第302話 馬車の中のアレコレと、牧場到着!
「エレノア……!僕の可愛いエレノア。会いたかったよ!!」
今現在馬車の中にて。私はオリヴァー兄様の容赦のない愛の嵐に翻弄された大海の中の木っ端のごとく、息も絶え絶えになっていた。
なんせ馬車が走り出した途端、オリヴァー兄様は私を膝抱っこし、思いっきり濃厚なキスをぶちかました後、熱に浮かされたかのような麗しい美貌を甘く蕩かせながら、あらん限りの愛の言葉を囁き、顔中にキスの嵐を降り注いでくれているのである。
……お陰で私のライフはゼロどころかマイナスに振り切れております。幸いなのは、ちょっとした酸欠で貧血状態になったお陰で、鼻腔内毛細血管が決壊しなかったという事であろうか。
それでもキスの合い間に、必死にクライヴ兄様に助けを(目で)求めていたのだが、クライヴ兄様が何かを言おうとする度、オリヴァー兄様の身体から凄まじい圧が噴き上がってクライヴ兄様の口を塞いでしまう。
……思うにこの圧も、私の鼻腔内毛細血管の決壊を抑えていたのかもしれないな。
だがそんな事を繰り返しているうち、強制イチャイチャを見せ付けられ続けたクライヴ兄様が遂にブチ切れた。
「……おい、オリヴァー。てめぇ……いい加減にしろや……!」
ドスの効いた声と噴き上がった冷気に、オリヴァー兄様は渋々といった体で、ようやっと私を腕の中から解放した。
「……うん。まあ、ちょっとだけ落ち着いたから、愛する婚約者とのスキンシップはここまでにしておこうか」
そんな事を言いながら(あれだけやって、ちょっとだけ!?)真っ赤になってヘロヘロ状態の私をクライヴ兄様の横に座らせると、オリヴァー兄様は優雅に足を組み、その上に軽く組んだ手を乗せると、極上とも言える微笑を浮かべた。
「それじゃあエレノア。君とクライヴが同衾する事になった経緯を説明して貰おうかな?」
先程までのオリヴァー兄様の猛攻(?)により、フワフワしていた脳内が、突然冷や水を浴びせられたかのように覚醒した。それと同時に、身体が小刻みに震え出す。
「あああ……あの……ッ!えっと……」
「オリヴァー。なんでお前がそれ知ってんのか……は、何となく分かるが、俺とエレノアはただ単に、添い寝していただけだからな!」
「うん。それは報告で知っているよ。それにもし、君がエレノアに手を出していたとしたら、あの場に着いた瞬間、獄炎をお見舞いしていたからね。……で?エレノア。なんで急にクライヴと添い寝しようなんて思った訳?」
ああっ!オリヴァー兄様のこめかみに青筋が!!笑顔が完璧なだけに、恐しさが増し増しです!
私は観念し、昨夜クライヴ兄様に添い寝をお願いした経緯を説明した。
「……ふぅん……。成程ね。つまり、エレノアはその男爵令嬢に嫉妬した……という訳なんだ」
『嫉妬』という言葉に、私の顔が真っ赤になった。
隣に座っているクライヴ兄様にチラリと視線をやれば、うっすらと頬が赤く染まっていて、表情も凄く嬉しそうだ。
「た、多分……そう……なんだと思います。で、でもそれだけじゃなくて!私、兄様方やセドリックの婚約者として、少しは自分から積極的に頑張ってみようと!」
「うん、嬉しいよ。でもそれ、僕達がいない時に頑張らなくてもいいから」
ビキリと、再び青筋を浮かべたオリヴァー兄様に、私は心の中で「ひぇぇぇ!」と悲鳴を上げた。
「……まあ。色々言いたい事もあるけど、今回は何も無かった事だしね。エレノアの情緒も微妙に育ったのはとても良い事だ。……でもクライヴ。君には後で色々……そう、色々話したい事があるから、覚悟しておいてね?」
にこやかにそう言い放たれ、ゴクリ……と、クライヴ兄様の喉が鳴った。
縋る様にオリヴァー兄様を伺えば、「大丈夫。本当にただ話しをするだけだから」と言われてしまう。
オリヴァー兄様、それ本当ですよね!?信じていますよ!?
「そうそう、エレノア。今夜は僕が君と添い寝をしてあげるよ」
「はい!?」
「慣れない場所で、一人寝は寂しいものだからね。遠慮せず、存分に甘えておくれ」
そう言って、色気たっぷりに微笑まれたオリヴァー兄様に、私はあうあうと言葉もなく、顔を赤くしたり青くしたりする。
「……お前、天井裏に、あちこちの影がわんさと付いてくるぞ?しかも時たま暗器が降ってくる。それでもいいのか?」
クライヴ兄様!?え?影が天井裏にわんさと……って、何ですかそれ!?
「う~ん……。それは鬱陶しいけど……。まあ、いざとなったら力づくで排除するから別にいいよ」
――別にいいよじゃありませんー!!兄様、力づくで排除って一体!?
「……オリヴァー。俺はお前を犯罪者にはしたくねぇ。たのむ、堪えてくれ」
スン……と表情を消したクライヴ兄様、オリヴァー兄様に肩ポンしたが、オリヴァー兄様は微笑んだまま黙っている。……オリヴァー兄様、何故微笑んだまま何も仰らないのでしょうかね!?
「うん。って事で、この話はこれで終わりにしようか」
「強制的に終わらせるな!!」
「さ、エレノア。またこっちに戻っておいで」
青筋浮かべたクライヴ兄様をガン無視し、オリヴァー兄様は自分の膝をポンポンと叩く。この流れで「いえ、今は結構です」なんて、誰が言えるだろう。
おずおずとオリヴァー兄様の膝に乗ると、オリヴァー兄様はすかさず、私の頭にキスを落した。
――に、兄様ー!!これ以上されたら、キャパオーバーで鼻腔内毛細血管が……!真面目にヤバいです!!
「そ、そういえば兄様!出かける前に、イーサンから渡されたあれ、何なんですか!?」
途端、私の頭にキスの嵐を振らせていたオリヴァー兄様の動きがピタリと止まった。
「………名刺……かな?」
え?まさか本当に名刺だったとは!
「この世界の名刺って、凄く大きいんですねぇ……」
「……まあ。名刺にも色々あるからね」
素直に感心する私に、オリヴァー兄様が曖昧に笑って答える。
そんなオリヴァー兄様を、「んな訳あるか!」といった、猜疑心溢れるジト目でクライヴ兄様が睨み付けていた事に、再びキスの嵐に晒されていた私は気付かなかった。
◇◇◇◇
「エレノアお嬢様。ようこそおいで下さいました!!」
郊外を出てから一時間程馬車に揺られ、広々とした牧草地に到着した私達は、バッシュ公爵家から委託されたという牧場主の方に挨拶をされた。
その後方には、他の従業員の方々に加え、獣人(主にウサギ獣人)の方々が、耳を思いっきりピルピルさせながらキラキラした眼差しで私達を見つめている。癒し……癒しだ!万歳!!
――というか!!しっかり小さなケモミミ達もいますよ!?
しかもロイ君位の年齢から、上は小学校高学年ぐらいまでと幅広い。それに耳の形や色も様々だ!可愛いー!!ああああっ!こ、これはテンション上がる……!!
「エレノア……?」
ヒヤリとした声に、条件反射とばかりに背筋がピンと真っすぐになった。
「興奮するのは後にして、今はちゃんとご挨拶しようね?」
微笑みの圧を受け、コクコクと頷くと、私は出迎えの方々に向かってニッコリと微笑んだ。
「皆様。バッシュ公爵家当主、アイザックの娘エレノアです。この度はお忙しい中、私の婚約者達共々、職業体験をしたいとの私の我儘を快く受け入れて下さり、有難う御座いました。皆様方はどうか、こちらを気にせずお仕事に励まれて下さい。私もこちらにご厄介になるからには、出来る限りのお手伝いをさせて頂きたく存じます」
そう言って、ドレスの端を摘まむと膝を軽く折る略式の挨拶を行う。すると、牧場主さんや従業員の皆さん方が、一斉に目を潤ませた。
「おおお……!噂通り、なんとお優しく、心の温かなお方なのか……!!」
「眩しい……!そして、尊過ぎる……!!」
「い……生きてて良かった……ッ!!」
皆さんの目から、ハラハラと涙が零れ落ちる。するとその後方にいた獣人の皆さんも、一斉に泣いたり鼻を啜ったりしていた。子供達はそんな大人達の姿を見てきょとんとしている。
「ふふっ。エレノアの人気は凄いね」
「お前、昨日なんて、これの比じゃなかったんだからな!……まあ、やらかしの方も凄かったが……」
やらかしって何ですか兄様!?あっ!ティルやクリス団長達も、うんうん頷いている!酷ッ!
と、とにかく皆さん落ち着いて!?そして噂通りって……まさか昨日の視察の話、もう広まっているんじゃないでしょうね!?だとしたら田舎ネットワーク、恐るべし!!
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オリヴァー兄様、爆発中です(*ノωノ)
クライヴ兄様とのお話し合いが気になる所……。
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