第348話 目玉ポーン
「まあ、それは痛い前例として……エレノア。君には僕達が、最高に相応しい装いをプレゼントしてあげるからね」
オリヴァー兄様のお言葉に、クライヴ兄様やセドリック、そしてディーさんやリアムも力強く頷いている。……というより兄様。しれっとご令嬢方をディスりましたね?
ちなみにオリヴァー兄様は、私と一緒に二人掛けのソファーにちゃっかり座っている。他の人達が何も言わない所をみると、これってやっぱり筆頭婚約者の特権なんだろうな。
それはともかくとして……。
「はい!皆様、有難う御座います!」
私は皆に満面の笑みを浮かべながらお礼を言った。
普段は食い気が先に立つけど、私だとて女子の端くれ。愛する婚約者達が全力で美しく盛ってくれるというならば、しっかりとそれに乗っかろうではないか。
まあ……。その際に発生するであろう莫大な費用は……うん。敢えて見ざる聞かざる言わざるを貫こう。
「どんな装飾になるのかな?」と、ちょっとワクワク顔をしている私を見て、オリヴァー兄様と他の皆が揃って嬉しそうにしている。多分、顔には出さないけど、私の反応を気にしていたんだろうな。
「ふふ、楽しみにしていてね。僕らの愛しいお姫様」
オリヴァー兄様が、蕩けそうな笑顔を浮かべながら私の唇にキスを落す。
思わずボフンと真っ赤になりながら、安定の挙動不審者と化してしまった私を見つめるオリヴァー兄様が笑みを深める。……くっ!一番近くに居る人が、一番目潰し力が高いって卑怯だよね!?
「ああ、そうそう。殿下方は正式な婚約者になったとはいえ、その事はまだ公には出来ないのですから、貴方がたの『色』は必要最小限にさせて頂きます。そこの所、ご了承下さい」
「了承できるか!!……と、言いたいところだが、確かにまだ公にするのはヤバイからな。しゃーねぇか」
「そうですね。非常に残念ですが、仕方がありませんね」
言葉の通り、ディーさんとリアムがめっちゃ残念そうな表情を浮かべている。
でも確かに今現在、私の婚約者って、オリヴァー兄様、クライヴ兄様、セドリックの三名だけって事になっているからね。
なのによりにもよって、デビュタントのドレスに殿下達の色を纏ってしまったら、メイデン母様達がせっせとばらまいている殿下方との『噂』が『真実』として広まってしまいかねない。だからこそ、ディーさんやリアムは渋々ながら、アッサリ納得したのだろう。
「そうだなぁ……。まずは『海の黒』をベースにした髪飾りを作ろうか。ネックレス等の装飾品は、君とセドリックの色である、インペリアルトパーズや琥珀を使って……。ドレスの元々の色はクライヴの色だけど、下品にならない程度に、『海の白』も散りばめよう。殿下方の色は、装飾品のアクセント部分に使うというのはどうでしょうか?」
オリヴァー兄様の装飾についての案を、クライヴ兄様やセドリック、そして殿下方も異議を唱える事なく耳を傾けていた。
やっぱりこういった事を決める権利って、筆頭婚約者にあるんだろうな。オリヴァー兄様が筆頭婚約者の座に固執していたのがよく分かる。
とは言うものの、こうやって婚約者達が頑張って色々決めてたとしても、女性側が「そんなの嫌」って言っちゃえば、簡単に覆っちゃうんだろうけど。アルバ女子って基本、相手よりも自分の好みが一番大事だからね。
でも何となくだけど、世の男性達もそれを熟知していて、デビュタントの装いでその女性のなんたるかを色々推し量っているのかもしれない。
元々デビュタントって、貴族や有力者同士の壮大なお見合いパーティーの意味合いがあった筈だしね。
……それにしても『海の白』じゃなくて、『海の黒』って……?
オリヴァー兄様が最初に口にした耳慣れない宝石の名前に、一瞬首を傾げる。だがすぐに、「ああ、黒真珠の事か!」と気が付いた。
ってか、『海の白』も凄い高価なのに、更に貴重な黒真珠を使うって、本当にどんだけ費用がかかるんだろう。しかもそれだけじゃなくて、他にも色々な宝石を使うんだし、真面目にいつも作っているドレスの何十倍もの費用がかかりそうだな。
「ああ、まあそれでいいが……。俺達の色とお前らの色を入れるとなると、かなりの色数になるから、バランスを取るのが大変そうだな」
ディーさんが、珍しく真面目な顔をしながら、そう指摘する。う~ん……。確かに。
白・黒・茶・金・赤・黒……いや、緑?それに青か……。これ全て使うとなると、下手するとシャンデリアドレスよりもカオスな事になりそうだ。
「そうですね……。では、髪飾りに使う宝石を全て宝石の花にしてはいかがでしょうか?」
「おっ!?いいな、それ!だったら割と俺らの色も使ってもらえそうだしな!」
「ほ……宝石の……花ー!?」
ち、ちょっと待って下さい、オリヴァー兄様にディーさん!
花の形にするぐらいデカい原石ってどんだけするんですか!?ってか、今からそれ作ろうとして、宝石も職人も間に合いませんよね!?
「お嬢様、ご安心下さい。このような事もあろうかと、バッシュ公爵家ではあらゆる宝石の原石を収集して御座います。どれも子供の拳大程も御座いますゆえ、いかような加工も対応可能かと」
すかさず、イーサンが言葉を挟んでくる。って、え!?こ、子供の拳大サイズって……あんた!!
「また、とびきりの職人達も既に招集しております。今から突貫で作らせれば、デビュタントには十分間に合いますでしょう」
メガネフレームを指クイしたイーサンの目がキラリと光った。表情も、どことなくドヤ顔だ。有能家令の面目躍如って感じですね、流石です。
――って、違うよイーサン!私が心配してるのそこじゃない!
ありとあらゆる原石って、本当に一体、どんだけ金かけてんですか!?しかも宝石で作った花って、どんだけ重量あるの!?そんなん髪に飾ったりしたら、重さで首痛めちゃいませんか!?
それに、とびきりの職人達もだよ!こんな急に、腕利きの職人を領地に呼べるもんなの!?
……え?職人全員ドワーフ?報酬の他に、うちの領地でしか作れない秘蔵のワイン、十年間飲み放題を約束したら、すっ飛んできた?……さ、流石はドワーフ。報酬よりも酒ですか!果物まっしぐらのワーズと被るなぁ……。
「ちなみに。急を要しました為、ドレスやその他の用意はバッシュ公爵家でさせて頂きましたが、これらにかかった費用は、ご婚約者様方で分担となります」
私の顔を見て、費用の事を気にしているのが分かっちゃったんだろう。イーサンがフォローのつもりか、そう補足してくれた。
……いや、クロス伯爵家、オルセン子爵家、王家で割ったとしても、凄い額だと思うよ?小市民な私としては、かかった金額を聞くのが今から恐い!
「エレノアちゃん、これしきの事で負けちゃダメよ!アルバ男の女性に対する執念は、こんなもんじゃないんだからね?こんなの、まだまだ序の口よ!」
「じ、序の口……ですか!?」
「ええ。私の時なんて……ああ、デビュタントじゃなくて結婚式の事なんだけどね。私は白一択って言ったのに、アイゼイア達がいかに自分の色を多く私に纏わせるかで揉めちゃって、あやうく王宮が半壊しかけちゃったのよ……!」
うわぁ……!王宮半壊ってどんだけですか!?国王陛下方、真面目に愛が半端ない!!
「仕方がないから、結婚式のドレスはアイゼイアの色をベースにして、披露宴では三回もドレスを変える羽目になっちゃったのよ……」
アリアさんが、遠い目をしながら、そう語ってくれる。つ、つまり、全員の色のドレスを着る羽目になっちゃったんですね。なんて気の毒なんだ、アリアさん。
「た、大変でしたね。(同情します)『あっちの国』でも、お色直しの文化がありましたけど、普通は一回だし……」
「そうよ!三回なんて、もし『あっち』でやったとしたら、正しく狂気の沙汰よ!?」
ええ、確かに。招待客も目玉ポーンでしょうね。
================
アルバ男の愛の重さで、首を痛めないか心配なエレノアです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます