第458話 打ち上げられ、のち救出
※後書きにご報告があります。
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『え……!?』
目の前の光景に理解が及ばず、思わずまじまじと見入ってしまう。……が、やはり目の前にいるのは、間違いなくベネディクト君だった。
「バッシュ公爵令嬢……!無事で良かった……!!」
ホッとした表情を私に向けながら、ハッキリと
私自身が加護の膜に守られ普通に呼吸が出来ていることも相まって、一瞬ここが海の中だという事を忘れそうになってしまう。
けれども水に揺らめく髪と服が、ここは海の中なのだと主張する。
「――ッ……!」
「あ!」
ベネディクト君の顔が歪んだ事で、ハッと我に返った。
しまった!ついうっかり、耳を凝視してしまった!
慌てた私の様子を見たベネディクト君は、私からの視線を避けるように顔をそむけてしまう。
……その拍子に、少し長めの髪が水に揺らめき、彼の半透明の耳が更にあらわになった。
透明度の高い海の中、水面から降り注ぐ太陽の光が、彼の人ならざる耳にあたって輝く。
『あれ?そういえばこの耳の形、なんか見た事がある気がする』
まだ今よりも子供だった、半引きこもり生活をしていた時。
父様の貯蔵する書物を片っ端から読み漁っていたんだけど、その時読んだ精霊図鑑に、こんな感じの特徴の耳を持っていた精霊がいたような……?
『う~ん。今の段階では思い出せないけと……』
でも、そんなことよりもなによりも……。
「……綺麗……」
その宝石のような煌めきに、思わず口にした呟き。
その途端、ベネディクト君が弾かれたようにこちらへと顔を向けた。
「……バッシュ公爵令嬢……」
「は、はい?」
「……あの……今、何を……?」
「え?……あ!あの、ごめんなさいジロジロ見てしまって!あんまり貴方の耳が綺麗だったから、つい……」
すると何故か、ベネディクト君の目が更に大きく見開かれ、そしてスッと表情がなくなった。
「俺の耳が……綺麗?」
「あ、はい。凄く綺麗……です」
すると、ベネディクト君の無だった表情が険しくなってしまった。あれ?ひょっとして怒ってる……?
「……バッシュ公爵令嬢」
「は、はいっ!?」
「心にもないお世辞を言わなくても結構です」
「えっ!?」
「お優しい貴女のことだ。俺に気を使ったのでしょうが、そのようなことをされても寧ろ不快なだけです。なので今後はそのような要らぬ気遣いはやめて頂きたい!」
「い、いえ、お世辞なんかじゃ!」
慌てて否定するも、ベネディクト君は憮然とした表情を浮かべたままだった。
そして、狼狽えている私の加護膜に両手をかざす。
「……いきますよ」
「はい?」
え?なにが?どこに行くと?
「少し怖いかもしれませんが、大丈夫ですので」
そう告げられた途端、浮遊感を感じた。そして次の瞬間、私を覆った球体が一気に浮上した。
「うきゃーーっ!!」
――ち、ちょっ……!ベネディクトくん!?ひぇぇぇー!!グングン上がっていくんですけどー!?なんなんですかこれっ!?
ひ、ひょっとして、ベネディクト君の力!?水流を操ってるの!?す、凄い!!でもっ!いきなり急過ぎるんですけどー!?
加護のお陰で圧がかかっていないのが救いだけど、荒っぽすぎやしないかな!?しかも少しどころじゃない!凄く怖いんですけど!?
や、やっぱり、ベネディクト君を怒らせちゃったから、こうなっちゃってるとか!?
「でもベネディクト君!私、嘘言ってないんだけどー!!」
ザッパーン!!
「ひゃあああっ!!」
大量の水飛沫と共に保護膜と私が海から吐き出され、ほぼ同時に空気を読むかのごとく、保護膜がパッと消えた。
これって、加護が「もう安全」って判断したってこと?……え?安全?
「……って、どこが、安全なんだー!うきゃー!!」
あああっ!こ、今度こそ海に落ちるー!!
「エレノア!!」
間一髪!というところで、マテオが私の身体をキャッチしてくれる。
「だ、大丈夫かお前!?」
心配そうに覗き込むマテオの顔を見た瞬間、ホッとしたと同時に、色々とこみ上げてきてきた。……うう……な、泣きそう……!
「マテオ~!!」
思わずマテオの首元にしがみつくと、マテオの身体がビシッと硬直した(気がした)。
その時、背後から凄まじい魔力が風のように吹き抜ける。
「……おい、マテオ。ふざけるなよお前!なに抜け駆けしてるんだ!?」
「あ……ッ!!リ、リアム殿下!ぬ、抜け駆けなんて誤解です!!わ、私は親友の身が心配だったからっ!そ、そのっ!」
「ヴヴ~!あ、ありがどぉぉ~!!」
感極まって遂に泣き出した私に対し、マテオはオロオロしながら私の背中をポンポンする。
そしてペリッと剥がした私の身体をリアムへとバトンタッチした。
「エレノア!無事で良かった!」
「ーーうっ!!」
ティルをもってして『キラキラ殿下』と言わしめた顔面凶器のどアップに、出ていた涙が急速に引っ込み、顔が真っ赤になってしまう。
そんな私を見たリアムは、ガックリしたもののすぐに立ち直り、心底安堵した様子で「はーっ」と息を吐き出した。
「お前が無事で、本当に良かった!」
「う、うん、有難うリアム。心配掛けて御免なさい。それと、助けようとしてくれて凄く嬉しかったよ!マテオも本当に有難う!」
するとマテオが思い出したように、憤怒の表情を浮かべた。
「感謝するぐらいなら、お前はもうちょっと自重しろ!あんな格好しながら、他人を庇ってる場合か!!」
うっ!そ、そこを言われると……なにも言えない……!
「うん、本当にごめん。反省します」
ションボリしてしまった私を見ながら、リアムが苦笑を浮かべる。
「いやまあ……本当にお前といると、心臓が幾つあっても足りねえって思うけど、それ以上に楽しいからいいよ」
そう言うと、コツンと私のおでこに自分のおでこをくっつけてくる。
普通だったらここでキスする流れなんだろうけど、リアムは隠れ婚約者の身だから、これが精いっぱいなんだろうな。
胸の内から湧き上がってくる甘酸っぱい気持ちに突き動かされ、思わず合わさったおでこをスリスリすると、リアムの口から小さく笑い声が聞こえてきた。
「ん。まあでも、オリヴァー・クロス達には死ぬほど謝っとけよ?お前が海に落とされた時、あいつら全員助けに行こうと海に飛び込もうとしたんだからな」
「う、海に飛び込もうとしたの!?」
兄様方にセドリック!着衣水泳なんて、なんて無茶なことを!
「ああ。まぁ、あのウィンとかいう船長に止められて、かろうじて思い止まったみたいだぞ?空から見ていたから会話は聞こえなかったんだけど、荒ぶってるあいつらを止められるなんて、あいつやっぱり只者じゃねーな!」
「そ、そうなんだ……」
うん、確かにあの腹筋と美辞麗句のスキル。あれは只者ではないと私も思います。……でもそっか。兄様達、荒ぶってたのか。
だとしたらサメに襲われたことは言わない方がいいな。多分間違いなく、オリヴァー兄様が発狂する。
「でもさ、アシュル兄上の加護の力って凄いな!まさか海中から浮き上がってくるなんて思わなかったぞ!」
「え?いや、あれは……」
海の中のことを話そうとしたその時、ふとあの時のベネディクト君の顔が浮かんだ。
「どうした?エレノア」
「ううん、何でもない」
ベネディクト君の『力』もあの耳のことも、彼が話さない限り、私の口からは言わない方がいいのかもしれない。
「?そうか。じゃあそろそろ船に戻るぞ」
そう言うと、リアムは私を横抱きにしたまま、船らしき小さな点に向かって飛び立ち、マテオもそれに続く。
というか、私ってば凄く遠くに飛ばされたんだな。タコ……いや、クラーケン恐るべし。
「だけど、これで流石のお前もタコは食べたくなくなったんじゃないのか?」
揶揄うような口調に、私は首を傾げる。
「え?なんで?」
「なんでって……。普通、ああいった経験をしたら、見るのも嫌になるもんだろう?」
「いや、クラーケンとタコは違うし!それに美味しかったら、クラーケンも一度は食べてみたい!」
「……エレノア。お前って奴は……」
「……リアム殿下。こいつは普通ではありません。そもそも普通のご令嬢は、あんな奇天烈な格好で海鮮食べまくりませんから」
マテオの冷静なツッコミに、リアムがてるノア仕様の私を思い出したのか、「ブハッ!」と噴き出す。
しかも「そういえばそうだった」って、笑いながら納得してるよ。酷っ!
……まあ、てるノアになった私が悪いんだろうけどさ。それにまた、あの格好になれって言われたら流石にお断りするけど……。
あっ!重要なこと忘れていた!私まだ、タコ食べていなかったんだ。
ううむ……無念!今夜の晩餐に出ることを期待するとしよう。
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ベティ君に打ち上げられたエレノアです。
そして、食いしん坊万歳は健在なもよう。ええ、だっててるノアですから。
※実は目の手術をする為、大事をとって11月の半ばぐらいまで約半月程更新をお休みさせて頂きます。
楽しみにして下さっている方々には大変申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>
(感想などの返信も、暫く書けないかもしれません。申し訳ありませんですが、絶対返信書きますので、こちらもお待ち下さいませ!)
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