第515話 一筋の光明

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「――ッ!ぐはっ!!」


周囲から、(多分)私が生やした金色の蔓が地中に消えた後、立ち上がろうとしたヘイスティングさんだったが突然むせ込み始め、そのまま再び地面に両膝を突いてしまった。


「ヘイスティングさんっ!!」


慌てて駆け寄り、その肩を支えると、口元を覆っていたヘイスティングさんの手から血が一筋伝った。それは彼の膝に次々と落ち、シミを作っていく。


「ヘイスティングさん!怪我を!?」


「もしかして、俺の攻撃が当たって……!?ご、御免なさい!!……ッ!俺……!」


少し遅れて、私達の傍に来たベネディクト君の顔が真っ青になっている。

そんな私達を安心させるように、ヘイスティングさんは脂汗が浮かんだ顔に無理矢理笑顔を浮かべた。


「違う。君の所為じゃないよ。は……はは……。流石は帝国の皇族だな……。体内で暴れまくっている。……僕がこうしていられるのも……あと僅かか……」


「――なっ!!待ってて、ヘイスティングさん!!今すぐ花を増やします!!」


急いで祈りの態勢に入ろうとした私を、ヘイスティングさんの血に塗れた手が制する。


「……いや。もう僕に君の力を割くのは止めるんだ。……奴の言う通り、僕はもう……。だから君の『力』は、しかるべき時に使う為に、取っておきなさい」


「――ッ!し、しかるべき時って、何時なんですか!?今でしょう!?」


「…………」


ヘイスティングさんはそれには何も答えなかった。


そして微動だにしない奥方様と、進行速度は衰えているものの、確実に幼くなっていっているキーラ様を交互に見つめ、悲しそうにくしゃりと顔を歪めた。


「僕が……マルスを抑え込んでいても……彼女達の解放には至らなかった……。なけなしの勇気を振り絞ってみたけど……。やっぱり僕は、無力だ……」


絶望を滲ませたヘイスティングさんの声に、思わずカッとなった私は、ヘイスティングさんの肩を掴み、ガクガクと揺さぶった。


「ち、ちょっ!エレノア嬢!?」


そんな私をベネディクト君が慌てて止めようとするが、私は彼をキッと睨みつけた後、再びヘイスティングさんと目を合わせる。


「無力なんかじゃない!!私だって、いまさっきまでマルスに手も足も出なくて絶体絶命のピンチだったんだから!!それを貴方が頑張って出てきてくれたから、こうして無事でいられるんだよ!?それに貴方は私と同じ『女神様の愛し子』なんです!!だから……あんな奴にやられるわけない!!」


「――……ッ!」


一瞬目を大きく見開いたヘイスティングさんは、呼吸を荒くし、どんどんと顔色を蒼白にしながら微笑みを浮かべる。それはとても優しい笑顔だった。


「ああ……。嬉しいなぁ。君みたいに心が綺麗で優しい子が、こんな罪を犯した僕なんかを『女神様の愛し子』だと……。自分と同じなんだって言ってくれるなんて。……僕はね、ずっとずっと、この世で独りぼっちなんだって思っていた……。けれど、それは間違っていたんだね。ああ……。もっとちゃんとした場所で、君と知り合いたかったなぁ……」


本当に嬉しそうにそう言った後、ヘイスティングさんは真剣な表情を浮かべた。


「君の『力』が何故発動しなかったのか、僕には推測する事しか出来ない。ただハッキリしているのは君は僕と違い、純粋で穢れのない、正真正銘『女神様の愛し子』だという事だ!いいか、よく考えろ!君の『力』が……『大地の聖女』の力が発動したのはどういう時だったのかを!それが分かれば、君はきっとその『力』を……」


そこまで言った後、ヘイスティングさんの身体がビクビクと痙攣しだす。


「ヘイス……」


「ッ!!……僕……から、離れろぉ!!」


そう叫ぶのと同時に、ヘイスティングさんは私とベネディクト君を渾身の力で突き飛ばし、身体をかき抱くように丸まった。


そして……。


「……ッ……くそっ!こいつ……よくもやってくれたな……!!しかも、最後の最後で、私の『魂』を削り取っていきやがった!!」


「マルス!!」


「き……さまっ!!」


さっきまでの『ヘイスティングさん』とは似ても似つかぬ、憤怒のあまり醜く歪み切った表情でゆらりとその場から立ち上がったマルスは口元の血を乱暴に拭うと、怒りで赤く血走った眼を私達へと向けた。


「ああ、腹が立つ!もう、うだうだと引き延ばすのはやめだ!忌々しいアルバ王国の人間も領土もなにもかも、海の藻屑にしてやる!!」


マルスがそう叫んだと同時に、ドン!と、まるで頭から押さえつけられるような魔力の『圧』が私達を襲った。


「あぁっ!」


「うっ!……くそっ!!」


それと同時に、キーラ様の身体からも爆発的な魔力が立ち上がり、彼女の身体に咲いていた花が一瞬で消滅する。そして彼女の魔力はそのまま、奥方様へと奔流のように流れていく。


それに伴い、どんどんと縮むように幼くなっていくキーラ様の身体。奥方様の身体からも、先程の比ではない程の魔力が膨れ上がっていく。


『――駄目だ!あんな力が吹き荒れたりしたら、彼女の……そして私の大切な人達が……!それに、奥方様自身も……!!』


マルスに支配されながら、辛うじて生きているヘイスティングさんの慟哭が聞こえる。なのに私は何も出来ない!!


ああ……どうしよう。どうすればいい?さっき、ヘイスティングさんはなにを言った?私の力……『大地の魔力』の発動条件?そんなの……そんなの、分からないよ!!


「たすけて……だれか……!」


「エレノア嬢!!」


無意識に泣き出した私の身体を、ベネディクト君が庇うようにきつく抱きしめる。


奥方様の魔力がどんどん膨れ上がっていく……!ああ、駄目だ。泣いてる場合じゃないのに……!私が何とかしなくてはならないのに……!!わたしが……わたしは……なんて無力なんだろう……。


「オリヴァーにいさま……クライヴにいさま。セドリック、リアム……」


だれか……だれか、助けて……!!


「エレノア!!」


「ベティ!!」


――えっ!?


パァン……と、この空間に充満していた『圧』が弾け、呼吸が楽になった。ベネディクト君もそうなのだろう。深呼吸を繰り返す音が耳元に聞こえてくる。


「うわぁっ!」


「――!?ベネディクト君!?」


悲鳴と共に、私を抱きしめていたベネディクト君の身体がスポンとその場から消えた。えっ!?ち、ちょっ!何故に!?


「ちょ……っ!!フィンレー殿下!!なにうちの大切な息子、吊り上げてるんですかっ!!」


「だって、エレノアに引っ付いていて邪魔だったし」


「あああっ!!お前はこんな所でまでっ!!彼の事はいいから、さっさと増援をここに呼べっ!!」


……あれっ?こ、この聞き覚えのある声は……ってか、フィンレーって……まさか……。


慌てて顔を上げるとそこには、マルスと対峙しながら、憮然とした表情のフィン様に食って掛かっているアシュル様とヴァンドーム公爵様の姿が……。ってか、アシュル様にフィン様!貴方達なんでここにいるんですかー!?


そして更には、闇の触手にぐるぐる巻きにされ、目を丸くしながら宙吊り状態になっているベネディクト君の姿が見えた。……な、なんかデジャブ……。



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色々テンパってしまい、涙腺崩壊したエレノアです。

でもって、何気にアオハル組特有無意識的に役得なベティ君、一本釣りされてしまいました!

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