第246話 野花の聖女
その後、騒ぎを聞きつけた第一騎士団を率い、駆け付けたデーヴィス王弟殿下。そして「エレノアー!!」と駆け付けたアイザックをすかさず捕え、引き摺り戻しているワイアット宰相……と、場は一時騒然となってしまった。
一同は、焼け野原となった中庭を見て、一体何があったのかと息を呑んだ。まさかとは思うが、不遜な輩が奇襲をかけてきたのでは……と、その場に緊張が走る。
「この状況は……!?そこの者達!説明せよ!!」
第一騎士団団長が、庭師達を結界を張って庇っていた近衛騎士達を問い詰める。
「はっ!……あの……それが……」
困惑する騎士達の話によれば、突如として咲きまくってしまった
だがそこに運悪く、同じく
駆け付けた第一騎士団とデーヴィスは、その理由にガックリと脱力した。
アホだ……。あまりにもアホ過ぎる……。
ちなみに、エレノアはクライヴとアシュルが。聖女アリアとフィンレーはディランが咄嗟に防御結界を張って守ったので無傷であった。
「ディランー!!お前という奴は~~!!!」
「いてーっ!!いてててっ!!ちょっ、まっ!止めろ親父!!」
「『父上』だっ!!お前の筋肉で出来ているスッカスカな脳味噌に、今一度、俺自ら王子教育を叩き込んでやろうか!?あぁっ!?」
「親父が叩き込むのは、王子教育じゃなくて鉄拳だろがっ!!」
「ほぉ~……。よく分かってんじゃねーか!!」
「あだだだっ!!」
青筋を何本も浮かべたデーヴィスに頭を鷲掴みにされ、ディランが悲鳴を上げている横では、アリアがどん底にまで落ち込んだエレノアを必死に慰めていた。
「エ、エレノアちゃん!大丈夫。これは不幸な事故よ!というか、全面的にうちの馬鹿息子がやらかしたんだから、野焼きに関してはエレノアちゃんに罪なんてないわ!」
「で、でも……!そもそも私がタンポポを生やさなければ、こんな事には……!!」
「いいえ!それは私が『野に咲く花を想像して』なんて言っちゃったのが悪かったのよ!!あれって野花の代表みたいなものですもの!」
「アリア様……」
「うん。でもそこでタンポポを想像しちゃうのが凄いよ!流石はエレノアだね!」
「うぐっ!」
おそらくは称賛であろうフィンレーの言葉に、エレノアは更にずんどこまで落ち込んでしまった。
「フィンレー!あんたは黙ってなさい!!全く……!ディランといいあんたといい、うちのバカ息子どもは……!!」
「ううう……。クライヴにいさまぁ……!」
己の不甲斐なさと、庭師やアリア達に対する申し訳なさから、遂にエレノアの涙腺が決壊してしまう。
「おー、よしよし。大丈夫だ、大丈夫」
ぴーっと泣きながら胸に抱き着いてきたエレノアの背中を、クライヴがポンポンと優しく叩きながらあやす。
「エレノア。母上の言う通りだよ。誰でも最初は間違うし失敗するさ。ね?いつもの君は、こんな事ぐらいでへこたれるような子じゃないだろう?」
アシュルも、そんなエレノアに優しく慰めの言葉をかけながら頭を撫でる。
「アシュルさま……」
クライヴの胸元(腹元?)から顔を上げ、ぐしぐしと涙を目に溜めて自分を見上げるエレノアの可愛い泣き顔に、心中激しく萌えながら、アシュルはこれでもかとばかりに甘く蕩けそうな極上スマイルを浮かべた。
途端、エレノアの顔が真っ赤になり涙が止まる。
「……便利だなお前の顔。赤ん坊をあやす時の変顔ばりに効果てきめんだ」
「クライヴ。君、喧嘩売ってんの?」
笑顔に青筋を浮かべたアシュルは、エレノアの頭を撫で続けながら「ふむ……」と思案する。
「……まあとにかく、ここでの修業は当分無理だね。どこか場所を変えようか」
アシュルの提案に、アリアが頷く。
「そうね。……あ!じゃあ宮殿の裏手に行きましょうか。確か今、お花の植え替えをしている場所がある筈だし。そこなら何が生えても取り敢えず目立たないわ!」
「……母上……」
「聖女様。何が生えてもって……」
「あ、あらやだ!ごめんなさい。深い意味は無いのよ?」
そんな訳で未だ体罰続行中のディランとデーヴィスをその場に残し、一行はゾロゾロと裏庭へと移動する。
――その後暫くして。
宮殿の裏手から、再び悲鳴が上がったのであった。
◇◇◇◇
「……何だこれは……?」
学院から帰って来たオリヴァー、セドリック、リアムが見たもの……。それはシロツメクサ、レンゲ、スミレ……といった、野趣溢れる花畑の中、膝を抱いて項垂れるエレノアの姿であった。
その光景はまるで、大自然の草原に佇んでいるような……なおかつ「あれ?ここって王宮だったよね?」と首を傾げたくなるような気分にさせられてしまうものだった。(余談ではあるが、その中にはしっかりぺんぺん草とタンポポも咲き誇っていた)
そして聖女様がエレノアの背中を擦りつつ、必死に何か話しかけている。その様子から、どうやら慰めている事が伺い知れた。ついでに向かい側では何故か、庭師達までもが真っ白に燃え尽きた状態で倒れ果てているのが印象深い。
そういえばここに来る前、焼け焦げになった中庭を目にしたが、あれもこの状況に関係しているのであろうか。
「クライヴ。これは一体?」
「あ~……。いや、話せばまぁ、長くなるというか、なんと言うか……」
歯切れの悪いクライヴの横では、アシュルが額に手を充て溜息をついている。更にその横では、フィンレーがちょっと興奮した様子で目を輝かせていた。
「う~ん……。凄いよねぇ!わざわざ撒いた花の種を避けて、雑草だけ生やす事が出来るなんて。ある意味才能だよ!流石はエレノアだ!!」
フィンレーの言葉に、今朝のエレノアのやらかしをセドリックにより聞いていたリアムが「あー……」と呟き汗を流す。セドリックはというと「エレノア……」と片手で顔を覆って溜息をついていた。
オリヴァーはそんな周囲の状況を見やった後、花畑(雑草ですが)の中心にて膝を抱き抱えているエレノアの傍へとやってくると、地面に片膝を着いた。
「エレノア……」
自分を労わるような優しい声に、のろのろと顔を上げたエレノアは、オリヴァーの顔を見るなり、大きな瞳にみるみると涙を溜めていった。
「……オリヴァー兄様……!ふ……不甲斐ない妹で、申し訳ありません……!」
ポロポロと涙を零す愛しい妹を胸に優しく抱き締めたオリヴァーは、宥めるようにヘーゼルブロンドの髪へと口付けを落した。
「大丈夫だよエレノア。いいじゃないか。雑草でもなんでも花は花だ。それにたとえ、君がこのまま雑草しか生やせずに、大地の聖女としての証がたてられなくても、殿下方との婚約が無くなるだけだ。うん、何も問題はない!」
「ふざけるな!!問題大ありだろう!!」
「これ幸いと婚約消滅に持って行こうとするな!この万年番狂い!!」
「ほんっとう、とことんだよな!オリヴァー・クロス!!」
「オリヴァー……。気持ちは分かるが、エレノアを守るという本来の趣旨からズレてるぞ?」
「その通りです兄上。お気持ちは痛い程分かりますが、冷静になりましょう」
ロイヤルズだけではなく、兄弟達からもツッコミを入れられ、オリヴァーが不服そうにしながらも「……冗談です」と呟く。
それに対して当然皆は『嘘だ!絶対に本気だった!!』と、心の中で総ツッコミを入れ、アリアは「流石はアルバの男の最終形態……。ブレないわね」と、呆れ混じりの称賛を口にした。
ちなみにだがその後、王宮の庭師達の間ではエレノアの事を「野花の聖女」と呼ぶようになり、畏怖の対象として恐れられるようになったとの事であった。
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エレノアの新たなる黒歴史が爆誕しました!
庭師達もアルバの男の端くれですので、あえて『雑草』とは呼ばず『野花』と呼んでおります( ;∀;)
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