第九章 王宮での療養と婚約騒動
第123話 目覚めたらそこはモフ天だった!
ゆらり…ゆらりと、まるで温かいお湯の中で微睡んでいるような…そんな優しい感覚に包まれたまま、私はとても良い夢を観ていた。
どういう夢かと言うと、何故か私は前世で言う所の『ウサギ島』にいて、超絶可愛い色々な種類のウサギ達と戯れているのである。
ちなみに、『ウサギ島』なのに、何故かネコやリスや子羊なんかも当然のようにいる。しかも肩にはぴぃちゃんによく似たフワフワした小鳥までいて…。何!?このモフモフ天国!!
『ああ…なんて可愛いの…!そんでもって、なんって至福…!!』
これはそう、あれです。色々と柄にもなく頑張った私に対する、女神様のサプライズプレゼントに違いない!女神様、いつも本当に有難う御座います!
あ、でも出来たらもうちょっとプラスご褒美で、身体の成長も促して頂けると…。特に胸とか…。
そんなアホな事を考えた瞬間、私の座っていた場所にぽっかりと穴が空いた。
『――へ…?!』
きゃーと叫ぶ間も無く、私は突然出来た穴の中へと真っ逆さまに落っこちてしまった。
――め、女神様!御免なさい、欲張り過ぎでした!お許しください!でも、ほんのちょっと欲かいただけなんです!兄様達やセドリックを喜ばせたかったんですー!!
…いえ、単純に私がナイスバディになりたかったんです!認めます!!だから地獄堕ちだけは、どうか許してくださいぃぃぃー!!!
『あああぁー!折角のモフモフ天国が~!!』
そう叫びながら、私は真っ暗な落とし穴の中を果てしなく落ち続けて行ったのだった。
「…ッ…も…」
「――!?お、お嬢様!?エレノアお嬢様!?」
「モフ…モフ…」
「…はぁ…?…え、えっと…?」
――…あれ?暗闇に落ちていた筈なのに…。ここは…?
見慣れない天蓋が目に飛び込んで来たのをぼんやりと見つめていると、誰かが心配そうな様子で私の顔を覗き込んでくる。
「――ッ!?」
私の愛してやまない、モフモフが…!もとい、うさ耳が目に飛び込んでくる。
えっ!なに!?私、ひょっとしてまた天国に舞い戻って来たの?!
「ミア!?どうしたの!?」
「ああ、お嬢様が目を覚まされたのよ!」
「ええっ!?本当!?」
「お嬢様!!」
うさ耳だけじゃなく、ネコミミやらリス耳やらが、ワラワラと私の周りに集まって来て、心配そうな、そして嬉しそうな顔で私を覗き込んでくる。
ああっ!ケモミミが、ピルピルパタパタ、リズミカルに動いている!し、しかも全員、夢にまで見た黒を基調としたメイド服に身を包んでいますよ!…なにこれ、まさにパラダイス!!
「…て…てんごくは…ここにあった…」
あまりの至福に、思わずへにゃりと笑みを浮かべつつ、たどたどしい口調で何とか呟くと、私を覗き込んでいたモフモフ…もとい、獣人の少女たちの顔が一斉に青褪めた。
「大変!やはり錯乱なさっておいでだわ!!」
「は、早くお医者様をお呼びして…いえ、それよりも聖女様を!!」
「誰かー!すみません!!エレノアお嬢様がー!!」
パニックになった彼女らの叫び声を聞き付け、ドアが勢いよく開かれた。そうして誰かがバタバタ駆け寄ってくる。
「エレノア!!」
「エレノアお嬢様!!お気が付かれましたか!!?」
「ク…クライヴ…にいさま…。ジョゼフ…?」
「おおおお、お嬢様ぁぁあ!!よ、良かった…!あああ、おじょうさまぁあ!!」
「……ウィル…」
私は、血相を変えつつ、壊れ物を扱うように、慎重に様子を伺ってくるクライヴ兄様とジョゼフ、そしてベッドの端でシーツに顔を突っ伏し、オイオイ号泣しているウィルを困惑顔で見つめた。
「…あの…。ここは…?」
バッシュ公爵家でお馴染みの面々がいるものの、何となくだが、ここはバッシュ公爵家ではないと気が付いた。
え?お前、家の中の部屋、全部把握しているのかって?してますよそりゃ!
だいたい、私が何年バッシュ公爵家の屋敷の中で、半引き籠りやってたと思っているんだ!本邸は勿論の事、敷地内にある召使達の居住区から納屋、果ては地下に造られた、代々の当主が集めたであろう、いかがわしい蔵書だけ収納されたアダルティーな図書館に至るまで、全てバッチリ網羅しておりますとも!
あ、アダルティーな図書館に関してだけど、そこからこっそり隠し持って来た、BとL的な腐った蔵書が兄様方にバレてしまい、オリヴァー兄様によって完膚なきまでに燃やし尽くされ、跡形もなく消滅しました。(そして私は半日正座させられ、足が死んだ)
兄様方には「何故よりにもよって、コレを持って来た!!?」って言われたけど、何となく手に取ったらそれだったとしか…。
あ、でもその後で「まぁ…ある意味、不幸中の幸いだったかも…」って呟いていたのは、どういう意味だったんだろうか。
――…話を元に戻そう。
私の問い掛けに、クッションを増やして背もたれにしてくれていたクライヴ兄様が、なんか思い切り不本意って感じの渋い表情を浮かべながら、嫌そうに口を開いた。
「…ここは王宮だ」
――はい…!?おうきゅう…?
「も…モフモフてんごく…では…?」
「…お前が一体、何を勘違いしているのかは分からんが、ここはバッシュ公爵家でもモフモフ天国でもない。まごう事無き王宮だ!」
あれ?クライヴ兄様?さっきまで、ホッとした優しげな表情だったのに、今は何故だか、憐れむ様な残念な子を見るような顔してますよ?あ!ジョゼフまで!
唯一、ウィルだけは「ああ…いつものお嬢様だ…!」って言いながらハンカチ片手に目を潤ませていたけど。…なんか複雑。
「あ…あの、オルセン様。エレノアお嬢様は大丈夫なのでしょうか…?」
おずおずと、心配そうな顔でクライヴ兄様に声をかけるのは…あ!ミアさんだった!思わず耳だけに意識が集中していて気が付かなかったよ、御免ねミアさん。
「ああ、気にするな。むしろこれが、こいつの通常仕様だ。問題はない」
「は、はぁ…?」
…言い切りましたね兄様。ってかミアさん、めっちゃ戸惑い気味ですよ。
いやまぁ確かに。いきなりご令嬢がヘラヘラしながら、モフモフだのなんだの言ってれば、おかしくなったのかと思うよね。普通。
「あの戦いで、お前は酷い怪我を負っていたからな。公爵家に戻るより、すぐ傍の王宮で聖女様に治してもらった方が早いってアシュル…いや、王太子殿下に言われてな。緊急事態だったのは本当だし、オリヴァーもやむなく、お前をここに運び入れるのを同意したんだ」
な、成程…。
「お嬢様。お嬢様はあの後、二週間意識不明の状態だったのですよ」
ジョゼフの言葉に、私は目を丸くする。
「え…に…しゅうかん…も?」
「はい。傷の方は全て完治していたのですが…。聖女様の見立てでは、蓄積した疲労と『妖術』で負った傷の後遺症であろう…との事でした」
成程、そうだったんだ。
ちなみに、私がいるこの部屋は、王宮の中でも王族や、王族に許可された者のみが立ち入る事を許されるプライベートスペースの中にあるんだそうだ。
なんでも、聖女様が私を癒している間の警備の関係上、そうなったのだそうだけど、クライヴ兄様曰く「それ、ぜってー建前だから!」…だって。
なんせ、王族のプライベートスペースゆえに、ただの婚約者であるセドリックは元より、筆頭婚約者であるオリヴァー兄様でさえも、ここに立ち入る事は許可されず、専従執事であるクライヴ兄様だけが、その身分を盾にごり押しし、どうにか私の傍にいられている状態なんだそうな。
…あれ?じゃあなんで、ここにジョゼフやウィルがいるのかな?
「ジョゼフは、この王宮にほぼ泊まり込みで事後処理にあたっている公爵様に、毎日何かしら届け物をするついで…って名目で、こちらに来てくれてるんだ。…それで、ウィルの方は…」
「私はエレノアお嬢様の直属の召使!お嬢様のいらっしゃる所が、私の在るべき場所です!!」
鼻息荒く、そう言い切ったウィルを、何故かクライヴ兄様とジョゼフが半目で見つめている。
理由を聞いてみれば、クライヴ兄様が「だーかーら!お前は連れていけねぇんだ!大人しく待ってろ!」と何度言っても、先程と同じ様な台詞をのたまいながら、必死にクライヴ兄様の足に取りすがったとの事。
邪険に振り解こうが、仕方が無く鉄拳制裁しようが、アンデットのごとくに復活し、また取りすがられを繰り返し、遂にクライヴ兄様の方が根負けし、ウィルも連れて
「…まぁ、こいつ。お前が小さい頃からずっと、お前の面倒を見ていたからな。一人ぐらいは身の回りの世話をする奴が必要だろうと、訳を聞いたアシュ…いや、王太子殿下が口をきいてくれたんだ。…尤も聖女様が彼女らをお前に付けて下さったから、俺もこいつも、殆ど見守りだけやっていたって感じだがな」
「そうなんです!…お嬢様のお世話は、私の専売特許なのに…」
そう言いながら、ウィルがなんとも恨めしそうな顔を向けた先には、ミアさんを筆頭に草食系獣人のメイドさん達がズラリと立っていた。
…ウィルさんや…。お株を奪われて悔しい気持ちは分かりますが、そんな所で対抗意識を燃やさないで下さい。君もレディーファースターなアルバの男でしょ?ほら、スマイル、スマイル!
――…なんて思っていたら、なんとウィル。強い視線に戸惑い、ピルピルしているミアさんのうさ耳を見て、うっかり顔が和んでほんわかしていた。
ちなみに、そうなる迄の時間はおよそ15秒…。
「全く…。あのヘタレめが…」
ジョゼフがボソリと呟いていた台詞は、聞かなかった事にしよう。うん。
=================
久々の、エレノアと愉快な仲間達的なお話で御座います(^O^)
なんか「帰って来た!」って感じにホッとしますねv
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます