第134話 王宮での日々とお見舞い①
皆さん、今日は。エレノアです。
めでたく目を覚ました私は、バッシュ公爵家に帰って…はいません。今現在も王宮内の離宮にて静養中であります。
実は私が目を覚ましたその日に、オリヴァー兄様は私を連れてバッシュ公爵家に帰ろうとしたのだが、誰あらん、聖女様によってそれは却下されてしまったのである。
聖女様曰く、「妖術で傷付いた人を癒したのは初めてなので、今後どんな後遺症が出るか分からない。だから暫くの間は
これには、私を連れて帰る気満々だったアイザック父様もぐうの音も出ず、オリヴァー兄様共々、渋々私を連れ帰るのを断念したのだそうだ。あ、勿論クライヴ兄様とウィルの駐留は継続です。
もしこれを決めたのが国王陛下や王弟方だったら、どんなに引き止められようが脅されようが、私を連れ帰っていたらしいので、聖女様とはこの国において最強の存在なのだと、改めて実感してしまいました。
ちなみに私が静養するこの離宮、目が覚めるまでお世話になっていた場所とは違い、オリヴァー兄様やセドリックがいつでもお見舞いに来れるように、王家が取り計らってくれたのだそうな。
…それ聞いた時は一瞬、オリヴァー兄様が裏で暗躍したんじゃなかろうか…と、うっかり思ってしまった事は内緒です。
「はい、お嬢様♡あーんして」
「…あーん…」
朝食のお時間。ベッドサイドにて、ニコニコ嬉しそうにウィルが私にポタージュを飲ませてくれている。
実はまだ体力…というより筋力が戻っておらず、スプーンも途中で何回も落としてしまう為、こうしてウィルにお口あーんをやってもらっているのである。
正直言って子供じゃあるまいし、非常に恥ずかしいんだけど…。スープは温かい内に食べたいし、ウィルが非常に幸せそうなので、割り切って食べさせてもらっている。
ちなみにこのポタージュ、様々な野菜を細かく刻んでペースト状にしたものにミルクを合わせて作った、美味しくて胃に優しい病人食である。
本当はもっと色々食べたいのだけど、二週間寝ていたお陰で身体の筋力と同様、内臓も弱っているのだそうで、目覚めてからはずっと、このような野菜をすりつぶしたスープやパン粥のみなのである。
ああ…。そろそろがっつり、歯ごたえのあるものを食べたいなぁ…。
「エレノアお嬢様、お食事が終わりましたら、お着換えを致しましょう」
スープを八割がた胃に収めた私に、にっこり笑顔のミアさんが声をかけてくる。
あああ…。真っ白いモフモフケモミミがピコピコ踊ってる!今日も眼福、ご馳走さまです!
「ミアさん!それは私が致します!全く、いつもいつも…。いいですか?貴女は湯あみ担当と、その後のお着換え担当です。他のお世話は私の役目!これは最初に取り決めた事ではありませんか!」
おおっ!ウィルがミアさんに噛み付く。今日も戦いのゴングが鳴った!
「いいえ。湯あみの後だけではなく、エレノアお嬢様のお着換えは全て、私の担当です。そもそも男性が女性の素肌を見たり触れたりなど、本来なら有り得ない事です!」
「こ、この国ではそのような事、ごく一般的なのですよ?!それに私は、エレノアお嬢様が幼少時より、全てのお世話を一手に引き受けてきたのですから、本当なら湯あみも何もかも、私がやるべきお仕事なのです!」
…いやいやウィルさんや。湯あみに関して言えば、前世の記憶が蘇ってからはジョゼフが担当していましたがな。
ウィルとミアさんが、いつものごとく睨み合う。…と言ってもミアさん、男性のウィルとガチバトルはやっぱり恐いのか、一生懸命表情をキリッとしていても、耳がへにょりと寝てピルピル震えている。
そして、それを見ているウィルが段々と俯いていって…。
「…分かりました…。では、着替えはお任せ致します…」
「は、はいっ!」
――とまあ、こうなる。
ここまでが大体、この数日間の朝の流れだ。もはやこれ、様式美となりつつある。
さてさて、ご馳走さまをしたらウィルに抱っこされ、洗面室まで移動する。
そして洗面、歯磨き、髪の手入れ…等々行った後、再び部屋に戻って、ミアさんにバトンタッチ。寝間着から普段着に着替えるのである。
「おう、エレノア。支度は終わったか?」
「クライヴ兄様!はい、終わりました!」
「そうか」
そうして、王宮内にある騎士の鍛錬場から戻って来たクライヴ兄様と朝の挨拶のキスを交わす。
一応、王宮内だという事と、オリヴァー兄様とセドリックに遠慮しているのか、リップキスよりやや深め…といった感じの(いつもよりは)軽めなキスである。
…ミアさん。すまし顔をしているけど、耳がめっちゃピコピコ動いていますよ?
それにしてもここら辺、クライヴ兄様ってなんだかんだ言って長男気質なんだよね。
オリヴァー兄様なんて、こっちに移って早々、見舞いにやってくるなり、めっちゃディープなキスをぶちかましてくれたからなぁ…。
あの時は天敵の気配を察し、タイミングよくお見舞いに来たフィンレー殿下にその現場を目撃されて、あわやガチバトル寸前になっちゃったもんね。
あ、そうそう。クライヴ兄様がなぜ騎士の鍛錬場に行っているかと言うと、兄様は将来、騎士団に入団するのが決まっているので、いい機会だからと、騎士達や近衛達に混じって訓練を行っているのだそうだ。
でも兄様、物凄く強いから、ほぼほぼディーさ…いや、ディラン殿下との手合わせだけやっているんだそうな。
実は王宮の『影』を統括する総帥だったヒューさん…いや、ヒューバードさんから、「将来はディラン殿下の副官に」って勧誘されているんだって。
「…何だかんだと、上手くお守り役を押し付けられている気がする…」
そう言って兄様は悩んでいるんだけど、私はクライヴ兄様とディラン殿下、とても相性が良いと思っているから、もろ手を上げて大賛成だ。
ところでそのヒューさ…いや、ヒューバードさんだけど、私が離宮に移ったと同時に、ピィちゃんを肩に乗せたマテオと一緒に、お見舞いに来てくれたんだよね。ってか、ディーさ…ディラン殿下も何故かしっかり一緒に付いて来ていたけど。
「よう、エル!」
私と目が合わさった瞬間、物凄く良い笑顔でウィンク一発かましたディラン殿下。
日の光を受け、燃える様な紅い髪がキラキラしい笑顔に更なる彩を与えて…。
普通なら眼福ものなんだろうけど、ハッキリ言って私にとっては顔面凶器です。目にブッ刺さって痛いです。本日も絶好調に攻撃的です!
ああ…でも、もし副官としてクライヴ兄様がディーさ…ディラン殿下と並んだら、まさに『火と水』って感じで、物凄く互いを引き立たせそう…。
うわ、想像したら、めっちゃ萌える…!
クライヴ兄様、やっぱり副官のお話、お受けして下さい!妹は心の底から応援しております!
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その頃のエレノアは…というと、こんな感じです(^^)
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