第124話 私が寝ている間に起こったアレコレ

「お嬢様!私達の所為でこのような事に…!まことに、申し訳ありませんでした!!」


その時だった。

ミアさんや他の草食系獣人のメイドさん達が、一斉に私に向かって頭を下げ出したのだ。え?一体、何事?!


「エレノア。彼女らは、お前が注意を惹き付けたお陰で、全員傷一つ無く無事に保護する事が出来たんだよ」


「…そう…だったんですか…」


おお!…良かった…。全員無事だったのか…そうかぁ…!


「…よかったねぇ…」


ミアさん達に向け、へにゃりと笑いかけると、ミアさん達は顔を真っ赤にしてプルプルと口元や顔を覆う。


「…て…天使…!」


「尊い…!」


「ああ…なんてお可愛らしいの…!!」


何やら口々に小さく呟く彼女らの耳や尻尾が、忙しなくピルピルパタパタしている…!ああっ!と、尊い…!こちらの方こそ、ご馳走さまです!!


「…遂に、同性もタラシ込みやがったか…」


眼前のモフモフパラダイスに感激していた私の耳に、クライヴ兄様の呟き声は幸か不幸か聞こえてこなかった。


「――ま、そういった訳で、彼女らはそれをとても恩義に感じてくれていてな。今回、是非お前の世話をさせて欲しいと、彼女らの方から聖女様に願い出てくれたんだ。他にも何人かいるから、後で会わせてやるよ」


――え?嘘!私ったら、意識を失っていた二週間の間、彼女らに手取り足取り面倒見て貰っていた訳!?そ、そんなの…まさにモフモフパラダイスではないですか!!…はっ!そ、それじゃあ、あの夢はそれを暗示していたと言うのか!?


くぅっ…!なんてこった!そんな美味しいシチュエーションだったってのに、全くもって記憶にない!(いや、意識不明だったんだから当然だけど)あああ…!なんて勿体ない事を…っ!!


「はい。お嬢様が、勿体なくもその身を呈し、私達を救って下さったお陰で今の私達があります。御恩返しの一端にもなりませんが、僭越ながらお世話をさせて頂きました!」


「本当に…なんと感謝したら良いのか…!それに、こちらの方々は皆様、本当にお優しくて親切で…。しかも皆様、どなたも素晴らしくお美しくて…」


あ、ネコミミさんが、真っ赤になって尻尾パタパタさせてる。あ、他の皆さんも赤くなって頷いている。うんうん、そうだよね。この国の顔面偏差値、本当に異常だもんね!しかも女性に、デロッデロに甘いから!暫くはピンクなカルチャーショックが続くと思いますよー?


「本当に、この国の方々は皆、神のごとき慈悲を湛えた方々ばかりで御座います。まさにこの世の奇跡!」


「ええ。草食系とはいえ、私達も獣人。いわば敵国の民とも言うべき存在であるにもかかわらず、保護して下さったばかりか、望めばこの国に一族共々、移住しても良いとまで仰って下さって…!」


――え?移住…?で、でもそれって大丈夫なのかな?あの国が、そんな事認める訳…。下手すれば戦争になってしまうんじゃないだろうか。


不安そうな顔を向けた私に、クライヴ兄様が安心させる様に髪に口付けを落とす。


「エレノア、シャニヴァ王国は東方諸国で結成された連合国軍に宣戦布告され、つい先日滅んだ」


「え…!?」


クライヴ兄様の言葉に私は愕然としてしまった。

あの国が…滅んだ…?!


てっきり、あの王女達との戦いやらなんやらで、ひょっとしたらアルバ王国とシャニヴァ王国が戦争になってしまうのではないかと危惧していたんだけど…。まさか、このタイミングで別の国々と戦争になっていたとは。


しかも、私が昏睡していた間に、滅んでしまっていただなんて…そんな…!それじゃあ、ミアさん達は故郷を失ってしまったの…!?


「肉食系獣人の多くは殺されるか捕虜として奴隷に堕とされたようだが、非戦闘員である草食系獣人の多くは、連合国軍によって保護されている状況だ。だが国が滅んだ以上、獣人は連合国軍の支配下に置かれてしまうだろう。だからアルバ王国は、彼らが望めば難民として迎え入れる方針を決定したんだ」


「…そう…だったんですか…。ミアさん…あの…」


「お嬢様。お嬢様がお心を痛める必要は御座いません。元々あの国では、力の無い者や、草食系の種族は奴隷と変わらぬ扱いを受けておりました。私も、ここにいる者達も皆そうです。…それでも故郷ですから、それなりに思う所は御座いますが…。でも、エレノアお嬢様のような素晴らしい方々がいらっしゃるこの国で生きていけるのなら、私達に否やは御座いません!」


ハッキリと、そう言い切ったミアさんの瞳には、少しの寂しさはあれど、何かを吹っ切ったような清々しさを感じた。


「そういう訳で、今後はエレノアお嬢様に侍女としてお仕え致したく存じます!」


「えっ!?」


「不束者では御座いますが、誠心誠意バッシュ公爵家の皆さまにお仕え致します!どうぞ宜しくお願い致します!」


そう言うと、ミアさんは私に向かい、ほぼ90度の角度で深々とお辞儀をする。


「…そういやお前、学院の回廊で、この子をバッシュ公爵家で雇うとか何とか言っていたっけな。『一生大切にします!』だったっけ?良かったなー、望み叶って」


「え?あ…あの…」


何故か呆れ顔で棒読み口調のクライヴ兄様と、「ミア!ズルい!」「抜け駆け!」と騒いでいるケモミミメイドさん達を、戸惑いながら見つめる。


な…なんかもう…。寝ている間に色々あり過ぎって感じで、もうだいぶキャパオーバーなんですけど!?


そんな私の頭を、クライヴ兄様が苦笑しながら優しく撫でる。


「まあ、こうして意識も戻った事だし、もう少ししたらバッシュ公爵家に戻れるだろう。公爵様や親父達は勿論、オリヴァーもセドリックも、首を長くしてお前の帰りを待っているぞ。当然、バッシュ公爵家に仕えている連中もな」


――オリヴァー兄様…!セドリック…!父様方…みんな…!


「…はい…。みんなに…あいたい…です…!」


そこでケホリと咳き込んだ私を見て、クライヴ兄様はベッド脇のサイドボードに置かれていた水差しを手に取ると、コップに水を注いだ。


「エレノア、水を飲むか?」


問い掛けにコクリと頷くと、クライヴ兄様は自分の口に水を含んで、私に優しく口付けた。…はい、所謂口移しってやつです。


え?に、兄様?!私、普通に自分で飲めますが!?


小さく「きゃぁ!」と歓声が上がった気がするが…。プチパニックを起こした私はそれどころではなかった。


「ん…」


優しい口付けと共に、冷たい水がコクリと私の喉を潤していく。


自分では気が付かなかったが、余程喉が渇いてたのだろう。

まるで甘露の様に水が美味しく感じられ、思わず強請る様にクライヴ兄様の唇を軽く吸うと、兄様が小さく息を飲んだのが分かった。


「…もっと…いるか?」


うっすらと目元を赤らめさせたクライヴ兄様の言葉に、私はコクコクと頷いた。

すると、クライヴ兄様は再び水を口に含むと、口移しで水を飲ませてくれた。


…その後も何度も口移しは続いたんだけど…。な、なんかその都度、微妙に舌を絡めたり唇を柔噛みしたりと、濃厚なスキンシップを仕掛けてくる気がするのは、果たして気のせいなのだろうか?いや、違うよね!?


そんでもって、えらく熱い視線がビシバシこちらに向かって突き刺さってくる気がするんですけど…。これは気のせいではない!絶対に!


しかも「あ…甘いっ!」「なんて絵になるの…!素敵ッ!!」「こ、これが…アルバ王国の男性の愛し方…!」…なんて、めっちゃ興奮気味な言葉が聞こえてきますよ。


…まあそうだよね…。これがアルバ王国の人間だったら、「普通の婚約者同士の戯れですが何か?」ってスルーされるトコなんだろうけど、ミアさん達からすれば、これぞピンクなカルチャーショック!…ってやつなんだろう。


で、でもね!?キャーキャー興奮しているトコ悪いけど、いずれ貴女達も、アルバ王国式愛の洗礼受けちゃうんだからね!?他人事じゃないんだよ?!そこ、分かってる?!


…いや、分かる訳ないか。


でも兄様、その…。そろそろ離して頂けませんかね?

私、病み上がりなんですけど?そろそろ脳味噌沸騰寸前ですが?おーい?



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エレノアが望んだ、ケモミミメイドさん爆誕の瞬間です(笑)

そして、何気に役得なクライヴ兄様です。

これ、オリヴァー兄様にバレた時が恐そうですね。

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