第460話 顔面破壊力のビッグウェーブ

顔面偏差値の4巻及び、コミカライズ1巻の予約が始まっております。

詳しくは、活動報告をご覧になって下さい。



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え……?ウィン船長の正体が、ヴァンドーム公爵家嫡男!?


『つ、つまりはベネディクト君のお兄さん……ってこと!?』


た、確かにベネディクト君と色味が似ているし、あの凄まじい魔力量から、ヴァンドーム公爵家の本家筋に近い家門なんだろうな……とは思っていたけど、まさかの直系!!というか、なんで嫡男がわざわざ船長に身をやつしてたんだ!?


ふと脳裏に、あの茶目っ気たっぷりで豪快そのものといったヴァンドーム公爵様の顔がポンと浮かんだ。


あの雰囲気……。どことなくメル父様っぽいなと思っていたんだけど、この方ってばヴァンドーム公爵様と外見も雰囲気もそっくりだし、もし中身も瓜二つだったとしたら……。


『ひょっとして、「楽しそうだから」ってそれだけの理由で、身分隠して船に乗り込んでいた……とか?』


いやいや、まさか!仮にも三大公爵家の直系がそんなアホな事するわけないよね!?


「そしてバッシュ公爵令嬢」


「は、はいっ!?」


「貴女には、我が愛しい弟を身を挺して庇って下さった事、当主である父に代わり、心よりの感謝を申し上げます」


その言葉の通り、貴族の男性の用いる最高礼を取るウィン船長改めアーウィン様に、私はハッと我に返り、慌ててかぶりを振った。


「いっ、いえっ!!そ、そんな!かっ、却って余計な事をして、皆様のお手を煩わせてしまいました!!こちらの方こそ、まことに申し訳ありません!!」


私も負けじと、目の前のアーウィン様に対して深々と頭を下げる。するとそんな私の頭上から、静かな声が落とされた。


「……なんという……。バッシュ公爵令嬢はお可愛らしく、とてもおもしろ……いえ。優しいだけの方ではないのですね。……だからこそ、惜しい……」


「え……?」


アーウィン様。今「面白い」って言いかけませんでしたかね?いや、それよりも「惜しい」って、一体何のことを言っているんだろう?


顔を上げると、優雅な笑みを湛えたままのアーウィン様が私を見つめていた。


『くっ!!』


顔面破壊力、キター!!


ま、まさか、あの長い前髪に隠されたご尊顔が、これ程までに凶悪な破壊力を秘めていたとは……!!い、今からでもまた前髪で顔を隠してくださいませんかね!?うん、無理だよね。


明るい濃紺の髪と、深い蒼とエメラルドグリーンが溶けたような色の瞳。まるで、このどこまでも透き通る海の色のようだ。


そして、クライヴ兄様のような鋭利とも呼べる精悍な美貌なのに、まとう雰囲気も表情も何もかもが違う。

そう。例えるならば、まるでこの大いなる大海のような、どこまでも寛容でおおらかな温かさを纏っているのだ。

タイプ的に言えば、ディーさんのようなお兄さんタイプ。……実際、五人いらっしゃる兄弟の長兄だから、言い得て妙だな。


とにかく、そのドンとした抱擁感あふれる美貌が、まるでビッグウェーブのように私の視覚に襲い掛かってくる!


以前、同じ三大公爵家の一柱。アストリアル公爵家の嫡子であるジルベスタ様ともお会いしたけど、三大公爵家の直系……なんでこう、真面目に顔もオーラも何もかもがずば抜けているんだ!?


そういえば、マテオも三大公爵家の直系で、実は物凄い美少年なんだけど、最初から恋愛対象外の『第三勢力』として登場してから、そのままのスタイルで今日まで接してきているし、本人もリアム一筋で恋敵の私を親友兼ライバルとしてしか見ていない。

だから今の今まで、目も潰れず鼻腔内毛細血管が崩壊することもなく、気楽にお付き合いする事が出来ているのだ。


思えばマテオって、口も悪いし手も出るけど、未だに兄様達の魅力にすらカウンターパンチを食らう私にとって、本当に希少な存在なんだよなぁ……。


そんな風に、相も変わらず動悸息切れ眩暈を耐えつつ、脳内で現実逃避をしている私に対し、アーウィン様がフッと笑みを深めた。


「どうされました?バッシュ公爵令嬢」


「いっ、いえっ!あのっ、そ……その……」


声をかけられ、益々真っ赤になって狼狽える私を見ながら、アーウィン様はクックッと小さく笑い声を上げる。


「ああ、そういえば貴女は私(の身体)に対して興味を抱いて下さっていましたね」


「へっ!?」


い、今……「私の身体」って言わなかったかこの人!?あっ!幻聴か!?い、いや、興味というか、何故かどこを向いても目に映る至高の腹筋というか胸筋に、眼球を攻撃されていたというかっ!


「良いでしょう、私もアルバ男の端くれ。女性の好意とお誘いは決して無駄にはしませんよ?」


……お誘い……?


アーウィン様の言葉が脳に浸透した瞬間、顔だけではなく、ボフンと全身から火が噴く。


それと同時にオリヴァー兄様とクライヴ兄様が、我慢の限界とばかりに私を自分達の背後へと隠した。


「……アーウィン殿。招いた側が招かれた側に対し、身分を詐称するという非礼を行っただけでなく、我々の婚約者に対する不埒な言動の数々……。三大公爵家の直系とは思えぬ暴挙、まことに許しがたい。お戯れも大概になされよ!!」


おおっ!オリヴァー兄様が久々に、暗黒オーラ全開に!!


ちなみにそのお言葉の意訳、『無理矢理自分ちに来させた分際で、ふざけたことしてんじゃねーよ!!おまけに人の婚約者に色目使いやがって!お前、本当に三大公爵家直系!?実は偽物なんじゃねーのか!?』……みたいな?(恐っ!)


というか、私への不埒の数々って、ひょっとして先程仰っていた、腹筋チラ見せ(いや、あれはモロ見せだ!)による、歩く公然猥褻わいせつ罪の事でしょうか!?


「その通りだ!いくら三大公爵家とはいえ、あまりにもバッシュ公爵家を舐め過ぎだな。だいたいアルバ男を気取るんなら、色気出す前に女に水ぶっかけて恥かかせてんじゃねぇよ!!」


ああっ!ク、クライヴ兄様落ち着いて下さい!!素が出てます、素が!!相手は三大公爵家直系ですよ!?不敬です、不敬!!せめてオリヴァー兄様のように、罵倒を貴族言葉に変換しましょう!(いや、それもある意味アレだけど)


そ、それに、てるノアになった姿を見せた後では、もはや恥もへったくれもない気がするんですけど!?


そんな黒い怒りを炸裂させた兄様達と対峙しているアーウィン様だったが、その笑顔が崩れることはなかった。


「ああ、これは失礼。船長を装ったのは軽い余興のつもりであって、そちらが仰るような、バッシュ公爵家を貶める意図は全くなかったのですよ。クラーケン達が襲撃してこなければ、こうして私の正体を晒すこともなかったですしね」


剣呑な表情で自分を睨み付けている兄様方やセドリック達に対し、アーウィン様は更に微笑を深めながら言い放った。


ちなみにリアムとマテオは、王家とワイアット公爵家が話に絡むとややこしくなる……ということで、後で抗議することにしたらしく、少し離れた所で静観している(顔は思いきり怒っているけど)。


「それと先程も言ったとおり、『感動の再会』で収拾がつかなくなっていたようでしたから、頭を冷やされる必要があるかと……。まあ、色々と想定外な事が起こってしまったがゆえの無礼と、笑って『水に流して』頂ければ幸いです」


――おおっ!流石は三大公爵家直系!水をぶっかけたことと水に流すをかけたか、上手い!!……じゃなくて!!


えっと……。つまりはこれって、『お前達の方こそ、船上で貴族らしからぬ醜態を繰り広げていたじゃねーか。寧ろ、水ぶっかけて頭冷ましてやったんだから感謝しろや!』って言いたいんですかね?


アーウィン様。許して下さいって言いながら、しっかり煽ってますよね?ほら、兄様方だけじゃなく、セドリックもウィルもシャノンも、なんならリアムやマテオまで、背後から暗黒オーラ噴き上がってますよ?


でも招いた側のアーウィン様達にしてみれば、いくら不可抗力だったとはいえ、招かれた主賓(この場合私だね)がああいった目に遭ったのは大失態だから、いくら三大公爵家とはいっても、普通はもっとへりくだるものなんだろうけど……。


ひょっとしてアーウィン様、なにかにイラついているのかな……?というか、怒っている……?



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貴族同士のあるある。『お貴族言葉で嫌味合戦』炸裂ですv


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次回更新も頑張ります!

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