第203話 それぞれの戦い
左右同時に切り込んだクライヴとアシュルの剣は、ブランシュが手を翳し、何も無い空間に創り上げた大剣によって防がれたのが目に入る。
そしてそれを合図に、壮絶なる斬撃が目の前で繰り広げられる。
クライヴが間合いを詰め、切り込んだのをブランシュが防ぎ、そのまま一刀両断にしようとする動きに合わせ、アシュルの刃がそれを止める。
そのわずかな隙に、刃を振り下ろそうとしたクライヴに『ユリアナの饗乱』達が一斉に襲い掛かった。
「チッ!邪魔…するなぁー!!」
クライヴの刃が、襲い掛かる男達を一閃する。
すると男達の身体が一瞬で凍り付き、そのまま粉々に砕け散った。
「アシュル!!」
クライヴはすぐさま、ブランシュと目にも止まらぬ切り合いを繰り広げているアシュルに加勢する。
打ち合う度、クライヴとアシュルの身体には無数の細かい傷が増えていく。…だがブランシュの方も、アシュルの『光』の魔力で『魔眼』の力が相殺されている為、クライヴ達同様、無数の傷を身体に受ける事となっていた。
だが、この時点でダメージはほぼ互角。
「二人がかりでも…これかよっ!!確かこいつ、俺らと数年しか歳、違わねぇよな!?」
「ふ…。経験値の差…って所かな!?こんな事なら…オルセン将軍に、何度か半殺しにされていれば…良かったよ!!」
「効果的…ではあるが、お勧めは…しねぇな!!」
互いに軽口を叩き合いながら、二人は何とか相手の隙を見つけ、切り込んでいく。その斬撃は青白い閃光となって周囲の空気を震わせる。
「す…凄い…!あれがクライヴ兄様の本気ですか…」
ハッキリ言って目を凝らして見ていても、動きの全てを捕らえる事が出来ない。
「うん、そうだよ。…そうか。エレノアはあのダンジョンでの魔物退治は見ていなかったものね」
「はい。…それにしても、アシュル殿下も凄い…!動きといい剣筋といい、クライヴ兄様と遜色ありません」
「そりゃあ剣技で言えば、アシュル殿下は僕より強いからね。クライヴを抑えての首席卒業は伊達ではないんだよ」
しかも、全属性の魔力に加え、『光』の魔力まで持ち合わせているのだ。それらを統合して戦えば、クライヴすらも凌駕するのではないだろうか。
「…さて、お喋りはここまでだな。フィンレー殿下。エレノアをお願い致します」
「承知した」
エレノアをフィンレーに託すと、オリヴァーも抜刀する。そして刀身に手を充て、己の魔力で赤く染め上げる。
それと同時に、揺らめく魔力が瞳を紅に染め、漆黒の髪も赤みを帯びていく。
「…僕はお前達が日頃戦っている魔物達よりも質が悪いぞ?そして最愛の婚約者を奪おうとしたお前達を、ただの一人として生きて帰す気は無い。覚悟するんだな。『ユリアナの饗乱』!」
その言葉と同時に、複数の男達が音も無くオリヴァーに襲い掛かってくる。
「オリヴァー兄様!」
「大丈夫だエレノア。『魔眼』で本調子ではないだろうが、あいつならあれぐらいの数、なんという事もないだろう。それよりももっと、僕の傍においで」
「は、はい!」
言われた通り、フィンレー殿下に密着するように身体を近付けると、先程まで感じていた圧が殆ど感じられなくなり、身体が驚くほど軽くなった。
「アシュル兄上の『加護』に僕の魔力が加わったからね。このまま僕の傍にいれば、苦しさはほぼ感じなくなる筈だよ」
そう言いながら、フィンレーは目の前の戦闘に目をやると、『ユリアナの饗乱』の一人がオリヴァーに切り倒される直前、エレノアの目元をそっと自分の掌で覆って見えなくする。
「フィン様?」
「君は、これ以上は見ない方が良い」
切り捨てられた男が地面に倒れ伏す音を聞き、エレノアがコクリと頷くのを確認したフィンレーは、再び目の前の戦闘に目をやった。
この『魔眼』の影響をものともせずに動く男達…。多分だが、彼らの身体には『魔眼』の影響を排除する術式が刻まれているのだろう。
『そのような高度な術式を組める者だからこそ、首都から辺境までの『転移門』を構築する事が出来た…という訳か。幸い、クロス魔導師団長が妨害してくれていたから座標がズレたが、もし辺境に逃げ込まれていたとしたら、あのパトリック・グロリスの力で潜入したとして、すぐに殺されていただろうね…」
だが見た所、オリヴァーが倒していっている『ユリアナの饗乱』を統括している男はいないようだ。
ならば彼は十中八九、再び『転移門』を構築している最中に違いない。そしてそれが終われば、エレノアを奪還し、邪魔者を殺すべく襲い掛かって来るだろう。
出来ればその前に、エレノアだけでもどこかに避難させたい所だが、『魔眼』の影響下で『転移門』を上手く作る事が出来ない。
今オリヴァーが心置きなく敵と対峙出来ているのも、自分がエレノアを完璧に守れているからだ。『転移門』を構築しようとすれば、その肝心の守りが疎かになってしまう。そうなってしまえば本末転倒である。
「全く…。もどかしいね」
この一件を無事決着させる事が出来たら、色々修行し直そう…。フィンレーは心の中でそう誓った。
一人…また一人と、オリヴァーの深紅に染まった刀剣の餌食となり、男達が切り伏せられ、倒れていく。
返り血もなく、また刀には一切の血痕が付着していない。その様はまるで、刀が敵の血を吸い、紅く輝いている様にも見える。
絶世の美貌と相まって、その姿はさながら血に飢えた魔人そのものだ。
『…まあ、ある意味『万年番狂い』って言う名の悪魔なんだけど…』
「フィンレー殿下。なにか今、失礼な事を考えてませんでしたか?」
最後の一人を倒し終えたオリヴァーが声をかけてくる。どうやら悪魔は、人の心の中を容易く読めるらしい。
「別に失礼な事は考えてないよ?」
そう。真実なのだから、失礼な事ではない。…多分。
「それよりも…。いいタイミングで出て来たね」
「そうですね。…出来れば構築前に奇襲をかけたかった所ですが…。それ程甘い相手ではなかったようです」
そう言って、改めて刀を構えたオリヴァーの目の前に、緑の髪をたなびかせた『ユリアナの饗乱』総大将。ケイレブ・ミラーが降り立った。
「…やあ、オリヴァー・クロス。やはり君が来たか。…それと王家直系…。『闇』の王子様が降臨されていたとはね。本当、あの男…。余計な事をしてくれたものだ…」
忌々し気に舌打ちをするケイレブの姿を目にした瞬間、オリヴァーの身体から凄まじい殺気が噴き上がり、深紅に染まった瞳がギラリと光った。
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親友同士のタッグと、犬猿の仲同志のタッグにより、バトル開始です!
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