第330話 過去の思い出
『
――お母さんの頭にも、角が生えている……。
あっ!痛っ!……うう~……今日のげんこつはいつもより強力……って!お母さん!自分の手が痛まないように、鍋掴み付けてるよ、卑怯なり!!……でもなんだかんだ言って、最終的には私のしたい事をさせてくれるんだよね。
『おおっ!里奈はかけっこ一位になったのかー!凄いなぁ!俺は運動音痴だったし、母さんも足が遅くて小さかったから。万年最下位だったんだよなー。ははは!まさにトンビが鷹を産んだな!』
お父さん、ヒョロッとしていていかにも文系って感じだもんね。あ、お母さんに「余計な事言うな!」ってどつかれた。
でもお父さん、一見インテリ風のイケメンだから、昔も今も凄くモテてたんだよね。そんでもって、昔からお母さん一筋だったんだって。……いいよなぁ、そういうの。私も将来、素敵な旦那さんが見つかるかなぁ?
『里奈。じいちゃんとばあちゃんの畑の手伝いをしてくれるのは有難いけんどねぇ……。収穫したそばから食べるの止めなさいよ。しかもなに?その水を張ったタライ。え?いちいち井戸に行って洗わなくて済むように?……はぁ~……。こういう所だけ知恵が回るんだからねぇ、あんたは。その食い意地はったの、誰に似たんだか!』
――だって、取れたてが一番美味しいんだもん!特にもぎたてのキュウリは最高!……そうだ!今度はタライに塩水入れておこうかな?そしたら一味ついてなお美味い筈……いたっ!もう、おばあちゃん、頭叩かないでよ!
『お?なんだ里奈?……うん?今度は居合を習いたい?お前、これで幾つめの道場通いよ?……う~ん……そんじゃあ、じいちゃんの知り合いに居合の達人がいるから口きいてやるか。ただし、弟子になれるかどうかはお前の努力次第……って、はぁ!?も、もう弟子入りさせてもらっただと!?お、お前、いつの間にー!?』
へへっ。この間、おじいちゃんと師匠がうちで飲んだくれた時、作成しといた『弟子認定書』に、へべれけになった師匠にサインさせといたんだもんね。しかも指紋捺印付きで!それ見せた時、師匠目を丸くした後爆笑していたっけ。
『里奈、東京行っても頑張るんだよ?お腹出して寝ないようにね?あと、変なもの食べてお腹壊さないようにね?カッコイイ人がいてもフラフラついて行かないでよ!?……って、そっちは平気か。あんた、悲しいくらい男の子に免疫ないもんね。あはは!』
――……お母さん、一言余計です!私だって、男の子との思い出の一つや二つや三つ……って、全員ぶちのめして床に転がしている記憶しかない。
『里奈、お前は本当に真っすぐで頑張り屋の良い子だ。……たとえ動機が不純だったとしても、あの難攻不落な大学に入れたんだから大したもんだ!これからもその真っすぐさを忘れず、楽しくお前らしく頑張りなさい』
――うん、お父さん。私、これからも頑張るよ!確かに動機が不純だったけど、終わりよければ全て良しだよね!……って、あれ?お父さんの笑顔が生温かくなった。何故に?
『里奈、これ、ばあちゃんが作った干し柿と干し芋だ。ひもじくなったら齧りなさい。くれぐれも、大根や人参をそのまま齧らんようにな。特にジャガイモは、どんだけ飢えても生で齧っちゃだめだ!腹壊すでなぁ』
――……おばあちゃん。私、今はもう畑で野菜盗み食いしていた頃の私じゃないんだよ!?野菜をそのまま齧る訳無いでしょう。ちゃんと洗って切ってスティックにして食べるよ!え?調理しろ?……うん。それじゃあちゃんと茹でて食べるね!
『里奈は可愛いからなぁ。あっちじゃ『モテモテ』ってやつになるじゃろうなぁ……。里奈、不埒な輩にはぐーぱんじゃぞ!?え?そんな事したら先生たちに破門される?大丈夫じゃ!むしろあいつらの方が闇討ちしに乗り込んでくるじゃろ!……ほんに、気を付けてなぁ……』
――う~ん……。おじいちゃん、孫馬鹿が炸裂しているよ。都会に行ったからって、モテモテになる訳ないでしょうが!……まあ、そうなるように努力はしようと思ってます。それと、師匠達にはくれぐれも闇討ちしないように言っておいてね!
そういえば自宅で行われた壮行会で、「この裏切り者!」「そんなに都会がいいのか?!」「お前なんて弟子失格だ!」……なんて、へべれけに酔っ払った師匠達に大泣きしながら絡まれたっけ。最終的には、兄弟子たちに回収されていったけどね。
大丈夫だよ師匠達!休みにはちょくちょく帰って来るからね!でも交通費高いから、長期連休くらいになっちゃうかなぁ……。って言ってたら、「餞別」と書かれた万札の入った分厚い封筒を渡されそうになった。これで毎週末帰って来いってことですか?無理です師匠!!
――お母さん……お父さん……おばあちゃん……おじいちゃん……。
『里奈―!部活帰りにアイス食べてこー!』
『ねぇねぇ、そういえばさぁ、文化祭に来ていた隣町の高校の男子と、佳代が付き合ってるんだって!』
『あ、そうだ!その文化祭の時にさぁ、再会した幼馴染に里奈の事聞かれたよ。……違う違う。果し合いの申し込みじゃないから!はぁ~……あんたって子は、もう!』
『里奈、難攻不落の名門大学入学おめでとう!!私も東京の大学だから、入学祝に執事喫茶一緒に行こうね!』
『私はこっちの大学だからなぁ……。でも私も執事喫茶は参戦するから!』
『私達、ずーっと友達だからね!』
――みんな……。うん、私もみんなとずーっと友達だよ。大学行っても、社会人になっても、結婚しても……ずっとずっと、仲良くしたいよ。
『里奈』
『り……な……』
「……ノア……ちゃ……」
――あれ?なんか聞き慣れない声が……。……ううん、この声を……私は知っている……?
「エレ……ア……ちゃん」
――暖かくて……優しい声……。
「エレノア……ちゃん……」
――エレノア?誰の事?私の名前は……。
「エレノアちゃん!」
――ッ!……そうだ……私の……私の、今の名前は……。
温かい声と柔らかい光が私を包み込んでくれる。
その心地よさに、まどろんでいた思考が徐々にクリアになっていって……私は瞼を開けた。
「エレノアちゃん、気が付いたのね!?」
「……アリア……さん……」
目の前にはいたのはアリアさんだった。
黒曜石のような光を含んだ優しい眼差しで私をみつめるその姿は、まさに聖母そのもの。私はアリアさんに優しく髪を撫でられながら、ぼんやりと、今迄見ていた『夢』を思い返した。
……ううん、『夢』なんかじゃない。あれは……私の前世の……真山里奈として生きていた時の記憶だ。
『――……ッ!』
それと同時に、帝国の話も同時に思い出してしまって身体が強張る。
真山里奈としての懐かしい記憶。
あんなに心を温かくしてくれたそれが、赤の他人によって永遠に奪われたのかもしれないという事実と相まって、今はこんなにも切なく、胸をかきむしってくる。
「エレノアちゃん?」
優しく、労わる様な声。
それが記憶の中の母の声と重なり、無意識に涙が溢れてきてしまう。そんな情けない姿を見せたくなくて、私は咄嗟に掛布を頭からかぶって丸まった。
白い饅頭みたいになった私の背中を、アリアさんの手が優しく撫でる。……小さい頃、悲しい事や悔しい事があった時、よくお母さんに抱き着いて、こうして背中を撫でてもらったっけ。
『お母さん……』
布団の中で丸まったまま、ポロポロと涙を零す私に、柔らかくて静かな声がかかった。
「エレノアちゃん。このままでいいから、少し、私の昔話に付き合ってくれる?」
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エレノアが里奈だった頃の記憶です。
こうして見てみると、前世も今世もほぼそのまんまな子でした(^^)
ちなみに前世におけるエレノアの男性免疫力の無さですが……。
エレノア(里奈)に近寄ろうとする一般の男達を兄弟子達が蹴散らす
↓
エレノア(里奈)に近付こうとする兄弟子達を師匠達が蹴散らす
↓
そして誰も居なくなった
ってオチです( ;∀;)
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