第564話 ひと時の癒し

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「……こ……こは……?」


瞼を開けた瞬間、目に飛び込んできた見慣れぬ天井をぼんやりと見つめながら、無意識的に口から零れ落ちた自分の声を切っ掛けに、オリヴァーの意識は徐々に覚醒していった。


『ああ。そういえば……』


そう独り言ちた後、オリヴァーは深々と溜息をついた。





◇◇◇◇





時は、エレノア達が王宮にやってきた時に遡る。


「……ふぅ……」


オリヴァーはこの王宮に来てからというもの、誰よりもバリバリと仕事を頑張っていた。そりゃもう、自主的に馬車馬のごとく働いていた。


その努力の甲斐があり、「早くとも二ヵ月は掛かる」と言われていた夜会までの準備期間を、ちょうど自分の宮仕え期間の一ヵ月にまで短縮するという、普通だったら有り得ない快挙を成し遂げる事に成功したのである。……たとえその動機が、『愛しいエレノアに一日でも早く会いたいから』という、どこまでも自己都合によるものであったとしても。


結果、その類まれなる有能ぶりにより、王宮の重鎮が「将来の宰相は決まったな!」と、満場一致で決定してしまい、後に「……あの時、張り切りすぎるんじゃなかった……!」と、本人が事あるごとに後悔し、愚痴りまくる事となるのであるが……。

まあとにかく、オリヴァーは寝食を犠牲にしてまで、与えられた仕事を必死に頑張っていたわけなのである。


「オリヴァー・クロス。断罪についても夜会に関しても目途がついたわけだし、そろそろ休憩を取れ。根を詰めるばかりが仕事ではないぞ?」


一週間も経たずに叩き出した奇跡の結果を受け、流石のワイアットも、普段なら絶対に言わない気遣いの言葉をオリヴァーにかけた(その後ろで部下達が、「あの宰相が……!!」「マジか!?」と囁き合っていたとかなんとか)。


「……そうですね。では、一時間ほど……」


「たわけ!!最低でも六時間は寝ろ!!」


「そんなに寝ていられません!!」


「いいから寝てろ!!お前、ここ王宮に来てから、一日二時間も寝ておらんだろうが!!」


「そうだよ、オリヴァー!僕達も君には心の底から感謝しているんだ!『今回こそ僕たち、過労死するかも~』って覚悟していたのに、仮眠まで取れるなんて思わなかったんだから!!なのに、当の君が寝てなくてどうするの!?」


ブチ切れながらも「休め!」と迫るワイアットに、宰相補佐のアイザックも加勢する。すると、それを見ていた補佐官達までもが次々と声をあげ始めた。


「そう!その通りだ、オリヴァー・クロス!!」


「だよな!出来る事なら、このまま永久に仕事をし続けてくれたらなぁ……なんてうっかり思ったのも一度や二度ではないけど!でも、それじゃあいけないって事ぐらい、僕達だって分かっているんだ!!悪い事は言わない。宰相の言う通り、少しは休みなさい!!」


「そうだぞ!?『休んでいる暇があったら働け!』『寝るな!』しか言わない鬼……いや、宰相閣下が『休め』なんて言ったの、俺初めて聞いたんだからな!?悪い事は言わんから休め!奇跡に身をゆだねろ!」


だが、そんな彼らに対してオリヴァーは静かに首を振る。


「……宰相閣下、公爵様、そして先輩方。ご心配有難う御座います。……ですが僕には、「寂しい」と泣きながら、僕の帰りを待つ愛しい婚約者がいるのです!!一分一秒でも早く、彼女を笑顔にする為にも、僕が今、休むわけにはいかない……!!」


「いや!そもそもお前、ここにいるのって、ただの手伝いじゃなくて罰だから!期間も元々、一ヵ月間って決まっているから、仕事終わらせても帰れないからな!?」


「ってか、エレノア泣き続けてたっけ!?今朝も元気に笑顔でパンケーキ食べてたけど!?」


「願望から幻覚見たのか!?前々からヤバイとは思っていたが、マジでヤバイな、おい!!」


「……貴方がた……。消し炭にされたいんですか……?」


その場の全員からそれぞれツッコミを入れられ、暗黒オーラを噴き上げたオリヴァーだったが、タイミング良く『不審者来訪』の知らせを受けたワイアットが、これ幸いと「一番下っ端であるお前が対処してこい!」と宰相室から叩き出し、ハイエッタ侯爵母娘が待つ正門前に向かわせたのであった。





◇◇◇◇





――そして、現在に至る。


「……あの馬鹿親子ども……!折角縮めた準備期間を元に戻してくれやがって……!!」


ハイエッタ侯爵夫人とその令嬢がやってきて、喚き散らした内容をワイアット宰相に伝えたところ、それを元に王太子であるアシュルがハイエッタ侯爵家に確認し、彼女達が喚いていた内容が真実である事が判明したのである。


当然というか、王宮は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。


ハイエッタ侯爵令嬢の婚約者として、第二王子が来国するのは別にいい。それに伴い、何故かあの国の聖女がやってくるのも、まあ、我が国に対して少しでも国としての箔を見せつけたいのだろうから、それもまあ、致し方ないだろう。


だが、その聖女がよりによって、王家直系の『公妃候補』としてやってくるつもりだとは……!しかも教会関係者まで引き連れての来訪である。


本来、この夜会は、帝国と繋がっている売国奴共の断罪及び一掃を目的としたもの。なのに、同盟国でもない他国の……しかも『聖女』とその関係者が横やりと言っても良いタイミングで介入してくる事態となってしまったのだ。


同盟国でもない他国の王族など、本来であれば適当な理由を付けて追い返すところではあるが、国際的にも『女神様の代理人』とされている『聖女』相手に無体は出来ない。しかもスワルチ王国に派遣した『影』からの情報によれば、遠方なのを理由に、既に我が国に向けて出国してしまっているとの事であった。


ゆえに、一から戦略と対応の見直しをしなくてはならなくなってしまったのである。とてもではないが寝ている場合ではなくなってしまった。


だが、事の次第をワイアット宰相に聞かされた後の記憶がない。……という事はその後すぐ、仕事に取り掛かろうとしたのを察したワイアット宰相によって、意識を落とされたに違いない。


「……いや。むしろ、僕をエレノアの元に向かわせない為かもしれないな」


リアム殿下が乗っていた馬車から、僅かに感じた懐かしい気配。多分あそこには、自分の最愛がいたのであろう。

残念ながら確かめようとした瞬間、ワイアット宰相によって阻まれてしまったが……。


もう一度、ため息をついたその時だった。


「……ん?」


ふと、目の端にオレンジ色の『なにか』が映った。


顔を向けてみると、そこには何故か、思い切り不機嫌そうに眉(?)をコイル巻きにした小さな毛玉がちょこんと佇んでいたのであった。


「……あれ?なんでコレがここに……?」


身体を起こし、不思議そうにオレンジ色の毛玉を見下ろしていると、おもむろに毛玉がくちばしをパカッと開けた。


『オリヴァー兄様!お元気ですか?エレノアです!』


「――ッ!!?」


「ピィィィィー!!」


気付けば毛玉を握りしめていたことに気が付いたが、それどころではない!いま……いま、コレの嘴から、愛しいエレノアの愛らしい声が……!!


「ピィッ!!ピィィッ!!」


さえずりはいい!!早くエレノアの……エレノアの声を!!」


モゴモゴと、手の中から逃げ出そうと暴れる毛玉をうっかり潰さないよう気を付けながら(実際潰しかけた)、続きを急かす。暫くすると、語り終わるまで逃げられないと悟ったのか、毛玉は大人しくパカッと嘴を開いた。


『オリヴァー兄様が、私の為に必死になってお仕事をしてくださっているとお聞きしました。凄く嬉しいけど……それ以上に、兄様が心配です。ちゃんとお食事取っていますか?眠れて……いますか?』


「エレノア……」


『大好きな兄様が辛い思いをしていると思うと……それだけで胸が張り裂けそうです。一日でも早く兄様にお会いしたい……でも、それで無理をしてほしくありません!どうか、宰相様や父様のお言葉をちゃんと聞いてくださいね?元気なオリヴァー兄様に、だ……抱きしめて頂けるその日を、一日千秋の思いでお待ちしております。……兄様、大好き!』


「ああっ!エレノア!!僕も君を愛している!!」


思わず毛玉を抱きしめると、毛玉は不服そうにピィピィと鳴いている(どうやら『さっさと離せ』と言っているようだ)。……そうだな。メッセージは終わりのようだし、離してやるか。


すると毛玉は手を離した途端、一目散に窓から飛び立っていった。窓に近づくと、もう毛玉の姿は消えている。……見かけによらず逃げ足が速いな。


『オリヴァー兄様、大好き!』


いまだに耳の奥に残るエレノアの声を反芻しながら、毛玉にエレノアの声を届けさせてくれたのであろう誰かに、心の中でお礼を述べる(宰相閣下か公爵様か……?)。おかげで、沸騰していた頭が少しだけ冷えたような気がする。


「……やれやれ。僕も大概単純だな」


世間では僕の事を『貴族の中の貴族』ともてはやす。けれどもこうしてエレノアの傍から離れた途端、僕は「エレノアの一番が僕じゃなくなったらどうしよう?」「僕がいない間に他の婚約者達と、もっとずっと仲が深まってしまったら?」と不安に押しつぶされ、どうしようもない臆病者に成り下がってしまうのだ。


そして、そんな僕の不安は、愛するエレノアの何気ない言葉によって、こんなにもあっさりと氷解してしまう。


フッ……と、唇に甘い微笑が浮かぶ。


「……うん。そうだねエレノア。君に心配をかけさせるなんて、筆頭婚約者として失格だったよ」


本当なら、食事も睡眠も極限まで削ろうと思ったが……仕方がない。その分は公爵様や先輩方を、馬車馬のごとく働かせて補うとしよう。可愛いエレノアの為だ。きっと皆、喜んで協力してくださるに違いない。


その後、アシュル殿下に新たな助っ人として捕獲されたクライヴとセドリックと、快く協力してくださった公爵様方のおかげで、どうにか準備期間は一ヵ月以内に収まる事となったのであった。



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ア:「じゃあこれ、台本ね」

エレ:「///は、恥ずかしい……!!///」

ピ:「あの……行きたくないんですけど……」


兄様は天国、ぴぃちゃんは地獄でした。



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