第414話 入学式当日です!

「よう、エレノア!昨日は大変だったな!」


「あ、リアム。おはよう!……うん、まあね。あ、マテオもお久し振り!」


設営準備の人達以外は人もまばらな大聖堂に、相も変わらず妖精のように麗しい美貌で微笑むリアムが、側近兼護衛のマテオを引き連れ、颯爽と現れる。


ちなみにだが、リアムは私の秘密の婚約者なので、こういった公衆の面前ではキスもハグもなし。という訳で、挨拶は握手のみ。一体、どこの政治家なのか。


本日は、なんやかんやとトラブル続出だったオリヴァー兄様の卒業式の翌日。つまりは入学式である。

私が王立学院に入学して一年が経ったという事だ。うん、非常に感慨深い。


「オリヴァー・クロスも、最後の置き土産とばかりに、派手にやらかしたみたいじゃないか?……まあ、うちの叔父上も結構ブチ切れて、あいつと同調してやらかしたみたいで、国王陛下も苦笑されていたよ。あ、フィン兄上は例のバカ女共に対して、「押しが足りない!」って残念がっていたけど」


「は……はは……」


流石はフィン様。この事はオリヴァー兄様に黙っておこう。


卒業式が終わった後、オリヴァー兄様は宣言通り、しっかりとバッシュ公爵家、クロス伯爵家、オルセン子爵家の連盟で、例のご令嬢方の家に抗議文を送りつけた。


各家はその抗議文に対し、速攻で損害賠償付きの謝罪をしてくれたのだが、オリヴァー兄様は「あの程度じゃ甘かったね。もっと徹底的に叩き潰しとけばよかった」と、激おこでした。


それは何故かというと、クライヴ兄様曰く。当主方や当主代行の方が、オリヴァー兄様にキスをされ、真っ赤になって照れまくっていた私に見惚れて(!?)いたんだそうで、それがどうも気に入らなかったようだ。


更にクライヴ兄様が言うには、「彼等はエレノアとはほぼ初対面で、今までの人生で『女の素の恥じらい』なんて見たことなかっただろうから、刺激が強かったんだろう」だって。……私の恥じらい(…)は、衝撃映像に匹敵するのだろうか?


それに加えてご令嬢方も、私に鼻の下を伸ばして(……)いた身内の姿を見て、「ちょっと!お父様!?」「お兄様!その締まりのない顔は何なのよ!?」と、盛大にブチ切れ、親子喧嘩や兄妹喧嘩が勃発していたんだとか。

そんなご令嬢方の、めげないタフさにもうんざりしてたんだって。成程ね。


「……思えばこの一年、色々あったなぁ……」


「エレノア、お前ババ臭いぞ」


「うるさいマテオ!新学期早々、毒吐かないでよ!」


もはや恒例となってしまったこのやり取りに、執事服をバッチリキメたクライヴ兄様が、「ブハッ」と噴き出している。クライヴ兄様……。専従執事として、それ不敬!


「うん、でもさ、確かに達観しちゃうぐらいには、濃厚な一年だったよね」


「あれだけ立て続けにトラブルに巻き込まれるご令嬢なんて、中々いないよな。しかも、未だにトラブルの渦中にいるし」


セドリックとリアムも、そう言いながらうんうんと頷いている。……た、確かに。


入学早々悪女として名を馳せ、リアムやマテオらと仲良くなりつつ、獣人王国の王女達とガチバトルを行い、結果大量のモフモフがアルバ王国に移住……私は至高のウサミミメイドさんをゲット。


その後も、ボスワース辺境伯とのアレコレの末、うっかり異父妹か異父弟が出来ちゃったり、領地で帝国が絡んできたり……。帝国……いつか責任者を絶対にぶっ飛ばす!!


これらが、たったの一年で起こった出来事だよ!?色々盛り過ぎにも程があるでしょう!!

真面目に女神様に、「トラブル体質にも程がありますよ!」って、問いただしたい気分だ。


そして、この一年の間に起こったベストオブ衝撃事件は……。まだ非公式ながら、ロイヤルカルテットが婚約者に加わり、婚約者の数が七人に増えてしまった事!


チラリとリアムの方を見ると、私の視線に気が付き、すかさずニッコリと微笑み返してくる。


そのあまりな破壊力に、思わず「ふぐっ!」とくぐもった声が上がってしまった私は、絶対に悪くない!だからクライヴ兄様、その氷結な眼差し向けるのはやめて下さい!


それにしても、七人もなんて……いつから私は、そんなふしだらな貞操観念に!?……なんて、そう思ってしまうのは、聖女様いわく『転生者(転移者)あるある』らしい。


アルバ王国の高位貴族は、婚約者だけではなく、恋人も欲望の赴くまま増えていくらしく(勿論、減りもする)、一般的には『七人』ではなく、『七人しか・・』いないという事になるんだそうだ。


しかも、殿下方の婚約は非公式だから、表向きの婚約者はまだ三人しかいない事になっている。これは高位貴族のご令嬢としては、有り得ない程の少なさなのだそうだ。


婚約者も三人だけで、しかも恋人の一人もいない貴族令嬢……。まさに超狙い目物件なんだそうで、他家が血眼になって、「恋人からでもいいから!」と、未だにバッシュ公爵家宛てに、私との婚約申し込みが殺到しているらしい。


『らしい』というのは、私の方までその猛攻が伝わってこないからである。


「もしも、エレノアちゃんの筆頭婚約者がオリヴァー君じゃなかったら、今頃はきっとなし崩し的に、婚約者だけじゃなくて恋人の数も、候補を含めて物凄い数になっている筈よ」


なんて、アリアさんに言われた事があるけど、確かにアルバ男の女性を巡る愛と執念は凄まじいものがある。わたしなんぞ、あれよあれよと言う間に翻弄され、いいようにされてしまうに違いない。


そう考えると本当に、私の筆頭婚約者がオリヴァー兄様で良かった。


兄様、たとえ王家であっても、不敬もなんのそのとばかりに「喧嘩上等!」な応酬を繰り広げているもんね(一体全体、どんな輩なのか)。

私の今の平穏な状況(婚約者に数に関して言えば)は、ひとえにオリヴァー兄様万年番狂いのお陰と言えよう。


……まあでも、数は少なくても質がね……。


兄様方もセドリックも、リアム達王家直系達も、まさにアルバ王国の頂点とも言うべき男性達だ。

そんな彼らに溺愛されている現状は、決して平穏とは言えない。むしろ常に出血多量で昇天する危険を孕んでいるのだ。


そんな状況下で、これ以上のお相手は全くもって考えられない。本当にお腹いっぱいですんで、勘弁して下さい。


しかも表向き、まだ婚約者じゃないアシュル様、ディーさん、フィン様、リアムは、その立場ゆえに私に対する接し方をセーブしている(若干一名、全くセーブする気のない方もいますが)。

それが、オリヴァー兄様ばりにパワー全開で迫られたら……果たして私の命はその場で潰えてしまうに違いない。


「え?何を言っているの?僕もクライヴもセドリックも、全然全力出してないよ?」


……とは、オリヴァー兄様のお言葉です。


そうか……。あれでも全く全力出していなかったんだ……。……恐ッ……!


ううむ……。私もそろそろ十四歳になるし、いざその時(どの時!?)が来ても、鼻腔内毛細血管が崩壊して出血多量にならない為に、本腰を入れて修行せねばならないのかもしれない……。


まあ、それもこれも、帝国のゴタゴタが終わってからだけどね。しかも何をどう修行したらいいのか、私じゃいまいちよく分からない……。


あ、そうだ!いたじゃないか、私の身内にアルバ女子肉食ハンターのお手本のような人が!


全部は参考にならないかもしれないけど、ほんのちょっと参考にするだけならアリかもしれない。


「あらー、そんなの簡単よ!まずは互いに裸でお風呂にでも入っちゃえばいいのよ!」



――ほんのちょっとの参考にもならなかった!!


「いやいやいや母様!それ、絶対不味いです!いきなり出血多量になっちゃいますから!!ってか、セドリックの誕生日でやりましたよね、それ!!」


「あんた、タオル巻いてたじゃない!まったく、私の娘の癖に恥ずかしがり屋なんだから!……う~ん……。あ、じゃあ裸で一緒のベッドに寝るってのはどう?暗ければ身体見えないから、恥ずかしくないでしょ?」


「だーかーら!母様、ちょっと裸から離れて下さい!!」


「ふふふ……エレノア。世の中には相談してはいけない人種というものが、ちゃんと存在するんだよ?」


「ちょっと、パトリック!それってどういう意味よ!?」


優雅に紅茶を飲み、微笑みながら毒を吐くパト姉様。


はい、その通りですね姉様。と言う訳で、今度はオネェ様方にでも相談する事にします。


……なんて事を言ったら、微笑を浮かべたままのパト姉様に、頬っぺたをみょーんと左右に伸ばされました。なんでー!?




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マリア母様とパト姉様、何気にボケとツッコミコンビになっていますねv

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