【書籍7巻発売中】この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い【web版】
暁 晴海
第一章 侯爵令嬢としての覚醒編
第1話 これって夢オチ…ですよね?
『その時』はいきなり、春の嵐のように突然訪れた。
「…え…?」
私は、先程まで一心不乱に頬張っていた大きなチョコチップクッキーから口を離し、呆然と呟いた。
「お嬢様?」
すぐ傍から心配そうな声がかかる。が、私はその声に応える間も無く、そのままお菓子が山ほど揃えられたテーブルの上にパッタリと突っ伏し、気を失ったのだった。
◇◇◇◇
パチリと、目を覚ます。
『………』
キョロリ…と、ぎこちなく周囲を見回してみると、以前、修学旅行で行ったベルサイユ宮殿ばりに豪華な室内が目に飛び込んで来た。しかも自分は今、キングサイズなフカフカのベッドに横になっているみたいだ。
――はて?何で私、こんなところで寝てるんだ?
あ、分かった!これ夢だわ。
そう思った私は夢から覚めるべく、気合一発、自分の顔を両手で思い切り叩いた。
ぺちん!
――んん?
なんか、めっちゃ気の抜けた音が聞こえたぞ。しかも頬っぺた、あんまり痛くない。う~ん、流石は夢だな!では再び気合を入れて…。
ぺちん!
「………」
恐る恐る自分の手を見てみる。
小さな小さな、真っ白い手。自分のちょっとごつごつとした手とは明らかに違う手。
その手で再度、ペチペチと頬を叩いてみると、ぷにぷにした肌触りの良い頬の感触が伝わってくる。
「…な…な…んで?」
――今自分、めっちゃおチビになってるッ!!?
『これって…。ひょっとしたら夢見ているのかな?』
パニックになりつつも、自分の頬の感触が気持ち良くて、思わず手でふにふにし続ける。そ、そうだ。頬っぺたを摘まんでみよう。…痛ッ!流石に痛い!ってか、こんだけ痛いんなら自分、とっとと目を覚まそうよ!
「お嬢様!?先程から何をなさっているのですか!!」
自分で自分の頬を摘まんでいる私に、誰かが慌てて声をかけて来た。
――お…お嬢様…だと!?
声のした方向を振り向くと、こちらを心配そうに見つめている男性と目が合った。
――うぉっ!こ、これはイケメン!し、しかも執事服…だと!?いつかは訪れようと夢見ながら検索していた執事喫茶。そこのNo・1執事を軽く上回る程の上玉!し、しかも一人じゃなくて複数…!?
「…お嬢様…?」
あああ!やめて!何覗き込んでるの!?し、しかもお嬢様呼ばわり、マジやばい!リアル執事喫茶か!?にしても執事の分際で、ベッドに寝ている純真可憐(?)なお嬢様の顔を覗き込むなんて、なんてけしからん事を!思わずにやけてしまうじゃないか!ああもう!なんて萌える夢なんだ!やっぱ目が覚めるのは、もうちょっと後び…ってまてよ?ってか、よく考えたら、なんであんたら女の子の部屋に当然のようにいるのよ!?こういう時はメイドでしょ!?必ずいる筈のメイドはどうしたメイドは!?
通常生きていたら有り得ない、執事服なイケメン達に囲まれ、半ばパニックになりながら、私が心の中でアホな事を絶叫していると、何だか慌ただしい足音が近づいて来る。
「エレノア!!」
扉がまるでぶち破られたかの如くに派手な音を立てて開かれるなり、血相を変えた少年が寝室に飛び込んできた。
――うわぉ!こりゃまたもの凄い美少年!
これぞカラスの濡れ羽色!と呼ぶにふさわしい、しっとりと艶を含んだ黒髪黒目。愁いを帯びた表情。スラリとした肢体。まだ見た目14~15歳ぐらいに見えるのに、大人顔負けな溢れんばかりの魅力と色気が駄々洩れているよ!夢、グッジョブ!なんって眼福なんだ!!
「エレノア!大丈夫か!?いきなり倒れたと聞いて、急いで帰って来たよ!どこか痛い?!医者にはもう見てもらったの!?」
「…え~と…?」
――ああ…美少年が私に話しかけてる…。しかもそんな心配そうに目を潤ませて…。はぁ…幸せ…!って、そうじゃなくて!この子、一体誰なんだろう?
美少年の尊い御尊顔に見惚れながら、夢の設定としてのこの子は誰だ?と、困り顔で小首を傾げる私に対し、彼はザアッと顔を青褪めさせた。
「…エレノア?ま、まさか…僕の事が分からないのか?僕だ!オリヴァーだ!君の兄様だよ!」
「にいさま…?」
――ああそうか、この子は私の兄という設定なのか。
執事の次は美少年の兄まで出て来たぞ。近年まれにみる良夢じゃないか!こんな夢が見られるなんて…私、そんな善行どこで積んだんだ?
更に心の中でアホな事を呟く私の呆けた様子に、兄だと名乗った目の前の少年は、まるでこの世の終わりのような悲壮な表情を浮かべ、物凄く心配そうに私の顔を覗きこむ。
――はぁ…こんな美少年の顔をこんなドアップで…尊い…。
って、そうじゃなくて!いかんな私。仮にも夢の中とは言え、こんないたいけな少年を悲しませるなんてこと、あってはならんだろう。
よし!ならばこの夢から目覚めるまでの間、妹役を完璧にこなしてやろうではないか!
「…大丈夫…です。オ…オリヴァー(だったよね?)…兄様?」
私の手を握った兄に、私は安心させるように微笑むと、彼はあからさまにホッとした様子で溜息をついた。
「僕の事分かるんだね?!…はぁ…良かった。てっきり倒れた拍子に頭かどこかにぶつけて、記憶が無くなったかと…!」
――いや、記憶はしっかりあるよ。この夢の設定がよく分からないだけなんだよ。
『まあ、でもいいか。どうせこの状況、全部夢だし。目が覚めるまでの間、適当に合わせておけばいいや』
「お兄様、心配かけてしまって申し訳ありません。他の皆にも迷惑をかけてしまいました」
とりあえず、お嬢様らしくしとやかに謝罪をする。実際、兄だと名乗る少年も周りのみんなも、凄く心配しているみたいだしね。夢の中とは言え、ご迷惑おかけして済みません。
「――え…?」
私が謝罪をした次の瞬間、何故か兄だけでなく、室内全体が凍り付いた。…んん?
「…い…いや、そんな事は…良いんだ。君が気にする必要は全く無いんだよ」
兄が笑顔で私の頭を撫でるが、その笑顔は若干引きつっている。一体どうしたというのだろうか?チラリと周囲の使用人達を見てみれば、兄同様、全員顔が引きつっていた。
なぜに?
――ハッ!これはアレか?!私の誠意が足りなかったのか?!
そうだよね。そりゃー、迷惑かけた張本人がベッドで寝たまま軽く「ごめんね」なんて言ったら「なにこいつ?何様?」って思われるよね、うん。
…あれ?待てよ。でも私、この夢の中では『お嬢様』だったような…。お嬢様って、偉いんだよね?使用人とか顎で使ったりとかするよね?
『まあでも、所詮夢。お嬢様でも高飛車はいかん。それに私、そんなキャラじゃないしな』
そう結論付けた私は、ガバリと勢いよく身を起こすと、ベッドから飛び降りた。兄と周囲がビックリしていたが、それに構わず私はペコリと頭を下げた。
「あの…改めて。お兄様や皆様にご心配おかけして、本当に申し訳ありません!」
誠心誠意真心を込めて謝罪をする。…が、何故か誰も言葉を発しない。あれ?これでもまだ駄目なのか?っていうか、いい加減夢、覚めないかな。
「……エ…エレノア…」
兄の言葉に顔を上げると、麗しい顔を真っ青にした兄が、目を思いっきり見開いて私を凝視していたのだった。
「…えっと?お兄様?」
訳も分からず小首を傾げた私に兄の目が更に見開かれる。
「…い…」
「い?」
「医者だ!!今すぐ医者を呼べ!!国一番の名医をだ!急げ!!」
「え?!ちょっ!わぁっ!」
兄の号令を皮切りに、私は再びベッドへと放り込まれたのだった。
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