第461話 ベネディクト君の怒り
有難いことに、『次に来るライトノベル大賞2023』にノミネートされました!
ノミネートへの投票をして下さった方々、本当に有難う御座いました!!
投票の方も、もしよろしければ宜しくお願い致します(≧▽≦)
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「バッシュ公爵令嬢!?」
そんな緊迫した空気の中、割り込むように上がった声に、その場の全員が振り返る。
するとそこには、私の方を凝視しているベネディクト君の姿があった。
彼は先程まで着ていた上着を脱いで、頭からタオルを被っている。……って、え!?私が飛ばされていた場所からこの船までって、物凄く離れていたよね!?ひょっとして、あの距離をリアム達よりも早く泳いできたの!?でもって、今まで姿を見せなかったのは……。
『私と……顔を合わせ辛かったからかな?』
まあ、あんなやり取りの後だ。それは仕方がないことだろう。
私が不用意な事を口にしてしまったから、ベネディクト君凄く怒っていたし、だからかかなり荒っぽい救出方法だったしね。
本当は顔を出したくなかったんだろうけど、責任感が強い彼の事だ。兄様方とアーウィン様との騒ぎを聞いて無視することも出来ず、様子を見に来たんだろうな。
『それにしても……』
私はこちらを凝視しているベネディクト君を、ここぞとばかりにこっそりと観察した。
寡黙で大人しい雰囲気はあまり似ていないけど、こうして見てみると、彼とアーウィン様は髪や瞳の色といい、顔の造形といい、やはりとてもよく似ているように思う。……まあ、つまりはベネディクト君も凄い美少年というわけなんだよね。
というか、こちらを……というより私を見つめる彼の表情には、何故か焦りや動揺の色がハッキリと浮かんでいるような気がして、私は首を傾げた。
ベネディクト君は少しだけ逡巡した後、私の方へと足早に近付いてきた。
「ベティ……?」
先程までの笑顔を引っ込め、戸惑ったような表情を浮かべたアーウィン様に構うことなく、ベネディクト君は私の前へとやってくる。そして少しだけ躊躇ったあと、思い切ったようにその唇を開いた。
「あ……のっ!そのお姿は……もしや、
「……へ?」
『あの後』……って、ひょっとして海面に打ち上げられたあの時の事?
物凄く真剣……というより、悲壮感すら溢れるベネディクト君の心配顔に、私は自分がずぶ濡れ状態なのを思い出し、慌てて手を振って否定した。
「ち、違います!こ、これはそのっ!あの時濡れたわけではなくてですね!」
「じゃあ、どうして……」
そこでベネディクト君はようやく、私の傍にいる兄様方やセドリック、そしてウィルやシャノンも、私同様ずぶ濡れ状態になっている事に気が付いた。
そして瞬時に何かを察したのか、斜め後方にて、呆気に取られた様子で自分を見つめているアーウィン様を睨み付けた。
「……兄上……ひょっとして……!?」
「い、いやその……だな。これにはちょっと事情があって……」
おおっ!?さっきまで兄様達の怒気に微塵の揺らぎも見せなかったアーウィン様がタジタジになっている!
さてはアーウィン様、ブラコンですね!?
そしてベネディクト君。君もリアムと同じく、愛され末っ子属性……なんだね!?
そう。実はリアムって、ちょっと間を空けて出来た末っ子だから、親や伯父、そして兄達に物凄く溺愛されているのだ。
ゆえに、あの常に我が道を行くフィン様ですら、リアムに対しては凄く甘い。というより激甘だ。
今のアーウィン様の姿は、リアムを怒らせて絶交を言い渡され、所在無げにオロオロしていたフィン様の姿とよく似ていた。
ちなみにフィン様が何をしてリアムを怒らせたのかといえば……。
以前学院にて、オリヴァー兄様と言い合いになった際、私にリアムを推そうとして、リアムが『身も心も真っ白』だと暴露したからである。
リアム、後でそれを聞いて、「よりによって、エレノアに言うなんてー!!」って涙目で大激怒して、フィン様に「もうフィン兄上とは一生口利かない!」って絶交宣言したんだよね。
で、私が「そういうの、全然気にしないから!!」って一生懸命取り成して、なんとか一週間の絶交で落ち着いたんだけど、後でその事をクライヴ兄様から聞かされたオリヴァー兄様、これ以上はない程に輝く笑顔を浮かべていたっけ。
――おっと、話が逸れた。
「兄上!どうなのです!?何故バッシュ公爵家の方々に対し、あのような暴挙を!?」
「ベティ!落ち着け!」
「これが落ち着けますか!!客人に対し、なんという無礼を!!」
声を荒げて自分に詰め寄るベネディクト君に対し、狼狽えながらも必死に宥めようとするアーウィン様。
オリヴァー兄様達は、そんな二人のやり取りに毒気を抜かれてしまったのか、暗黒オーラを引っ込め、困惑しながら彼らのやり取りを見守っている。
すると興奮したベネディクト君がアーウィン様に取り縋ったその拍子に、ベネディクト君の頭から布が落ち、彼の半透明な『耳』が露わになった。
「――ッ!!」
「え!?」
一瞬で、その場に静寂が訪れる。
自分の『耳』が露わになり、動揺するベネディクト君と、「しまった!」と言わんばかりに顔を顰めるアーウィン様。そしてそんな彼の姿を見て絶句する兄様方やセドリック、そしてリアムやマテオ。
勿論、ウィル達従者や私達側の護衛騎士達も、息を呑んでこちらを凝視していたんだけど、ベネディクト君とアーウィン様の後方にいる船員の皆さんは、動揺……というより気遣わし気な様子で心配そうに彼等を見ている。
つまり、彼等はベネディクト君の今の姿を知っているという事だ。ということは、ひょっとして彼等はアーウィン様同様、ただの船員ではなく彼の側近……もしくは護衛騎士達なのかもしれない。
誰もが言葉に詰まり、声を出す事が出来ずにいたその時だった。
「ああもう!やっと静かになったわね!」
今や非常に聞き慣れた……そしてあんまり聞きたくなかった声が、場違いに響き渡った。
見れば、自分の専従執事を後方に引き連れ、不機嫌全開といったキーラ様がこちらに向かって歩いて来るのが見える。
途端、その場に先程までとはまた違った緊張感が漂う。
オリヴァー兄様は眉を極限まで顰め、クライヴ兄様は舌打ちせんばかりに顔を歪める。他の皆も、それぞれ不快そうな顔を隠そうともしない。
特にシャノンとウィルの形相が凄まじいのは、多分あの非常事態に私を船内に入れず、結果的に締め出しを食らわせたことに対する恨みがあるからだろう。
ふと、キーラ様が私の姿に気が付く。……と、彼女は目を大きく見開いた。
そして次の瞬間、彼女の表情はみるみる内に憎しみに近い憤りの表情を浮かべていく。
その様はまるで舌打ちせんばかりで、『何故、お前が生きているんだ!?』とでも言いたげな程、悪意に満ちたものだった。
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アーウィン様、ガッツリとブラコンですw
流石は裏王家。親戚関係っぽいですよね(*´艸`)
そして久々のオレンジさん登場!次回どうなるのか!?
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