第529話 改めて自己紹介します
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奥方様のまさかのスピード復活に加え、ヴァンドーム公爵家兄弟の突然のプロポーズにてんやわんやとなってしまってから暫くして。
着の身着のままの状態で寝ていた事もあり、私は一人で(ここ大事!)入浴を済ませ、シャノンによって華美過ぎない程度にドレスアップされた後、兄様達やリアム達と一緒に奥方様から招待された昼食会の会場へと向かっていた。
そうそう!余談ですが、入浴の際に利用した大浴場なんだけど、なんと!例の温泉魚達がしっかり戻っておりました!……というかあんたら、どうやって戻って来たのだ!?……え?『そんな野暮な事は聞いちゃいけやせんぜ!』だと?ちょっと何を言っているのか分からない!
そして水中花の中に、しっかりペンペンが揺らめいていたんだけど、いつの間にかタンポポまでもが咲いていたのは何故なのだろうか?
はっ!ま、まさか!!今までのあれやこれやで綿毛になって逃げた連中が、ここに根を下ろした……とでもいうのか!?
……確実にヴァンドーム公爵家がペンポポに蝕まれつつある。気が付かれる前になんとかしなくては。
そういえば、赤子になってしまったキーラ様なんだけど、どうにか元に戻る方法はないのかと、ヴァンドーム公爵様やアシュル様方がアリアさんとメル父様に診てもらう為、一緒に王宮へと連れて行ったんだそうです。
その際、護衛役としてマテオが同行したらしいんだけど、彼が赤ん坊を抱いて行く事になったらしく、素でワタワタオロオロしていたそうな。……くっ!見たかった!!
「……いいかい?エレノア。これから先、このヴァンドーム公爵領にいる間は、絶対に一人にならないように!!必ず僕達の誰かと一緒に行動するんだよ!?」
「は、はいっ!オリヴァー兄様!!」
「あの兄弟達と直に話すのも禁止な!何か話す事があったら、俺達に言え。代弁する!」
「ク、クライヴ兄様……」
それって、どこのやんごとなきおひい様なんですか!?
「エレノア、目を合わせたりしても駄目だよ!?君ってば絶対石化しちゃうから!」
「そうだな!それに石化するだけじゃない。頭ン中も弾けちまうしな!」
「ちょっ!セドリック!?それにリアムまで!!」
なんだか皆、言いたい放題ですね!?……まあ、それもこれも私が、みすみすアーウィン様方にしてやられ、挑戦権を与える事になってしまったから、仕方がないんだけど……。
あのヴァンドーム家の公開プロポーズの後、オリヴァー兄様は「エレノアの支度がありますから!!」と言い放ち、奥方様やアーウィン様方を部屋から追い出した。流石は不敬の申し子。アイザック父様に怒られてしょぼくれていたのが嘘のようです。
そして、もの凄いお仕置きをされるのかと戦々恐々した私だったが、意外にもそういった事は一切なかった。
理由はと言えば、「絶対、こういう展開になる事は分かっていたから」なんだそうです。でも奇跡が起こって、私が「スパッとお断り出来たらいいなー」とも思っていたんだそうな。……済みません。奇跡を起こせなくて、本当に申し訳ない。
にしてもあの紳士協定。あれって男性が平等に女性の愛を得る為……というより、アルバの肉食女子達が「婚約者や恋人達に邪魔されずに、一人でも多くの上玉をゲット出来るようにしたい!」という思いから取り決められたような気がするのは、私の気の所為なんでしょうかね?
あっ!兄様達が無言で頷いた!や、やっぱりそうなんですね!?そして相変わらず私の心の声をバッチリ読みますよね!やめて頂けませんか、それ!?
「ああ、それとセドリックはリアム殿下と。クライヴはディラン殿下と組むようにね」
「ああ、そうだな!相手は三大公爵家だ。王族の俺らと組んでいた方が身分負けしねぇもんな!」
「いえ、ディラン殿下。貴方の場合、クライヴと組ませるのは現状悪化を防ぐ為の措置です」
「てめぇ!!とことん失礼な奴だなー!!」
あっ!ディーさんがブチ切れた!
まあ、ディーさんってば、私が海底神殿に行っている間にアーウィン様方に誘導されて、「実は自分達も婚約者でした」ってバラしちゃったらしくて、オリヴァー兄様とアシュル様が激おこだったからなぁ……。
しかも、その事をクライヴ兄様に聞いたアシュル様に、「お前、婚約者外すから」って、実に良い笑顔で告げられていた。うん、事実上の死刑宣告ですね。
その事を話してくれたディーさん、「な、なぁ……エル。お前は俺を見捨てねぇよな?」って言いながら涙目になっていたっけ。大丈夫です、見捨てません!
『それにしても……。やっぱりあちこち被害が出ていたんだなぁ』
ヴァンドーム公爵家の執事に先導され、歩く道すがら、マロウ先生の襲撃だけではなく、奥方様の魔力暴走の余波で、ヴァンドーム公爵家本邸のあちらこちらが崩れたり穴が空いたりしているのを目にする。
まあでも、どこもあの夕食会の会場みたいに完膚なきまでに破壊されてしまったわけではなかったうえに、崩れてしまった箇所の殆どが外壁部分だったってところは不幸中の幸いだったね。私達が泊まっている場所も、殆ど無傷だったみたいだし。
『あれ?ここって……!』
そして到着したのは、ここに来て初めてヴァンドーム公爵家御一行様と会談した、あの開放感溢れる南国風サロンだった。
「いらっしゃい、エレノアちゃん!そしてエレノアちゃんの婚約者の方々!」
私達を出迎えてくれたのは、先程ぶりの奥方様とヴァンドーム公爵家御兄弟様方だった。……ううっ!海の一族、青い輝きが眩しい!!
私はカーテシーを、兄様達は貴族の礼を。リアムとディーさんは王族なので、軽く頷くのみで挨拶をする。
「エレノア嬢、貴女はいつ何時、どんな装いをしても麗しいですね。……ただまぁ、ここの気候に黒はちょっといただけないというか……。暑くないですか?」
アーウィン様の蕩けそうな嬉しそうな笑顔が、私のドレスの色を見るなり引き攣り笑顔になった。クリフォード様方もジト目になっている。……まあ、そうだよね。
私の今の装いですが、実はジョナネェが敢えて避けて作らなかったオリヴァー兄様の色……すなわち『黒』いドレスを身に纏っているのだ。ええ、そりゃあこういう反応になりますよね。ちなみにしっかり暑いです。
ってか兄様、あれだけジョナネェに釘を刺されたってのに、私の衣装ケースの中に黒いドレスを紛れ込ませるなんて……え?姫騎士の衣装をフィン様に持ってこさせる時に、ついでにこのドレスも持ってこさせた?マジですか!?
へぇ~!よくフィン様、素直に持って来たな……って、緑色のドレスも一緒に持ってきていいって言ったら喜んで持ってきた?フィン様、貴方って人は……。
そして以前、苔ノアが鎮座していた重厚な大理石のテーブルの上には、苔ノアの代わりに目も眩まんばかりの海鮮尽くしのご馳走の山が置かれていた。ふぉぉっ!テンションが上がる!!
「……エレノア?」
私をエスコートしてくれていたオリヴァー兄様の影のかかった笑顔に、シャキーンと姿勢を正す。はいっ!理性を無くす事はけっして致しません!!
「エレノアちゃん、実はね。食事の前に貴女に会わせたい人がいるのよ」
「え?」
私に会わせたい人……?
奥方様の言葉に首を傾げていると、柱の影から遠慮がちに一人の男性が現れ、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「あ……貴方は……!!」
その人物を目にした瞬間、思わず声をあげてしまった。兄様達やリアム達からは、驚きと同時に、僅かに警戒するような気配を感じる。
「……あの……。改めて自己紹介させて頂きます。ヘイスティングと申します。このたびは色々と……ご迷惑おかけいたしました!!」
貴族の礼ではなく、ペコリとほぼ九十度の角度でお辞儀をした後顔を上げ、眉を八の字にしながら困ったように笑うその人は……。
マルスによって身体を乗っ取られていた、私の同胞とも言える人……。そう、『転生者』であるヘイスティングさんだった。
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クライヴ兄様、そしてウィル。今こそ『人間冷風機』の出番です!
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