第566話 【閑話】スワルチ王国②

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「ホレイシオ、確かそなたには、辺境伯領への視察を命じていたはず。何故ここにいるのだ!?」


突然現れた王太子ホレイシオの姿に、動揺を隠しきれない様子の国王が声をかける。対するホレイシオは、そんな父の姿に僅かばかり眉根を寄せた。


「それは勿論、セラフィヌのアルバ王国訪問に、余計な同行者・・・・・・を加えると聞いたからです。ああ、辺境伯へは視察が遅れる旨、書状にしたためました。ゆえに御心配には及びません」


ホレイシオの言葉に、国王は眉を顰めた。


「ホレイシオよ……。余計な同行者とは、セレスティアの事を指しておるのか?セレスティアは我が国の至宝とも言うべき聖女であるぞ?血の繋がった兄とはいえ、貶めて良い存在ではない!口を慎め!」


「兄上。私の大切な婚約者である令嬢の故郷に、『魅了』を使った疑いのある令嬢がいるのです。だからこそ、『聖女』であるセレスティアを同行させるのですよ」


「その通りで御座います。呪いの解呪は『聖女』様の最も得意とするもの。それに、セレスティア様であれば、わざわざ『聖女』の御業を使わずとも、篭絡された愚か者たちの目を覚まさせられるに違いありません」


国王、弟、そして教皇と続いた言葉を黙って聞き終えた後、ホレイシオは口角を上げた。


「ふっ……。そう理由付けてセレスティアをアルバ王国に連れて行き、あわよくば王家直系達の『公妃』にしようと画策したのか?確かに普通の国であれば『聖女』を娶れるなど、諸手を挙げて歓迎するだろうが、あの国はどうだろうな?……しかもアルバ王国の男性達は、誰もが美形であると聞く。それこそ王家直系ともなれば、その美しさは想像を絶する程だとも。……いかにセレスティアが美しくとも、それだけで彼等の目を覚まさせられる・・・・・・・・・とは思えぬ」


王太子の言葉を受け、ザワリ……と、玉座の間が騒然とする。


王太子の言葉に賛同する者もそれなりにはいたが、多くの者達は、国王に対する不敬な発言や、聖女に対する侮辱とも取れる言葉に対する憤りを口にしていた。


「ホレイシオ!黙れ!!」


国王が怒りの形相でホレイシオを睨み付けるが、それに対し、当のホレイシオは怯む事なく、真っすぐに父である国王を見つめた。


「父上、お忘れか!?アルバ王国は、この大陸で、あの帝国と長年渡り合ってきた唯一の大国!その王家直系が、色恋ごときで腑抜けになどなろう筈がない!!セラフィヌ、お前は自分の婚約者の言う事ばかりを鵜呑みにせず、しっかり事の次第を調べたのか!?」


厳しい口調と共に睨み付けられ、セラフィヌの肩がビクリと上がる。


「そ、それは……。ですが、婚約者である相手を信じるのは当然の事ではないのですか!?」


「信じたいものを信じる事と、真実を追求する事を同義とするな!!……セラフィヌ。アルバ王国の男達は、自国の女性を『愛し尊ぶべき至高の存在』として大切にしている。希少な女性を大切に守る事は国際的な常識だが、あの国はそれこそ貴賎を問わず女性に尽くす。そんな国の女性が……しかも侯爵令嬢が、王族とはいえ、友好国でもない小国の王族に嫁ごうとするなど、おかしいと思わないのか?」


「……」


「大国の高位貴族令嬢との婚約に浮かれるのも分かるが、お前は国の中枢を担うこの国の王家直系なのだぞ?その判断と行動の結果が、国の行く末を左右する事を、もっと自覚しろ!……今からでも遅くはない。婚約の事もアルバ王国を訪れる事も、一旦白紙に戻して……」


「ホレイシオ兄上……。尤もらしい事を言って、私とフルビアとの婚約を壊そうとしても無駄ですよ。ああ、ひょっとして兄上。セレスティアが『聖女』として彼の国を救い、『公妃』となれば、その兄である私が王太子となるかもしれない。……兄上はそれを危惧なさっているのでしょうか?」


「……なに!?」


ホレイシオは勝ち誇ったように口角を上げ、挑発するかのような言葉を発するセラフィヌを睨み付ける。だが、セラフィヌはそんな兄に対し、逆に諭すような口調で話し続ける。


「確かに、我が婚約者は多少我儘で、男性を尊大に見下すきらいがあります。ですがその原因こそ、アルバ王国の男性達が女性を愛し、大事にし過ぎるがゆえの結果なのです。しかも彼らの美しさは、女性に自分を選ばせる為に競い合い磨き上げられたもの。それほどに、もはや習性として女性に傅く国なのですよ」


「…………」


「王家直系といえど、彼等もアルバ王国の男性……。『愛し尊ぶべき』女性達の中に、多少知恵の回る愛らしい女性がいたとすれば、その目新しさゆえに篭絡されてしまう可能性は大いにあります。……そんな彼らの目の前に、このセレスティアが現れれば……。いかに自分達が紛い物の幻想に惑わされていたのか知る事になりましょう!」


微笑みを浮かべながら、そう言い切ったセラフィヌ。その自信に満ち溢れた表情を見つめるホレイシオの眉根がきつく寄った。


「ホレイシオよ。そんなにも不安を抱いているのであれば、そなた自身がセラフィヌ達に同行するがよい」


「は?」


「ホレイシオ、勅使としてアルバ王国に表敬訪問するセラフィヌとセレスティアの護衛を、この国の王としてそなたに命ずる!」


ホレイシオが次の言葉を発する事を制するかのように、国王が厳しい口調で言い放った。


――王太子を第二王子の護衛にする。


それは、王太子であるホレイシオを、セラフィヌの下に付けると宣言したようなものだった。


玉座の間が騒然とする中、第一王妃は額に手を当てて溜息をつき、宰相は厳しい表情を浮かべ、小さく首を横に振った。それとは対照的に、第二王妃や第二王子の派閥の者達の表情は喜色に染まる。


「……御意。その王命、しかと賜りました」


そんな中、ホレイシオは静かに礼を執ると、始終黙って傍に控えていたローワンと共に、玉座の間を後にした。





◇◇◇◇




「……結局、こうなってしまったか……。まあ、最初から素直に俺の進言に従うとは思っていなかったが……」


人気のない回廊を歩きながら、ホレイシオは溜息交じりに呟く。だが、事実上の王太子位剥奪処分を受けた事による落胆や怒りは、その表情に浮かんではいなかった。


「仕方がありますまい。彼の国は、自身の『表の顔』を侮る者達に対し、文句を言ってくるような優しい・・・国ではありません」


そんな主君の後方に付き従いながら、淡々と受け答えるローワンの言葉に、ホレイシオは頷いた。


「そうだな。逆に、しっかりと深く知ろうとする者に対しては、驚くほどに寛容だ。……その見極めが出来るかどうかが、彼の国と友誼を結べるか否かなのであろうな」


そう。あの国は決して、鎖国をしている訳でも情報規制をしている訳でもない。だからこそ、しっかり調べてみれば、あの国が父王達の言うような『男は女に選ばれる為だけに己を磨き、なんでも我儘を許してしまう惰弱な国家』では無い事ぐらい、すぐに分かるのだ。


「確かにセラフィヌセレスティアは非常に美しい。だが、『美しいから』『女性だから』というだけで甘い顔をするような国ではないだろう」


そう。たとえ『聖女』という付加価値があったとしてもだ。


だいたいそんな国が、あの帝国と長年対等に渡り合える筈もない。そんな単純な事実に何故、誰も気が付かないのか。


「弟も妹も父上に溺愛されていた分、無駄に自尊心が強い。そのうえ、己の美貌に絶対の自信を持っている。父上も目先の欲に目が眩んでいるし、今俺がなにを言っても響く事はなかろう。そして、あの場にいた貴族達の大半も、父上と同じ意見であろうよ」


自分には王太子の地位に執着などない。


だからセラフィヌにくれてやっても別に構わないのだが、次代の国王の座を愚か者に渡せば国が亡ぶ。


特にセレスティアを『聖女』に認定した事により、信者を爆発的に増やした教会。そして、その教会の頂点に君臨する教皇。あれらが今回の件を裏で操っているに違いない。


――問題はその画策の裏に、父王や弟妹達が絡んでいるのかどうかだが……。


「まあ、あいつらと同行する事になったのは重畳だった。母上も、宰相である伯父上も覚悟を決められたようだし……。こうなった以上、荒療治はやむを得ない……か。ローワン、いざという時は俺に力を貸してくれるか?」


「御意。我が忠誠は貴方様にお捧げしております」


「頼んだぞ」


――おい、そこの騎士。ここは危ねぇから、そこのガキと一緒に下がってろ!


ふと、瞼の裏に懐かしい声と面影が蘇ってくる。


自分がまだ幼かった時。偶然だったのか、なにかしらの思惑が働いたのか……。一介の護衛騎士でしかなかったローワンと共に、魔獣の群れの餌食になりかけてしまった事があった。


そんな時、たまたま通りかかった一人の冒険者の手により、魔獣達は一片の肉片すら残さず、一瞬でその場から消滅したのである。


――へぇ、まだ小せぇのに泣いてねぇのか。根性有るじゃねぇか坊主。偉いぞ!


陽の光を受け、燃えるように煌めく銀髪。冴え渡るアイスブルーの瞳。しなやかに躍動する鍛え抜かれた身体。美しい獣のような、危険な魅力に満ちた、その絶世の美貌。


女神様が祝福を与えれば、あのような完璧な人間が出来上がるのだろうか……。そう思いながら、呆然とその男を見つめる自分へと向けられた笑顔は、意外にもとても気さくで温かいものであった。


後に、彼が大陸全土にその名を轟かせる、アルバ王国が誇る『ドラゴン殺し』の英雄である事を知った。


『……あの経験がなければ、自分が武の道を目指す事もなく、アルバ王国の事も、父王達と同じく誤った情報に踊らされていたかもしれぬな……』


「ローワン。これから向かうアルバ王国には、我々が心の師と仰ぐ御仁がいらっしゃる。……気が重い旅路ではあるが、それに関してだけは楽しみにしておくとしよう」


口角を上げ、そう告げた次の瞬間、ホレイシオの表情は厳格なものへと変化したのだった。



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メイデン母様がアイザック父様に失恋し、冒険者を引退した後、グラント父様は一人で西大陸を諸国漫遊してました。

なので、こういった逸話は世界各国に存在しています。


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