第289話 剣舞の練習前の準備体操
「あの、クライヴ兄様……?」
「それじゃあエレノア、まずは俺と一緒に柔軟体操をした後、ウィルと敷地内を駆け足で周回してこい。剣舞の練習はそれからだ」
「はい!?け、剣舞!?」
剣舞!?剣舞って言いましたか!?……まさか……余興って、剣舞の披露って事!?
「ほれ、さっさと始めるぞ!」
確認と抗議をしようとした私の首根っこを掴んだクライヴ兄様は、騎士達の邪魔にならないよう、演習場の端の方へと歩きだした。
そうして「剣舞をするとはなんぞ!?」という私の疑問を無視したクライヴ兄様によって柔軟体操をこなした後、ウィルと共に本邸を一周走らされました。
……それにしても、本邸って……。分かっていたけど広い!!
割と全速力で走ったのに、戻ってきた時にはすっかり朝日が昇っておりました。
う~ん……。王都邸もバカみたいに広いと思っていたけど、本邸はそれ以上だった。途中で野生の鹿やら馬やら白鳥やらがいたんだけど、何故か彼らは私と並走して一緒に走っていた。(白鳥は飛んでいたけど)
……あの。貴方がたって、野生ですよね?
一緒にランニングした仲という事で、こっそり彼らにぺんぺん草を振る舞ったんだけど、演習場へと戻ろうとした目の端に、物凄い勢いでぺんぺん草にがっつく鹿と馬に混じって白鳥も参戦している姿が映った。……白鳥って、普通の草食べたっけ?
なんて首を傾げながら演習場へと戻ると、そこにはクリス副団長と激しく打ち合いをしているクライヴ兄様の姿があった。
近衛騎士様方も、バッシュ公爵家の騎士達……今はネッド達と実戦さながらの打ち合いをしている。……って、なんかあちらこちらに呻き声をあげて転がっている騎士達がいるんですが……。あ、よく見たら、さっきクリス副団長と揉めていた騎士達だ。
「お嬢様。少々お待ち下さい」
そう言ってウィルが、いつの間にやら待機していたミアさんと共に、木陰へと素早く移動する。
『あーっ!!ふ、二人ってば逢引!?』なんて一瞬ワクテカしてしまったが、ミアさんはすぐに木陰から出てきました。残念!
「お待たせしました、エレノアお嬢様!」
そう言って出て来たウィルの姿は……なんとビックリ!騎士服を着てました。しかもあれって、クロス伯爵家の騎士服ですね!?
バッシュ公爵家の騎士服は緑色がベースだけど、クロス伯爵家の騎士服は赤系統。多分、主家の魔力属性が火の家系だからだろうなと勝手に想像してます。それにしても……。
「ウィル!すっごく恰好良いよ!!わぁ~……!ウィルってば本当に騎士だったんだね!!」
「ウィルさん、本当に恰好いいです!」
私とミアさんの手放しの賛辞に、ウィルは顔を赤くして照れまくった。
「エレノアお嬢様、ミアさん。有難う御座います!でもここにきてクロス伯爵領の騎士服など……お恥ずかしい限りです。なんせバッシュ公爵家に来てから、騎士服を着る機会がありませんでしたので。本邸に戻りましたら、ジョゼフ様にお願いして、バッシュ公爵家の騎士服を新調したいと思います!」
いえいえ、騎士服なんて似合っていればそれで良いんですよ。それにクロス伯爵家の騎士さん達も、私の身内みたいなもんだしね。
「ではお嬢様!剣舞を練習される前に、私と少々打ち合いを致しましょう」
「あ、はいっ!」
「お嬢様。刀をどうぞ」
ミアさんが私の愛刀を恭しく差し出した。成程。ウィルが騎士服着たのって、打ち合いをする為ですか。……え?違う?良い機会だから、ついでに『騎士の忠誠』を誓うべく、ミアさんに頼んで騎士服を用意して貰ってた?お……おう。成程ね。
「勿論、騎士の忠誠をお誓いするのは、稽古が終わってからで結構です。さ、まずは基本の型からおさらいしますよ」
そう言った後、まずは互いに礼を行い抜刀。その後刀を合わせる。
ちなみにだが、バッシュ公爵家本邸の騎士達やクロス伯爵領、そして王宮の騎士達の多くは魔力を込めるのに適している上、強度も抜群な日本刀を使用している。なので当然と言うか、ウィルも日本刀を愛用しているのである。
「まいります」
おおっ!ウィルの顔つきが変わった!刀を振るう身のこなしといい、まるで別人のようだ。
打ち合いをしながら、チラリとミアさんを確認すると、顔を紅潮させながらこちらを……というよりウィルを見ている。ウサミミもめっちゃピルピルしているし、あれは……惚れたな!?
「お嬢様!集中!」
「はっ!す、済みません!!」
わーい、ウィルに怒られちゃった!……う~ん。それにしてもやっぱり、ウィルってば騎士なんだなぁ……。
普段のほやほやした穏やかウィルとのギャップが凄い。ミアさんもそれで撃ち抜かれたんだし。つまりはこれも立派なギャップ萌えってやつだね。うん、分かります。私もちょっと撃ち抜かれたよ!
そうしてウィルと打ち合いをこなし終え、互いに一礼してからクルリと振り向くと、何故か演習場中の騎士達が練習の手を止め、ジーーーッとこちらを見つめていた。
「ふふっ。皆、お嬢様の素晴らしい剣技に目が釘付けなようですね」
そう言いながら、何故かウィルがドヤ顔をしている。いや、剣技いうか、ただ打ち合いをしていただけですが……。
――ここで私は、ハッと気が付いた。そうだ!お披露目とか剣舞って、どういう事!?
「ああ、それですか?なんでも聖女様が直接、お嬢様の剣舞をご覧になりたいと仰られたとかで、急遽剣舞を舞う事が決定されたそうですよ?」
それを聞いた私は、思わずガックリと項垂れた。聖女様がお望みという事は、それを叶えるべく国王陛下あたりが父様にお願いしたのかもしれない。というより、お願いと言う名の王命が下されたって事かもしれない。
聞けばディーさんも大興奮して聖女様と一緒にはしゃいでいたらしい。ええぃ!あの似た者親子め!
「エレノア、それだけじゃねぇぞ。王都に戻ったらお前、国王陛下方やアシュル達の前でも剣舞を披露するって事になってるんだぞ」
「ええっ!?嘘!だ、誰からそんな情報を!?」
「アシュルから」
「なんでー!!?」
いつの間にか傍に来ていたクライヴ兄様の無情なお言葉に、思わず叫び声をあげてしまう。
なんでも、「アリアばかりずるい!」「ディランやリアムばかりずるい!」と、国王陛下だけでなく、王弟殿下方やアシュル様達が大ブーイングをした挙句、全員剣舞を見にバッシュ公爵領に突撃しようと計画していたらしい。
……って、あれ?という事は、私がバッシュ公爵領で剣舞を披露するのって、王命じゃなかったんだ。まあ考えてみれば、アルバの男が聖女様のご希望を叶えない訳ないもんね。
そんな訳で、いち早くその情報を掴んだワイアット宰相様に父様がお願いされ、急遽王宮でも剣舞を披露する事になったんだそうな。ワイアット宰相様……ご苦労様です。でも出来る事なら剣舞そのものを止めて欲しかった!
「なんかな、親父達も一緒になって陛下方を煽っていたらしいぞ」
なんと!まさかのメル父様とグラント父様の参戦情報!おのれ……なんて余計な事をしてくれたんだ!!いくら以前、剣舞のリクエストを断ったからって、いい大人がなにやってんですか!?
「まあ、諦めて練習しろ」
「うう……はい。でも兄様。こんなに見られていたら、集中できません」
私がそう言うと、クライヴ兄様は再び演習場の中心に戻り、騎士達に指示を与える。それに倣う様に、動きを止めていた騎士達が再び剣の打ち合いを開始した。
それを見ながら、私は深呼吸を行う。そして身体の重心を垂直に下ろすと、刀の柄に手をかけた。
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激しい運動の前には、入念なる基礎運動は欠かせません。
今回はウィルにもギャップ萌えが適用されましたね(^^)
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