第247話 末っ子同盟
結局あの後、大人組&兄達は「ちょっと大事な話し合いがあるから」と言って、リアムとセドリックにエレノアを託し出て行ってしまい、その為、残された子供組はちょっと早めの夕食を頂いていた。
ちなみにメニューはというと……。
子供も大人も大好きな丼メニュー。和食の極みとも言うべき至高の存在。……そう、『カツ丼』である。
エレノアの為にと、アリアが(前世持ちならではの)ベタな言を担いだこのチョイス。凹み切っておやつのお菓子にも手を付けなかったエレノアが、迷う事無く箸に手を伸ばしたあたり、非常にナイスな選択であったと言えるだろう。
「エレノア。どうだ?カツドンの味は?」
「……おいひいれふ……」
「え~と……それは良かった。お代わりいくらでも出来るから、ガンガン食えよ?」
リアムの言葉にコクコクと頷き、涙目のままカツ丼をもっきゅもっきゅと頬張るエレノアを見ながら、リアムとセドリックは湧き上がってくる甘酸っぱい萌えに胸をときめかせていた。
「……っ……!か……可愛い……!!リスを餌付けしているみたいだ!!」
「うん、本当だね。物凄く癒される……!!」
そんな言葉を囁き合いつつ、リアムとセドリックも自分達の分のカツ丼に箸をつける。ちなみにまだ箸が上手く使えないセドリックはフォークを使用している。
一方、そんなエレノアの様子を眺めながら、とある一群が食堂の隅にて胸をときめかせていた。
『良かった!姫騎士様が美味しそうに食べておられる!』
『ああ。我々の作ったカツドンが、彼の方をお慰め出来るなんて…!なんたる栄誉!』
『料理長、今頃歯軋りしているかな?』
『仕方が無い。料理長は勝負に負けたのだからな』
給仕係に混じった料理人達は、小さな少女がカツ丼を口一杯に頬張っている愛らしい姿にデレデレと相好を崩しまくりつつ、勝負に勝ち、
実はエレノアが王宮にいる間、厨房ではシェフ達により、配膳係の座をめぐっての壮絶なる戦いが毎回行われていたのである。
……当然というか、給仕係がちゃんといるにもかかわらずである。
『姫騎士への配膳の栄誉は勝者にのみ与えられる』……この新しく出来た掟は絶対なもので、その掟の前では料理長であろうが見習いであろうが関係ない。その戦いの渦は配膳係をも巻き込み、参加者は日を追うごとに膨らんでいった。
エレノアが「なんか毎回、制服と年齢がバラバラな人達が配膳してくれるな」と首を傾げていたのはまさにそれ故である。
ちなみにその勝負とは、聖女アリアによってもたらされた、前世において最も平和的かつ合理的と名高き戦闘方法……。武器も魔法も要らない。必要なのは己の拳一つのみ。……これだけ聞くと「ステゴロか!?」と思われそうだが、そんな物騒なものでは当然ない。
子供がよくやる平和な勝負……そう、『じゃんけん』である。
この『じゃんけん』。相手の表情を読み解き、拳から繰り出される動作一つ一つを見逃さず、絶妙なタイミングで一手を繰り出す……といった様に、単純明快でありながら非常に奥深く、高度な駆け引きを必要とするのだ。
その為、戦いに参加する使用人達は日々、およそ自分の業務を遂行する上において、なんの必要もないじゃんけんスキルを磨きまくる事となるのである。
だがこれが意外に効率的な知能訓練及び反射訓練になると、普段中々エレノアと接点を持てない第二・第三騎士団の騎士達が、こっそりこの戦いに参戦していたりする。そして給仕係に扮して、ちゃっかり配膳したりしているとかなんとか。
勿論、宮廷料理人達に関して言えば、お仕えする王族や聖女様の舌を唸らせるべく、料理の研鑽も積んでいる。
ただ最近は配膳相手に姫騎士が加わった事により、彼等の研鑽は姫騎士の大好物である『ワショク』に特化されつつあった。
最もロイヤルファミリーにしても、エレノアを王宮へとやって来させる為の撒き餌として、料理人達が和食を更に極めてくれるのは願ったり叶ったりである。そんな訳で彼らは今の所、じゃんけん戦争に関しては半ば黙認している状況であった。
召使達やシェフ達にとって、姫騎士への配膳により得られる彼女の笑顔と「有難う御座います」「美味しかったです」の言葉は、生きる糧であり希望である。
そうして彼等は今日も今日とて、料理の腕とじゃんけんスキルを磨き続けるのであった。
「なー、エレノア!食い終わったら、俺の部屋に行こうぜ!」
「リアムの部屋?」
「ああ!丁度渡したいもんがあるし。それに俺の部屋の中、ちょっとしたスペースがあるんだ。セドリックはもう知ってるんだけどさ」
「??」
口直しの漬物もどきのピクルスをパリパリ食べ、緑茶をすすりながら、エレノアは首を傾げた。はて?リアムの部屋に何があるというのだろうか?
「うん、あそこいいよね!僕も何度かお邪魔しているんだけど、凄くリラックス出来るんだ。エレノアだったら間違いなく気に入ると思う!」
いつもであれば、リアムの私室にエレノアを招き入れるなど言語道断とばかりに妨害してくる筈のセドリックだが、何故か今回は敢えてそうせず、寧ろ積極的にリアムの私室へとエレノアを誘導していた。つまりはそれ程に素晴らしいものがあるという事なのだろう。エレノアの好奇心がムクムクと膨れ上がる。
それに……だ。リアムは婚約者であるが友達でもある。その友達のお部屋にお邪魔するなんて、なんか年相応っぽくてとても良い。前世の学生時代を思い出して、なんかワクワクしてしまう。
「そ、そうなの?……じゃあ行こうかな?」
明らかに興味津々といった表情を浮かべるエレノアを、セドリックとリアムは笑顔で見つめながら、次の瞬間。鋭く視線を交差させた。
『……リアム。貸し一つだからね』
セドリックがボソリと呟き、それにリアムも同意するように小さく頷いた。
『ああ、分かっている。でも丁度お前の兄達と兄上達が全員いなくなって良かったよな!』
『うん。こんなチャンスは滅多にないから、有効活用しなくちゃね!』
実はセドリックとリアムは、密かに紳士協定を結んでいた。言わば『末っ子同盟』である。
何故彼らがそんな同盟を結んだのかといえば、共にあくが強く、偉大な兄達を持つ身。同じ婚約者であるとはいえ、個々人で彼らに立ち向かうのは限度がある。
それゆえこうしてチャンスが訪れた時など、互いに協力してエレノアとイチャイチャ……いや、親睦を深めようと目論んだのだった。
余談であるが、その協力体制はエレノアとの結婚後も継続して行う予定だ。何を協力するのかは……。今の所、
そんな訳で食事が終わった後。三人は揃ってリアムの私室に向かうべく、席を立ったのだった。
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要領のいい愛されポジが手を組んだと、兄達にとっては頭の痛い勢力出現です。
そしてアルバの王宮……。聖女様のお陰で、他国では有り得ない程のフリーダムな職場となっておりますv
本年は沢山の方にこの作品を知って読んで頂け、そして書籍化も出来て本当に有難かったです!
二巻は来月初めあたりに、また情報が出ると思われます。
更新も、これからも継続して頑張っていきますので、どうぞお付き合いくださいませ。
良い年越しをー!(^O^)/
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