第131話 けじめのつけ方②

「そ…んな…!嘘…ですよね?兄様、父様…?」


「…いや、嘘ではないよエレノア。君に不必要な怪我を負わせてしまった…その罰を僕らは受けなくてはならない」


「わ、私が怪我をしたのは、私が戦う事を無理矢理ごり押ししたからであって…!兄様達や殿下方は、必死に止めようとして下さったではないですか!!」


「…それでも、最終的に認めてしまったから、君はこんな目に遭ってしまったんだ。…いざとなれば、どんな事になっても僕らが止めればいいんだと…。そんな甘い考えでいたから…!」


「それは僕達にも言える事だ」


「アシュル殿下?」


「エレノア嬢。確かに僕らは最初の内は君が戦う事に反対していた。…だけど最終的に、僕らは君の安全よりも、この国を守る事を最優先に動く方を選んだんだ…」


「この国を…守る?」


「エレノア嬢。その先は私が説明をしよう」


「国王陛下…」


「だが、その前に…。アリア、済まないがそこの女性達を別室に連れて行ってくれないか?」


「…はい」


聖女様は国王陛下の言葉に頷いた後、部屋の隅に控えていたミアさん達を連れて、部屋を出て行ってしまった。


それにしても、ミアさん達を遠ざけたという事は…。シャニヴァ王国絡みの話しなのだろうか。


「…さて、まずは今回の騒動の発端を説明するとしようか」


そうして国王陛下から語られた事実に、私は驚きを隠せなかった。


まさか、シャニヴァ王国が自分達の優秀な遺伝子を持つ子を大量生産する為、人族を奴隷にしようとしていたなんて…。


しかも、王太子や王女達がこの国に留学して来た目的が、密かに兵を密入国させ、この国を内側から制圧しようとしていただなんて…。


「当初は彼らの目的は分からなかったのだが、動向は最初から注視していたからね。すぐに対策を講じる事が出来た。――が、どうせだったら徹底的に彼らを油断させる為、魔力を使わないよう、貴族達に勅命を出していたんだよ。獣人達にとって、人族は最も劣等種と蔑む対象だからね。だったら、そのように見せてやった方が効果的だ」


そうして、メル父様やアイザック父様、そして領地持ちの貴族達が結託し、一般国民を巻き込まぬ様、どこにどれだけの獣人兵達が潜伏しているのかを徹底的に把握し、監視していたのだそうだ。


だがやはり、捕縛を一斉に行うには、王族に知られぬようにしなくてはならない。

何故なら、いくら圧倒的にこちらが有利な状況であったとしても、少しの取りこぼしが余計な被害を広げる可能性があったからだ。

ましてや、連合国軍にシャニヴァ王国を攻めさせるタイミングも一致させなくてはならなかった。


そんな時、幸か不幸か王女達が私に『娶り』の戦いを挑んで来たのだと言う。


「王族達やその側近…つまりは指揮系統の者達の目が一斉に君に集中する。これは絶好の機会だと、我々はそう考えた。勿論、アイザックやグラント、そしてメルヴィルには真っ先に相談したよ。…大反対されるかと思ったが、驚く程すんなりと、彼らはその案を飲んだ。…ある条件をつけてね」


――条件?…ひょっとして…。


「そう、君の安全の第一が、アイザック達の条件だった。だから我々はアシュル達に命じたのだ。『適切に状況を見極めよ。ある程度の戦闘は止むを得ないが、もし万が一エレノア嬢の身に危険が及びそうな場合、計画など二の次にしてでも必ず守る様に』とね」


そ、そんな事を殿下方に命じていたんだ…。だから殿下方が全員、あの場に駆け付けてくれていたんだね。


「…なのに、僕達は君を守る事が出来なかった。君は僕らの想像以上に強くて…。だから油断して引き際を誤った。最終的に、君を救ったのは君自身の力によってだ。…ッ!何が王太子だ…!僕は自分自身が情けないよ!!」


「ア、アシュル殿下…!」


「…いいえ、アシュル殿下。殿下が私を止めて下さらなければ、私はあの女の結界を破壊しようとして、逆にエレノアの身を危険に晒していました。…考え無しで愚かな私と違い、殿下は立派にエレノアを救って下さいました!」


「オリヴァー兄様!」


「オリヴァー!お前が激高するのは当然の事だ。俺の方こそ、エレノアの成長が嬉しくてつい、そのまま戦わせちまった。アシュルでもお前でもなく、長兄として、エレノアの師として、俺こそがちゃんと最善なタイミングを見計らい、判断を下すべきだったのに…!責められるべきは、俺の方だ!」


「クライヴ兄様!」


「いや、それに関しては俺がそもそもの元凶だろ。…エルの…いや、エレノア嬢の危機に動揺して、クライヴの手を煩わせちまった…。あの第一王女が結界を張る前にぶっ殺してさえいれば…!」


「ディ、ディラン殿下…それは…」


「何言ってんの?脳筋なディラン兄上が、結界に対処なんてできる訳ないでしょ。…それは僕の専売特許だ。なのにうかうかと出し抜かれるなんて…!エレノア嬢の戦いにうっかり見惚れて呆けてた所為で対処が遅れるなんて、無様にも程がある!!」


「フ…フィンレー殿下」


「フィン兄上!でも兄上はオリヴァー・クロスと協力して、エレノアを助けたじゃないか!…俺なんて、本当に何も出来ずに、ただ喚いているだけだったのに…!」


「リアム、それは僕も同じだよ!僕なんて君が抑えてくれなかったら、力を使って全てを台無しにしていたところだったんだ!…本当に…不甲斐なくてごめん…」


「セドリック!馬鹿野郎!逆にお前ががむしゃらに必死でいたから、俺が冷静になれたんだ!お前がいなかったら、俺の方があの女に力をぶつけて、エレノアを危険に晒していたよ!」


「…リアム…!有難う…!」


「…セドリック、リアム…」


う~ん。この二人、本当に仲が良いな。こんな時だけど熱い友情に思わずほっこりしてしまう。もしも私が腐っていたら、BとL的に凄く萌えていたんだろうな。


――って、そうじゃない!アホな事考えている場合か!


ってか、兄様方とセドリック、そして殿下方って、お互いが「お前は悪くない、自分が悪い」って庇い合ってるんだよね。

さっきまでいがみ合っていたっていうのに…。ひょっとして全員、実は仲が良い…?


「…とまあ、そういう訳で、互いが互いに「自分を罰してくれ!」と言って聞かないので、それじゃあ我々父親達が全力で手合わせしてやろう…という事で落ち着いたんだ」


「は…はぁ…」


「ちなみに、私は息子の望みは全力で叶える。ただ流石に、瀕死程度にするつもりだがな」


「父上…。ご温情、感謝致します」


アシュル殿下ー!!それ、温情ではありません!!堂々のリンチ宣言ですよ!?分かってんですか!?


「安心しろエレノア!俺達も何も全力を出そうって訳じゃねぇから!精々、あばら4・5本へし折る程度だ!」


グラント父様ー!!それ、重症ー!!


「そうそう。私もそれぐらいで済まそうと思っている。ただちょーっと大火傷するかもしれないけど…」


メル父様ー!!大やけどを「ちょっとの怪我」とは言いません!!


「はっはっは!グラントもメルヴィルも甘いな!俺はそれに加えて両手足へし折ろうかと思っていたぞ!」


デーヴィス王弟殿下ー!!なに爽やかに拷問宣言してんですかー!!


「デーヴィス兄上…。ただ怪我をさせればいいってものではありませんよ?ぐうの音も出ない程度に叩き潰したのち、相手の精神を抉って心理的にもダメージを与えてこそ、正しい罰と言えるのです」


フェリクス王弟殿下ー!!あなた、息子を廃人になさるおつもりですかー!?


「…リアム、私は問答無用でお前を攻撃する事はしない。あくまでお前の意見を尊重するつもりだ」


「はい、父上!それでは父上の『風』の魔力による全力の攻撃を、我が身で受け止めたいと思います!」


「…分かった。だが血を分けた肉親の情として、せめて全身の骨が砕けないよう、手心を加える事を許して欲しい」


「父上…!」


うわぁぁぁ!!レナルド王弟殿下ー!一番まともで温厚そうに見えて、一番容赦なかった!!リアム、感動してないで逃げてー!全力で逃げてー!!


っていうか、なんなの!?本当になんなの!?アルバの男共の常識って!!

ああもう!自分を厳しく律するにしても限度ってもんがあるでしょ!?


「ちょっとあんた達ー!!なに可愛い自分の息子にリンチ宣言してんのよ!?」


あっ、聖女様登場!そうです!その通りです!言ってやって下さい!!


「アリア…大丈夫。我々だって心得ているよ」


「そうそう!それに万が一の事態に陥っても、君がいる」


「はぁっ!?あんたら正気!?」


――ち、ちょ…っ!国王陛下方!まさかの聖女様パシリ宣言!?


「母上、お気遣い感謝致します。ですが何かあっても、それは全て我が身に受けるべき罰…。万が一の事態になっても命だけ助けて頂ければ、それで充分です」


アシュル殿下ー!それ、充分じゃなーい!!


「このバカ息子ー!!大怪我した息子達の治療をしなけりゃならない母親の身にもなりなさいよ!!ああもう!本当にこの国の男達ってめんどくさい!!というかあんた達、聖女の使い方、果てしなく間違ってるから!!」


聖女様、そのお言葉、まるっと同意します!ほんっとうに、アルバの男達って超絶めんどくさいですよね?!


ってか、アルバの男性陣、自分に対して厳し過ぎでしょ!?はっきり言うけど、けじめのつけ方、間違ってるから!そんな事されても私、全然嬉しくないんですからね!?




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息子達も父親達も、お互いナチュラルに斜め明後日です。

これがアルバの男達の『普通』であり、女性に対する献身なのですが、

エレノアにとっては「なんじゃそれ!?」ですよね。

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