第488話 刺客の送り手?

4巻及びコミカライズ1巻同時発売です!!

興味がおありの方、宜しくお願い致します(^O^)/



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てんやわんやの入浴騒動を経て、与えられた豪華な客室でまったり(ぐったり)していた私達の許に、クリフォード様がベネディクト君を引き連れやって来た。


「リアム殿下及び、バッシュ公爵家の方々。本日行われる晩餐会の前に、ここヴァンドーム公爵家本邸をご案内したいと思うのですが、如何でしょうか?」


「えっ!?」


な、なんと!この南国夢の城の見学を、直系の方々公認で探索出来るとな!?


貴族の礼を執り、そう言って微笑むクリフォード様のお言葉に、思わず目を輝かせる。

そんな私を見ながら、微笑ましそうに目を細めるクリフォード様。キラリと光る片眼鏡モノクルが目に眩しい。


「エレノア嬢、今宵の料理は海鮮尽くしの予定ですので、お好きな具材がおありでしたら、遠慮なく仰って下さい」


「えっ!?」


なんですと!?


「そ、それじゃあ、あのっ!カ、カキとかサザエとか貝多めで!あと、出来れば生魚の盛り合わせを!!あ、あとタコ……」


「ヴァンドーム公爵家の誠意と心遣いに、心より感謝する。城の案内、是非お願いするとしよう」


海鮮に我を忘れ、前のめりになった私を、リアムが笑顔を浮かべながら背に隠しつつ、クリフォード様に対し鷹揚に頷く。そしてそのタイミングで、同じく笑顔を浮かべたクライヴ兄様が私の頭部を鷲掴んだ。


『うきゃー!』


床から一センチ程浮き上がり、プラプラ揺れながら、心の中で悲鳴を上げる。


――酷いや!クライヴ兄様!!


毎度毎度思うのですが、これって愛する婚約者に対し、していい事なのでしょうか!?というより、男子が女子にしていい行動ですか!?違いますよね!?


「お前に関して言えば、暴走を食い止めるのに必要な措置と、満場一致で結論付けられている」


小声だが、キッパリそう言い放ったクライヴ兄様に愕然とする。


な、なんですと!?誰ですか、その満場一致した人達って!?……え?クライヴ兄様やオリヴァー兄様は勿論のこと、セドリックにリアムも!?ついでにアシュル様方や父様方も含まれている!?イーサンも多少ごねたけど、最終的には賛同した?……マジですか!?


そんな!私に人権は、もはや存在していなかったのか!?あああっ、孤立無援ー!!


一応、クリフォード様やベネディクト君には見えないよう、プラプラ揺れて抗議しながらシクシク泣いていたら、なにやら天井から「ぶはっ!」と吹き出す声が……。


おのれ、ティル!騎士の誓いを立てた身で、護るべき相手を見て吹き出すとは何事か!!ってか、あんた『影』ですよね!?忍んでなさ過ぎ!!


「……ぷ、くくっ……。で、では早速、ご案内いたしましょう……」


あっ!天井に気を取られていたら、いつの間にやらクリフォード様とベネディクト君がこっちを見て、口元を手で覆って震えている!

リアムったら!いつの間に移動していたんだ!?……って、明後日の方向向いて、腹を抱えてくの字になっていたよ。……ごめん。笑わせるつもりはなくて、不可抗力だったんです。というか、防波堤の意味なし!


クライヴ兄様に床に下され、頭を摩りながら後方をついて来る私を時たまチラリと見ながら、クリフォード様が小さく吹き出されているのを見て、羞恥で真っ赤になってしまう。……いやまあ、アーウィン様やベネディクト君には、てるノア姿をご披露しているし、貴族令嬢っぽくないのは今更ですけどね!


『……でも、いいのかな?』


ヴァンドーム城を案内され、その壮大な景観や、趣向を凝らした内装に感嘆しつつ、心の中でそう呟く。

いくらヴァンドーム公爵家が私達を味方認定したとはいえ、今まで殆ど交流のなかった高位貴族に、自分達の本丸とも言うべき本邸内部を進んで案内するだなんて……。


と思っていたら、クライヴ兄様が「今は緊急時だからな」と、小声で説明をしてくれる。


それによれば、今回の黒幕に近い存在として、キーラ様とその専従執事を敢えてこの本邸の敷地内に招き入れたという経緯がある以上、王家直系であるリアムと、バッシュ公爵家直系の姫である私の身の安全を優先する為、ギリギリのところまで、この本邸の構造を把握し、不測の事態に備えてもらう……という目的があるのだそうな。……こ、これって、そんな深い意味があったんですね!?


済みません。一瞬、「某ネズミーシー探索だ!」などと浮かれてしまった私を、どうぞお許しください。


「ちなみに……。あちらに小さく見える建物が離れでして、今現在ウェリントン侯爵令嬢が駐留している場所となります」


クリフォード様の指し示す方向を見てみると、この本邸と同じ白亜の造りをした、豪華だけど小振りな建物が見えた。


「一応、彼らは容疑者となっておりますので、あの離れの周囲には結界が張り巡らされております。……悪意のある者は、この本邸に立ち入る事を許された者の許可がなければ、建物内から出る事は叶いません」


『キーラ様……』


結界までかけられているとは……。それって、ほぼ容疑が固まっていると言っているに等しいような気がする。


不意に、脳裏にあの勝気で高飛車な笑みを浮かべるキーラ様の顔が浮かんだ。


あのプライドの高い彼女が、一人本邸から離れた場所に隔離されているなど、その高い矜持がさぞ傷ついているに違いない。


彼女が持っているであろう、不可思議な『力』。


ベネディクト君は、あれを『魅了の類ではないか』と言っていた。だからこそ、あの建物には一般の使用人は一人も付けず、魔力耐性に特化した手練れの者を監視として置いているのだそうだ。


確かにそれならば、彼女が魅了の類を持っていたとしても対処が出来るだろう。

……けれど、彼女の元にはあの得体のしれない専従執事がいるのだ。


『帝国との繋がりを探る為、敢えて懐に入れたその行為は分かります。…ですが、彼がもし帝国の手の者だったとしたらどうするのです。帝国の『魔眼』は、女神様の祝福と対極の邪悪なる力。どのような能力を秘めているのか分からないのですよ?』


あの話し合いの席で、オリヴァー兄様がそう懸念を口にした。それに対し、重々しく頷いた後、ヴァンドーム公爵様はこう説明された。


『貴公の懸念も尤もな話だ。だが、この精霊島は我が妻の……大精霊の加護に守られている。女神様の眷属である精霊が最も嫌う、魔人の力そのものである『魔眼』持ちは、そもそも結界に入る事が出来ないのだ』


という事はつまり、あの専従執事が帝国の手先……もしくは帝国の人間だったとして、少なくとも『魔眼』持ちではないという事になるんだよね……。


ところで、『魅了』の類は魔族系統の力だと前に聞いたんだけど……。という事は、キーラ様の力は『魔眼』ではなく、恐らく特殊能力の類なんだろうな。


『それに、貴公らの姫君は、我がヴァンドーム公爵家……もとい、我が息子達にとって大切な女性だからな。全力で護る事を誓おう』


『…………そうですか……』


そう、公爵様が力強く宣言をしてくれたんだけど、その瞬間、兄様達のこめかみに青筋が立った。ついでに笑顔で火花を散らし合っていたのは何故だったんだろうか。だってあれも、公爵様の冗談だったんだよね?


『でも、なんだろう……。この胸騒ぎは……』


ふとした拍子に込み上げてくる、この不安な気持ち。大精霊の結界に護られているというのに……。


『というか……』


不安な気持ちになるたび、ポン!ポン!と聞こえてくる、この軽快なポップ音、どうにかならんものだろうか。

このままでは確実に、この幻想的な城が雑草ぺんぺん草まみれになってしまう!


「ところでクリフォード殿、浴場に泳いでいるあの魚達ですが……。何かと邪魔……いえ、危ないので取り除く事は可能でしょうか?」


あっ!オリヴァー兄様が温泉魚排除に向けて動いた!……どうやらよっぽど、自分の邪魔をされたのが悔しかったようだ。


「おや、お気に召されませんでしたか?あの魚はこの領海内の、海底温泉にしか生息しないうえに、湯に入った者の疲れや病気を癒す能力がある……とされている希少種。貴方がたの為に、わざわざ用意したのですが……」


おおっ!やはりあの魚達って、前世で『ドクターフィッシュ』と呼ばれている温泉魚と同類だったんだ!


「そうそう!それに、あの魚には面白い性質がありましてね。大精霊が住まう海域にしか生息しないせいでしょうか。なんと、邪念や悪意のある者に反応するのですよ」


とってもいい笑顔なクリフォード様のお言葉に、ピクリとオリヴァー兄様が顔を眇めた。


「……クロス伯爵令息。貴方先程、あの魚達を『邪魔』と言いかけておられましたが……もしや魚達に攻撃でもされましたか?」


ニッコリ笑顔で問い掛けられ、オリヴァー兄様もニッコリと笑顔を返す。


「いえいえ、まさか。水中花といい、まるで海の中で入浴しているような快適な時間を過ごさせて頂きました。私が言いたかったのは、うっかり踏みつぶしたりしては可哀想ではないかという事です」


「ああ、あの子達は賢い上に俊敏ですからね。そのような気遣いは不要ですよ。是非とも引き続き、快適な入浴を満喫して下さい」


ウフフ、アハハ……と、笑顔の応酬が、何故かとてつもなく黒く感じるのは、果たして気のせいなのだろうか。


「それにあの魚達は、このベネディクトのペット達でしてねぇ。大切なお客人が来るとの事で、特別にこの子が入れておいてくれたんですよ」


「「「「「「えっ!?」」」」」」


なんと!あの魚達って、ベネディクト君のペットだったのか!どうりでなつっこいと思った!


クリフォード様がベネディクト君に笑顔を向けると、ベネディクト君が私に向かってニッコリと笑顔を向けた。くっ!眩しい!!


「はいっ!あいつらには、エレノア嬢が最大限くつろげるよう頑張れって、言い聞かせておきました!エレノア嬢、お気に召して頂けましたか?」


「は、はいっ!……え~と、お陰様でお肌が凄く綺麗になりました」


「――ッ!そ、そう……ですか」


私の言葉の意味を察したのだろう。ほんのり頬を染め、はにかみ笑うベネディクト君が尊い……。なんか実家に帰ったからか、学院でのあの仏頂面が嘘みたいに表情豊かになっているな。


対する兄様方とセドリックは、笑顔を引き攣らせている。しかも、『お前だったのかー!!』と、声なき声が聞こえてきたような気がする。


そんなやり取りをしながらお城の中を見学し、離宮に戻る頃には夕日が海に沈んでいた。




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どうやら、刺客は既に放たれていたもようwしかもベネディクト君、無自覚にやってました。


ヴァンドームアニーズ「「「「ベティ、よくやった!」」」」

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