第57話 夜会に行こう!②
――で、やって来ました!王族のお住まい、王宮!
地上からでは道なんて分からないけど、空中から行くと、お城すぐ分かる。障害物が無いから超早い!
今回で王宮に来るのは2回目だけど、やっぱ地上からと空中からだと、印象がまるで違うな。…ってか、王宮デカい!うちのお屋敷も、敷地も合わせると凄く広いんだけど、王宮はまさにレベルが違う感じだ。某ネズミのテーマパーク丸々2個分ぐらいありそう。それかベルサイユ宮殿?見学したら、丸二日かかりそうだ。
それにしても、白亜のお城は昼間見ても素敵だったけど、魔法でライトアップされているのか、闇夜にキラキラ光っていて、凄く幻想的だ。それに、上空から王都を見下ろしてみたんだけど、王宮を中心に放射線状に広がった街並みの明かりがキラキラしていて、まるで地上にも星空が広がっているような錯覚に陥ってしまった。
空も地上も満点の星空…。うん、凄く良い。幻想的。アルバ王国の平和と豊かさを象徴しているみたいで、見ているだけで凄く幸せな気持ちになる。私の住んでいる国は良い国なんだなぁって、素直に信じられる美しさだ。
『リアムやアシュル殿下も、この景色をいつもこうして眺めているのかな?』
彼らはこの光景を見て、どう感じているのか。いつか彼らの口から聞いてみたいものだ。
王宮に近付いて行くと、煌びやかな馬車が沢山見える。まだ遠目でよく見えないけど、きっと着飾った紳士淑女が沢山集っているのだろう。
そこでふと、気になった事をワーズに尋ねる。
「ねぇ、ワーズ。私のこの姿って、他の人には見えるの?」
『実体化している訳ではなく、あくまで精神体だからな。余程の事が無い限り、姿を見られる心配はないだろう。ただ、魔力量がずば抜けて高い者や、お前と波長が合う者の傍には近寄らない方が無難だな。万が一にも見られたら厄介だ』
成程。
「あ、でもさ、魔力量が高いって、どうやって分かるの?」
『今の状態のお前なら、見ただけで魔力量の有無が分かる筈だ。それにこの国は、身分が高位の者達程、魔力量が高い傾向にあるようだな』
成程。いわゆる、選ばれしDNAというヤツだろうか。
という事は、王族や有力貴族達、それと私の身内の傍には、極力近寄らない方が良いって事か。精神体だと鼻血は噴かなくて済むだろうから、リアムの素顔を拝むチャンスだと思ったんだけどなぁ…。残念。
「あ…。ひょっとしてこれが結界?」
王宮に近付いてみて分かったのだが、キラキラの正体は、どうやら王宮を守る結界だったようだ。
透明の、まるでレースのような美しい文様が、ベールのように王宮全体を覆っているのが視える。
「ワーズ、どうしよう。これって私、弾かれたりしないかな?」
『大丈夫だろう。この結界は、お前の屋敷の結界よりもよほど緩いし、悪意や魔力が無い者にはほぼ無害だ。実際…ほら、見てみろ』
言われて目を凝らすと、まるで蛍のような小さな光が、あちらこちらで瞬いているのが見える。
『あれらは小妖精か、まだ精霊になっていない、小さき者達だ。あれらが通り抜け出来るのだ。ただの精神体であるお前なら、なんの問題も無く通り抜け出来るだろう』
そう言われ、ドキドキしながらワーズの後ろをついて、結界に触れてみる。
すると言われた通り、何の抵抗も衝撃も無く、スルリと結界を通り抜ける事が出来た。
「本当だね!…あ!バッシュ公爵家の馬車!兄様達や父様達、もう着いていたんだ」
どうやら、既に本人達は宮殿の中に入ってしまっているようだ。私は眼下に見える、着飾った紳士淑女達に紛れて宮殿の中に入ろうとして、足を止める。
『え?ぼんやりとオーラを纏っている人達がいる…?』
ひょっとしたら、あれがワーズの言っていた魔力量の高い人なのだろうか。だとしたら、あの中に紛れて王宮内に入るのは危険だ。視え方にもよるけど、もし中途半端に私が視えて、「幽霊がー!」って騒がれても困るしね。仕方が無い。なるべく人目に付かない場所から潜入するとしよう。
「ん?あれ?ワーズ?」
気が付けば、さっきまで一緒にいた筈のワーズがどこにもいない。これはひょっとしなくても、さっさと夜会の会場に行って、果物を摘まみ食いしているに違いない。全くもって、フリーダムな妖精だ。
「え~と…。仕方がない。取り敢えず、裏手から会場に行くか」
私は正門から離れると、人気のない裏手から会場を目指すべく、宙を飛んだ。
◇◇◇◇
「…では、これよりのアルバ王国のより良き発展を心から願う。今宵は存分に楽しんでいって欲しい」
現国王、アイゼイアの言葉を受け、居並ぶ者達が一斉に王家の面々に向かって礼を取ると、国王が手を軽く上げた。
それを合図に、楽団が華やかな演奏を開始する。招待された貴族や有力者、大商人、外国の主賓なども、始められた舞踏会を楽しむべく、会場中に散っていく。
「ねぇ、お聞きになられまして?本日の夜会には、あのクロス伯爵様とオルセン子爵様が参加されているのですって!」
「ええ。わたくし先程、お姿をお見掛けしましたわ!お二人とも、滅多に首都の夜会に参加されませんけど、流石に王家主催の夜会。まさかお二人が共に揃っていらっしゃるなんて…!」
「眼福などという言葉では、あの方々のお美しさは語り切れませんわ!今宵は是非とも、お近づきになれるように励まなくては!」
「あら、あの方々は少々つれないから、狙うだけ無駄ですわ。わたくしは断然、バッシュ公爵様狙いですわね!お美しい上にお優しくて…しかも、次期宰相になられる事が決定しましたのよ!?」
「そうね。あの方の方が御しやすそうですものね。しかもクロス伯爵様やオルセン子爵様とも親友であらせられるのですもの。お近づきになっておけば、あのお二方と接する機会も持てるというもの…」
「まあ素敵!私も是非、バッシュ公爵様にご挨拶しなくては!」
華やかに姦しく、妙齢の淑女から妖艶な熟女までもが話題にするのは当然というか、この夜会での一番の注目株達である。
地方貴族の筆頭とも言える実力と財力を誇る、メルヴィル・クロス伯爵。
彼は絶世の美貌と話術、そして優雅な物腰から、数多の女性達と浮名を流し、未だに社交界の女性全ての憧れと言われている美丈夫である。
しかも彼はここにきて爵位を上げた上、ずっと断り続けていた宮廷魔導士団の団長職を拝命し、王都に居を移した。社交界の淑女達が目の色を変えるのも無理からぬことである。
そしてこの度、名誉男爵から一転、永久貴族の仲間入りを果たしたグラント・オルセン子爵。彼こそ、この夜会のメインとも言える人物であった。
なにせ彼は、ドラゴンを倒す程の魔力と剣技を有した英雄である。
にも関わらず、彼は権力にまるで執着せず、王家がどんなに勧誘しても、頑として役職に就く事を嫌った自由人である。しかも彼の社交界嫌いは有名で、もし社交界で出会えたら奇跡と言われている程の人物なのだ。
そんな彼がここにきて、子爵の称号と軍事の最高権力者である将軍職を賜ったのである。実力は元より、親友であるメルヴィル・クロス伯爵に勝るとも劣らぬ美貌を有する彼に傾倒する紳士淑女は数え切れず。…ちなみに、何故淑女だけでなく『紳士』までもが含まれるかと言えば、『漢に惚れる』的なアレと、
だが、それ程ご婦人方から絶大な人気を誇っていながら、本人はさほど色事を好まない。ぶっちゃけ、『女よりも魔物狩り』という、いわば脳筋である。その事から、色仕掛けもあまり功が無いと、飢えた
そして、あくの強い彼らを唯一取りまとめられるとされているのが、次期宰相である事がこの夜会で明らかとなった、アイザック・バッシュ公爵である。
クロス伯爵、オルセン子爵と旧知の仲である彼は、今現在でも二人と非常に仲が良く、ほぼバッシュ公爵家の館で同居生活をしている…らしい。
本人は友人達と比べ、魔力、美貌共に平凡な部類なのだが、誰からも警戒される事無く、スルリと相手の懐に入り込める特技を持ち、人を纏め、先々を見通し采配を振るう能力にずば抜けて秀でている。知力謀略で言えば、クロス伯爵をも凌ぐと言われ、王家からの信頼も厚い。
唯一の残念かつ、最大の弱点と言えば、一人娘を溺愛している事で「娘と会う時間がこれ以上少なくなるのは嫌だ」と、現宰相からの後継の誘いを再三断り続けていた過去があるのだ。それがこの度、ようやっと宰相位を賜る事を承諾したのである。
身分も高く、王家の覚えも目出たく、おまけに次期宰相。しかも最大級の攻略対象者達と親友と言う、素晴らしいオマケつき。
なので「アイザック・バッシュ公爵を制する者は、クロス、オルセンを共に制する」と陰で囁かれる、ご婦人方にとっては最も狙い目な
…最も、彼の基準の全ては、最愛の娘であるエレノアである為、実は攻略対象者の中で最も手強い相手である事を、彼女らは知る由もなかった。
ともかく、そんな超激レア物件が、雁首揃えて会場に勢揃いしているのである。そりゃあ、愛の狩人たる女性陣が、浮足だつのも無理からぬことであろう。
「…相変わらず、あの三人の人気は絶大だな」
ご令嬢方から身を隠すように、目立たぬ場所でシャンパンを飲んでいた第二王子のディランが、人だかりの中に埋もれるように取り囲まれているバッシュ公爵、クロス伯爵、オルセン子爵を見ながら呟いた。
「そうだね。特にクロス伯爵とオルセン子爵は、滅多に夜会に参加しないからな。ご婦人方も、ここぞとばかりに群がるんだろう。でも…ああ、ほら見てご覧よ、あれ」
同じく、自分の隣でシャンパンを飲んでいた第一王子のアシュルが、面白そうに指し示す先には、ご婦人やご令嬢方に取り囲まれながら、つまらなそうに欠伸をしているオルセン子爵の姿があった。
「…流石だな、オルセン将軍。女性に対してあの態度。並みの男じゃ有り得ないだろ!」
「流石は自由人と言った所だね。対してクロス伯爵の方はと言えば…。相変わらずの優雅な物腰は流石だけど、目や雰囲気が笑ってない。寧ろ笑顔な分だけ、凄みが増しているように感じるね。ほら、すり寄っていたご婦人方が、距離を取り始めている」
最後にバッシュ公爵の方を見れば、何やら楽し気に、自分を取り巻く女性達と会話をしている。他の二人と違って流石だ…と思いきや、よく見て見ると、一方的にバッシュ公爵だけが喋っていて、ご婦人方の顏は引き攣っている。…ひょっとしなくても、多分彼は溺愛する愛娘の素晴らしさを、自分を狙っているご婦人方に、これでもかと披露しているのだろう。
三人三様、清々しい程に
「あれ?レナルド叔父上がバッシュ公爵に近付いて行った」
「あの方、割と引きこもりなのに、こんな場所に出て来るなんて珍しいね」
レナルドとは彼らの叔父であり、リアムの実の父親である。容姿こそリアムと瓜二つな彼であるが、髪と瞳の色はリアムと違い、明るめな濃紺だ。
周囲の者達が、一斉に王族に対して礼を取る中、レナルドとバッシュ公爵は二人揃って笑顔で会話を開始する。…だが、気のせいだろうか。穏やかそうな様子とは裏腹に、二人の周囲に火花が散っているように見えるのは。
「…きっと、リアムとエレノア嬢との婚約について、叔父上がバッシュ公爵に
「ああ。叔父上としては、可愛い愛息子の恋を何とかして成就させてやりたいんだろう。でも、僕の父上からの打診も華麗に蹴っていたから、叔父上でも無理だと思うけどね」
叔父の健闘を祈りつつ、二人は彼らの近くにある、もう一つの人だかりの方を見てみる。すると、これまたオリヴァー・クロス、クライヴ・オルセンの両名が、大量のご令嬢方に取り囲まれていた。
彼らも自分達と同世代のご令嬢方にとって、垂涎の的とも言うべき、超優良物件である。ここからでも、彼女らのだだ洩れの欲望と熱意がビシバシ伝わってくる程だ。
「やっぱりと言うか、エレノア嬢は欠席なんだね。まあ、だからこその、あのご令嬢方の行動なんだろうけど」
クライヴはともかく、オリヴァーはエレノアの筆頭婚約者だ。なので普通であれば、あれ程あからさまにすり寄るなどご法度なのだが、当の婚約者であるエレノアが不在なのと、未だにエレノアが、彼らにとってお飾りの婚約者だと信じている者達が多い事もあり、「あわよくば、恋人に!」と、あからさまとも言える程の媚びっぷりを披露しまくっている。
当たり障りなく、やる気の無い態度(主にクライヴが)で接していた二人だったが、ご令嬢方の一人が何かを口にした瞬間、瞬時に態度と表情が冷たいものへと変わったのが見て取れた。群がっていたご令嬢方も、一様に怯えだしている。
やがて件のご令嬢に、オリヴァーが冷たい微笑を浮かべ、何事かを口にすると、真っ青になって、慌てて走り去ってしまった。周囲のご令嬢達も皆、我先にと会場中に散って行ってしまう。
「…何があったんだ?」
「多分だけど、ご令嬢の誰がが、エレノア嬢の悪口でも言ったんじゃない?それであの二人がブチ切れたんだろ」
「あー、あいつらにエレノア嬢の悪口なんて言ったら、アウトだよなー」
王家に連なる者達はみな、彼ら婚約者達のエレノアに対する偏愛とも言える溺愛っぷりを知っている。そして彼らの父親達が王都に定住するのを決めたのも、エレノア絡みである事も。そんな、彼ら全員にとって、かけがえのない存在であろう彼女をバカにしたというのなら、あのご令嬢方は今後一切、彼らに近付く事すら出来ないに違いない。
『そういえば…』
ディランはチラリと、自分の横にいるアシュルを盗み見た。
元々、こういう華やかな場が苦手な自分と違い、彼は社交界に出た瞬間から、水を得た魚のように優雅にこういった煌びやかな場を泳ぎ楽しみ、数多くの女性達と浮名を流していった。
今となっては、兄のその行動の裏には、第一王子としての義務と責務があったのだと理解している。勿論、それなりに楽しんでいた事も事実だろうが。
だが兄は、今現在何故か、自分と同じく目立たない場所にいる。いつものように、ご令嬢方と話したり踊ったりしないのかと聞いても、曖昧に笑ってはぐらかすだけだ。
――そう言えば、兄は最近、いつもこんな感じだ。
何と言うか…。まるで憑き物が落ちたように、女遊びすらしなくなった。
どこか体調が悪いのかとも思ったが、それ以外では至っていつも通りの兄である。いや、寧ろ何と言うか…無意識に肩肘張っていたのが、自然体になって丸くなったというか、雰囲気がとても穏やかになった。一体何が、この兄を変えたのだろうか。
「ディラン、そろそろリアムを助けに行ってやろうか」
そう声をかけられ、思考を切り替え兄の顏を見てみれば、苦笑するアシュルの視線の先には、本日一番の黒山の人だかりが出来ていた。その中心にいるのは、今日が夜会デビューである末弟のリアムである。彼は今まさに、王族として避けて通れない洗礼を受けている最中であった。
白を基調とした礼服が青銀の髪によく映えていて、透き通るような中性的な美貌を際立たせている。だがその顔は『ザ・不機嫌』と呼ぶに相応しい鉄面皮っぷりで、彼が心底うんざりしているのが、遠目であっても見て取れた。
彼は見た目の儚さと違い、『淡白でぶっきらぼう(母談)』な性格をしている。更にフィンレー程ではないが、親しくもない相手に、自分のパーソナルスペースにズカズカと入り込まれるのを殊の外嫌う。
一応、王族としての英才教育は受けてはいるものの、『男性として、女性を愛し尊ぶ』精神は、やや欠けている。その為、初めて受けているであろう、ご令嬢方の愛と打算と欲望にまみれた攻勢には、心底辟易しているに違いない。
「そうだな。面倒だが、可愛い弟の為だ。仕方ないな」
そう苦笑しながら、二人がリアムの元に向かおうとしたその時だった。同い年ぐらいの少年が、リアムに近付き声をかける。リアムも何やらホッとした様子で少年に笑いかけた。
「彼は…?」
「おや!あれはリアムの友人の、セドリック・クロスだよ」
「ああ!クロス伯爵のもう一人の息子か!」
少々くせ毛な深い茶色の髪を持つ、全体的に落ち着いた印象を受けるその少年は、リアムと少し話をした後、出鼻を挫かれ、剣呑な雰囲気になってしまったご令嬢方にも笑顔を向け、自己紹介を始めたようだ。途端、ご令嬢方の雰囲気と顔付きがガラリと変わる。
そんな彼女らに優雅に一礼するセドリックは、どうやら彼女らのシビアな
「へぇ…!大したもんだな。自分の価値をちゃんと知った上で、それを餌にリアムを助けるとは。流石はクロス伯爵の息子だ」
感心した様子で、ディランはリアムの話によくのぼる少年をじっくりと観察する。
容姿は非常に整っているが、リアムの美貌とは比べるべくもない上、父親や兄ともまるで似ていない。なのにどこか人を惹き付ける、独特の雰囲気と魅力を持っている。実際、ご令嬢方は皆うっとりと、彼の話に心から聞き入っている様子だ。
「流石はクロス伯爵の息子であり、あのオリヴァーの弟と言うべきか…。それとも、愛しい婚約者に相応しく在るようにと、努力している結果なのか…」
アシュルの瞳に、一瞬だけ羨望の色が浮かび、消えていく。
「そういえば何となくだが、今夜の会場はいつもと様相が違うね」
アシュルはそう呟くと、再び会場へと目を向ける。すると目に飛び込んでくるのは、会場のあちらこちらで繰り広げられる、ご令嬢方とその取り巻きや婚約者であろう者達とのやり取りだ。
ある者は甘く女性に囁きかけ、ある者は、まるで女王に対するかのごとく、恭しく傅いている。…が、その中にあって、僅かではあるが、自分のパートナーであろう女性に対し、非常にそっけない態度を取っている者達がいるのだ。
そして女性の方はと言えば、パートナーの態度に立腹し、何やら喚き散らしたりするものの、最終的には自分に対し、つれない態度を取るパートナーに対し、寧ろ媚びるような仕草を見せていたりするのだ。
自分達王家の者や、クロス伯爵やオルセン子爵のような、何もせずとも女性の方から寄って来る男などは貴族社会においても極めて稀で、男性は常に、希少な女性に自分を選んでもらう事に心血を注いでいる。
ゆえに、折角手に入れた婚約者ないし恋人に対し、そのような態度を取る者など、常識的に考えても普通は有り得ない。それなのに…。
「おや?…そう言えば…」
よく見ると、そのような態度を取っている者達は、その殆どがリアムと年の近い少年達であった。そしてその少年達は、互いの存在に気が付くと、皆一様に親し気に声を交わし合っている。(パートナーそっちのけで!)
これは…ひょっとするとだが…。
「彼らはリアムの同級生達なのかもしれないな」
そして十中八九、彼らの有り得ない行動の原因は、エレノア嬢その人であろう。
あの、貴族令嬢にあるまじき奇想天外な行動や言動に加え、全く飾らない優しさを持つ彼女と日々触れ合っていれば、従来の考え方や行動に疑問を持つ者が出て来るのも当然だろう。
――そう、自分の心までをも簡単にかき乱してくれた、あの子なら…。
「ん?」
「どうした、兄貴?」
「いや…。なんか目の端に、白いヒラヒラしたものが見えた気がしたんだけど…」
「妖精か精霊の類じゃねぇのか?あいつら、賑やかそうな場所によく集まってくるから」
「いや、そういうんじゃなくて…。なんか、人間のような大きさだったような…。でもあれ、明らかに空中を浮いていたよな?」
ひょっとして、王宮内に棲みついた幽霊や怨霊の類であろうか?だが、そういった輩は母である聖女が、定期的に浄化しているので、滅多に出ない筈なのだが…。
「――ッ…!あ…危なかった…!」
そんな彼らの頭上では、幽霊疑惑をかけられたエレノアが暗闇に紛れながら、心臓をバクバクさせていたのであった。
===================
お父様方の無双が炸裂しております。
ちなみに、アイザック父様とレナルド殿下との会話は以下。
「バッシュ公爵、そろそろ…いいんじゃないかな?」
「何がです?」
「君のご息女を、私の息子のこんや…」
「お断りします。ってか、何がそろそろなんですか」
「王族の言葉をみなまで言わせないなんて、宰相としてどうなのかな?」
「まだ宰相じゃありませんから」
「ああ言えばこう言う。本当に君ってつれないね」
「お褒めに預かり、恐悦至極に御座います」
「褒めてない!」
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