第424話 一緒に実習
カフェでのひと騒動で、デザートを食べ損なうという悲しみを体験した後。
気を取り直し、女子更衣室にて用意された姫騎士服……もとい運動着を見た瞬間、私は顔を引き攣らせた。
「クライヴ兄様。なんかこの服、前よりも豪華になっているのですが……」
特に、いらないフリフリが明らかに多すぎる。気のせいか、段々とあの『娶りの戦い』の時のコスチュームに近付いてきている気がする。
「ああ。今回はジョナサンも参加したらしいからな。無駄に気合を入れたんだろう」
ああ……。ジョナネェか……。
その名を聞いた瞬間、思わず遠い目をしてしまう。
彼……いや、彼女が介入すると、無駄に華美になったり、余計な仕掛けを加えたりするからなぁ。
ひょっとして、どこかに暗器を入れるスペースがあったりして……あったわ。
「ほれ、無駄に時間食う服なんだから、ちゃっちゃと着替えるぞ!」
「はいっ!クライヴ兄様!」
慌てて制服を脱ぎ、見せる下着(スパッツ&キャミソールタイプの下着。ちなみに「見せる下着」と口にすると、頭部鷲掴みの刑に処せられる)姿になった私は、クライヴ兄様に介助されながら、姫騎士仕様の運動着に着替えた。
それにしても本当に、フリルもそうだけど無駄なボタンが多すぎる!……そうだ!今度、ファスナーを提案してみよう。
仕組みはよく分からないけど、いつも通り絵に起こして丸投げしちゃえば、勝手に実用化してくれるよね!
ちなみにだけど、この自分で着脱が難しいドレス。ジョナネェ曰く「男が自分の手で、少しずつ相手の素肌を露わにさせるってのが、ドレスの最大の醍醐味」だそうです。成程。無駄に自分で着脱出来ない複雑さはその為なのか。
う~ん……。でもそうすると、チャーッと下ろしてパッと脱げるファスナーは、その楽しみを奪う事になるかもしれないから、折角ファスナー作っても流行らないかもしれないな。
「兄様、兄様!」
「ん?なんだエレノア?」
「クライヴ兄様は、チマチマボタンを外して脱がせるのが好きですか?それとも、チャーッと下ろしてパッと脱がせられるのが好きですか?」
「はぁっ!?い、いきなり何を言ってるんだお前は!?」
あっ!クライヴ兄様の顏が真っ赤になった!
いつもと違うクライヴ兄様の姿にギャップ萌えしながら、私は「かくかくしかじか」とファスナーについて説明をする。
「またお前は、そういう突飛なアイデアを……。まあ、俺は手早く脱がせられる方が、いいっちゃいいが……」
と言いながら、私の頭部を鷲掴んで持ちあげるクライヴ兄様。照れ隠しですか!?にしても、ちょっと痛過ぎます!ギブギブ、兄様!!
ちなみに、「ディラン殿下は、間違いなく俺と同じだろう。オリヴァーとアシュルは……ボタン派だろうな。セドリックとリアム殿下はよく分からん。自分で……いや、絶対聞くなよ!?フィンレー殿下……あの人は、そのどちらでもないかもしれない……うん」
「何ですか!?その「どちらでもない」って!?」
不穏な兄様の言葉に、思わず声をあげてしまう。
だがクライヴ兄様は、そんな私から微妙に視線を逸らした。
ちょっと兄様!?本当になんなんですか、その意味深な言葉は!?とっても気になるんですけど!?
◇◇◇◇
「お……おおっ!?」
演習場にやって来た私とセドリック、リアム、マテオは目を丸くしてしまう。
何故ならなんと!そこには同級生の三令嬢が、姫騎士ファッションよりはやや、ドレス寄りの運動着を着て演習場にスタンバイしていたからだ。
「わ、私、我が家の騎士に格闘技を師事してまいりましたの!し、淑女の嗜みですわっ!」
ゆるいウェーブの赤毛を綺麗に結い上げたシャーロット様が頬を染め、ツンとそっぽを向きながら言い放った。
……えっと……。いつの間に、淑女の嗜みに格闘技がプラスされたのかな?
他の男子生徒達もそう思っているのか、皆、シャーロット様やそれに同意し頷くエラ様とクロエ様を、汗を流しながら見つめている。
ただし、彼女らの同級生でもある婚約者達は、そんな彼女らを傍で誇らしげに見つめていた。
「頭沸いたか……?あの女達……」
マテオがボソリと呟いた言葉に、「失礼でしょ!?」と小声で注意する。が、実は私も、思わず頷いてしまいそうになっていたのは内緒だ。
ちなみにだが、エラ様は肩までで切りそろえられた、白金のサラサラストレートヘアをはしばみ色のリボンでツインテールにしているし、クロエ様は背中まで伸ばした艶やかな黒髪を、編み込みを加えた三つ編みにしている。
それを見ても、冗談やただ近くで見学したいだけではない事が分かる。つまり彼女達は本気でこの授業を受けるつもりなのだ。
「……まさか、こんな事が起こるとは……」
「姫騎士とだけでなく、女性と野外授業を受ける日が来るなんて……!俺は夢をみているのだろうか!?」
顔面偏差値が高すぎるとはいえ、そこは年頃の思春期真っ盛りな男子生徒諸君。
戸惑いつつも、(彼らにとっては)嬉しいサプライズに鼻の下を伸ばしつつ、嬉しそうに張り切りまくっていた。うん、分かるよその気持ち。
「バッシュくーん!君、彼女らの指導についてあげてー!」
マロウ先生の言葉に、「あ、はーい!」と頷くと、観客席(何故か演習場の周囲に、見学スペースが設置されていた)から、ご令嬢方のどよめきが上がった。
チラリとそちらの方を見てみると、皆で何やらヒソヒソコソコソ会話している。……はて?何を話し合っているのだろうか?
ひょっとして、教師の代役を私がする事に対して懸念しているのだろうか?まあ、確かに私もまだ未熟な学生の身ですしね。
「あの、シャーロット様、エラ様、クロエ様。僭越ながら、私が貴女様方の指導を仰せつかりました。至らぬところは多々ありましょうが、どうぞ宜しくお願い致します」
そう言って、笑顔でペコリと挨拶すると、シャーロット様達は何故か、真っ赤になってプルプルと全身を震わせている。
「よ……よ、よろしくってよっ!!が、我慢して……差し上げますわっ!!」
「せっ、先生がご指名されたのですものっ!お、お断りなんて、出来ませんしっ!」
「しっ、仕方がありません……もの、ねっ!!」
威勢よく、挙動不審にそう言い切る彼女達。
言い方はアレなんだけど、表情が百面相になっている。……これは……もしかしなくても照れ隠し?
「有難う御座います。ではまずは柔軟体操から始めましょうね」
「「「はいっ!!」」」
おおっ!見事に声がハモった。う~ん、このギャップ、凄く可愛いな。
そんな風に、にっこにっこと同級生の女生徒達と準備運動を始めたエレノアの姿を、少し離れた場所から微笑ましそうに見つめていたクライヴの後方では。
「なんですって!?姫騎士様が直々にあの子達を手取り足取り……!?」
「なんてうらやま……じゃなくて、後輩なのに抜け駆けですわ!」
「ええ、許せませんわね!!後で呼び出しですわ!」
「姫騎士との語らいから行動から、洗いざらい報告させなくては気が済みませんわ!!」
……などと、姫騎士ファンとおぼしきご令嬢方の声が聞こえてきていた。
「……変われば変わるもんだ……」
そう感慨深げに呟いた後、クライヴはエレノアの為のアイスレモンティーを作るべく、移動する。
ついでに、「早々にバテるだろう、あのご令嬢方の分も作っておいてやるか」と思い立ちながら。
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推しのする事は、自分も経験したい!と思うのが、押し活でご御座いますw
このウェーブは、いずれ他の学年にも波及する……かも?
そして、フィン様がどちら派かが気になる所……(;゜д゜)ゴクリ…
そしてジョナネェですが、多分間違いなく、紳士服にファスナー使っちゃう事でしょうv
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