第489話 帝国誕生秘話【?視点】
帝国の首都『ディアボリク』
その中央に威風堂々と聳え立つ王宮は、他国のどの建物にも見られない、とある特徴を有している。
それは何かと言えば……。その外観だ。
造形そのものは、どの国の王宮でも見られる様式。だが、その『色』がまるで違う。……そう、黒曜石のような漆黒であるのだ。
他国の口さがない者達は口を揃え、「魔除けを司る貴石とされる黒曜石とは似て非なるもの」「あの色はまるで、呪いを浴びたかのような、異様な禍々しさを感じさせる」と囀るのだが、実はこの王宮、建てられた当初は他国の王宮と同様、白亜であったらしい。
だが、皇族の強大な魔力によって漆黒に染まっていき、結果、現在のような姿となったのだそうだ。その為、今では帝国を統べる皇族達の力の象徴となっている。
……だが、帝国と敵対、もしくは快く思わぬ国々からは、「女神様の慈悲から外された証」「暴力と不吉の象徴」と、眉を顰められている。
そして、帝国と最も敵対しているとされるアルバ王国では、「彼等は長年『魔眼』を使い、異世界召喚を繰り返した。その結果、
「……ふ……。二流国家風情が。お前達ごときに、この高貴なる血を継ぐ帝国の象徴を貶める資格などない」
そんな王宮の中に在る、皇家直系にそれぞれ与えられている離宮の一つ。
絢爛で広大な部屋には、第四皇子であるシリルと同じ黒髪、そして鋭く酷薄そうな黒い瞳を有する美丈夫がいた。
彼は豪奢な椅子に腰かけ、物憂げな表情を浮かべながら、そう独り言ちる。
◇◇◇◇
――嘗て、世界は『魔族』と呼ばれる程、豊富な魔力を有した種族が覇権を握り、
だがある時、『女神の使徒』を高らかに宣言した、只人達が寄り集まって興された小さな国が、魔族達の前に現れる。
そして『魔族からの人類の解放』を合言葉に、
『魔王』とその配下である上位魔族達は、その暴力的とも言える強大な『魔力』をもって眷属達を使役し、歯向かった人間達のことごとくを殲滅しようとした。
しかし、『女神』の加護を得ている人間達はしぶとく、一進一退の攻防が続いた。その結果、戦況は膠着状態となったのだった。
焦れた『魔王』が自ら上位魔族達の先頭に立ち、只人達の軍勢を一網打尽にしようとしたその時だった。
『女神の加護』を受けた一人の少女により、『魔王』とその側近の大半が落命し、敗戦したのである。
魔族は、『魔王』の血を継ぐ者達と共に、西の大陸の北側に逃げ堕ち、再び世の覇権を得る為に国を興した。……それこそがこの『帝国』であるのだ。
尤も、この史実は、『都合の悪い真実』として、皇家直系もしくは彼等に仕える上位幹部達の間でしか語られない。……いや、語る訳にはいかないのだ。
この最も誇り高く、高貴な『魔族』の血を受け継ぐ『帝国』が、女神という下らぬ偶像崇拝により得たとされる『力』でもって、攻め滅ぼされた過去があっただなど、断じて認められるものではない。
貴重な術式や、難攻不落とされていた高位魔術の大半は、過去の大戦でほぼ失われてしまったとされる。
だがそれでも、この『帝国』は、西方諸国を二分する程の大国足り得る力を持っていた。
それというのも、力と血統の大半を失った魔族達ではあったが、禁忌とされていた古の呪式を用いる事により、『異世界人召喚』を成功させたからだった。
我らの祖先達は、『界渡り』により、
結果、力の強い国民が爆発的に増え、魔族の血を継ぐ『帝国』は再び、大国としてこの西の大陸に君臨する事となったのだった。
遥かなる過去において、『魔王』を討ち滅ぼしたとされる『女神の寵児達』。帝国における不俱戴天の仇。それこそが、この帝国と覇権を二分する大国……アルバ王国だ。
過去の大戦により、世界に満ちる魔力の均等が狂った結果、出生率が激減してしまった為、奴等や他の国々は女達の機嫌を取り、人口と国力をなんとか維持していた。
そんな情勢に在っても我が帝国は、『異世界人召喚』によって、女達を潤沢に得る事が出来た。
国力も人口も、我が帝国がどの国よりも強大となった時。過去の雪辱を晴らすべく、再び大陸の覇権を手中に収めようと、度々軍を決起させようとした事があったそうだ。
「今の我々がその気になれば、過去において『魔王』を討ち取ったあの国でさえ、容易く殲滅する事が出来る」……そう確信して。
だが実際に行動を起こそうとするたび、何故かあの国には忌々しい『女神の加護』を受けた強者が現れ、帝国の企てをことごとく崩し去ってしまうのだ。
……まるで、彼の伝説の聖女『姫騎士』が現れ、『魔王』を討ち取った時のように……。
その為、あの国に関しては、厄介な者達が多い時代はあまり事を荒立てる事無くやり過ごし、機会を窺い攻撃をしかける。……というのが、長年に渡り煮え湯を飲まされ続けてきた結果、我が帝国が得た教訓だ。
――だが十数年前、帝国に激震が走る。
何故なら、突然『異世界人召喚』で女を召喚する事が出来なくなってしまったからだ。
兆候は表れていた。
異世界人を召喚出来る数は年々減り続けており、それに伴い、力のある『魔眼』持ちや、一般人の出生率も減り続けていた。
それが召喚術を使えなくなった事により、致命的に加速していってしまったのだった。
今まで目こぼしをしていた『こぼれ種』を各国からかき集めてはいるが、そもそもその数は決して多くはない。
ましてや転生者に至っては、本人や周囲にその自覚がない限り、我が帝国の『魔眼』持ちですら感知する事が出来ないのだ。
しかも、秘密裏に隷属させていたリンチャウ国を使い、魔力の高い女達……特にアルバ王国の女を得ていたのが、当のアルバ王国により、リンチャウ国そのものが潰されてしまったのである。
元々、転移者を潤沢に得られていた弊害で、皇族や高位貴族達は飽きた転移者を手柄を立てた者に対する褒章としたり、政敵の囲った転移者が、力ある子を産むのを阻止する為、命を奪ったりする事が、半ば慣習となってしまっていた。
その結果、転移者は僅かしか残っておらず、子を成せる年齢の者などはさらに少ない。その為今では、高位貴族を中心に、転移者を巡って血みどろの争いが絶えなくなっているのだ。
「尤も、その希少な生き残りの中でも、特に力の強い者達は、我が皇家が囲っているのだがな……」
当然というべきか、各国から集めた『こぼれ種』達も、まずは皇家預かりとし、より魔力やスキルの強い者達を厳選し、我々皇家直系の血を継ぐ子を産ませるよう、厳重に囲っている。
「しかし……。皇帝は何故、こうも動こうとしないのか……」
今現在、帝国を統べる皇帝である父は、帝国の歴史の中でも最も強大な魔力を有し、「魔王の再来」と謳われる程の力を持っている。
なのに、帝国存続の危機とも言えるこの現状を憂うことなく、『何もしない』で玉座に座り続けているのだ。その上、次期後継者の指名をする素振りすら見せない。
「敢えて後継者を指名しない事により、自分の血を継ぐ子らを競わせ、最も相応しい者を見極めようとされているのか……。それとも何か、明確な意思があった上で、敢えて何もしないでいるのか……」
いっそのこと直接対峙し、明確な答えを得ようか……。いや……。不興を少しでも買えば、たとえ血の繋がった息子であったとしても、あの父は眉一つ動かす事なく自らの手で粛清しようとするだろう。
『黒き血と氷の皇帝』それが父の二つ名だ。
沢山の女を娶り、子を成しているものの、皇帝は誰も愛さず、また愛される事も不要と断ずる。まさに冷酷非道な氷の皇帝。
そんな絶対的な強さとカリスマ性に惹かれる者は多く、この状況下で何も動こうとしない今現在でも、彼を絶対君主と崇める者達は多い。……そう、自分でさえも……。
「もし私が手柄を立てれば……。父上は私をちゃんと見て下さるのだろうか」
それとも母のように、私が何をやっても『いない者』のように扱うのだろうか……。
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あのエレノアが、蛇蝎のごとく嫌う帝国……。安定のクズっぷり。
そして新しい皇族が出てまいりました。
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