第495話 ヴァンドーム公爵夫人、登場!

開かれた扉の先。そこに待ち受けていたのは……。


私達の姿を見るなり、極上の笑みを浮かべたヴァンドーム公爵様。そして、キラッキラの笑顔を浮かべているアーウィン様、クリフォード様、ベネディクト君だった。


「――ッくっ!!」


――……誰か……っ!誰か私に、遮光眼鏡をください……っっ!!


「リアム殿下、我がヴァンドーム公爵家の宴にようこそお越しくださいました。どうぞ今宵は、存分に楽しんでいってくださいませ」


「ああ、ヴァンドーム公爵。その心遣いともてなしに、心より感謝する」


「御意。勿体なきお言葉に御座います」


リアムの言葉に対し、アーウィン様方共々貴族の礼を執る公爵様。お召しになられている濃紺をベースにした貴族の礼服が、服越しでも分かる屈強な体躯にジャストフィットして、その魅力を存分に引き立てております!


それにしてもリアム……。流石は王族!こういう時はビシッとキメるよね、カッコいい!


「そしてエレノア・バッシュ公爵令嬢並びに、オリヴァー・クロス伯爵令息、セドリック・クロス伯爵令息、クライヴ・オルセン子爵令息。今宵は我がヴァンドーム公爵家の誇るあらゆる海の幸を沢山用意したから、存分に堪能してくれたまえ!」


そう言いながら、親しみのこもった笑顔を私達へと向ける、超絶美形軍団のラスボス……。


くうっ……!!ご、極上のイケオジによる目潰し攻撃が……っ!!って、いかん!まだ序盤戦にも入ってないのに、こんなところで躓いて(負けて)なるものか!!


「ヴァンドーム公爵様。今宵は私共の為に、歓待の席を設けて頂きました事、我がバッシュ公爵家を代表し、心からの感謝を述べさせて頂きます」


ここで気合一発、渾身のカーテシーをご披露する。……公爵様。今回はなるべく早く、お声がけ下さいね!


「エレノア嬢、そのように畏まらずとも良い。さあ、顔を上げて。君と私達との仲ではないか。今宵は私の息子達に最上級のもてなしをさせるつもりだから、存分に楽しんでいってほしい」


「あ、有難う御座います!」


すぐにお声がけをされ、ホッとしながら身体を起こすと、真横と背後から「おい、ちょっと待て!なんの仲だと!?」「息子達のもてなし……!?」「そんなん要らん!!」……なんて、めっちゃやばいセリフが聞こえてくる。


ち、ちょっ!リアムはともかく、兄様方にセドリック!不敬!不敬ですから!!ほらー!公爵様の額にでっかい青筋が立ってる!!


「エレノア嬢」


……はっ!?えっ!?ア、アーウィン様が目の前に立って、私の手を取っている……だと!?い、いつの間に!?流石は三大公爵家直系、行動早っ!!


「美しい……。まるで薄暗い海底に差し込む一筋の光に照らされ眠る、海の白の化身のごとき輝き。その尊さに目が眩んだ愚かな男に、どうぞご慈悲をお与え下さい」


そう言うと、アーウィン様は私の手の甲に口づけをする……直前で止める。

未婚の淑女に対するご挨拶の一環だけど、私の思考はものの見事にフリーズした。


『ううっ!』


さ、流石はアーウィン様!公爵様に続く第二の刺客として、私の目と精神を潰しにきましたか!?


私の真横と背後から噴き上がった暗黒オーラもなんのその。にこやかに微笑を浮かべ、堂々と私の前に立つそのお姿は、「流石は三大公爵家直系!」と、拍手喝采を送るレベルのものであった。


船長服のコスプレや、普通の貴族服でも物凄く恰好良かったのに……。御父上様と同じく、濃紺をベースにした極上の礼服でバシッと決めたそのお姿。身体のラインが綺麗に出る仕様なのは、ご自身のセールスポイントを熟知しているが故の暴挙でしょうか!?流石は魅惑のシックスパックを持つお方!!完敗です!!


脳内実況中継を行い、真っ赤になりながらあうあうしている私に、アーウィン様は茶目っ気たっぷりにウィンクを送るという暴挙に打って出た。なんという鬼畜な所業!あんたは鬼だ!!


続けて、これまた極上の笑顔を浮かべたクリフォード様が前に歩み出る。そしてアーウィン様と同じように、恭しく私の手を取った。


「エレノア嬢。今宵の貴女は夜の海を明るく照らし、人々の旅路を優しく見守る月の精霊のようだ。その御心を持って、私にもどうぞ、兄同様慈悲をお与え下さいませ」


『くうっ!!』


流れるような美辞麗句を述べた後、アーウィン様同様、私の手の甲に口づけをするフリをするクリフォード様。


冴え渡る月光のごとき美貌がうっすらと赤く染まり、片眼鏡モノクルの奥のエメラルドグリーンとコバルトブルーが溶け合ったような不思議な色合いの瞳が熱を帯びたように潤む。

更に、瞳の色を基調とした貴族の礼服が、スレンダーボディにこれまたジャストフィットしております!


でも海の男だもん。きっと脱いだら凄い……って、やめろ!私の中のお腐れ沼!!

現実逃避をするんじゃない!!オリヴァー兄様に「色々頑張れ」って言われたのを忘れたのか!?


バッシュ公爵家直系の娘として、この場をたった一人で切り抜けねばならず、いつものクライヴ兄様のツッコミが期待できない今、頼れるのは自身の精神力のみ!耐えろ!私の鼻腔内毛細血管!!


――それしてもだ!


アルバの男達ってどうしてこう、美辞麗句を口にしないと気が済まないんだ!?やっぱりそれをしないと死ぬ病に罹っているんですか!?呪いか!?呪いなのか!?女神様、今こそ貴女様の出番です!お願い、助けてー!!


「エレノア嬢……」


ああっ!なんて己に気合(?)を入れてたら、いつの間にかクリフォード様がベネディクト君に代わってた!!


「あの……。凄く素敵です!!どのような服を召されていても愛らしいですが、今宵の貴女はまるで、女神様のようです!」


『うぐっ!!』


私の手を、何故か両手で包むようにしながら、初々しい恥じらいを全開にするベネディクト君。その直球な誉め言葉と尊い絵面に、私の顔からボフンと火が噴く。……私の顔面、もはや赤色に染まったまま戻らなかったりして……。


ベネディクト君の礼服。彼に合わせた若々しさを前面に出しているけど、お父様である公爵様と似たような仕様となっている。……というより、ほぼお揃いですね。ご家族様の溺愛っぷりが分かります。そしてとても良く似合っている!!


そういえばシーヴァー様を除いたご兄弟全員公爵様似だけど、その中で一番公爵様に似ているのがベネディクト君なんだよね。

こんな破壊力メガトン級の美少年(美幼年)だったら、奥方様もそりゃあ一目惚れする訳だよ!


『くっ……!う、美しさの供給過多による、動悸息切れ眩暈が……!!』


――誰か……だれか私に救●を……!!


そんな切実な心の叫びを上げながら、真っ赤な顔でクルクル目を回している私。背後の凄まじいばかりの暗黒オーラが、私の正気を辛うじて保ってくれている。


「ふふ……。貴方達ってば、聞いていた以上にそちらのお嬢さんに夢中なのね」


――はっ!?え?誰!?


突然耳に、鈴の音のような美しい声が聞こえてきた。


「それに、アルロに聞いていたよりも、ずっと魅力的なお嬢さんだわ!」


「そうだろう、リュエンヌ」


「「「「「母上!」」」」」


――えっ!?


母上……って事は、ひょっとして奥方様!?……えっ!?で、でもどこに……?


声はすれども姿の見えない公爵夫人をキョロキョロと探す。


すると何故か、公爵様とご子息方の後方から、私が抱えられそうな大きさの綺麗なクリーム色をしたウミガメが、えっちらおっちらとこちらにやってくるのが見えた。


『うわぁ……!!か、可愛い!!』


その愛らしい姿に、内心激しく身悶える。え!?なんですか!?ひょっとしてこの亀も、ベネディクト君のペット!?


……はっ!ま、まさか、今日の晩餐会に出す予定の食材!?いやいや、いくら食いしん坊の私でも、亀は食べませんよ!?


そんな私の内心の葛藤も知らず、ウミガメは吞気に歩を進め、私の足元に辿り着くと、グイッと首を伸ばして私と目を合わせる。


まるでサファイアをそのままはめ込んだような、その綺麗な青い瞳に魅入られていると、ウミガメは私の顔を見つめたままの状態で、まるで握手を求めるように、片手をピッと上げた。


「初めまして、可愛らしいお嬢さん。このヴァンドーム公爵領で公爵夫人兼大精霊をやっているリュエンヌです。『大地』の魔力を継承する女神の愛し子よ。貴女とは末永く仲良くしたいものだわ」


「……へ……?」


ウミガメから発せられた、綺麗な女性の声。その信じられない光景に、私の脳内はビシリとフリーズしたのだった。



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遂に奥方様登場!しかも、まさかの人外登場です!(゜д゜)!

そして『救●』とは、大正時代に発売された、心臓によく効くと評判の歴史ある名薬ですv

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