第102話 ケモミミ同盟、参加者求む
「う~ん!やっぱりヒマワリ見てると元気になるなぁ!」
前世での自分は、この花が大好きだった。
華やかなのに気取らず、真夏の太陽に向かって真っすぐ元気に、ひたむきに咲く健気さ、そして雄々しさ。黄色い大輪の花々を見ているだけで元気を貰えるような、そんな気持ちになったものだ。
おまけに、花が終わった後も美味しい種が胃袋を幸せにしてくれるのだ。本当に、見て良し食べて良しの万能花!(前世の家族には「お前はそっちの方が重要なんだろう」と言われた)まさにセドリックにピッタリだ!
…なんて事をセドリックに言ったら、物凄い複雑そうな顔をされてしまった。どうやら言い方が悪かったらしい。セドリック、決して「色気より食い気」って訳じゃないからね!?あくまで種を食べるのはオマケだから、誤解しないでね!?
ちなみに今育てている花は、前世では『ミニヒマワリ』と呼ばれていた、小型で花束にするのに向いている種類。見た目は『グッドスマイル』って種類に似ている。
この、素朴そうに見えて元気な華やかさを持ち合わせる花って、まさにセドリックのイメージだよね。
私はセドリックの誕生日に満開になるよう、上手く調節しながら、ヒマワリ達に『土』の魔力を注ぎ込んでいく。その横で、ベンさんは普通サイズのヒマワリ達の選定を行っていて、こちらはもうすぐ満開って感じだ。
やっぱりさ、花束用のヒマワリも可愛くて凄く素敵なんだけど、ヒマワリと言ったら、大きいサイズのやつだよね!見てていっぱい元気な気持ちになるし、枯れた後、種が沢山採れるし、しかも食用になるし!ぴぃちゃんのエサにもなるからね!
え?普通の鳥じゃなくて使い魔なのに、エサ食べるのかって?それが食べたんだな。
主食は魔力みたいなんだけど、あげてみたら割となんでも食べるんだよね。いわばデザートのようなものなのかな?
お陰でぴぃちゃん、なんか丸々と太ってきちゃって、マテオには「魔力以外与えるな!」って怒られてしまった。
ちなみに今現在、ぴぃちゃんはというと、私の麦わら帽の天辺にちょこんととまってうたた寝している。その姿はまるで、ふくらし饅頭のようにふっくらまん丸でとても可愛い。ウィルも時たま、相好を崩しながらぴぃちゃんを指先でつついたり撫でたりしている。
ふと、ジョウロでヒマワリに水をやりながら、私はさり気ない風を装って、ベンさんにとあることを聞いてみた。
「ねえ、ベンさん。ベンさんはその…ウサギってどう思う?」
「…害獣ですね」
言葉と共に、ボトリと大きなヒマワリの蕾が地面へと落ちる。あちゃ~!やっぱり庭師にこのネタはNGだったか。
「いきなりどうしました?ああ、ひょっとしてウサギ肉をご所望ですか?でしたらこれから丸々太った生きの良いウサギを狩って来ますが?」
「い、いやっ!いいから!ウサギ肉、あまり好きじゃないし!」
慌てて首を横に振って否定する。
「おや、そうでしたか?これからウサギの繁殖シーズンですので、肉厚の丸々太ったウサギが捕れると思うのですが…。お嬢様がお嫌いならば仕方が無いですね。今年は全て市場の方へ卸す事に…」
「済みません。嘘です。ウサギ肉、大好きです!」
そう。これからの季節はベンさんの言う通り、ウサギの繁殖シーズンなのである。そしてこの広大なバッシュ公爵家の敷地内で、栄養価の高いエサ(野菜とか花とか牧草とか)を食べて肥え太ったウサギは、ベンさんの手によって連日狩られ、バッシュ公爵家の食卓にのぼる事となるのである。
ウサギ肉を使ったキャセロールやクリーム煮、それにたっぷり野菜と濃厚なクリームソースを使ったパイ…悔しい事に、どれもこれも滅茶苦茶美味しいんだこれが。
いわば旬のご馳走であるそれらを食べられなくなるのは非常に困る。と言う訳で、ウサギ肉が好きじゃないって嘘は、全力否定させて頂きました。
この世界…というか前世でも、農業に従事している人達や田舎暮らしの人達にとって、ウサギは憎き害獣なんだよね。牧場を営んでいる人達も、馬や牛がウサギの掘った穴に足を踏み入れて骨折したり転倒して怪我を負うからって、ウサギを目の敵にしているし。
ましてやこの世界、ウサギ=食肉っていう感覚が一般的なのだ。見た目の愛らしさからペットにする貴族もいたりはするんだけど、それもごく少数だしね。
私だってただ可愛いからって、狩猟を否定する事はしない。大なり小なり、私達は生き物の命を奪って、それを糧にして生きているのだから。それを「可愛いから」とか「可愛そうだから」なんて言葉で否定するのは欺瞞だと思う。
――でもまあ…『アレ』に関しては…ねぇ…。
私は再び水やりに集中しながら、とある人物の姿を脳裏に思い浮かべていた。…それはズバリ、獣人のお姫様達付きのメイドであるウサギの獣人だ。
私は前世の頃から、所謂ケモミミ大好きなケモラーで、獣人達が来ると知った時、「耳や尻尾に触らせて欲しいな」との願望を抱いていた。が、人族蔑視で横暴な獣人達の姿に、その願望は脆くも崩れ去ってしまった。
だがしかし、高飛車なのは主に肉食系獣人達で、召使としてやって来た草食系獣人達は、大人しくて可愛い人達が多かった。身分が貴族ではない所為もあると思うんだけど、人族に対しても高飛車な態度を取るでもなく、普通に腰が低いしね。
その草食系獣人達は、主にウサギ、リス、羊…それに猫といった種族が多く、その誰もがとても愛らしい容姿をしていた。
特にウサギの獣人である少女などはその最たるもので、真っ白サラサラなロングヘア、ルビーのような真っ赤な瞳。華奢な体躯…。全体的に儚げでとても愛らしい容姿をしているのである。
そして特筆すべきは、真っ白でフワフワのうさ耳!!
そのうさ耳が、ピョコピョコ動く様など、もう眼福通り越して悶絶ものである!何度こっそり近寄って「その耳触らせて下さい!」とお願いしそうになったことか。
勿論、その誘惑にかられる度に、クライヴ兄様に頭をガッシリ掴まれ、氷点下の眼差しを向けられるから、実行に及んだことはないんだけどね(無念!)
でも、そう思っているのは私だけじゃないみたいで…。
「お嬢さん。どうか貴女のお名前をお聞かせ下さい!」
「そのお仕事、私が代わりにお引き受けいたしましょう!」
「ああ…なんて可憐な…!」
…等と。私同様、うさ耳やネコ耳に魅了された男子生徒達が、隙あらば彼女らの周囲に群がり口説きまくっているのだ。
さもありなん。この国の男子達は、女性に傅く草食獣に見えて、れっきとした肉食獣。いわば紳士な獣共なのだ。
その肉食獣達が文字通り、可憐な草食獣(猫は雑食…かな?)である彼女らに射貫かれない筈が無い。
そうして自分達に猛アピールする美少年、美青年の軍団に戸惑い、うさ耳やネコ耳が、へにょっと寝てピルピル震えている姿なんかもう…!ケモラーにとって「どうもご馳走さまです!」って拝みたくなる程尊いというか…。ええ、思わず鼻腔内毛細血管が崩壊しそうになりましたとも!
そんな私の姿を、オリヴァー兄様やクライヴ兄様、そしてセドリックまでもが滅茶苦茶残念そうな眼差しで見ていたんだけど、リアル生ケモミミの魅力の前では、そんな蔑みの瞳など、どうってことないです!
でも私のそんな萌える思いは中々理解されず、一番共感してもらえそうなセドリックにすら「え?う~ん…。僕は別に…」なんてつれない事を言われてしまっているのだ。
「ねえ、ウィル。ウィルは…その…。ウサギの耳…って、見ててどう思う?」
「ウサギの耳ですか?ああ、狩猟の際、掴むのに便利ですよね!そう言えばお嬢様、御存じですか?ウサギは狩ってすぐ、内臓を処理しないとたちどころに痛むんです。だからその場ですぐ食べるならともかく、持って帰るには手間のかかる獲物なんですよねー」
――…駄目だ。ウィルも食肉としてしか見ていない。
「お嬢様?何かお悩み事ですか?」
ガックリしている私からジョウロを受け取り、代わりに水やりをしてくれているウィルが、心配そうに私の様子を伺っている。
「あ~…悩み事っていうか…」
私はついつい、みんなに理解されないケモミミへの熱き思いと尊さをウィルに語って聞かせた。
「…って訳で、誰も私の言う事に賛同してくれないの。リアムも「ふ~ん」って感じなんだよね。何でかなぁ?あんなに可愛いらしいのに…」
「お嬢様。オリヴァー様もクライヴ様もセドリック様も…勿論、リアム殿下も。誰よりも何よりもお可愛らしい方が傍にいらっしゃるから、他の者に目がいかないのですよ」
「え?」
キョトンとした私に、ウィルは優しく微笑みかける。
「私共にとりましても、今もこれからも、お嬢様以上にお可愛らしく、素晴らしい方とは巡り合う事は無いだろうと確信しております。だからその…ケモミミ…ですか?それがどのように愛らしくても、心動かされる事はありませんよ」
優しく言われた台詞に、思わぶボンッと顔が赤くなった。…ウ…ウィル…。オリヴァー兄様ばりの台詞をそんなにサラッと…!呑気そうに見えて、ウィルもしっかりこの国の男子だったんだったね。くっ!油断した!!
「え?お、お嬢様…?あの…その目は…?」
「…ううん。ウィルもしっかり、男子の嗜み受けてんだなぁ…って思って」
赤くなってしまった顔を誤魔化そうと、男子の嗜みについて口にしたのだが、ウィルは以前、男子の嗜みを初めて知った時の私がウィルにとった態度を思い出したのか、途端に青褪め、滅茶苦茶狼狽えだした。
「そ、それは…!私ぐらいの年で受けてない者は誰も…」
なんかちょっと意地悪したい気分になってしまい、火照った頬を隠す意味合いも含め、私はウィルからそっぽを向き、しゃがみ込んだ。
「えっ!?お嬢様?何でそっぽを向かれるんです!?お、お嬢様~!!」
オロオロした焦り声を背中に受けつつ、私は目についた雑草をプチプチ引っこ抜きながら溜息をついた。
――ああ…。誰か私のケモミミ同盟に参加してくれる人、いないかなぁ…。
そんな思いを胸中で呟いた私だったが、そんな私の願いを叶えてくれる人物と、思いがけず再会を果たす事になるのだった。
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エレノアラブな男子達にとって、ケモミミよりも尊いのはやっぱりエレノアでした(^^)
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