第18話 人助けをしました

走り去っていくエレノアの姿を見ながら、オリヴァーはもう一回、溜息をついた。


「さて、アシュル殿下。貴方、わざとエレノアに意地悪をしましたね?」


「おや?僕、何か意地悪したかな?」


「とぼけないで下さい。エレノアにお菓子を選ばせて、いかにも食べさせてあげるフリをされたでしょう?」


「心外だな。何が美味しいか聞いただけじゃないか。でもそれを勝手に誤解されてしまえば、そういう事になるかな?」


「殿下。貴方方がどう思おうとも、エレノアは僕のたった一人の妹であり、大切な婚約者です。今後、このような行動を取らないとお約束して頂きたい」


喰えない笑みを浮かべるアシュルに対し、オリヴァーはいつもの物静かな笑みを浮かべる事無く、厳しい表情で、そう言い切った。


『ふ~ん…?』


オリヴァーとはクライヴ絡みで親しくなってから、既に4年にもなるが、温厚な彼が声を荒げる姿など、一度も見た覚えが無かった。それは自分に対して強硬手段を取るようなご令嬢方に対してでも同じで、まさかこんなささやかなイタズラ一つで、ここまで自分に対して怒るとは思ってもいなかった。


さっき、エレノアが好きだと言った苺のケーキを手にした時、一瞬殺気にも似た視線を向けてきたのにも驚いた。その時、「ああ。この男は本気でエレノアを愛しているのだ」と確信したものだ。…うん、人の好みは色々だからな。でもまさか、『貴族の中の貴族』と評されているオリヴァーの趣味がアレだとは…。ちょっと…いや、かなり意外だった。


アシュルはチラリとクライヴの様子を伺ってみると、妹の走り去って行った方向を見つめている。表情や態度こそ冷たい風を装っているが、情の深い男だ。やはりオリヴァー同様、妹の事を心配しているのかもしれない。


「クライヴ。君も僕に何か言いたい事ある?」


「…私は…」


「いいよ、ここではいつもの通りに話してくれても。僕が許可しよう」


アシュルの言葉に、クライヴがフッ…と詰めた息を吐いた。


「アシュル。確かにうちの馬鹿妹がウザかったのは分かるがな、お前があんな態度取ったりすれば、あいつが周りからいい笑いモンになっちまうってのは分かっていただろう?まあ、あいつにはいい薬になっただろうが、オリヴァーの言う通り、二度とああいうことをしようとするなよ?」


エレノアに伝え忘れていた事だが、身内以外の男がお茶会で女性にお菓子の好みを聞く時。それは「君に私の手でお菓子を食べさせて下さい」という意味で、つまりは気になっている女性へのアプローチの一種なのだ。


それに対し、女性は相手が好みであれば、自分が食べさせて欲しいお菓子を教え、興味がない相手には「この中に、私の好きなものはありません」と言って断わるのだが、まさかアシュルがそれをエレノアにするとは思ってもいなかった。


もしかしたら、この男がエレノアに興味を持ったのか…と、一瞬焦ったが、どうやら自分達…というか、主に自分に対して、見下したり我儘ばかり言っているエレノアに、ちょっとした意地悪をしたかっただけのようだ。


ひとまず、エレノアの事がバレていない事には安堵したものの、可愛い妹が苛められたと思えば気分は良くない。(エレノア自身は分かっていない上に、知ったとしても気にもしないと思うが)


しかし、これでもう王族との接点も無くなる上、他のお茶会の誘いも激減するだろう事を考えれば、不快ではあるが、これ以上ない程の成果とも言えるだろう。


「安心するといいよ、クライヴ・オルセン。それとオリヴァー・クロス。僕達が彼女とこうして会う機会は、もう無いと思うからね」


「…ええ、フィンレー殿下。そうである事を心から願っております」


そう言うと、オリヴァーはアシュルに負けず劣らずな喰えない笑顔を浮かべた。





◇◇◇◇





――…ヤバイ。迷った…。


私はだだっ広い王宮の回廊を、行く当てもなくウロウロとさ迷っていた。


やはり、土地勘の無い場所を猛ダッシュするものではない。しかも人のいない場所に向かって爆走していたので、道を聞こうにも歩いている人すらいないのだ。でもこれ、不用心すぎないか?仮にもロイヤルファミリーのお住まいだよ?


「…仕方がない。最終的には兄様達に探し出してもらうしか…」


その時だった。


なんか、複数の子供達の声が聞こえてくる。…というか、女の子の金切り声も混じっているよ。え?なんでこんな人気の無い場所で?


まあ、でも人がいてくれて助かった。取り敢えず、中庭に出る通路を教えてもらおう。


そう思い、声のする方向へと歩いて行くと、そこには三人の女の子達とその取り巻き達であろう複数の少年達がいた。


「あのー…申し訳ありま…」


声をかけようとして、私はそこに彼女達以外にもう一人いる事に気が付いた。なんと、給仕服を着た少年だ。しかも何故か彼は床に尻餅をついており、周囲には割れた陶器やお茶などが散乱していた。


「何よ!折角あんたみたいな使用人ふぜいに声をかけてあげたっていうのに、それを断るなんて信じられないわ!」


彼を取り巻くように立っていた少女の内の一人が、不機嫌そうな金切り声を張り上げる。すると、他の少女達も次々と声を上げ始めた。


「そうよそうよ!しかも貴方、私のテーブルの専属にしてあげるって言ったのに、それも断ったわよね!」


「貴族の子女である私達のお願いを、男の…しかも、お前のような下賤な者が聞かないなんて、どういう教育をされているの?!さあ、私達に丁寧に詫びて許しを請いなさい。さもないと、もっと嫌な目に遭う事になるわよ?」


…ジーザス…。


おいおい。これってつまり、目を付けた可愛い給仕係が自分達に靡かなかった…って理由で、あの少年を苛めているって事だよね?

そりゃあ、小さくても女の子だから、男の子に振られてプライドが傷付いたのは分かるけど、だからって取り巻き引き連れて「放課後、校舎の裏に来な!」的な仕返しするなよ…。


しかし、このお茶会に参加しているって事は、あのご令嬢達って私と同い年なんだよね。なのにもう、男漁り全開かよ。流石は肉食女子。十歳児でも侮れん。


見れば因縁をつけられている少年は、ギャアギャアと喚くご令嬢方に対し、無言を貫いている。以前、王宮に仕える者達は、例え使用人でも腕に覚えのある者が多いって、父様に聞いた事があったから、この少年もひょっとしたら、それなりに強いのかもしれない。現に特に怯えている様子もないしね。


でも相手は複数。しかも全員お貴族様だ。いくら腕に覚えがあっても、不味い状況には変わりないだろう。


私は覚悟を決めると、その集団に近付いて行った。


「あら、ごきげんよう。そこの方々」


声をかけると、その場の全員がビクリとする。そして私の方を振り向くや、ギョッとした顔になった。…うん、まあ、気持ちは分かる。


「何を五月蠅くさえずっていらっしゃるのかしら?しかもこんな使用人に絡んでいらっしゃるなんて…。品性を疑いますわね」


そう言いながら、さり気なく尻餅をついたままの給仕の少年の前に行き、彼女達からガードするように立ちはだかった。


ご令嬢達は、超奇抜ファッションに身を包んだ私の登場に一瞬言葉を失った様だけど、すぐに復活して、憤慨したように顔を赤くしたり、意地悪い笑いを浮かべたりしている。


「ああら?そんな恰好をなさっている方に、品性うんぬんを言われたくありませんわ。ねぇ?バッシュ侯爵令嬢様。貴方の方こそ殿方の関心を引きたくて、そのような格好をされているのでしょう?元々のご容姿が残念ですと、苦労されますわね?」


途端、他のご令嬢達も、「そーよ!そーよ!」と喚き出す。…うん、多分この子がこの連中の中ではボスなのだな。


「あら。これは私の趣味で着ているものですから、苦労でもなんでもありませんわ。…ところで、貴女ってどなた?」


わざと口角を上げながら、馬鹿にした口調で煽ってみると、したたかな様でいて、そこはまだまだ十歳児。すぐ挑発に喰い付いてきた。


「なっ!わ、私はベレス伯爵の一人娘であるイライアよ!宰相様のお家に連なる由緒正しき血筋なんですからね!よく覚えておきなさい!」


「ええ。よく覚えましたわ。たかが伯爵家の者が、侯爵家の娘である私に対し、失礼な物言いをなさった事も…ね。屋敷に戻りましたら早速、父や私の兄達にも、この事をご報告させて頂きますわ」


その瞬間、周囲の…特に取り巻きの少年達の顔がザっと青くなった。


そう、貴族の階級制度は絶対だ。しかも私の父であるアイザックは、あんなに温厚で穏やかそうな人物に見えて、実は滅茶苦茶切れ者らしく、今現在の宰相様から直々に宰相職を譲りたいと打診されているお方なのだ。


でも本人は「娘との時間をこれ以上減らしたくない!」という理由で断り続けているみたいなんだよね。…それでいいのか?父よ。


しかも、オリヴァー兄様のお父様であるメルヴィル父様って、爵位は子爵だけど、宮廷魔導士団の団長だ。そしてクライヴ兄様のお父様のグラント父様は、騎士の頂点である将軍の位を拝命している。しかもいずれ、その地位に見合った爵位をと、子爵位を授かる事が正式に決定したらしい。


いくら血筋が良くても、それだけの勢力を敵に回したら、ベレス伯爵家もただでは済まないだろう。ましてや、このペレス伯爵令嬢の取り巻き達の家は、絶対に伯爵家よりも格下である筈だし猶更だ。下手すると家ごと潰されてしまう可能性がある。


…いや、別にチクるつもりは毛頭ないけどね。だって言ったら最後、本当に報復しそうで怖いんだもん。特にオリヴァー兄様が。


「さあ!分かったなら、さっさとここから立ち去りなさい!」


最後に威嚇するようなキツイ口調で言い放つと、少年少女は怯えた様子でバタバタとその場から走り去って行ってしまった。


ふぅ…やれやれ。何とかなった。これも日頃の我儘令嬢教育の賜物だな!それにしても、ボス格が私の家より身分低くて良かった~!


「さて…と」


私はクルリと後ろを振り向くと、件の少年は、未だ床に尻餅をついたままこちらを見ていた。


『あれ?』


顏がめっちゃぼやけている…って事は、この少年、凄い美少年って事だな。そりゃそうか、だからああしてご令嬢達に絡まれていたんだもんね。あ、警戒した様子。ああ、次は私に何をされるのかと不安なのかな?大丈夫、安心して。私、ショタコンの気はないから。


「貴方、大丈夫?」


「………」


少年は答えなかったが、よく見ると手の甲から血が滲んでいた。多分、持っていたティーカップとかを落とした拍子に、その破片で切ってしまったのだろう。


『え~っと、ハンカチかなんか…は、持って無いな。…あ!そうだ!』


私は自分のドレスに目を落とすと、スカート部分に幾つもくっついているリボンの中から、真っ白い色を選んで引き千切った。


「――ッ!?」


そうして、ギョッとした様子の少年の傍にしゃがみ込むと、怪我をした箇所を包帯の要領でクルクルと巻き付けていった。


「はい、応急処置としてはこれでいい筈よ。後はすぐにお医者さんに診せる事ね。怪我の痕が残ったりしたら大変だから。…あ、そうそう!お聞きしたいんだけど、中庭にはどうやって行けばいいのかしら?」


「…中庭なら…この先を真っすぐ行けば着きます。…あの…大丈夫なのですか?」


「え?何が?」


「その…ドレスの飾りを…」


言い辛そうにそう言うと、少年は自分の手に巻かれたリボンを見る。


「ああ、気にしないで。こんなに沢山くっついてるんだもん。一つや二つ無くなった所で、誰も気が付かないわよ」


「はあ…」


少年はなおも戸惑っているようだが、私下げの為に作られた、こんなアホなドレスに愛着など無い。むしろこの悪趣味なリボンの山が、こんな風に他人様の役に立つなんて、とても喜ばしい事だ。


私は少年をマジマジと見つめてみる。


見ただけで分かる、サラサラした綺麗なダークグレイの髪。瞳は…顏がぼやけていて分からないが、ぼやけているって事は、相当な美形という事だ。う~ん、美少年の素顔が見れなくて、残念なのか助かったのか…。

それと、まだ小柄ながら、スラリと均整の取れた肢体をしている。うん、これはまさに将来の有望株。きっとこれから増々、ああいった風に女の子達から絡まれるんだろうな。超絶美形な兄を二人も持つ私には、その苦労が痛いほどよく分かる。


「顔が良いと、苦労するわね」


「――!」


「それじゃあね。傷、お大事に!」


私は同情を込めてそう言うと、教えてもらった道を小走りしながら中庭へと向かった。






「エレノア、今日は本当にお疲れ様」


「…はい…。疲れました~…」


あの後、中庭が見えて来たと同時に、私はクライヴ兄様に確保された。


「お前は一体、どこまで走って行ったんだ!」と怒られつつ、合流したオリヴァー兄様と共に急いでお茶会を退席し、今現在はこうして馬車の中だ。


「あの…オリヴァー兄様にクライヴ兄様。あの後、殿下方にお叱りを受けましたか?」


なんせ私、謝罪もしないで走って行ってしまったからなぁ。


「いや?別にお叱りは受けていないよ。ねぇ、クライヴ」


「ああ。ちょっと世間話をしただけだから、お前は何も心配しなくていい」


兄様達のお言葉にホッとする。良かった。たぶん、兄様達とお友達なアシュル殿下が許して下さったのだろう。優しそうな方だったしな。


「それにしても、まさか殿下方に絡まれてしまうとはね。やはりその恰好、注目を集めすぎたかな?何事も程々が一番って事だね」


オリヴァー兄様…。それ、お茶会の前に気付いて欲しかったです。


「でもこれで、もう私は王家と関わらなくても済むのですよね?」


「ああ。多分ね」


良かった良かった。これで万が一の拉致監禁コースは潰えたって訳だ。…あ、なんか安心したら眠くなってきた。


「エレノア、ほら、おいで」


私の眠気を察したオリヴァー兄様が両腕を広げる。私は大人しく、ポフンとその胸に抱き着き、目を閉じた。


――あ、そうだ…。あの絡まれていた少年を助けた事、兄様達に言ってなかった…。まあ、いっか。帰ったら、それとなく話そう…。


そんな事をつらつらと考えつつ、私はオリヴァー兄様の優しい体温を感じながら、睡魔に身を委ねたのだった。





◇◇◇◇





「やあ、お疲れ様」


王宮内にあるサロンで、他の兄弟達とお茶をしていたアシュルが、入って来たダークグレイの髪の美少年に向かって優しく微笑む。


「今日は疲れただろう?さ、お前もこっちに来てお茶をするといい。リアム」


『リアム』と呼ばれた少年が髪をかき上げると、ダークグレイの髪が瞬時に鮮やかな青色へと変わる。そして、その瞳は鮮やかに煌めくサファイアのような蒼。


そう、彼こそこの国の第四王子、リアムであった。


「…洋ナシのフルーツティー、ある?」


「ああ、ちゃんと用意してあるよ。お前の好物の栗を使ったパウンドケーキもね」


そう言うと、心なし嬉しそうな顔をする弟に、アシュルは目を細めた。


「兄上。なんで王家って、お茶会デビューで働かされる訳?」


「そりゃあね。普通にお茶していたら、バカが釣れないだろう?…で?どうだった?」


「…結構絡まれたよ。詳細は『影』達から聞いて。あ、でもフィン兄上みたいに、男にはあまり絡まれなかった」


「ちょっと、リアム。僕の古傷抉るの止めてくれる?」


「フィンレーみたいなタイプって、加虐性のある男の執着心を擽るらしいからな」


「…ディラン兄上。殺されたいの…?」


「おい、ちょっと待て!手に電流乗せんの止めろ!」


弟達の会話を聴きながら、アシュルは小さく溜息をついた。


代々、王家の直系…つまり王子は、10歳になるとお茶会を開く。

これは公然の秘密として、その王子の婚約者を見つける為のお見合いであるとされている。


それ自体は合っているのだが、見定める方法が少々異質で、当の王子は主催者としてお茶会に参加するのではなく、今のリアムのように使用人として参加するのだ。


それゆえ身分がバレないよう、王子は10歳になるまで、極力公の場に姿を現さない。そして、リアムやディランのように目立つ色彩を纏っている者は、こうして魔法でその色を隠すのだ。


それもこれも、表側と裏側から相手を見定め、婚約者に足る相手を見つけ出す為であるのだが、アシュルから始まり、ディラン、フィンレーと、目ぼしい相手を見つける事は叶わなかった。そして最後の砦として、リアムがお茶会に挑んだ訳なのだが…。どうやら今年も駄目だったようだ。


ふと、アシュルはリアムの手に巻かれた布を目にし、眉根を寄せた。


「リアム、その手はどうした?」


「ん?ああ…。袖にした女達に絡まれて、その時に割れたカップで切っちゃって」


「へぇー。で、お前が撃退したのか?それとも影か?」


「バッシュ侯爵令嬢が来て、蹴散らしてくれた」


「はぁ!?」


意外な人物の名前に、一同が目を丸くする。


「え?!バッシュ侯爵令嬢…って、あの?」


「それ、間違いじゃなくて?本当にバッシュ侯爵令嬢なのかい?」


「ド派手なフリフリドレスを着ていて、分厚い眼鏡をかけていた」


そのあまりにも覚えのある特徴に、三人の兄達は黙り込む。


「…間違いなく、エレノア嬢だね。で?どうやって蹴散らしたの?」


「えーと。『たかが伯爵令嬢が、侯爵令嬢の私に失礼な事言ってないで、とっとと立ち去れ!』…的な事言っていた」


「…うん、なんか凄くエレノア嬢っぽいけど…。で?その後彼女はお前に何かしたか?」


「手当してくれた」


「は?」


「自分のドレスのリボン引き千切って、切ったトコに巻いてくれた」


「え?」


「そんな事して大丈夫かって聞いたんだけど『沢山あるから、一つぐらい無くなったって分からない』って言ってた」


「………」


もはや、ツッコむ言葉も出て来ない。


美少年であるリアムに目を付け、絡んでいたご令嬢達を追っ払って自分のものに…という流れなら話は分かるが、やった事は傷の手当…。

しかも、自分のドレスからリボンを引き千切ったなんて。そんな貴族令嬢、見た事も聞いた事も無い。


思考が追い付かず、三人ともが気持ちを落ち着かせるべく、紅茶を口に含む。そこに思い出したように、リアムがとどめとばかりに爆弾発言をかました。


「ああ、そういえば最後に『顔が良いと、苦労するわね』って言っていた」


ブッ!と、その場の全員が紅茶を噴き出す。


「お、おまっ…!本当にそれ、バッシュ侯爵令嬢か!?…って、本人だよな。特徴が一致してるしな…」


「う~ん…。なんか、かなり変わっているご令嬢みたいだね…」


リアムは自分の手に巻かれた、白いシルクのリボンをジッと見つめる。


「…もし、適当な子が見付からなかったら、俺の婚約者はバッシュ侯爵令嬢でもいいや」


「いや、お前、それはなんつーか…。王族の嫁って、センスや容姿も一応問われるからな?早まって結論出すなよ?」


「まあ、いいんじゃない?最終的にはリアムが決める事でしょ。僕達は関知しなければいい訳だし。…傍から見ていたら楽しそうだしね」


ディランが渋面になるが、フィンレーは肯定する。何気にエレノアに対し、興味が出てきてしまったようだ。


「そうだねぇ…。うん、まあ、それじゃあ一応、バッシュ侯爵令嬢を『婚約者候補予定』という事にしておこうか。『公妃』にならなければ、表に出る事もないし、いざとなったら、容姿云々はどうとでもなる。…それに何より、ただの我儘令嬢って訳でもなさそうだしね」


アシュルの言葉に、その場の全員が頷いた。



こうして本人が知らぬ間に、エレノアは『婚約者候補予定』の枠にひっそりと鎮座する事になってしまったのだった。

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