第181話 衝撃的な報告

「エレノア!そしてオリヴァー、クライヴ、セドリック。皆お帰り」


「アイザック父様!?」


「公爵様!?」


屋敷に到着した私達は、着替える為に自室に向かおうとしてジョゼフに止められ、サロンへと案内された。

するとそこには何故か、まだ仕事中であろうアイザック父様が待っていたのだった。


しかも、待っていたのはアイザック父様だけではなかった。


「お帰り、エレノア」


「おう、エレノア!久し振りだな!!会いたかったぞ!」


「メル父様!?そ、それに…グラント父様!?」


ここ最近、アイザック父様よりも帰ってくる回数が減っていたメル父様と、あの温泉事件以降、我が家に出入り禁止になっていたグラント父様までもが私達を待ち構えていたのだった。


「エレノア!」


グラント父様、超久し振りだからか飄々とではなく、物凄く嬉しそうな良い笑顔で私の前で手を広げている。


「グラント父様!」


私も一ヵ月ぶりにお会いするグラント父様にテンションが上がり、広げられた腕の中に飛び込もうとした…その瞬間、温泉浴場でのあの、とんでもない光景がフラッシュバックしてしまい、思わず後方飛びよろしく、思い切り飛びずさってしまった。


「エ…エレノア…!?」


私を抱き締める寸前の腕がスカッと空を切り、呆然としているグラント父様に、微妙な距離を保ちつつ、慌てて謝罪する。


「あ…っ!ご、御免なさいグラント父様!つ、つい…!」


「うん、やっぱりエレノアの心の傷は癒えていないようだね。という訳でグラント。回れ右してここから出てってくれる?」


「そりゃねぇだろアイザック!!お前、許してくれたんじゃねーのかよ!?」


アイザック父様の容赦無き言葉に、グラント父様がクワッと噛みつく。だがアイザック父様は、グラント父様に汚物でも見る様なめっちゃ冷たい眼差しを向けたまま、更に冷たく言い放った。


「君があんまりしつこく、毎日宰相室に土下座しに来るお陰で、ワイアット宰相が『いい加減ウザいから許してやれ!』って言うから、仕方なく許したんだよ!でも前言撤回!当の被害者エレノアが嫌がってるんだから、言い訳たつし、さっさと出てけ!」


「と、父様!私、グラント父様の事嫌がってないです!だから許してさし上げて下さい!!」


「ほら見ろアイザック!エレノアはちゃんと、俺の事許してくれてんだろうが!!」


「エレノア!こんな破廉恥なクズ、許してやらなくていいんだからね?!その優しさは別の所に使いなさい!」


「アイザック!てめぇ、いい加減しつっけーんだよ!!」


親世代の超不毛なやり取りに、額に手を充てつつ、オリヴァー兄様が静かに声をかけた。


「…公爵様。グラント様の事は、この際隅に追いやって下さい。…公爵様や父上がここにいらっしゃるという事は、エレノアの事で何かあったのですね?」


その言葉に途端、父様方の表情が引き締まった。


「オリヴァー。そしてエレノア。落ち着いて聞いて欲しい。…グロリス伯爵家から僕宛てに、マリアの署名付きの書簡が届いた」


「母様から?!」


「…そう。中身を確認したところ、オリヴァーを筆頭婚約者から降ろし、代わりに長男のパトリックを筆頭婚約者にする…と、そう書かれていたんだ」


父様の口から語られた衝撃的な内容に、その場の空気が一瞬で張り詰めた。





◇◇◇◇





「…それにしても…。まさかあのパトリックが、わざわざそんな事を言いに君達の所にやって来ただなんて…。叔父の言いなりのアーネストならともかく…」


クライヴ兄様からパトリック兄様とのやり取りを聞いたアイザック父様は、そう言いながら戸惑ったような表情を浮かべた。あ、アーネストとは、グロリス伯爵家を継ぐ為に養子となった、現グロリス伯爵…つまり、私の義理の伯父の事である。


「父様、パトリック兄様とは、どのような方なのですか?」


「うん。あの子とはあまり頻繁には会えなかったけど、小さい頃から物静かで穏やかないい子でね。君の事もよく気にかけてくれていたよ。身分を笠に着るような子では決してなかったんだが…」


同じような事を、オリヴァー兄様も仰っていた。もしパトリック兄様が本当にそういう人だったとしたら、何故あの時、私達にあんな事を言ったのだろうか?


「…成程。確かに僕を筆頭婚約者から外す…と書かれていますね。父上。これが偽造された可能性は?」


「あらゆる角度から検証してみたが、魔力を使った改竄の形跡は確認出来なかった。念の為、筆跡なども確認したが、間違いなくマリアが書いたものだったよ」


メルヴィル父様が、いつもよりも若干憂いのこもった表情で溜息をつく。それがあまりにも色気滴るけしからん表情だった為、うっかり顔が赤くなってしまいました。…こんな時にこんな事考えるアホな娘で、本当に申し訳ありません。


「旦那様。事の真偽を確かめる為、マリア様にこちらへ出向いて下さるよう、連絡をお取りになられた方が…」


皆に紅茶を淹れてくれていたジョゼフが、アイザック父様に進言する。…が、アイザック父様は難しい顔をしたまま、首を横に振った。


「マリアは今現在、グロリス伯爵家に滞在中だ。どうやら体調不良を起こしているらしく、療養中だからこちらに来られないと、叔父から連絡が来たよ。…逆に、丁度お茶会が開かれるから、エレノアを連れて見舞いがてらこちらに来たらどうか?と言われてしまってね」


「それは…」


ジョゼフが眉根を寄せる。…うん、それってどう考えても、私達をお茶会に来させる為の口実だよね?だって母様、一週間前にバッシュ公爵家に遊びに来た時、元気ハツラツだったもん。


でも私の意志を丸無視し、挙句に母様まで使って、こんな嫌がらせしてくるなんて信じられない!

こうなったらいっそ、グロリス伯爵家のお茶会に乗り込んで、私の口から直接ハッキリとお断りをした方が良いんじゃないだろうか。


「おい、アイザック。マリアはあのクソ親父に監禁でもされているんじゃねぇのか?んでもって、手紙も無理矢理書かされたんじゃねぇのかよ?」


「…あのマリアに、無理矢理何かをさせられるとは思えないけどね…。それにマリアは元々実家も実の父親も毛嫌いしているから、グロリス伯爵家を訪れる際には、信用のおける夫なり恋人なりを常に同行させている。今回は恋人であるブランシュ・ボスワース辺境伯を連れていた筈だから、いくら叔父だとて、無理矢理軟禁する事など出来はしなかっただろう」


「ああ、そういやそうだな。…にしても、ボスワース辺境伯か…!流石はマリア。大物喰らいだぜ!」


んん?ボスワース辺境伯…って、聞いた事があるような…?


「ほら、セドリックの誕生日に、母上が連れて来ていた方だよ」


首を傾げる私に、オリヴァー兄様が苦笑しながら教えてくれた。ああ、あの人か!


「隣国に最も近い国境沿いと、その周辺の魔獣生息地域一帯を守護するお方で、グラント様も一目置いている程の猛者でもあるんだ」


「おうよ!一度手合わせしてみたが、間違いなくクライヴよりも強いな!俺と互角…とは言わねぇが、かなりいい線いっていたぜ!」


グラント父様の手放しの称賛に、ビックリしてしまう。あの方、そんなに凄い方だったのか…!




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