第127話 顔面破壊力、来襲!
「…クライヴ様…」
「ああ、分かってる」
ジョゼフが声をかけ、クライヴ兄様もそれに応える様に、口移し…ではなく、もうしっかり口付けを繰り返していた私から身体を離した。
「え?にいさ…」
その絶妙なタイミングを見計らったかのように、部屋の扉がぶち破られる勢いで開かれた。
「エレノアーー!!!」
「ひゃあ!」
アイザック父様が私の名を叫びながら駆け寄って来る。
まさに絶叫と言う言葉が相応しいその声と迫力に、私はビックリして身体を跳ねさせた。
「と、とうさ…うぐっ!!」
間髪入れず、サバ折りよろしくぎゅうぎゅうと私の身体を掻き抱いた父様は、感極まったとばかりに私を抱き締めたまま大号泣しだした。
「うううっ…エレノア…!ぼ、僕のエレノア…!!良かった…!気が付いてくれて、本当に良かった…!!可哀想に…痛かっただろう?辛かったろう?ああ…僕の天使!もう…もう、絶対に僕の傍から放さないから…!」
――と…とう…さま…!
泣きじゃくっている父様に声をかけようにも、力一杯抱き締められて、まともに声が出せない。
「落ち着いて下さい!」という意味を込めて、父様の背中をトントン叩いてみても、全く気が付かないどころか、私の身体を抱き締める腕の力が更に増して、呼吸すら苦しくなってくる始末。
「公爵様!ストップ!もうそこら辺で止めて下さい!!」
「だ、旦那様!!落ち着いて!お嬢様は病み上がりなのですよ!?抱き潰すおつもりですか!?」
クライヴ兄様もジョゼフも、必死に父様を引き剥がそうとするんだけど、上手くいっていない。…というか、何となく止めづらそうにしている感じだ。
まあ…ね。溺愛している娘が女だてらに戦いまくった挙句、ボロボロになって何週間も意識不明になってしまったのだ。
その娘の意識が戻ったんだから、そりゃあ父様も嬉しさのあまりにこうなるだろうし、兄様達が娘の無事を喜ぶ父親を無下に出来ない気持ちも分からんではない。
――…でもね、このままだと確実に私、窒息するから!父様には申し訳ないけど、何でもいいから、誰かとっとと父様引き剥がして下さい!
「アイザック、落ち着け!」
その時だった。
聞き覚えのある、落ち着いたイケボが聞こえてくると同時に、父様の身体が私からベリッと引き剥がされる。
「――ッ…!ぷはっ!」
解放された私は、必死に酸素を肺へと取り込んだ。
すーはーすーはー…ああ…真面目に天国見えるかと思った…!
「あっ!な、何をするんです!国王陛下!!」
「お前の方こそ、何やってんだ!私の大切な義娘を抱き潰す気か!?」
「誰があんたの義娘ですか!?エレノアはぼ・く・の!大切な娘ですっ!!」
相も変わらず不敬の塊と化した父様は、国王陛下に暴言吐きまくっている…ん?国王…陛下…?
「おや、アイザック?やけに『僕の』と強調するが、エレノアは私達にとっても大切な娘だぞ?」
「そーだぞアイザック!心配してたのはお前だけじゃねぇんだからな!よう、エレノア!ようやっと目を覚ましたか!」
苦笑しながら、メル父様とグラント父様が部屋に入ってくる。
うう…っ!び、美貌が目に突き刺さる!!ち、違った意味で呼吸が荒くなっていく…!!
相変わらず視覚の暴力が炸裂していますね父様方!最近あまり会えてなかったからか、ここ数年で培ってきた免疫機能が衰えてしまったようです。
二人の父様方は、クライヴ兄様に背中を擦られ、真っ赤な顔で深呼吸をしている私を嬉しそうに見つめ、優しく微笑んだ。
「お前の戦いっぷりはバッチリ見させてもらったぞ。立派だったな。流石は俺の自慢の娘だ!」
「エレノア、君がこんな怪我を負うなんて…。傍にいてやれなかった事を、どれ程悔やんだ事か…!」
そう言いながら、グラント父様とメル父様は、私の頭を交互に優しく撫でてくれた。
視覚の暴力による動悸息切れ眩暈はともかくとして、父様方の優しさが嬉しくて、思わず目頭が熱くなってしまいます。
「グラントとうさま…。メルとうさま…。ご心配…おかけしました…!アイザックとうさまも…ごめんなさい…」
するとアイザック父様の瞳から、再び涙がハラハラと零れ落ちていく。
「とうさま…」
頬がこけ、クマも酷い。明らかに憔悴しきった父様の顔を見て、ズキリと胸が痛んだ。
――ああ…私はどれだけの心配を、この優しい人にかけてしまったのか…。
たまらない気持ちになった私は、父様を求める様に両手を伸ばす。
そんな私の意を汲んだ父様は、今度はそっと、壊れ物を扱う様に私の身体を抱き締めた。
「エレノア…!いいんだ!君は何も悪い事なんてしていないじゃないか!謝らなきゃいけないのは僕の方だよ!君が傷付くのを分かっていて…みすみすそれを許してしまったんだから…!」
「とうさま…!」
「そうだな。アイザックの言う通りだ。咎は我々全員にある」
――イケボ、再び。
「――ッ!?」
声のした方を見た私は、思わず息を呑んでしまう。
そのあまりの衝撃に、思わず涙まで引っ込んでしまった。
だってだって、目の前にはアシュル殿下が年を重ねればこうなるだろう、ナイスミドルな絶世の美形が、微笑を浮かべながら立っていたのだから…!
アシュル殿下と同じ、緩くウェーブのかかった少しだけ長めな髪は、煌めく豪奢な金髪。そして、澄み切ったアクアマリン・ブルーの瞳。穏やかそうな甘い美貌には、そこはかとない威厳が滲み出ていて、まさに『ザ・王族』って感じです。
お陰で、豪華な衣装や頭にかぶっている王冠を見ずとも、この人がアルバ王国の国王陛下、アイゼイア様である事が直ぐに理解出来てしまった。
「おお!エレノア嬢!無事に目が覚めたようだな!いや~、心配したぞ!!」
「回復おめでとう。マグノリアの君」
「身体の方はもう大丈夫ですか?気分とか悪くない?」
あああっ!へ、陛下の後ろから、ワラワラと王弟殿下方が…!うわぁぁぁ!!ぜ、全員息子達(アシュル殿下達)とそっくり…!!
ってか、息子達とそっくりなその美貌に加え、大人の色気がプラスされてて、顔面偏差値の臨界点というかボーダーを天文学的に突き抜けている!!その威力はオゾン層をぶち破り、大気圏へと突入する勢いです!
――視覚の暴力?そんな生易しいもんじゃない!
選ばれしDNAの放つロイヤルなオーラが眼球から脳天へと突き抜け、魂をあの世へと誘う…。そう、まさに顔面の最終凶器とも呼ぶべき破壊力が、私に向けて放たれているのだ。
もう気分は聖水を浴びせられ、デロデロに溶かされたアンデット状態。
もしこれで、アシュル殿下達もここにいたとしたら、私の魂は一瞬で灰になり、天へと召されていたであろう。
「…ん?エレノア嬢?」
私の様子に気が付いた国王陛下が怪訝そうな顔をする。
「おい、どうしたんだ?…って、ありゃ?何か顔、白くないか?」
「瞳孔も開いている…。不味いですね。また調子が悪くなったのでは?」
「さっきのアイザックの抱擁が不味かったんだろうね。全く…嬉しいのは分かるけど、加減と言うものがないから…」
――国王陛下、デーヴィス王弟殿下、フェリクス王弟殿下、レナルド王弟殿下…。違うんです。父様じゃなくて、貴方がたの所為なんです。だから、お願いですから、それ以上こちらには…。
「エレノア嬢?」
ああっ!やめて!顔近付けないで!心配そうに覗き込まないで!大人の男性の色気がダイレクトに目にブッ刺さって痛いです!ってか、目が潰れます!!
あああ…!前後左右、余すこと無くカウンターパンチを食らってる気分!もう、ヘロヘロのノックダウン状態です。立ち上がれません!誰か…誰かタオルを!私…もう戦えない…。
はっ!と…父様…。父様はいずこに…?
ああっ!陛下や殿下方に阻まれてこっちに来れないでいる!バーゲン会場にひしめくおば様方に阻まれ近付けないでいる亭主、再び!
グラント父様とメル父様は…。ちくしょう!また面白がっていやがる!!ほんっとーにブレないですね、あんた方!!
…ああ…意識が遠くなっていく…。
「え?ちょっ!おい、エレノア嬢!?しっかりしろ!」
多分、デーヴィス殿下であろうお方が、めっちゃ焦っております。あっ!アイザック父様が必死に殿下方を押しのけて、なんか喚いている。
ありがとう父様。…でも出来れば、もうちょっと早く助けて欲しかったな…。
「エレノア!?おい、しっかりしろ!!傷は浅いぞ!!」
物凄く焦ったようなクライヴ兄様の声が聞こえてくる。ああ…兄様のぬくもり…癒される。
でも兄様、私はもうダメです。不甲斐ない妹を、どうかお許し下さい…。
うう…!で、でも本当、真面目に勘弁してよね!兄様方や父様方の視覚の暴力に、ようやく慣れてきたってのに、今度はロイヤルな顔面破壊力が相手だなんて…!
この世界、一体全体私に対し、なんの恨みがあるって言うんだー!?
最後の力を振り絞り、世の不条理を呪った後、私は再び意識を失ったのだった。
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相変わらずのアイザック父様のお陰で、感動の再会もあんまり続かないどころか、ロイヤルな破壊力にエレノアがノックダウンしてしまいましたv
流石のクライヴ兄様も、ロイヤルの頂点達を押しのける事は出来なかった模様。
これがオリヴァー兄様だったら…間違いなく、威嚇しながら押しのけていたと思われます。
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