念感が半端ありませんよ。そしてリアム、あくまで八番に拘るんだね。そんなに気に入ってたのか。


……あれ?というか……。


「ひょっとしてリアムも、私達と一緒に来るの?」


「ああ!婚約者として行けなくても、俺だったらお前やセドリックの友人枠でごり押し出来るからな!それに王族が行くんなら、堂々と『影』も連れていける!」


「そっか。リアム……有難う!」


連れて行く『影』って、直属のマテオだよね?あとは誰なんだろう。ヒューさんかな?


「……ただ」


「ただ?」


「今回連れて行く『影』なんだけどさ、マテオは俺の護衛兼側近として付いて来る事になっているんだ。だから『影』はヒューバードを連れて行こうと思っていたんだけど……。副総裁がごり押し……いや、どうしてもと言って付いて来る事に……」


え?副総裁?あ、兄様方やセドリックが「げっ!!」って物凄く嫌そうな顔している。

ひ、ひょっとして副総裁さんって、問題ありありな方……?


「……大丈夫だエレノア。彼はちょっと変た……いや、変わっているだけで、実力の程は確かだから。それに彼だったら、君の事を命に代えても、たとえどんな手段を使ってでも守り抜いてくれる筈だ。それに、いっそのこと今回殉職してくれた方が……いや、こちらの話だよ」


ア、アシュル様!殉職希望なんですか!?一体どんな変態さんなんですか!?というか、そんな人を副総裁にしてていいんですか!?


「公爵様。では、公爵様も国王陛下方も、エレノアを連れていく事を了承されたのですね」


「ああ。オリヴァー、君の決定を僕も王家も支持する。ヴァンドーム公爵家は、王家と不可侵条約を結んでいる『裏王家』だ。その相手が手の内を互いに曝け出す機会を提示してきたのなら、乗るしかない」


「……有難う御座います」


「いや、僕の方こそお礼を言うよ。……辛かっただろうに、よく決断してくれた」


「公爵様のお気持ちに比べれば、僕なんて……」


「全くだ。……バッシュ公爵。いつも本当に済まない」


そう言って、オリヴァー兄様とアシュル様に頭を下げられた父様は、微苦笑を浮かべる。そして私の視線に気が付くと、優しく微笑みながら頭を撫でてくれた。父様、いつも沢山心配かけてしまって、本当にごめんね。


「僕とフィンは、何かあった時の為に王城で待機する。フィンはヴァンドーム公爵領にも行った事があるし、ディランも待機するから、すぐに駆け付けられる」


聞けばフィン様、着々と全国行脚を慣行しているらしく、そろそろアルバ王国を一周するらしい。「次は帝国行く予定」って言っていたけど、それだけは真面目に止めて下さい。


「そうそう!俺は、最後まで一緒には行けねぇが、ヴァンドームの領内に滞在するからよ!」


ディーさんは、お忍び観光という体を取って、王族の保養施設に待機するらしい。でも私たちが帰る時にはしっかり、「リアムの迎えに来た」って乗り込む気満々なんだそうだ。

「一日ぐらいは、エルと観光したいしな!」と最後に言い放ったディーさんは、「殿下!物見遊山ではないのですよ!?」って、クライヴ兄様に怒られていた。本当にディーさんってぶれないな。


「オリヴァー、クライヴ、セドリック、そして殿下方。僕の大切な宝を、どうかよろしくお願いします。そして、エレノア八番も……!」


そう言って頭を下げる父様に対し、兄様達や殿下方が、力強く頷いた。


「お任せください、公爵様!」「エレノアと八番は、我々が必ず守ります!」「八番、苔で出来ているから、ヴァンドーム公爵領とは相性最悪だし!」「そうと決れば、明日出発だ!」と、皆口々に……って、結局八番の事に戻るんかい!八番、どんだけ愛されてるんだ!?


盛り上がっている兄様達やディーさん達をジト目で見ていると、アシュル様が声をかけてきた。


「……ねえ、エレノア。さっきから気になっていたんだけど、二番とか八番とかって、何?」


「あれ?アシュル様はシークレットシリーズ知らないんですか?」


「僕は弟達と違って、あんまりこちらに遊びに来られないからね」


ああ、成程。


「そういえばアシュル様って、立ち入り禁止になる前に、トピアリー初めて見たんでしたっけね」


そんでもってあの時は、花エレノアや大きなトピアリーだけ見ていたんだっけ。


私が説明しようとすると、「説明するより見た方が早い」と、アシュル様はオリヴァー兄様らに連れられ、裏庭に行ってしまった。


でもなぜか私はまだ立ち入り禁止。なんでじゃ!?



――……一時間後。


「なんという事だ!アレらの仲間を連れ去るなどと、まさに世界の損失……!アルロ・ヴァンドーム……万死に値する!!」


「…………」


裏庭から戻って来たアシュル様は、すっかりシークレットシリーズに嵌ってしまっていた。

髪にも服にも葉っぱが付いているし、白いズボンの膝が真っ黒!?どんだけ探しまくったんですか!?


「リアム、手段は問わない!王家直系の誇りにかけて、なんとしても連れ去られたエレノアを奪取するんだ!」


「はい!兄上!!」


……あの……。連れ去られたエレノアって……。私、ここにいるんですけど?



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遂にアシュル様もシークレットシリーズに陥落です(*´艸`)

そしてマロウ先生が、どんなゴリ押しをしたのか気になる所です。

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