第567話 エレマート誕生秘話
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「……なんか良い匂いがしてきたね!もう食べられそうかな?」
『馬鹿者!まだまだ焼きが甘い!こういうものは急いては事を仕損じるのだぞ!?』
この一ヵ月、学院からの帰りがてら延々通っていた(週末は母様のいる離宮でお泊りしていた)王宮の端っこにて。今現在私とミノムシワーズは、枯葉の山で作った焚火を囲み、『とあるモノ』が出来上がるのをワクワクしながら待っていた。
「……それにしても、ワーズって焼き芋奉行だったんだね」
『ヤキイモブギョー?なんだソレは?』
「焼き芋を美味しく焼く事に執念を燃やすひとのこと」
『なんだそれはー!ひとを卑しい者のように!!』
「……卑しくないとでも?」
『ムキーッ!!』
まあ、本来は『鍋奉行』って言って、鍋料理の仕切る役職だったんだけどね……。と、怒ってペシペシ私の顔にアタックしてくるミノムシを手で払い避けながら、心の中で呟く。
そう。『とあるモノ』とはズバリ、焼き芋の事である。
ワーズ、一回焼き芋食べさせたらすっかり味をしめてしまったらしく、私がバッシュ公爵家で焼き芋をしているとどこからともなく現れ、ちゃっかりお相伴にあずかるようになってしまったのだ。
それだけではなく、今や私よりも焼き芋の焼き加減に五月蠅い。まさしく『焼き芋奉行』である。
「でもさ、ワーズ。わざわざこうして焚火で焼き芋作るたびに出てこなくても、『売店』に行けば、いつでも焼き芋を盗め……食べられるでしょう?」
『うむ、あれはあれで美味い。だが!やはり読んで字のごとく、焼き芋とはこういう具合に、直に焼いたものの方が旨味も甘みも強い!ゆえに、こうした機会を私は逃さぬ!!』
「……奉行なだけじゃなくて、グルメだったか……」
ってか、あれだけ連日果物を食べまくっておいて更に焼き芋に嵌る『いと高き至高の存在』とはいったい?
「うん、ただの食いしん坊万歳だよね。まったく!」
この場にウィルがいたら、「お嬢様、そのとおりです!」って、思い切り同意してくれる筈なんだけど、生憎学院帰りで直接王宮に来ているから、今彼は傍にいない。残念。
あ、ちなみに焚火の用意は王宮の庭師さん達が手伝ってくれまして、今現在は遠くからワクテカ顔をしながらこちらを見ている。
ふふ……分かっていますよ。美味しい焼き芋作ってお裾分けするから待っててね!
『それよりエレノア、「エレマート」に最近卸すようになった干し芋だが、もっと沢山作れ!いつも売り切れで食べられんのだ!』
「あのね、何度も言ってるけど、干し芋はまだお試しの段階だから数が出来ないの!」
しかもあんた、買うんじゃなくて盗み食いする気満々でしょうが!!
『嘘をつくな!宰相室の連中がいつも口に咥えていると、噂で聞いているんだぞ!?』
誰だ!?そんな噂を流したのは!?
「うっ!……だ、だって……。あそこには父様がいるし、今は兄様達もセドリックもいるし……。あ、でも宰相室だけじゃなくて、アシュル様や国王陛下方の執務室にもおすそ分けしているけど?」
『馬鹿者!どこもかしこも恐ろしい奴らばかりで、おちおちつまみ食いも出来ん!!だからこそ、「エレマート」に卸せと言っておるのだ!!』
心の中で『確かに、つまみ食いしようとした瞬間、滅せられるだろうな』と頷きながら、再びペシペシと顔に体当たりしてくるミノムシ……じゃなくてワーズを手で追い払う。
ちなみにだけど、『エレマート』とは、王宮内にバッシュ公爵家が設置している実験的店舗の名称である(名前が微妙に気になりますが)。
この『エレマート』の誕生に至った切っ掛けはというと、父様やオリヴァー兄様達が、とある事情(急な他国の聖女御一行様来訪)により不眠不休で仕事をこなしているとクライヴ兄様から聞き、私が焼き芋を作って宰相室に差し入れた事である。
え?何故そこで焼き芋なのかって?
実は最近、前世におけるサツマイモとそっくりな芋が、大量にバッシュ公爵領から王都邸に届けられたからである。
しかも、ホクホクとねっとりの中間で、糖度も今までの芋とはけた違いという優れもの!なんとこれ、芋好きな私の為にと、イーサンの指揮の元、品種改良を行った結果出来上がった新種の芋なんだとか。凄いぞバッシュ公爵領!!有難う、領民の皆さん!!
「エレノアお嬢様の為に出来上がった芋で御座います。どうぞ、エレノアお嬢様が名付けをしてやってくださいませ」とのイーサンの言葉に、嬉々として『サツマイモ』と命名した私です。
その際、クライヴ兄様とセドリックに「エレノアの事だから、『甘い芋』とか名付けるのかと思った」と言われました。リアムにも「まともな名前だ……」って驚かれたんだけど、あなた方、私をなんだと思ってんですか!?
まあ、そんなこんなで今現在。私の中で焼き芋がマイブームだったんです。で、その結果、差し入れが焼き芋になったわけなのである。
父様とオリヴァー兄様、涙を浮かべながら大喜びしてくれたんだそうだ。勿論、ワイアット宰相様も補佐官の方々も、「腹にたまる!」「甘くて美味い!」と大喜びしてくれたそうで、結果……怪我人が続出したらしい。
――何故怪我人!?もしや、焼き芋が喉に詰まったのか!?
……って焦ったんだけど、よくよく聞いたらどうもその原因って、余った焼き芋を父様と兄様が独占した結果、奪い合いが勃発してしまったんだそうだ(二人とも、なにやってんですか!?)。
そうしたら、その騒ぎを聞きつけた国王陛下やアシュル様方が、「なにっ!?エレノア嬢の作った差し入れ!?お前達だけずるい!!」とおかんむりになったとの事。なので急遽、ロイヤルズの皆様方へも大量に焼き芋を差し入れする事に。
するとその噂を聞きつけ、「いいな……」「私達も食べたい……」と、他部署の方々からも、呪詛のような恨み節が宰相室へと上がるようになったのだそうだ。
それを聞き、私は焼き芋を焼いて焼いて焼きまくった。……その結果、スモークの香り漂う、公爵令嬢の燻製が出来上がってしまいました。
いやね、バッシュ公爵家の庭師達はいつも、「我々がやりますから!」って言ってくれていたんだけど、前世では「うちの家族の誰よりも芋を焼くのが上手い!」とお祖母ちゃんからお墨付きを頂いていた身としては、その腕前を思い切り披露したかったんですよ。
因みにだが。美容班の中で、誰よりも私を盛る事に執念を燃やしているシャノンは、本邸でイーサンにしごかれてて不在だったし、ジョゼフは父様と兄様達が不在だったから、家長代理として忙しかった。……結果、私の燻製化を止める者は幸か不幸か存在しなかったんだな、これが。
クライヴ兄様とセドリックには「お前(君)、バカなの?」と呆れられ、学院でもクラスメート達に「なんか焦げ臭くない?」と言われ、ベンさん達庭師衆には「だから我々で焼きますって言ったんです!」と叱られました。
ううう……酷い!なんだかんだ言って皆、「美味い!」「最高!」「お嬢様、芋焼きの達人!」って言いながらガツガツ食べていたくせに!!
でも流石に公爵令嬢がいつまでも芋を焼いているわけにはいかない。なのでメル父様にお願いして、前世の遠赤外線芋焼き機もどきを作ってもらい、焼き芋を効率よく安定供給出来るようにしたのである。
更には、いちいち配りに行くのも大変という事で、王宮の各所に無人配布所を設置したところ、次第に「芋以外のものも食べたい」というリクエストを受けるようになった。
で、サンドイッチや焼き菓子などを置くようにしたら、「できれば飲み物も」「温かいものも置いてほしい」「お菓子の種類も増やしてくれたら有難い」「バッシュ公爵令嬢に手渡してもらいたい(おいこら!)」と、次々と要望が出てくるようになったのである(私を売り子に!の希望は当然却下となった)。
そんな感じにどんどん品数が増えていった結果。定番商品の焼き芋はもちろんのこと、食事やお菓子、ちょっとした日用品まで取り揃えた、前世のコンビニもどきが爆誕したのである。
因みにだけど、「新たなるビジネスチャンス!」とひらめいたアイザック父様が、『癒しと便利をあなたに』をキャッチフレーズに、可愛いケモミミをピルピルさせたお年寄りの獣人さん付き店舗を王宮の各所に設置したそうで、王宮で働く方々に大変ご好評いただいているとの事です。
しかも、「元々はエレノアの差し入れが発端だから」と、『エレマート』という名前まで付けられてしまいました(なんでも、アリアさんが冗談で付けた名前を、父様が即採用したらしい)。
このモデルケースが上手くいったら、いずれは全国に展開するつもりらしいんだけど、その時は店舗の名前、ちゃんと変えてくださいね?
『エレノア、そういえばお前の方こそ、なんでわざわざ
ワーズ。そこ、今更突っ込む?
「うん。実は今日、オリヴァー兄様がお仕事から解放されるの!アシュル様やディーさん達もお仕事から解放されるみたいだから、『お疲れ様』の意味も込めて、皆に私が焼いた焼き芋食べて貰おうと思って!」
そう。今日はちょうど夜会開催の一週間前。私もだけど、兄様方やセドリック、ロイヤルズも全員、きたる夜会に向けて色々と準備をしなければいけないから、流石に一斉開放と相成ったのだそうだ。
『ふむ。まあ、あ奴らなら涙を流して喜びそうだが、お前の母親代わりの兄は怒りそうだな』
うっ!た、確かにオカン属性のクライヴ兄様だったら、『お前という奴はー!!夜会の前に燻製になってどうする!?』って怒っちゃうかもしれない。……ワーズめ……。痛いところを突きおる。
因みにクライヴ兄様とセドリックですが、王宮に到着した瞬間、「最後のご奉仕だな♡」って、それぞれ笑顔を浮かべたヒューさんとアシュル様によって連れていかれてしまいました。
『ん?エレノア、そろそろ良い感じに焼けそうだぞ!』
「え、本当!?」
私は急いで籠を手に取る。するとどこかしらからか、闇色のベールのようなものが焚火を覆い、一瞬で鎮火させてしまった。
次いで、それらは細かく枝分かれすると、焚火の跡から焼きあがったサツマイモをポイポイポイと、籠の中へと入れていく。
「有難う!(イーサン)」
(名前は心の中で呼びながら)お礼を言うと、闇の触手は最後に私の頬をスルリと撫でた後、一瞬で消えていった。
……実はクライヴ兄様とセドリックが急遽、王宮の仕事の手伝いをする事となったその夜。「お呼びと聞いて」と、イーサンが空間転移で王都邸までやって来たのである。
すかさずジョゼフが「呼んどらん!!」って青筋立てて追い返そうとしたんだけど、実は本当にアイザック父様から呼ばれたって事が判明して、渋々私の護衛にする事を許可したのである。
なので、今現在私についている『影』は、イーサンだったりするのである。あ、それとティルもね。
ティル、ヴァンドーム公爵領でのアレコレの罰として、シャノン共々イーサンにしごかれていたらしく、やってきた時ボロボロ状態だったんだけど……。ひょっとして、あのまま仕事しているのだろうか?……だ、大丈夫かな?
「……ん?」
『おおっ!美味そうではないか!!』と、早速焼き芋に齧り付こうとするワーズを手で追い払っていたその時。視線を感じ、振り返る。
するとそこには、近衛騎士の服を着た見慣れぬ騎士が、静かにこちらを見ていたのだった。
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仮の店舗名だと思っていたのに、後にそのまんまの名前で全国展開する事を、エレノアは知らない……。
因みに私は金時派ですw
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