第530話 ヘイスティングさんの前世と今世

お待たせいたしました、更新再開です!



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「まずは、この場で皆様に謝罪をさせて頂きます。今迄本当に申し訳ございませんでした!」


そう言うなり、ヘイスティングさんは私達の前で正座をすると、「土下座はかくあるべきもの」と絶賛したくなるほど、綺麗な土下座を披露した。


「ヘ、ヘイスティングさん!!ちょっ!や、止めてください!!」


私は慌てて、土下座をしたままのヘイスティングさんに駆け寄り、土下座を止めてもらうよう必死に説得する。当然というか私だけではなく、兄様達やリアム、ディーさんも目に見えて慌てている。


そりゃそうだよね。


兄様達、私の九十度のお辞儀を見た時も度肝を抜かれていたし(女性が……というより、そんな直角的なお辞儀はこの世界に存在しなかったらしい)。


身分が上の人間に対して、平身低頭で詫びる土下座に近いものはあるけれど、こんなに流れるように美しい様式の土下座なんてものは、当然この世界に存在しない。それをいきなり目の前でされてしまったら驚くよね。


でもこれで確信した。ヘイスティングさん……貴方、前世『日本人』でしたね!?しかもその美しい所作。さぞや土下座しなれていたと推測します(失礼で済みません)。


「ヘイスティングさん、本当にもう顔を上げてください。貴方は他の人達同様、帝国による被害者です。それに、私が正しく力を使えるようになったのは、貴方が必死にマルスに抗い、道を指し示してくださったおかげなんですよ!?」


そう、あの時もしこの人がヒントを与えてくれていなければ、今こうして互いに無事でいられなかったかもしれないのだ。


「だから感謝こそすれ、謝られるような事なんてないんですよ?」


「バッシュ公爵令嬢……!!」


やっと顔を上げたヘイスティングさんの目は、涙で濡れていた。


そして中身が違うと、ここまで見た目も変わるのか!?とばかりに、ヘイスティングさんは穏やかそうで優し気なイケメン(この世界ではフツメン)に変貌していた。


う~ん……。やっぱり人間、中身が一番大事って事なんだね!あ、でもアルバ王国だけかもしれないけどこの世界、見た目と中身が直結している人が多いような気がします(帝国の王侯貴族は多分違うと思うけど!)。


「さあさあ、エレノアちゃんもこう言っているんだからね、ヘイスティング。もう謝ったり地面に這いつくばったりしないで頂戴。それに貴方は『転生者』であり、『女神様の愛し子』なのだから」


「大精霊様……!!」


あっ!ヘイスティングさんの涙腺が決壊した!!


ウィルが慌てて、タオルをヘイスティングさんに渡す(どこに持っていたの!?)。


そして聞いたところによればヘイスティングさん、今回一番自分によって迷惑をかけられてしまったヴァンドーム公爵家の皆様方の前で、延々とお詫びの言葉と土下座を繰り返していたんだそうだ。

奥方様やアーウィン様方が「もういいから!!」と言っても止めなかったそうで、正直困り果てていたのだとか。


「……ヘイスティングさん。あんまり謝り過ぎても、却ってご迷惑になりますから止めましょう。ね?」


「うう……。そ、そうですね……。グスッ。つ、つい……。で、でも、切腹は流石にご迷惑かと思い止まったんですが……」


うん、思い止まってくれて良かった!奥方様方や兄様達も引き攣り笑いを浮かべている。ってか貴方切腹って!いったいどこの時代から転生してきたんですか!?


「ヘイスティング殿、エレノアの言う通りです。今の貴方とその真摯な態度を見て、責めるような者はこの場に誰一人おりません。さぁ、どうか立ってください」


そう言いながら、オリヴァー兄様が極上の笑顔を浮かべながら手を差し出すと、ヘイスティングさんは「ヴッ!!」と呻きながら再び蹲ってしまった。


「――……ッ!な、なんという顔面凶器……!!こ、ここは誰もが眩し過ぎて……辛い!!」


「――ッ!!ヘ、ヘイスティングさん……!?」


やはり……。貴方もそうでしたか!!


「分かります!分かりますよ、その気持ち!!」


「バ、バッシュ公爵令嬢……!!まさか……貴女も!?」


「はいっ!!」


目をシバシバさせたヘイスティングさん。そして万感の思いを込め、力一杯頷く私。


たった今、二人の心は一つとなった。


「やっぱり!!私の思い違いではなかったんですね!?この国の顔面偏差値って、すっごく異常ですよね!?」


「そうなんですよ!!私も覚醒してからこのかた、この国の顔面凶器に慣れるまでの間、どれ程の命の危機を掻い潜ってきた事か!!」


「そ、そこまで……!?いや、でもわかります!わかりみがすぎる!!よくぞここまで無事に……!!」


「いえ、全然無事ではなかったです!!でも、なんとかこうして生き永らえる事が出来ました!!」


「おめでとうございます!!」


興奮しながら語り合う私達の様子を、その場の全員が冷や汗を流しながら「転生者って一体……」って顔で見つめている(兄様達やリアム達は若干呆れ顔になっていたけど)。


そーですよ!これって、転生者あるある(でもアルバ王国限定)なんです!だからそんな目で見ないで!お願いだからそっとしておいてください!!




◇◇◇◇




そうして私達は、海鮮尽くしのご馳走がズラリと並ぶテーブルを囲むように、ソファーへと腰かけた。


勿論、私達はヴァンドーム公爵家の皆様方と対峙するように座っています。当然(?)というか、ブーイングらしきものがヴァンドーム公爵家の方から上がったが、「ホストは大人しく客をもてなせ!」という言葉を、貴族言葉のオブラートに包み、オリヴァー兄様が言い放って終了。


……いやでもその台詞、王族のリアムとディーさんが言えば角が立たないけど、仮にも伯爵令息が三大公爵家と大精霊に言っていいのかな!?


あれ?リアムが「よく言った!」と言うように頷いているし、ディーさんに至ってはサムズアップしている。


どうやら、弁の立つアシュル様がいない代わりに、オリヴァー兄様が王家の代弁をしているって体でいくらしい。……オリヴァー兄様とロイヤルズって、普段は割といがみ合っているけど、こういう時は秒で協力体制敷くよね。


でもって、ヘイスティングさんは例によって「私なんぞ……。そこの隅の床で結構です」と、私達との同席を拒否したんだけど、クライヴ兄様によって、半ば強制的に私の左横に座らせられていた。


これは『転生者』同士の方がヘイスティングさんが緊張しないだろうという、その場の全員が満場一致で配慮した結果だそうだ。

でもヘイスティングさん、自分のすぐ横にクライヴ兄様顔面凶器二号が座った事で、やっぱりめっちゃ緊張していました。


「エレノアちゃん。折角黒いドレスを着ているのだから、お洋服を気にする事なく、無礼講でお食事を堪能してちょうだい!」


「――!は、はいっ!!」


奥方様のお言葉に目を輝かせた私に対し、オリヴァー兄様とシャノンは「しまった!!」って顔になった。

私は心の中で万歳三唱しつつ、まずは……と、シーフードタルトを手に取るとガブリと口に含む。


「うわっ!魚介の濃厚なエキスとプリップリな食感、それにホワイトソースが絡んで滅茶苦茶美味しい!!」


黒いドレスという免罪符を得た私は、次々と料理を平らげていく。当然、オリヴァー兄様とクライヴ兄様、ついでにシャノンがジト目を向けてくるけど気にしない。……多分後でお説教とお仕置きが待っているかもだけど、今は全力でスルーさせていただきます!


最初は緊張していたヘイスティングさんも、給仕係の人達にサーブしてもらった海鮮料理を一口食べるなり目を輝かせ、次々と皿を空にしていく。うんうん。元日本人にとって、海鮮尽くしなんて最上級のご褒美ですもんね、分かります!


そうして、美味しい海鮮によって気持ちがほぐれたヘイスティングさんから色々聞き出したところ、ヘイスティングさん、前世では研究職の仕事に就いていたのだそうだ。しかも専門は『生物学』と『遺伝子学』


そして外国に留学する程優秀だったうえに、『興味がある事には全力投球!』がモットーだった為、心の赴くままに研究三昧を続けた結果、過労死した……らしい。


「らしい」というのは、気が付いたら帝国が属国としている最貧国で畑を耕していたからだそうだ。……ヘイスティングさん、前世はまさかのワーカホリックでしたか。


で、全体的に痩せた土地しかない農業国を前世の知識でなんとか出来ないだろうか……と、土壌改良及び穀物の品種改良をおこなった結果。

しょぼくれたクズ野菜しか採れなかったその国の国土は、物凄く美味しい野菜が採れる豊かなものへと変貌を遂げたのだとか。……ひょっとしてそれって、ヘイスティングさんの知識だけじゃなく、界渡りした際に得たスキルや女神様の加護もあったのではないだろうか。


でもそうすると、当然というか帝国がしゃしゃり出てくるわけで……。


結果、不幸にも第二皇子マルスに目をつけられたヘイスティングさんは、前世の知識で生物兵器を作る事を強要されたのだそうだ。


「国も帝国に逆らうことなく私を売り渡しました。……私の農業方法や土壌の改良法は、既に確立していましたから、私自身がいなくなっても問題がないと思ったのでしょう。尤も、逆らったところで結果は変わらなかったでしょうし、他の人達の血が流れなかっただけ良かったです」


「ヘイスティングさん……!」


――本当、帝国ってクズだな!!


でもそれ以上に、彼の母国にも物凄く腹が立つ!!彼が一生懸命国を豊かにする為に頑張ったっていうのに、誰も彼もがその結果だけ甘受するだけしておいて、功労者である彼の事はアッサリ見捨てるだなんて!!


この場にいる全員が、ヘイスティングさんの受けた仕打ちに憮然とした表情を浮かべている。オリヴァー兄様が、「ちょっと後で調べてみるか……」って呟いていたけど、それって彼を帝国に売った国の事だよね。


ヘイスティングさんの生まれ故郷だから、あんまりこういう事を言いたくはないんだけど……。彼を見捨てた天罰が、なんらかの形でくだってほしい!!


そんな訳で、ヘイスティングさんは故郷には戻れない事が判明した。オリヴァー兄様曰く、国の精査(フィン様による脳内スキャン)が終わったら、アルバ王国への難民として王家が保護をする事になるだろうとの事。


うん、男の転生者だからって粗末に使い潰すクズ国家の属国なんかに帰らなくていいですよ!前世、今世含めて苦労した分、これからはアルバ王国うちでのんびり過ごして欲しい。


ちなみにだけど、ヘイスティングさんの前世のお名前は『山田辰五郎さん』でした。渋い!


そしてあの美しい土下座は、研究実験が失敗するたび、関係各所に土下座をし、磨き抜かれた結果だそうです。


「なんというか……。転生者って、似るのかな?」とは、セドリックの言葉です。ちょっと待って!それってどういう意味!?



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エレノアクオリティー。それは、転生者あるあるとも言う……のかもしれません。(´・ω・)(・ω・`)ネー

そして、ヘイスティングさん、男性だというのにエレノアとセットにしてオリヴァー兄様が荒ぶらないところが凄い!これも転生者クオリティーですねw

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